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命の紙飛行機

作者: *SHUL*



『晃、晃何やってるの??』


あたしはテーブルでごそごそやっている晃の背中の向こう側をのぞいてみた。


『何って・・・紙飛行機折ってるんだよ』


晃は得意げに完成した紙飛行機を頭の上で振る。


『わぁー・・・晃は紙飛行機折りの天才だね』


あたしは小さな手でパチパチと乾いた音で拍手をする。

そんな晃は小さな手で紙飛行機を外へと飛ばす。


『いつか・・・あの紙飛行機に手紙を書いて、それを届けてもらうんだ!!』


そんな晃のあのときの言葉は、あたしの勇気にもなった。




――――10年後――――


「あれ?晃、今日も一緒帰れないの?」


「あぁ・・・」

晃はあたしの顔も見ないで教科書をカバンにつめる。


「・・・また、病院?」


「心配すんなってぇ」


晃は余裕そうに笑うがあたしには余計不安が増える。

そう・・・晃は生まれつき心臓が弱かった。でも、それを表に出さないのが、あたしの幼なじ

み、清浦 晃のいいとこだった。


「ひかり、今日も紙飛行機飛ばすのか?」


「うん・・・隣町まで目指してるから」


「俺は紙飛行機作るの天才だけど、お前よりかはとばせねぇんだよなぁ・・・」


「まぁねぇ。あたしはほとんど晃の紙飛行機使ってるけどね・・・」


「まぁ頑張れよ。俺の昔の夢そんなに叶えたいならな」


フフンと晃は笑って教室を出て行った。


「も〜!!晃のためにやってんのに!」


怒ってる・・・でも、あたしの心は笑ってた。

そうだ。あたし空野 ひかり。『晃』って漢字で書くんだけど晃とややこしいからやめとこ。

晃・・・あの頃から大好きだったなぁ・・・。

隣の家で、窓からあたしの部屋に入ってね、紙飛行機、飛ばしたね。


「・・・あ、また落ちた・・・」


あたしがとばした紙飛行機は、100m近くの病院の庭に、落っこちた。

隣町までは500m前後。まだまだじゃんね・・・。




次の日は、晃があたしより学校に早く登校していた。


「おはよう」


あたしは普通にあいさつしたのに・・・晃の返事には間があった。


「・・・オス」


よく見ると晃の肩は震えていた。息も、荒かった。


「晃・・・大丈夫なの?」


「っ!!大丈夫だって!」


パッと顔を上げて顔色を輝かせた。

いっつも晃はそうだ。あたしの心配をかわす。


「1時間目体育だよ?大丈夫なの?」


「心配性だなぁ!平気だって!」


したたる汗を手でぬぐいながら笑顔で答えた。


「・・・・・・」


キーンコーンカーンコーン

体育はマラソンだった。


「ふっわぁ〜!きっつ!」


あたしはむなしくも1人で走っていた。

女子は2キロ、男子は3キロ。男に生まれなくて良かった・・・。

いつもあたしを2、3周抜かして完走する晃が、今日は、あたしに背中を見せない。


『どうしたのかな・・・』


心の中でそう思い、走りながら辺りを見回した。



そのとき、




ドサッ




周りからはざわめきが聞こえた。

誰かが倒れた・・・野次馬からは、そう聞こえた。


     

“倒れた”



その言葉から思い浮かべた顔は、晃だった。


「清浦君!!」


それは、この学年には1人しかいない、晃の苗字だった。


晃・・・晃!!?


あたしはその“清浦君”の周りに集まった人ごみをかきわけた。

ドーナツ化現象のような真ん中のぽっかりした部分には、倒れた晃と駆けつけた先生がいた。


晃・・・。


あたしは、声が出なかった。

すぐに救急車がかけつき、晃を乗せてった。

教室に戻されたあたし達は先生が来るのを待った。


シン・・・。


教室には、物音一つなかった。


「みなさん・・・」


先生がやっと口を開いた。


「さきほど・・・清浦君が倒れましたが、命に別状はありません。心配はいりません」


いやに冷静な先生の声。

あたしの背筋には冷たいものが走った。



何  か  悪  い  予  感  が  す  る




「空野!!」


先生に止まられる間もなくあたしは走った。

どこに?・・・分からない。

1番最初についたのは、さくらんぼのように並んだ、晃と、あたしの家。

病院からの連絡を聞いたんだろう。いつものきれいな晃のお母さんが出てきた。


「あ、おばさんっ・・・」


「!ひかりちゃん!」


おばさんは、泣きがおで、目じりが赤くはれ上がっていた。


「晃・・・は、大丈夫なんでしょうか・・・??」


「・・・ひかりちゃん、今まで黙ってたんだけどね・・・」


おばさんはしゃっくり声をのみこんで、こう答えた。




「晃は、心臓病なの」



全身に電撃が走って、足の力が抜けて、あたしはその場にひざまついた。


「え、でも・・・今までの発作では晃・・・平気で・・・」


「・・・今回のはひどかったのよ」


おばさんはもう絶望状態。


「それよりひかりちゃん学校は・・・?」


あたしは黙っていた。晃のために来たなんて言ったら・・・。


「ひかりちゃん、来てくれるわよね?」


おばさんの言葉にあたしはうつむいていた顔を上げた。


「え・・・来るって・・・」


「もちろん、晃の病院よ」


「・・・はい」



晃のお母さんの車に一緒に乗って、あたし達は病院へと向かった。



コンコンッ


晃のお母さんは急いでドアを開け、ベッドに横たわっている晃のところへ駆け寄った。

晃はまだ寝ていた。目を閉じて寝息をたてている。

あたしは晃と無事と安心して泣いていた晃のお母さんのツーショットを眺めていた。

5分もすると、晃のお母さんは落ち着いて、ドクターから話があると、部屋を出て行った。

真っ白な壁で包まれた病室では、あたしと晃の2人だけになった。

晃は・・・目を覚まさなかった。


「晃・・・」


あたしはゆっくりと晃に近づいて、手を伸ばし、晃のさらさらした頭をなでた。


「・・・この強がり・・・こんなになるまで無理なんて、してんじゃないわよ・・・」


出したくないのに、目から涙が溢れてくる。



「・・・ひかり?」


あたしは制服で涙を拭った。かすれて、晃の顔が見える。


「晃・・・目、覚めたんだ」


「・・・ひかりの声が、聞こえたから」


晃の目は天井を見つめていた。その目には、何も、映っていなかった。


「・・・バカ」


あたしはそう言うと、晃のベッドに顔を埋め、泣いた。

あたしは毎日晃の病院に通った。



ある日――――――――


晃に向かって壁のかどから、紙飛行機を飛ばした。


「・・・?」


クエスチョンマークを浮かべている晃はその紙飛行機に気づき、広げた。



『早く元気になってね  ひかり』



その文字を見た瞬間、晃の表情はやわらいで、周りを見渡し、あたしを見つけた。


「俺が作った紙飛行機じゃないのに良く飛んだよな。ま、ひかりは飛ばすのうまいけど」


あたしが作ったふにゃふにゃの紙飛行機を、折り線にそって元の形に戻した。


「晃は作るのだけうまいもんね〜」


「作るの・・・だけな♪」


口で言うわりには苦笑いの晃。あたしは思わず笑ってしまった。


「俺たち、2人で1人前だからな♪」


「晃・・・絶対、手紙つきの紙飛行機遠くまで飛ばそうね。あたしの、夢だから」


あたしは窓を放って、空へ言った。

晃は、理解できなかったみたいだけど、思い出してくれたみたい。


「お前の夢は、俺の夢でもあるからな」


最高の笑顔で言ってくれた。

あたしは思わず嬉しくて、


「絶対ね!!」


こんな約束をしてしまった。そして、指切りを交わした。

それから、毎日毎日の病院通いをかかせなかった。


そんなある日、



「晃くーん、夕食の時間です」


1人の看護士さんが食事を持ってきた。

今日のメインはカレー。おまけにサラダやエトセトラ・・・。


「いいなぁ♪あたしも食べたい!」


「お前は家で食え!」


「ぶ〜・・・」


あたしは頬を膨らませ晃の食事を黙って見てた。



その時―――――



「ゴフッ!!」



「!!!」



晃は口を押さえているけれど、無駄だった。

指の間からは、鮮やかな赤色の血が、流れ出ていた。


「晃・・・・・・血」


「・・・え?」


晃の顔には血の気がなかった。

血の流れの勢いは止まらず、涙のように溢れてくる。

ソレを、ジッとあたしは見つめてた。





血・・・・血。


血って・・・こんなに赤いんだ。





「!」


ハッとしてあたしは我に返った。


「だっ、誰か!呼んでくる!」


あたしは駆け出した。が、



「・・・晃?」


晃の手が、あたしの腕を掴んだ。


「晃っ、放して!」


晃は首を振った。


「俺・・・今度発作があったとき・・・もうだめだって・・・」


「!?」


今度の発作って・・・今の?


「だから・・・コレが、最後って・・・・」




最後? そんなこと・・・言わないでよ・・・晃・・・・!!



涙で前が見えない・・・あたしは耐えた。早く人を・・・!!



「最後に・・・言っておきたいことがある」


さ・・・い・・・ご?


「お前・・・にしか、言えない・・・こと」


晃の息づかいは荒くなっている。


「お・・・俺・・・」


晃・・・。


「約束・・・守れなかった・・・」


「ぁ・・・約束なんて・・・もぅ・・・ぃいんだよ・・・」


涙を抑えきれない・・・。





「お前のこと・・・好きだ」




一瞬、時が止まればいいと思った。

泣きじゃくっていたはずなのに、涙も止まった。

あたしはそこに立ちすくんだ。

晃の表情は分からなかった。

どんな顔して、さっきの言葉を言ったのかも分からなかった。



・・・!



晃の手の力が弱くなってる・・・!


「あたしっ・・・やっぱ看護士さん呼んで・・・!」


あたしは晃の手を振り切ってドアの方へ向かった。


が、


ドスン。



「・・・・・・」


あたしがおそるおそる振り返ると、その時が、止まった。

晃は血だらけでベッドからずり落ちて、静かに・・・。




「晃―――――――――――――――――――――――――――!!」






―――――半年後―――――



あたしは学校の屋上で空を眺めていた。


「あれ?ひかりったら、まだいたの?」


「・・・これから、新記録に挑戦」


「新記録って、隣町??」


「そう、今まで町内ばっかだったからさ。こっからが隣町に出るの近いんだ」


「ふぅ〜ん。えっと・・・何だったんだっけ・・・?」


「夢だよ。あたしと・・・晃の」


「ぁ・・・晃くんか。じゃあ先に帰っちゃうよ〜」


「うん・・・すぐ行くよ」




あたしは、広い屋上で一人になった。

あたしはどこまでも続く広い空を見上げた。

晃・・・あんたが死んじゃって、半年だよ・・・。

早いね。

晃が残してくれたあの言葉、今でも忘れないよ。

あの温もりも、忘れてないよ。

今、あたしが持ってる紙飛行機ね、晃の病室の棚の引き出しに入ってたやつなんだよ。

きれいだね。

あたしに飛ばしてほしかったのかな?大事そうに、入ってたよ。

この紙飛行機見た瞬間、また涙が溢れちゃってさぁ・・・。

今すぐにでも、飛ばしたいって、思って・・・。

あたしも大好きだったのに、あんたは返事も聞かずに行っちゃって、

どうしようもなかったんだよ。

だから、これが、あたしの返事。




『大好き』


という言葉を紙飛行機にこめて、笑った。無理やりじゃない。心の底から。

行き先は、隣町じゃないんだ。行き先は、晃のもとでもないんだ。

この紙飛行機には、翼が生えているから、落としたくないから。


2人で1人前のこの紙飛行機に、命をこめて――――――この命の紙飛行機を飛ばそう。


      

いつまでも、どこまでも、羽ばたいて―――――――。









初めまして、*SHUL*です。


命の紙飛行機を読んでいただきありがとうございました。


初めての作品なので多少の文章表現が曖昧ですが見逃してください藁


他の作品も読んでいただき感想もくださったら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて涙が流れました。 処女作だとおっしゃりますが大作だと思います。 [気になる点] ありません、小説を書いていないわたしに人の文章を指摘するような権利はありません。 [一言] わた…
[一言] よかったぁ。 うるっときたぁ・・・・ありがとう
[一言] 病気=死ぬという話の設定が最近多く、今回の作品もラストに晃が死ぬという事がありきたりに思ってしまいました。 紙飛行機に二人の思いを乗せる設定は良かったと思いますが、誰かが死ぬ事で後書きに書い…
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