03.何かを失った日
目を覚まして、やけに重く感じる身体を起こした。
ぼうっとまだ半分以上起動していない頭で、目に飛び込んできたその景色を眺め、ここがどこなのか瞬時に判断することはできなかった。
壁は大破しているし、乾いて真黒に変色した血。元人間の一部だったと思われる肉塊など、
見ているだけで気が狂いそうなあまり直視したくないものがあたりを汚していた。
でもそれらを見て、やっと気を失う前に何が起こったのかを思い出した。
流れが暴走して、頭が痛くなって。
おそらくここは、気を失う前にいた部屋と同じ場所だ。
とりあえず子どもたちの部屋へ戻ろうと思い、もはやドアさえもない壁に開いた大きな穴から廊下へ出た。
記憶を辿り、子どもたちの部屋があった場所へと行ってみたものの、それがあの部屋だったとは到底思えなかった。
大きな窓はすべてのガラスが割れ、その破片が廊下に散らばっているし、壁はさっきの部屋と同じく大破していた。
そしてなにより、淡い色の絨毯はどす黒い乾いた血で汚されていて、エリイや他の子どもたちと一緒に暮らしたあの部屋の面影を留めていなかった。
ただ、ガラスの破片が散乱する床に最後に見たときより煤を被った黒猫のぬいぐるみが転げていたのを見て、
やはりここが子どもたちの部屋だったんだ、と思い知らされた。
黒猫のぬいぐるみを拾い上げて、壊れていない壁に背を預けると途端に両足から力が抜けて、座りこんだ。
他の子どもたちはどこへ行ったのだろう。
この絨毯を汚した黒い染みは、一体誰のものなのだろうか。
答えは明白すぎて考えたくも無かった。
黒猫のぬいぐるみに顔を埋めて自分の世界を真っ黒に染め上げる。
私だけのあの明るい太陽を探した。でも、見つからない。
いつもなら心の中でそっと呼べば笑いながら私の名を呼ぶ私の太陽はどこ。
太陽を思い出そうとしてもなにも出てこない。
真っ暗な世界は真っ黒なまま、その闇を照らすものは何もなかった。
どこにいったの。
橙色の髪に丸い大きな赤い目のきみはだあれ。
私の名前を呼んで安心をくれていたのはだあれ。
私が今、必死で探しだそうとしているのはだあれ。
あれ?
私はいつもこうして、ぬいぐるみに顔を埋めて何をしていたのだっけ。
The day when I lost it.
それは、私が何かを失った日。