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第三十三話:遺志

26/04/03 誤字の修正



 2167年5月22日 17時 ロシア領・クラスノヤルスク南東180km付近 飛翔体墜落現場、クレーター内キャンプ


 磯谷たちが歩いてキャンプへと到達した。

 薄い砂塵の巻く中、整列するデルタの隊員たち。

 その後ろに補給隊や科学者たちの姿も見える。

 並ぶ人の顔が判別できるほどまで近づくと、磯谷と共に歩いてきたジャクソン大尉を筆頭にヘンドリックスの最後の戦いを共にした男たちは、磯谷に先んじてキャンプに向かう。

 彼らはそこでデルタの隊列に加わった。


 磯谷は速度を変えることなく、ヘンドリックスを担いだまま歩く。

 隊列の前に差し掛かると、ジャクソン、メイヴィス、ヘンダーソン、ジェンキンスが、磯谷の前に整列して敬礼した。

 磯谷もそこで歩みを止め、四人に敬礼する。

 磯谷は彼らの意図を理解した。

 ヘンドリックスは彼らの隊長なのだ。

 彼らの流儀に任せるべきだと思う。

 ジャクソンとメイヴィスは磯谷に歩み寄り、ヘンドリックスを受け取ると、二人で肩を担ぐようにそこに用意されていたテーブルに乗せる。

 白いクロスが敷かれたテーブルの上に寝かされたヘンドリックスは相変わらず笑っている。

 その表情を目の当たりにした四人は涙をこらえ、テーブルを肩に担いだ。

 四人はゆっくりとした儀礼的な歩調で、整列する隊員たちの前を歩いた。

 整列した隊員たちは、敬礼の姿勢を維持したまま、微動だにしなかった。

 立ち止まったままの磯谷も、敬礼で見送る。

 ヘンドリックスの遺体はユニットハウスに安置された。


 ユニットハウスからデルタの士官たちが戻ってくると、そこにいた一同に敬礼してから、ジャクソンが口を開いた。


「まず最初に、ヘンドリックス少佐から、この輸送隊の指揮官としての最後の命令…伝言を伝えます。

 少佐はこう言われました。

 俺が満足したやり方だ。結果にケチ付ける奴はぶん殴る。この戦いは俺のものだ。できれば他言することなく個々の胸にしまってほしい。と」

 

 静まり返る一同。ジャクソンは続けた。


「少佐はこういう方です。少し注釈をさせていただきます。

 少佐の意図は、結果どうであれ、この件を遺恨にすることは許さない。そして、この戦いに関しては一切他言無用。

 そういう意味で理解していただきたい。少佐の直接の指揮下にあったものはもちろんのこと、今回のミッションに参加された方々にも、このご遺志を尊重していただきたい」


 一同は静かなまま、ジャクソンの言葉に耳を傾ける。

 ジャクソンは淡々と続ける。


「少佐が何を考えていたか、少しお話ししたい。ご本人は望まれないでしょうが、私個人として、この場にいる皆さんにも知ってほしい。そして少佐の意図に協力していただきたい。

 これは今後の方針に大きくかかわります。少し皆さんに時間を頂きます。

 口封じの件は、任務の初期から決定事項として少佐はご存じでした。

 幸いなことに、それは少佐以外は知らない事実。

 そこで少佐は考えられました。調査中にロシア軍と遭遇したことを幸運と考えられたようです。

 つまり、口封じの任を知るものが戦死すれば、それは実行されない」


 ジャクソンは磯谷を真直ぐ見て言葉を続ける。


「誤解していただきたくないのは、少佐は軍人として任を遂行するにあたり、手は抜かれません。最初から自分が死ねば他は死なずに済むなどと考えたわけではない」


 これは磯谷に向けられた言葉だ。

 磯谷は理解している。

 黙って頷く。


「もちろん、単純に少佐が任を果たさなかった結果では、その後の安全は保証できない。少佐は最後まで、口封じの必要のない状況を模索されました。

 いくつかの段取りは出来ましたが、いくつかはうまくいかなかった。

 最終的にこの形にされたのは、皆さんの協力を必要としたからだと、小官は考えています」


 少し周囲がざわめく。

 その中でハイマンが口に出した言葉が聞こえた。


「だから、ミオの推薦に関して確約が欲しいと…」


 ジャクソンは続けた。


「少佐は、相馬博士に関しては口封じは行われないと判断され、残るイソガイ少佐とMR.赤石の処遇に関していくつか検討されました。

 結論としては、この場からの離脱。そうすることで生き延びることが可能だろうと判断された。

 そのために、私は少佐に今後の行動について指示を受けております。

 今回の少佐の戦いにおいて、損耗が発生した場合。それは先のロシア軍との交戦において生じたものとする。

 そして皆さんには少佐が公表された口封じという任務に関して、少佐が選択されたイソガイ少佐との決闘に関しては、無かったものとしていただく。

 そうすることで、すべてが丸く収まるとお考えだったようです」


「しかし、それではジェイ…ヘンドリックス少佐は最初から死ぬつもりだったってことじゃないですか」


 そうジャクソンに告げる高山。

 悲壮な表情を浮かべている。


「高山大尉。死ぬつもりではないのです。大尉の言うニュアンスとは少し違います。

 少佐は常に死を覚悟して任に当たられていた。

 もし、自分が死ねば、このプランは成立する。もしイソガイ少佐が死ねば、元のプラン通りに成立する。

 少佐はどちらにするか、ではなくて、どちらになるか、という選択をされたのです」


 どちらにするか、ではなく、どちらになるか。

 言葉上それほど違わないが、その意味合いは大きく異なる。

 それは高山にも伝わったが、それでも割り切れないようだった。


「だからと言って、どちらも死なない選択だってあったかもしれない…」


 高山の言葉に、ジャクソンは続けた。


「あったかもしれません。ですが、少佐はそれをお選びにならなかった。今はその事実しかないのです」


 改めて周囲に向けて少し声を大きくしてジャクソンは言った。


「先のロシアとの交戦において、タイプ60と55は全機が失われ、同様にXM604とパラディン、そして少佐の乗るM24と輸送車1両も撃破された。

 イソガイ少佐とMR.アカシはその際に戦死。ニールセン大尉と、ヘンドリックス少佐もその際に死亡された。

 これを公式な事実として、この場の皆さんと共有したい。そうでなければ少佐の行いは無に帰します。

 これはお願いです。

 ですが…恐縮ですが、私個人としてはそうでなければならないと考えます。

 もし、それが出来ないと思われる方がいれば、おっしゃってください。

 私なりの方法で対処します」


 強い覚悟の言葉だった。

 つまりジャクソンは、口封じの命令も、磯谷とヘンドリックスの決闘も無かったことにし、失われたものはロシアとの交戦で発生した。

 そしてその秘密を守れと命令しているのだ。

 何が正しいかではなく、現状どうするべきか。

 それを問われていると高山は感じた。


「最後の今後のスケジュールに関してです。

 出発を二日延期します。

 その間にタイプ60を可能な限り修復し、イソガイ少佐、MR.アカシはそれを使い、我々とは別行動で生き延びていただく。

 また、MR.アカシにはM495-A2の戦闘記録の改ざんを手伝っていただきます」


 ジャクソンはそれで発言を終える。

 その意見に反対する者の声は無かった。





 2167年5月23日 9時 ロシア領・クラスノヤルスク南東180km付近 飛翔体墜落現場、クレーター内キャンプ


 皆、夜通しで、それぞれの作業を続けていた。

 デルタチームは監視体制を強化し、ロシアの残存兵力への警戒を続けた。

 整備チームは総出で60式の修理作業を続けていた。

 ユニットハウスの中にはヘンドリックスの遺体が安置されている。

 デルタの隊員たちだけでなく、多くの隊員がそこを訪れ、無言の別れを、そして応えることのないヘンドリックスとの会話を行った。


 朝になると簡易な葬儀と埋葬が行われる。

 ヘンドリックスを連れて帰りたいと願うものもいたが、ジャクソンはこの決定を下した。

 彼もまた連れて帰りたいと思っただろう。

 だが、それは出来ない。

 意外なことに葬儀にはデルタのメンバーは少なかった。

 アメリカ国旗に包まれたヘンドリックスを砂地に掘った穴の底に安置すると、ジャクソンは通信機に向かって叫ぶ。


「全員、構え!」


 一呼吸おいてから続ける。


「撃て!」


 そこには誰もいない。

 だが、一斉に轟音が響いた。

 デルタの隊員たちはM495とM24で別の場所に待機していて、XM604の破壊を行っていた。

 礼砲を兼ねての射撃。

 ジャクソンの指示の下、M495から撃たれるATMとM24の対装甲弾の射出音が一定間隔で鳴り響く。

 磯谷たちはスコップでヘンドリックスに砂をかける。

 星条旗が砂に埋もれていく。

 最後に見えていた星条旗に磯谷が砂をかける際、小さく呟いた。


「またな。相棒」


 磯谷がかけた砂が穴へと落ち、赤と白のストライプが消える。

 しばらくの間、XM604を破壊するための轟音は続いた。





 同日 12時

 

 作業は続けられている。

 非番の護衛部隊も積極的に60式の修理作業に参加していた。

 磯谷も黙々と手を動かし続ける。


 ふと思う。

 ヘンドリックスが残したもの。

 磯谷たちの当面の命。

 だがそれだけではない。

 ヘンドリックスが育てた部隊は、生き続けている。

 ヘンドリックスの残した明確な意思のもとに動き続ける彼らもまた、ヘンドリックスが残したものだ。

 そう思うと、そこに奴の息吹のようなものを感じる。

 奴は死んだ。

 だが、奴は生き続けている。

 残り香のようなものかもしれない。

 それでも、それは引き継がれていく。

 いずれヘンドリックスという名は忘れられるかもしれない。

 そうだとしても、その痕跡は残り続ける。


 とりとめもなくそんなことを考えていると、ジャクソンが尋ねてきた。


「少佐。これをお持ちください」


 差し出されたものはヘンドリックスの認識票ドッグタグだった。


「これは持ち帰るべきだろう。受け取れない」


 磯谷が断ると、ジャクソンは首を振りながら語り始める。


「私も持ち帰るつもりでいましたが、思ったのです。

 これは少佐がお持ちになるべきではないかと。

 何より少佐が喜ばれるでしょう。M24がひどい損傷を受けて死体が回収できないような状況で、タグだけは回収しましたって言うのもなんですしね」


 穏やかな口調とは裏腹に、強い意志の滲む視線。

 生き残った者の責務を果たせ。そう言われているように感じた。


「分かった。これは俺が預かる」


 磯谷はそれを受け取り、ポケットへと入れる。

 ポケットの中で鍵とぶつかり、カチャッと軽い金属音が鳴った。


 立ち去ろうとするジャクソンに磯谷から声をかける。


「大尉、少し聞いてもいいか?」


「何でしょうか?」


「この場から逃れたとして、追手が掛かれば、わずかに時間が稼げるだけになる。

 ヘンドリックスはそこをどう考えていたんだ?」

 

 現実的な質問だ。

 いずれ別の調査が入れば、60式が無いことに疑念を抱くものも出てくるだろう。

 そうすれば追手がかかる可能性は十分にある。

 ジャクソンは笑いながら答えた。


「その点は小官も隊長に確認しました。

 隊長は言っていましたよ。その可能性は極めて低いと」


「その根拠は?」


「別の調査隊を送る可能性が極めて低いと考えておいででした。必要な調査は今回で終わるだろうと。

 そして、秘密保持が必要な期間も長くは無いとお考えのようでした。理由まではおっしゃいませんでしたが、別の情報をお持ちのように見えました」


 機密保持の期間が短いのなら、それが終われば口封じの必要はなくなる。

 つまり追手を出す理由もなくなる。


「そうか。助かった。礼を言う」


「いえ。むしろ心苦しいくらいです。

 この環境下で孤立した状態で生き延びるのは簡単ではない。

 ですが、隊長は少佐ならそれが可能だと考えたのだと思います」


 ジャクソンは敬礼してその場を去った。

 磯谷はポケットに手を入れて、そこに在るものを握る。

 今までとは違う、板材の感触が増えていた。


「うまく言えないが、お前達に生きる意味をもらった気がする」


 磯谷はその存在を確かめるように握り続けた。





 同日22時

 

 60式の修理作業は急ピッチで進められていた。

 55式の武装を転用したターレットの再建と、駆動部の部品交換。

 更には穴の開いた外部装甲を塞ぐ作業。

 荷台部分はともかく、キャビン部分の機密を最低限担保しなければならない。

 融合炉と戦術AIが無傷で、部品製造装置が比較的簡単な修理で済んだのは不幸中の幸いだった。


 高山は、あれから磯谷がほとんど何もしゃべらないことが気がかりだった。

 もともと口数は多くは無いが、たまには冗談の一つも言う。

 だが、高山は一言も磯谷の声を聞いていなかった。

 無論、ヘンドリックスが死んだこと、それが自害であっても磯谷との対決の結果であるという事実は、高山にも重くのしかかっている。

 磯谷はもっと重く受け止めているはずだ。

 そう思うからこそ、磯谷にかける言葉が見つからなかった。


「高山、少し確認したい」


 突然磯谷から呼ばれ驚く。

 何事も無いようにふるまいながら、少し離れたところにいた磯谷のもとに行くと尋ねた。


「二佐、何でしょうか?」


「齟齬があっては問題になる。確認しておきたいのは、お前が今後どうするかだ。本隊とともに帰還する方向で問題ないな?」


 少し断定的な言葉に高山は小さな憤りを感じる。

 反射的に答えていた。


「何を言ってるんですか。私は二佐の副官ですよ? 二佐と行動を共にするのが当然じゃないですか!」


 磯谷の気遣いなのは分かるが、個人的にはもう少し頼りにしてほしいという思いもあった。


「俺は既に死んだことになっている。つまりお前が殉職する理由は無い。そもそも臨時の副官だ。

 順調に任務が終わっていれば、お前は自動的に副官じゃなくなる」


「そりゃ分かってますよ。でも、そういう話じゃないでしょ?

 少しは人の気持ちを考えてくださいよ。二佐、唐変木とか言われませんか?」


 高山の言葉に磯谷は、最初驚き、そして少し笑い、最後に真面目な表情に変わってから口を開いた。


「高山大尉。これは貴官の上官からの最後の命令として聞いてくれ。

 お前は調査隊と行動を共にし、帰還後まで相馬博士の警護を行え。まず大丈夫だとは思うが、万が一が無いとは言えん。

 それともう一つ。こちらの方がより重要だ。

 赤石さんのお孫さんを保護し、可能なら米国への移住を実現させてくれ。

 最初から口封じを考えていたのであれば、約束も空手形の可能性がある。

 お前はリースウッドと直接面識があり、赤石さんからこの話を聞いていても不自然じゃない。

 もちろん、知らぬ存ぜぬを通されれば、手の打ちようがないが…

 いずれにせよお前にしかできない。引き受けてくれるな?」


 言い終えると磯谷は頭を下げる。

 高山はその言葉に身動きすらできなかった。

 高山の中に複雑な感情が沸き上がる。

 離別の悲しみ。

 課される任務への不安。

 頼りにされる喜び。

 それらを高山はまとめて飲み込んだ。

 そして磯谷に返事をする。


「二佐、おかしいですよ。命令って言いながら頭を下げてるの、変です。

 高山大尉、確かに命令を受諾いたしました。

 微力ですが全力を尽くします」

 

 そう言って敬礼をする。

 磯谷はそれに敬礼で答える。


「一つ約束してください。二佐。何があっても生き延びてください」


 目に涙をためた高山が言った。

 磯谷は笑顔で答える。


「約束する。俺は死ぬわけにはいかないからな。命尽きるまで俺の流儀を通す」


 それは高山に対する返答でもあり、ヘンドリックスに対する宣言であり、そして自らへの誓いの言葉でもあった。





 2167年5月24日 13時 ロシア領・クラスノヤルスク南東180km付近 飛翔体墜落現場、クレーター内キャンプ


 夜通し続いていた60式の修理作業は一応の形で終わっていた。

 走行には支障はない。融合炉も順調に動いている。キャビンの穴はふさがっていて、外が寒くても凍える心配もない。

 見れば継ぎ目が目立ち、砂に突っ込んだ最後部は少し変形しているようにも見える。

 外から見ればかなりひどい状況に見えるが、機能的には何も損なわれていなかった。


「55式に手を付ける時間はありませんでしたね。護衛が全くない状態は少し心配ですが…」


 高山の言葉に赤石が答える。


「なに。回収できる55式は回収している。とりあえずだが1台はすぐに動くよ。オーバーホール待ちの奴も、とりあえずは動くしね。

 それよりも…高山君。孫のことを頼む」


「一士官で何の権限もないですからね。出来ることは限られると思います。大船に乗った気でとは言えませんが、出来ることはするつもりです」


 高山が赤石にそう言うと、赤石は深く頭を下げた。

 少し照れ臭かった高山は話題を変える。


「しかし驚きましたよね。輸送車1台を持っていけってジャクソン大尉が言った時は」


 60式の離脱に際し、ジャクソンは補給車を1台持っていくように勧めた。

 一昨日の会話で、破壊されていない補給車が破壊されていることになっているのは、ジャクソンの勘違いだと思っていたが、そうではなかった。

 最初から計画に含まれていたのだ。

 電力の供給は60式で可能。60式から比べれば性能は劣るがAIも搭載されているから無人運転も可能。

 水の浄化システムや、部品製作装置(ビルダー)もある。

 60式に比べて大きいことが問題ではあるが、持っていくメリットの方が圧倒的に勝った。

 潤沢とは言えないまでも、水と食料、60式の保守部品などを積み込んだ巨大なトレーラは生命線になり得る。

 M24も1台持っていくか、とジャクソン大尉は言っていたが、これは磯谷が固辞した。

 整備が出来ない上にM24を動かす場合、磯谷は60式を離れなければならない。リスクも大きくなる。

 やがて荷物の積み込みが終わる。


 特に予定していた訳ではないが、一部を除いた人たちが60式を見送るために集まっていた。

 磯谷とジャクソンは握手を交わす。


「先に参ります。任務の完了を祈っております」


「少佐もご武運を」


 短く言葉を交わし、磯谷が敬礼する。

 その場にいる軍人たちもそれに答礼した。

 高山も最前列で敬礼する。

 磯谷と視線が交わる。

 磯谷は小さく頷き、高山もそれに倣った。

 敬礼の姿勢を解くと、素早く60式に乗り込む。

 そのまま手を振るでも、窓から顔を出すでもなく。60式は動き出した。

 輸送車がそれに自動で続いていく。

 2台は南西の方角に走り去っていった。


 それを敬礼したまま見送る高山。

 高山は思う。

 最後に一言くらいかけてくれてもいいのに。

 高山にも分かっていた。

 そこに在るのは未練でしかない。どれほどの言葉を交わそうとも、何も変わらない。

 磯谷らしいとも思う。

 小さく呟いた。


「二佐は絶対に唐変木だ」


 涙が浮かぶ瞳で、二台の車両の巻き上げた砂塵を見つめ続けた。



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