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くしゃみ一発で億万長者! ~睡眠不足風邪男の奇跡のドミノ~

作者: こばさん
掲載日:2026/05/08

幸田こうだ じゅん、27歳。

中小IT企業のプログラマー。


睡眠不足が常態化し、風邪の引き始めで頭は重く、鼻は詰まり、喉はイガイガだった。

1Kの部屋は散らかり放題。空のエナジードリンク缶、風邪薬の空箱、カップ麺の残骸が山積みだ。

ベッドの足元で丸くなっている三毛猫のミケは、近所の野良猫。

いつからか巡の部屋を根城にし、勝手に窓から出入りしている常連客だった。


「う……熱っぽい……もう会社なんか行きたくねえ……」

巡が鼻をすすりながら体を起こした瞬間、強烈なくしゃみの予感が喉の奥からせり上がってきた。

「はっ……はっ……」

我慢などできるはずもなく——

「はっくしょいィィィ!!!」

部屋を震わせる爆音くしゃみ。


びっくりしたミケが毛を逆立てて垂直跳び。

そのまま巡の古いデスクに着地し、大暴れが始まった。


ミケの後ろ足が、デスク上の空き缶を直撃。

缶は勢いよく転がり、隣に積んであった古い外付けHDDに激突。

HDDがデスクの端から落下し、床に落ちていた巡の大学時代からの古いスマートフォンにぶつかった。

スマホの画面が点灯。

充電ケーブルがたまたま絡まった衝撃でアプリが自動起動、それは、巡が大学時代に趣味で作っていた分散型ウォレット管理ツールだった。

もう五年以上放置し、存在すらほとんど忘れていたもの。

長年眠っていたウォレットが同期を開始した。

画面に表示された数字を見て、巡は目を疑った。


残高:1,247.8 BTC

「……は?」


大学時代、友達に誘われて少額でマイニングしたり、投げ銭やアルバイト報酬として受け取ったりした残骸が、長い眠りから目覚めていた。

風邪でぼんやりした頭では現実感がまるでなかったが、現在の市場価格に換算すると、約百二十億円相当になっていた。


しかし連鎖はまだ終わっていなかった。

びっくりしたミケが今度は本棚へジャンプ。

不安定に積んであった大学時代のノートや手紙の束が雪崩のように落ちた。

その中に、亡くなった叔父・幸田 宗一郎からの最後の手紙が混ざっており、手紙にはこう書かれていた。


『巡へ。

俺が亡くなった後、もし困ったことがあれば、この手紙の裏にある銀行の貸金庫を開けてみろ。

鍵は別便で送ったはずだ。

お前が自由に生きられるように、少しだけ足しにしろ。

ただし、無理に使わなくてもいい。忘れた頃に開けるのが一番だ。』


巡は震える手で手紙をめくった。

裏面に貸金庫の番号と、叔父が最後に送ってきた鍵の在処のメモがあった。

先ほどのHDD落下で部屋が荒れたおかげで、鍵がすぐに見つかった。


巡は風邪の熱を引きずりながら、最寄りの銀行へ向かった。

貸金庫を開けると、そこには叔父が長年かけて収集した希少浮世絵・古書のコレクション、都心の小さなビル権利書が静かに収められていた。

暗号通貨と合わせ、総額約140億円超の資産が一気に巡のものとなった。

税理士・弁護士を雇い、手続きを進めながら、巡はただ呆然とするしかなかった。


それから一ヶ月後。

幸田 巡は渋谷のタワーマンション最上階の角部屋にいた。

睡眠は十二時間以上取れるようになり、風邪も完全に治っていた。

窓辺で日向ぼっこしているミケの背中を、ゆっくりと撫でる。

「一発のくしゃみが、全部の引き金だったなんて……信じられるか?」

ミケは気持ちよさそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らし、まるで「当然だにゃ」と言っているようだった。


巡はノートPCを開き、書き始めた。

タイトルはすでに決まっている。

『くしゃみ一発で億万長者!』


大学時代の忘れ物と、亡き叔父の静かな愛情が、風邪男の爆音くしゃみと一匹の猫によって奇跡的に繋がった物語。

巡はミケを抱き上げ、鼻先をくっつけた。

「これからもよろしくな、ミケ。お前は俺の運命の相棒だ」

外は快晴だった。


幸田 巡の、新しい人生が静かに、しかし確実に幕を開けていた。

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