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38.あなたの悲しみ

全身が灼熱の炎に焼かれたようにジリジリと痛んだ。

身体が宙を舞って瓦礫の中に落ち、あちこちの骨が悲鳴を上げた。

背中を強打したためか、うまく息が吸えない。


 エリィが歩み寄ってきて、私の顔を覗き込んだ。


「へえ。死なないんだ。さすが一応、レガーロを持っているだけはあるな」


 言葉とは裏腹にエリィの表情から笑みが消えた。

代わりに憤怒の色が滲んでいる。

エリィが私に跨って、胸倉を掴んだ。

すぐ近くにもうひとつ自分の顔がある。

それはあまり心地の良いものではなかった。


 エリィが右手を振り上げて、そして私の頬を殴った。

何度も、何度も。

頬だけじゃなく顔中を、身体中を。

胸倉を掴んでいた手を離し、立ちあがって蹴った。


 痛い、という感覚はさっきの光で受けた痛みが大きすぎて抜け落ちてしまったのかもしれない。

何も感じなかった。


「アタシはなあ。身体を開かれて、弄られたんだ! 痛かったし、苦しかった! 他の子どもたちみたいに死ぬかも知れないと思うと怖くてしかたなかった! 同じような思いをさせられていると思っていたお前に、優しくしてやっただろ。居場所をあげただろ!

……それなのに、アタシは所詮もう一人お前を作るための媒体でしかなかったんだ!

お前のせいで……っ、アタシはあんな思いをさせられたんだ! お前のせいでアタシは何もかも失ったんだ! 研究所へ連れてこられるとき、家族を殺された! 身体を改造された! ……全部、お前のせいで……!」


 エリィの蹴りが急に止まり、咳込みながらその顔を伺うと力無く項垂れており、それから唇を噛みしめて静かに涙を流していた。

抱きしめてあげなきゃ、そう思って名を呼ぼうとした。

だけどエリィは静かに離れていって床に転がっていたDEATHBREAKERを拾い上げ、戻ってきた。


「これで、終わる……」


 エリィが横たわる私の上ですぐにでもDEATHBREAKERを突き刺せる状態で呟いた。

嗚咽交じりの、か細い声で。

名前を呼ばずにはいられなかった。

かつてそうだったように、お互いが哀しいときはお互いで慰めあう、あの頃のように。


「エリィ」


 刀を持つ、エリィの両手が大きく震えている。


「エリィ……。気が強くて、男っぽいちょっと乱暴な言葉づかいで、みんなから頼られてて、みんなに愛されてたエリィ。それから私がここへ連れてこられて、初めて声をかけてくれた。……私、エリィのことだいすきだった」

「そんなこと、お前には言われたくない!」


 左手を向けられた。

ああ、死ぬかも。

でもまあいいや、だなんてどうして私そんなこと。


ふっと視界を横切るものがあった。

それはエリィにぶつかるぐらいの位置でまっすぐ飛んでいき、エリィに避けられた後は地面に高い音を立てて落ちた。

深紅の刀身が美しい、ルーナの刀だ。


 反射的にルーナの飛ばされたほうを見ると、脇腹に手を当てながらルーナが立っていた。


「ルーナ……」

「おい、オマエ」


 ルーナが私を一瞥し、それからエリィを睨んだ。

静かな声は沸々と沸き上がる憤りの念を精一杯押し殺しているようでもある。


「これ以上やるってんなら、オレはオマエに刀を向ける。オマエはオレの大切な人を殺したんだ」


 ルーナが悠然とした足取りで近づいてきて、私を助け起こした。

不意に抱きしめたい衝動に駆られて必死で堪えた。

今はそんなことをしている場合ではない。


「エリィ。私もやる」


 そう言ったものの、私もルーナも満身創痍だった。

私の左腕はもはや使い物にはならない。

ルーナが刀を拾い上げ、切っ先をエリィへ向けた。

エリィは深呼吸をした後、まだ余裕のある笑みを浮かべてわざわざ丁寧にDEATHBREAKERを投げてよこした。


 左手を向けられる。

青白い光が来る。

ルーナが私の前に飛び出した。

そして向かってきた青い光を一刀両断して見せた。

エリィの表情が強張った。

いける。

ルーナと二人でならいけるかもしれない。

DEATHBREAKERを握る手に力を込めた。

今はルーナが攻撃を退けていてくれるから私は落ち着いて考えろ。

できる。

できるから。

大きな深呼吸を繰り替えし、心静かにタイミングを見極めた。


 ルーナがエリィのレガーロを斬り裂きながら走って行く。

その後ろを私も駈け出した。

エリィに肉薄したところでルーナが叫んだ。


「クロネコ、お前にだって違う生き方があるはずだ!」


 ルーナが身を屈めた。

私は思いきり跳躍してその背を飛び超え、エリィに向かって刀を振り下ろした。

確かな手応えはあった。

だけど死につながるような怪我ではないはず。

そのあたりはちゃんと加減した。


 エリィはたった今できた胸の切創を手で押さえ、ゆっくりと後ずさり壁に凭れかかった。

肩で息をしているが、それは怪我のせいだけではないだろう。

恐らくレガーロを短時間で乱用したせいだ。

透も力を使った後はひどい脱力感に襲われたことが幾度となくあった。


 荒い呼吸を繰り返すエリィがやけに寂しげに思えて、そばに行きたくて、一歩ずつ近づいた。

DEATHBREAKERの柄から手を離して。














Only I know your distress.

わたしだけがあなたの悲しみを知っているから。


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