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第二十八話:接敵



 2167年5月18日 9時 ロシア領・クラスノヤルスク南東180km付近 飛翔体墜落現場、クレーター内キャンプ


 60式一行は丸1日の休息日となったが、赤石と高山は後部作業台を広げて55式の改造に取り組んでいた。

 明けて今日も特にすることがない。

 ヘンドリックスが磯谷の体調不良を気にしたのか、用があれば声をかけると言ってそれっきりになっていた。

 当の磯谷は体調不良の理由に自覚がある。

 重力感覚が狂う状況で長時間55式のコントロールを行ったために起きた、酔いだ。

 赤石も知っているが、磯谷は低重力環境や高重力環境にめっぽう弱い。

 月面を想定したシミュレーションで、似たようなことを経験している。その時は指揮官席に座ったままゲロ袋に吐いた。

 おとといは女性の前でそれをするのが躊躇われたのだ。

 外の線量が即座に命に影響を与えないことは理解していたし、錯乱したわけじゃない。

 そもそも命を惜しむつもりはない。被ばくしてもどうということは…

 そこで気づく。

 相馬がいたからと言って気を使う必要などないはずなのに。

 つくづく矛盾していると思う。

 妻が、娘が命を落とした理由を知りたい。その一心でこの任務に就いた。

 その思いは変わっていない。

 だが、この任務を始めてから充実感を感じているのも事実だった。

 ポケットに手を突っ込み、そこに在るものを確かめる。

 木の感触、鉄の感触。

 チャリッと鳴る金属音。

 すべてがその存在を主張している。

 その持ち主が実在したことを証明していた。


「今日は少し風があるな」


 このクレーターの中は、ここに来るまでとは違い、嵐に見舞われることはなかった。

 比較的穏やかな場所だ。何もない。穏やかな場所。

 カップに残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、立ち上がる。

 磯谷はユニットハウスを後にして60式に戻った。


 60式を動かす予定がないので、作業台を出したまま、55式の改造作業は続いているようだ。

 磯谷は60式に乗り込むと、6機の55式のチェックを行う。

 問題は見つからない。

 さて、どうしたものか。

 ヘッドセットを着けて60式のカメラで周囲を見渡す。

 この数日変化のない光景だ。

 ここに正体不明の敵が現れるとも思えない。

 ヘッドセットを外そうとしたとき、西の空にほんの僅かな違和感を感じた。

 改めて注視する。

 そこに異常があるとまでは思えなかった。

 だが気になる。

 根拠はない。

 磯谷はそう思いつつ、凧を上空に上げる。


「二佐、何かありましたか?」


 高山の声が通信機から聞こえる。

 磯谷はそれに答えた。


「わからん。わからんから確認する。何もなければそれでいいが…高山、万一に備えて作業台を閉じられるように準備してくれ。急げ」


「よくわかりませんが了解です。赤石さん、急いで片づけますよ」


 凧はぐんぐん上昇を続け、すぐに有線の限界に達する。

 この高さではクレーターの淵を越えて先を確認するのは無理だ。

 磯谷はすぐに2機目を上空に上げる。

 1機目の凧を中継器にして、2機目の制御を安定させる。

 これで多少距離があっても、コントロールを失わずに済むはず。

 2機目の凧は上空へと上がり、通信感度が落ち始める相対高度1500m付近で静止。

 前方を拡大映像で映す。

 最大望遠で確認するが、砂塵で正確に目視できない。

 砂塵の中にわずかに浮き上がるシルエット。

 磯谷は通信機を入れて叫んだ。


「西方からロシア軍接近中。詳細は不明だが、T-50系の戦車がいる。総数不明!」


 シルエットは頭の中にある車両のシルエットと一致した。恐らく間違いない。

 続けて高山に通信を入れる。


「60式を出すぞ、片付いたか?」


「もうちょっと、あと3分待ってください」


「二人とも作業台から離れろ」


 磯谷はそう言ってから60式を急発進させる。

 作業台に残っていた改修中の55式と部品や工具が、地面に滑り落ちる。

 磯谷は再び高山に通信した。


「作業台を閉じろ。終わったら乗れ! 赤石さん、すいません。後の片づけはお願いします!」


 高山が慌てて運転席に入る。


「少し乱暴ですよ」


「言ってられん。ここで戦うのは不利だ。守るべきものを守れん。出せ!」


 磯谷がそう叫ぶと高山は60式を発車させた。

 そこに通信が入る。ヘンドリックスだ。


「ロシア軍だと? 間違いないか?」


「間違いない。シルエットカードを嫌と言うほど眺めたからな」


「分かった。先行してM1167を出す。XM604とM495は後追いになる」


「了解。急げよ」


 60式は全速力で走りながら凧を収容する。程なく横にM1167が2台、それぞれ2機のM24を乗せた状態で並ぶ。

 同時に通信が入った。


「メイヴィス中尉です。小官以下6名、ヘンドリックス少佐の指示でイソガイ少佐の指揮下に入ります」


「了解した。敵までの距離は不明だが、数キロ先をこちらに向かって接近中。クレーターの縁で迎撃態勢を取る。先行して敵を捕捉してくれ。

 くれぐれも敵に見つかるな」

 

「了解しました」


 メイヴィスの率いるM1167は速力を上げて先行する。

 機動力では圧倒的にバギーの方が上だ。

 見る見るうちに距離が開いていく。

 2台のバギーは垂直に見える砂の壁を上り、頂上手前で停車してM24を降ろしたようだ。


「イソガイ少佐。敵は前列にT55戦車4両、BMP-11歩兵戦闘車4両が見えます。その後ろに輸送隊を引き連れているようですね。かなりの大所帯です。

 距離はもうすぐ3000mを切ります」


「アクティブは使っていないな?」


「もちろん。抜かりはありませんよ」


 戦車4両に歩兵戦闘車4両。BMP-11は戦車並みの火力を持っている。

 長距離戦は圧倒的に不利だ。

 至近距離で乱戦に持ち込みたい。できれば最初の攻撃で戦車砲を黙らせたい。

 磯谷はヘンドリックスに通信を入れる。


「ヘンドリックス。確認だ。警告するのか?」


「あほ抜かせ。私たちはこれで失礼するから見逃してくださいって通るかよ。先手を打つ。イコールコンディションなら相手も通信はできない。

 殲滅一択だ」


 ここはロシア領で、我々は無断で侵入している。我々に大義はない。

 ヘンドリックスの言うことは正しいが、磯谷に抵抗があるのも事実だ。

 60式も先行していたM1167と合流する。


「メイヴィス中尉。こちらの本体が到着する前に始める必要があるかもしれない。

 その場合は左に55式を展開させ敵の注意を引き付ける。

 右に展開して敵の火力を叩いてくれ。T55を頼む。こちらの火力では破壊は難しい」


「了解です。ですが、初期に集中砲火を浴びると危険なのでは?」


「幸い機械兵だ。誰も死なずに済むならそれに越したことはない」


「了解しました。我々はクレーター沿いに移動します。出るタイミングはご指示ください」


「了解」


 そう返答して55式6機を降車させる。

 4機は軽装。20㎜コイルガンを持たせ、2機は60㎜無反動砲を装備する。

 60㎜無反動砲を装備させた1機は無線制御だ。

 切れたケーブルの修復ができていない。

 おそらくは有線の範囲なら無線でもそれほど影響を受けないだろう。

 距離1500mほど。

 ヘンドリックス達が到着するのと、こちらが始めるのと…こちらが始めるほうが早そうだ。


「ヘンドリックス。お前が到着するよりも接敵が早い。時間稼ぎをするからその先は任せるぞ」


「了解した。今向かっている。それまで耐えろよ」


「了解」


 ふうと大きく息を吐いて深呼吸をする。

 磯谷は高山に声をかけた。


「高山、実戦経験はないな?」


「…はい。ありません」


 高山の返事が少し弱い。

 磯谷は続けた。


「怖くて当然だ。だから目をずっとつぶっていても構わん」


 高山の返事はなかった。

 すぐに実弾が飛び交うことになる。

 それを想像したら冷静でいろと言うほうが無理だ。

 磯谷は平和維持活動という名の実戦を何度か経験している。

 その差は大きい。


「距離1000。そろそろ始めるか」


 磯谷は55式を歩いて前進させ始めた。

 相対距離800m。そこで磯谷はオープン回線の通信を入れる。


「進行中のロシア軍に告ぐ。直ちに停止せよ。それ以上の前進は戦闘の意思ありとみなし、攻撃する」


 戦術AIによってロシア語だ。通じていると思う。

 55式が戦車のアクティブサーチを受けた警告を発する。


「ちゃんと聞こえているな」


 そう呟くと磯谷は55式を全速力で散会させた。

 55式の中央付近に戦車砲が放たれ、着弾する。

 小規模の爆発。徹甲弾だ。

 直撃しなければ問題はない。

 向こうは隊列を崩すことなく前進を続ける。

 一番近い敵の右端の歩兵戦闘車に照準を合わせて、60㎜無反動砲を発射した。

 こちらの兵力を歩兵だけとでも思っているのか、回避行動すらとらない。


「素人か!」


 磯谷はそう呟くと、砲弾は歩兵戦闘車を直撃し、停止する。

 それを合図に一斉に砲撃が始まった。

 7両の戦車砲が55式の周囲に着弾する。

 最前列の2機の55式は敵の監視に全力を注ぎ、そのデータを磯谷は戦術AIに流し続ける。

 残りの4機はそのデータをもとに、敵の戦車砲の射線に入らない動きを続ける。

 長くはもたない。

 磯谷は通信を入れた。


「メイヴィス! いまだ!」


 勢いよく2台のバギーが砂丘から飛び出すように走り始める。

 すぐに2台から合計4発のミサイルが発射される。

 中央付近に位置する戦車に直撃して大きな爆発が起きた。

 バギーは速度を落とさないまま大きく弧を描く。

 砂塵を残してバギーは戦車隊の側面方向に移動していった。

 車列が乱れる。

 55式の20㎜コイルガンを一斉掃射。

 これでは敵は破壊できない。


「だが、なめていると痛い目を見る」


 発射したのはEPM弾。小範囲だが強力な電磁パルスを発する。

 一発では効果は限定的だが、複数当たれば話は違ってくる。

 対策が施されているとは言っても、施せない部分も存在する。

 動きが止まることも、砲撃がやむこともない。

 だが、砲撃の精度が明らかに落ちた。

 そこに、バギーの残した砂塵から姿を現したM24が40㎜対装甲ライフルを連射する。

 それでも前進を続ける敵の車両に55式が肉薄する。


「メイヴィス隊。55式は気にするな、攻撃を続行。M1167、回頭してM24の撤収準備!」


 2機の55式が移動不能になっているが、敵も前方にいた半数は動けなくなっている。

 だが、敵の数はこちらの想定よりも多かった。

 2列目が存在していて、歩兵戦闘車2両と装甲輸送車が砂塵の中から姿を見せる。

 乗せていた歩兵を展開させ始めた。

 車両に取り付いて攻撃を続けていた55式が歩兵の集中攻撃を受けて機能停止に追い込まれる。

 少し後方で攻撃を続けていた55式の60㎜装備型で2列目の歩兵戦闘車を叩く。


「よくやった。騎兵隊の到着だ!」


 停車している60式の脇をXM604とM495が走り抜けると、次々とM24とパラディンを降車させ、敵へと向かう。

 文字通り殲滅戦の様相だ。

 XM604とM495が続けざまに対戦車ミサイルを放ち、車両を次々と破壊か足止めしていく。

 足が止まったところをM24が対装甲ライフルで狙い撃ち。

 急に現れた大規模な兵力に敵の足は完全に止まった。

 磯谷は3機の55式を後退させる。

 途中で被弾した55式を回収しながら。


 メイヴィス隊は磯谷の指示通りにバギーでM24を回収した後、本体に合流したようだ。

 生きている戦車砲の直撃を受けたパラディンがその場で四散したが、後ろにいたM24には大した被害は出ていない。

 パラディンは盾と槍を手にして前進を続けている。

 槍の先端は20㎜の銃口があり、それを撃ちながらの前進だ。

 決して早くない。

 だがその圧力は極めて高く、確実に前線を押し上げていき、敵の部隊は後退を始める。

 戦意を失った敵部隊は後退の速度を上げた。


「歩兵は放置して構わん。射線を地上2mに固定。車両をねらえ」


 ヘンドリックスの指示が飛び、M24は一斉射撃を続ける。


「大規模部隊だ。捕虜を取るのは面倒だし、全部撃ち殺すのはもっと面倒だ。

 放っておいても次に何かが来るのは最低2週間後だ。それだけ時間があれば、俺たちはここにはいない」


 戦闘は終わった。

 55式3機、パラディン2機。

 機械兵を5機失ったが、負傷者、死者ともにゼロ。

 破壊した敵の数を考えれば圧勝だった。


「高山、終わったぞ」


 磯谷は運転席にうずくまる高山に声をかける。

 高山はゆっくりと顔を上げ、血の気の引いた顔で磯谷を見た。


「怖かったよな。それが正常なんだ。

 それでいい。お前は慣れるな」


 磯谷は無言の高山にそれ以上声をかけず、55式を収納して帰路に就く。

 静かだったクレーターの一番騒々しい日は、幕を下ろした。





 同日 13時30分 ラボカー内


 科学者たちの分析作業は続いていた。

 アルミの円盤は計測と機器のチェックを繰り返し行うことで、それがアルミの円盤で、片面に模様が彫られている。

 アルミの円盤の周囲に計測不能の何らかの物質が存在する疑い。

 それ以上の進展はなかった。


「持ち込んでいる分析機材だけではこれ以上の解析は無理ね。でも、多分ここに未知の物質があることは間違いないわ」


 エルモアがそう口にする。

 いま彼女はガラス質のシャフトの一部を解析し終えたところだ。

 55式が帰還した際に、欠けた壁面試料が回収できていた。

 クレーターの外縁付近で採取したガラス質と大差ない。

 ほとんどがケイ素やアルミナで高温でガラス化した土壌成分。

 崩壊の進んだ同位元素も確認されたが、いずれも半減期の短い核種だ。

 ここに多く存在する粉のような細かい砂の成分や、各種の観測データが揃い始め、ここで起きた詳細が分かり始めていた。

 ガダッタとエルモアがアルミの円盤に関する計測と解析。

 ハイマンがクレーター形成に至る物理現象。澪はその過程で起きたエネルギー量の検証。

 AIがフル稼働し、収集されたデータの解析と計算を続ける傍ら、科学者たちはその専門分野に応じて、いくつかの仮説を組み立てて、検証を続けていた。

 時折、専門外の科学者に意見を求め、論点のずれや、見落としを補完し合いながら。

 4人はチームとして機能し始めていた。


 そんな中、ハイマンはヘンドリックスに呼び出される。

 指示されたユニットハウスに行くと、ヘンドリックスはテーブルに座ってコーヒーを飲んでいた。


「少佐、何か御用かな?」


 ハイマンはテーブルに座り、ヘンドリックスに尋ねる。


「いや、いくつか聞きたいことがあってな」


「聞きたいこととは?」


 ハイマンのせっつくような様子にヘンドリックスは苦笑し、再び尋ねる。


「まずは、解析の進捗についてだ。知っているかはわからんが、午前中にロシアの部隊と交戦した。

 生き残りが援軍を求めても来るまでは2週間ある。だが、並行して動いている部隊があれば厄介な事態になりかねない。

 可能であれば予定よりも早めに引き払いたい」


「なるほど。現時点で必要なデータの収集はほぼ終わり、各種情報の解析に当たっています。

 急ぎと言うのならすぐに撤収準備は可能ですが、可能なら3日ほど時間が欲しい。

 解析の仮定でサンプルやデータ採取を行いたくなる可能性がないとは言えませんし、順調に進んでいる今の状態を維持したい」


「なるほど。先生方は今ノッてるって事か。では22日の夕刻に出発。そんな感じでいいか?」


「そうですね。十分だと思います」


「わかった。聞きたいことはもう一つ。ソウマ博士に関してだ」


「ミオですか?」


「ああ。彼女の現在の身分はORNLの委託研究員という立場だな?」


「ええ。正式な手続きが終わっていないですからね。3月末時点では日本の研究機関に所属していて、協力者の立場でしたが、今回の任務に合わせて臨時職員の扱いになっています」


「彼女は優秀か?」


「軍のスカウトですかな? でしたらご遠慮願いたい。彼女は優秀です。特に今回の調査や今後の研究には欠かせない人材となるでしょう。

 戻り次第、正式にORNLの研究者に迎えるつもりです。まあ、私の一存で決めることはできませんが、十分現実的でしょう」

 

「そうか。彼女は優秀で、必要な人材か」


「その通りです」


 はっきりとハイマンは言った。

 ヘンドリックスは続ける。


「仮にだ。それを阻止する大きな圧力がかかったとして、博士は今の主張を繰り返せるか? 今回の研究に彼女の力が必要だと」


「いささか、無理な前提です。ORNLは独立した機関として成立している。外部からの圧力など―」


「DIAのリースウッド作戦部長あたりでもか?」


 返答したハイマンの言葉を遮り、ヘンドリックスが一人の人物の名を出すと、ハイマンは返答に窮した。

 その様子からヘンドリックスは一つ確信した。


「あなたに今回のプロジェクトを持ち込んだのはリースウッドだったんですね。あの人もよほど現場仕事が好きと見える」


 ハイマンは沈黙を守った。

 ヘンドリックスは続ける。


「リースウッドから、ORNLにいる研究者で、バックグラウンドは薄いが実力のある人物を選べとか、言われたんでしょう?

 大丈夫ですよ。私も出どころはあなたと同じなんですから」


 ヘンドリックスの言葉にハイマンは無言のまま首を縦に振った。

 ヘンドリックスは続ける。


「私が望んでいるのは非常にシンプルなことです。

 帰国後、あなたが直接リースウッドに、ミオ・ソウマはプロジェクトの中心人物で必要不可欠だと、直接言ってもらいたい」


「しかし、なんでそんな―」


 ハイマンがヘンドリックスに問いかけたが、ヘンドリックスはその言葉を遮った。


「理由は必要ない。私はその確約が欲しい」


 鋭く強い視線がハイマンに向けられる。

 その表情は真剣で、有無を言わさぬ力を持っていた。


「少佐の言っていることは事実です。私は彼にそう告げるつもりだ」


 その言葉にヘンドリックスの表情が和らぐ。


「博士、そう言ってもらえてよかった。約束は守ってください」


「ああ。約束しよう」


 ヘンドリックスが右手を差し出し、ハイマンがそれに応じる。


「ご足労頂きましてありがとうございました。ああ、最後にもう一つお願いがあります」


「まだ何かあるのかね?」


「大したことではないですよ。出発の前日、できれば夕方までに、調査結果の概要を頂けませんか?」


「君はこの調査隊の責任者だ。要望には応えるよ」


「ありがとうございます」


 そう言ってヘンドリックスは、立ち去るハイマンを見送った。

 その表情ははっきりとは分からない。

 だが、ふう、と大きく息を吐いたのは、後ろ姿からも見て取れた。



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