第二十七話:銀の円盤
2167年5月16日 13時 ロシア領・クラスノヤルスク南東180km付近 飛翔体墜落現場、クレーター内縦穴脇
「始めるぞ」
磯谷はそう言うと55式の操作を始める。
2台の輸送車の間に張られたケーブルに吊るされたスキャナーを、その後ろにぶら下がる55式が押しながら進んでいく。
55式は両手足でロープにぶら下がり、少しずつ確実にスキャナーを押して進む。
背中に樹脂製のリュックを背負った55式は、遠目には人間にしか見えない。
55式にはウインチにつながったケーブル類がつながっていて、そのケーブルの繰り出しも慎重に行われた。
出すのが遅ければ不要な負荷がかかり、早すぎると地面を引きずって砂を流してしまう。
30分ほどかけて穴の真上付近に到達した。
磯谷は55式をスキャナーに最接近させ、55式につながっているウインチのカラビナをスキャナー側に取り付け、ウインチをわずかに巻き上げる。
ウインチにつながる3本のケーブルがぐっと引っ張られ、テンションがかかると、スキャナーが穴の位置から少しずれたようだ。
磯谷はワイヤーにつながれていたスキャナーのカラビナを外し、輸送車に通信を入れる。
「輸送車、2台とも微速で前進してくれ」
2台の輸送車がゆっくりと動くと、ワイヤーの位置も前へと動き始める。
「止めろ!」
今のテンションの状態で穴のほぼ中心にスキャナーが位置したことを目視で確認して停止させると、55式の操作を続ける。
両足でワイヤーを保持して逆さにぶら下がると、55式を無線操作に切り替え、腰のケーブルを外す。
そしてその信号ケーブルを、スキャナーの変換ボックスにあるコネクタへと接続した。
「やはり、無線だとノイズが多いな。赤石さん、スキャナーへの接続完了です」
「了解。スキャナーを起動する」
60式の戦術AI経由でスキャナーの操作を行う。
スキャナーの操作プロファイルは解析が済んでいるので、専用の操作機器と遜色なくコントロールができるそうだ。
「起動完了。磯谷君。ウインチの操作を頼むよ」
「赤石さん、そちらでウインチの操作をお願いできませんか?」
「ああ、その程度の操作ならこちらからでも可能だ。構わないけど、どうしたんだ?」
「いえ、大したことはないのですが、少し休憩を取りたいんです。この後も55式の操作が必要ですし」
「分かった。少し休んでいてくれ。ウインチの操作もこちらでするよ」
赤石はそう言うとウインチの操作を始める。
運転席の高山が磯谷に声をかける。
「やっぱり調子悪いんですね。二佐、大丈夫です? 日を改める選択もあると思いますよ」
その言葉に前席真ん中に座っていた相馬が少しきつい目を向ける。
磯谷は答えた。
「多分、今日がという問題じゃない。ここは俺と相性が悪いようだ。少し3D酔いしたのだと思う。少し休めば大丈夫だ」
「スキャナーが上がってくるまで1時間はかかる。ゆっくりするといいよ」
赤石が言葉を重ねた。
心配そうな高山をよそに、赤石はそれほど気にしている様子はない。
相馬に至っては、スキャナーから上がってくるデータに釘付けになっている。
赤石は量子スキャナーと呼んでいたが、厳密には量子スキャンも可能な、マルチスキャナーだ。
重力測定や放射線源の特定も同時にできる。量子スキャンも分子レベルの解像度を持つ最新の機器だ。
伊達に大きく重いわけではなかった。
膨大な量のデータが流れてくる。
相馬はそれをかい摘んで見ているようだった。
30分ほど経ち、穴の底付近に近づくと相馬が赤石に声をかける。
「底が近い。ウインチ停止まで10秒……5、4、3、2、1、停止して」
その声に合わせてウインチを停止させる。その声に合わせての停止ではあったが、ウインチは即座に停止せず、速度を落としながら停止した。
「接底した……少し傾いている。少しだけ巻き上げて」
相馬の指示に従い赤石は一瞬だけケーブルを巻いた。
「OK。いい位置。少し揺れているから、ジャイロで安定するまで待ちます」
その間も測定データは送られ続けている。
センサーの姿勢が安定したのをデータから確認すると、相馬はセンサーの操作を行う。
送られてくる情報が少し変わったようだ。
データを見ながら相馬がつぶやく。
「シャフトと言うより、フラスコ……温度計?
何かある。でも、なぜこの位置に?
底にあるべき……浮いてきた?」
断片的な言葉の意味は誰にも理解できない。
しばらく穴の底での調査を行った後に、赤石に向かって言う。
「十分情報は集まった。センサーを上げて」
赤石は頷いてウインチを操作し、巻き上げ始めた。
データを取りながら、相馬はラボカーと通信して、討論を始めていた。
画面上の3人と活発にデータの解析とその意味を論じている。
高山は運転席で前方をぼーっと見つめ、赤石は60式のコンソールを見ている。
二人とも科学者たちの会話を黙って聞いていた。
30分ほどでセンサーは穴から出てくる。4人は確認された何かを回収することで意見が一致したようだ。
「底面の砂の中、約50cmのところに、何か金属の反応がある。軽金属……多分アルミニウムの類。
それが何かわからない。なぜそこにあるかも分からない。確認するため回収したい」
相馬が赤石にそう言った。
赤石は頷いてから、一つ確認する。
「先ほどの会話を聞かせてもらっていたのだけど、重力の大きな乱れが確認されていると言っていたよね?」
「ええ、常識的に考えられる重力変動からすると、この穴は重力の在り方が少し変わっている」
「穴の周辺もその影響がある?」
「穴の底でも影響があるというほどじゃない。穴の周囲も変動は見られる。だけど、影響を及ぼすというレベルではない」
「敏感な人だと気づくかな?」
「感覚でと聞かれると、専門ではないので答えられない。
重力の揺れのようなものは存在するけど、少なくとも私はそれを体感していない」
「なるほど、わかりました。ありがとう」
赤石はそう言ってから磯谷に声をかける。
「磯谷君、出番だよ。今の話は聞いていたかな?」
「聞こえていました。正体が分かっただけでも気が楽になります」
「無理はしないようにね」
「了解。まずはつなぎ替えを行います」
そう言うと磯谷はヘッドセットを着けて55式の操作を始めた。
最初の時と逆の順番でセンサーのケーブルを55式につなぎ換える。
「降下開始」
そう言うと自らウインチのコントロールを行い、55式を穴の中へと降ろしていった。
30分ほどかけて55式は穴の底へと到着する。
着底後ウインチを止めて少し余裕を持たせると、背中のバックパックに固定してあったスコップを手にさせた。
55式は中腰で下半身を固定させると、腕と腰の稼働で砂を掘り始める。
砂を穴の外にかき出せれば一番いいのだが、その方法がない。
周囲に砂をどけて、すり鉢状になる地面をひたすらかき分ける。
数分で磯谷はスコップで掘る作業をやめ、55式の膝をついて両手で慎重に砂をどけ始めた。
「M24のフィードバックが欲しいな」
無意識に呟く。
55式の手に感じる感覚を磯谷は感じることができない。
こういう微妙な感覚の必要な作業にはフィードバック機能は極めて有用だと思う。
そう思いながら磯谷は慎重に、砂をかき続ける。
空間データから、今最初の底面から45cmあたりの砂をどけているのは分かっていた。
磯谷は砂をかくのをやめ、指示された位置から少し離れた場所に55式の両手を差し込んで、そのまま両手ですくうように砂を持ち上げる。
手に乗った砂がゆっくり流れ落ち、その中に銀色の物体があることを確認した。
「金属片、アルミの金属片か」
磯谷がそう言いながらカメラの倍率を上げる。
そこに映ったのは丸い円盤状の物体。小さなものだ。
コインのように見えた。
周囲の砂ごと右手で保持したまま、背中のバックパックから収納用の容器を取り出す。
人間の関節では不可能な向きに動かせるのは55式の利点でもある。
そしてそれを容器に入れて蓋をすると、バックパックに戻した。
「とりあえず回収した。ほかに何かあるか?」
磯谷が相馬に向かって声をかける。
相馬は答えた。
「センサーで確認できた物質はそれだけ。作業は終了していい」
その言葉を聞いて磯谷はスコップをバックパックの横に固定すると、ウインチを操作して上昇を開始した。
とりあえず、酔ってどうにもならなくなる前に作業が終えられてほっとする。
操作中に目を離すわけにはいかないので、そのまま監視は続けていた。
穴の出口まで残り10分。
深さ100mほどの地点で、急に55式の機体が揺れた。
3本のケーブルのうち一本が切れたのだ。
揺れるたびにググッとケーブルが嫌な音を立てる。
磯谷は55式の左手で吊るしているケーブルと制御に使っているケーブルをまとめて握る。
多少でもケーブルにかかる負担を減らす目的だったが、ケーブルから響く嫌な音は止まらない。
磯谷はケーブルが10分の巻き上げの間持ちこたえられるか分からないと判断し、55式にその反動を大きくさせる動きをさせる。
1回、2回と屈伸のような動作を繰り返して最後に背中側で縦穴のガラス質の壁を蹴り、前方に大きく振れる。
腰から超音波ナイフを抜き、両手で壁に突き立てながら、ナイフを捻り刃の向きを横に変えた。
ナイフは根元まで壁面に刺さり固定され、55式を支えている。
今の反動をつける動作で大きくケーブルに負荷がかかったようで、残り2本のケーブルも切れたようだ。
制御用のケーブルは荷重がかからずに無事。
だが、壁面に張り付いた状態で55式は動けなくなった。
「落ちて回収物を潰すよりはマシだと思うが……ケーブルが切れるかどうかのギャンブルを続けるべきだったか……」
磯谷が指揮官席でそう呟く。
それに赤石が答えた。
「いや、磯谷君の判断は正しかったと思うよ。これは想像だが、ケーブルはどこでいつ切れても問題なかったんじゃないかな。
ワイヤーに交差する部分で強い摩擦が生じて、表面から均一にダメージを受けていたんだと思う。
2往復目だ。無理もない」
「とりあえず落ちて潰れなかったのは何よりですけど、どうやって55式を引き上げます?
ケーブルは切れちゃってるから長さは分かりませんし、55式をもう1機下ろすにしても、今度は2機の55式を引き上げなきゃダメですよね。
制御ケーブルはまだありますけど、2機を安全に引き上げるとなると、残ってる5本全部使っても足りるかどうか……」
高山が真面目な顔でそう口にすると、隣に座る相馬の表情がこわばっていた。
磯谷は55式を自力で登らせることを考えてみたが、超音波ナイフがもう一本ないと実現は無理だ。
足のスパイクで登る補助はできても、完全に支えることはできない。
上へと昇るために刺さっているナイフを抜いた段階で落ちるしかない。
60式のキャビンが重い空気に包まれる中、通信機からヘンドリックスの声が聞こえた。
「ハイマン博士、ソウマ博士。穴に砂が流れ込んでも問題はないな? いや問題はあるだろうが、回収物を引き上げるのを優先して構わないな?」
「構わない。穴の中に回収したいものはない。データは取れている。最優先は回収物を確実に手元に運ぶこと」
相馬が迷いなく言うと、ハイマンも同意した。
「OK。それなら話は難しくない。イソガイ、55式をもう1機準備しろ」
「それは構わんが、何をするんだ?」
「もう忘れたのか? 200m程度ならクライミングロープがある。それを使って55式を下ろすんだ。
ちゃんとしたロープだから2トンの荷重に耐えられる。砂の上ならワイヤーで擦るほどの摩耗も生じないだろう?
ロープをそっちに運ぶ。55式を出しておけ」
そう言って通信が切れる。
磯谷はヘンドリックスが100mくらいならロープがあると言っていた、2本つないで200mと、思い出していた。
磯谷はもう1機55式を起動して60式の車外に出す。
そこにM1167が走ってきて、防護服を着た二人の兵士がロープの端を60式の側面のラダーに結び付け、もう一端を55式の肩の固定フックを通してから後ろ側の腰に結び付ける。
手際よくロープを結ぶ様子は何度となくロープを扱っている手際だ。
最後に短いスリングを55式の手にかけると、バギーに戻った。
するとすぐに通信が入った。
「イソガイ。手順はまずそこのタイプ55を下に下ろす。ロープを担いで穴の中に投げて、ロープを伝って下ろせ。
次に壁に張り付いている55式をスリングでロープにつなげ。万一55式が落ちても、下の55式に引っかかってそれ以上は落ちない。
最後に順番に上らせろ。55式でのロープクライミングができないってことはないよな?」
「ああ。オートでもロープ登りはできる」
「じゃあ、早速始めてくれ」
「了解」
磯谷は55式をゆっくりと歩かせ、慎重にすり鉢状の斜面を下ろしていく。
穴の手前まで進むと束ねたロープを投げ入れた。
穴の中に伸びるロープをつかんで、穴の中に降下を始める。
「有線制御ケーブルを絡ませるなよ」
「分かっている」
磯谷はゆっくりと降下を始めた。
フリクションを使って降下を抑制するような器具の類は持っていないが、疲れることを知らない機械兵には必要ない。
ロープにダメージを与えないように、確実に保持しながら、ゆっくりと降りていく。
約1時間で壁につかまっている55式のところまで降下した。
スリングの片側を壁の55式の肩のフックに通してロープにつないだ。
そのまま少し55式を下に下ろしたところで、壁に足をついた姿勢で壁側の55式に制御を切り替える。
片手で脇に垂れているロープをつかむと、それをまたぐ。
右手でナイフを捻りながら抜いて格納し、上り始めた。
「うっ」
指揮官席から小さなうめき声が聞こえた。
高山が振り返り声をかける。
「二佐、大丈夫ですか?」
磯谷は答えない。
ただヘッドセットを着けた磯谷の顔色が悪く、かなり汗をかいているのは分かった。
次の瞬間、磯谷はヘッドセットを外し、高山を踏み越えながら60式の外に走って出る。
「二佐!」
高山も慌てて外に飛び出す。
そこで磯谷が高山に叫んだ。
「馬鹿! 車内に戻って扉を閉めろ!」
それだけ言うと、磯谷はその場に両膝をついた。
ハンカチで口と鼻を押さえ、次にそれを外して嘔吐。そうしながら戻れというように後ろに手を振っている。
高山はその指示に従い60式に戻った。
「赤石さん、外って線量高いんですよね。大丈夫なんですか?」
「線量は高いが、即問題になるレベルではないからね。それよりも酔いが限界に達したんだな。
彼ならそこで吐くと思ったが……」
そう言いながら相馬をちらっと見る。
高山もその視線に納得した。
「そうですね。二佐らしい気がします」
その後、すぐに磯谷は車内に戻り、指揮官席に座ると、珍しく指揮席の出入り口を閉めた。
「一応俺は汚染物質だからな」
その後30分ほど休憩し、磯谷は55式の操作を続けると、さらに1時間後、2機の55式は無事に穴からはい出した。
磯谷の仕事はそこで終わらない。
55式をさらに操作し、吊るされたままになっていたスキャナーを回収する。
これに30分。
そこで磯谷から通信が入った。
「一休みする。後は任せた」
暗くなり始めるころ、車両はキャンプまで戻った。
磯谷はメディカルチェックを受けることになる。
衛生兵の操作で体内のスキャンが終わり、内部被ばくも認められない。
現状問題なし、経過観察ということで一時間後に解放された。
2167年5月16日 20時 ロシア領・クラスノヤルスク南東180km付近 飛翔体墜落現場、クレーター内キャンプ ラボカー
55式が回収した小箱は、隔離スペースに置かれている。
ここに箱が運び込まれた時、澪がかなり強硬に、自分で開けると主張したが、それはさすがにマズいとハイマンとガダッタが説得し、しぶしぶ承諾させた。
マニピュレーターを操作し、箱が開けられると、回収されたものが姿を現す。
箱の中に砂に少し埋まる銀色の金属片。砂に埋まるコインのようにも見えた。
マニピュレーターはそこに存在する物質の正確な位置を測定できずにいるようで、まるで躊躇するかのようにコインをつかめずにいる。
「機械が怖がっている?」
澪がそう口にすると、エルモアが「そんなわけないでしょ? 調子が悪いか故障したかよ」
そう言ってマニピュレーターを手動に切り替えて、その金属板をつかんで箱の外に出した。
ゆっくりとその場に置く。
「それは偶然? それとも狙ってやった?」
澪がエルモアに尋ねる。
マニピュレーターがつまみ出して置いた金属板はその場に立った。
「偶然よ」
その金属板は本当に円形で、コインのようだった。
「調査隊の誰かの悪戯かしら?」
それを見たエルモアがつぶやく。この物質の正体はアルミニウム。
直径25mm、厚さ2.5mm。円盤。きれいに磨かれた鏡面に近い状態だ。
「我々よりも先にこの場に来た人物がいるとは思えんし、衝突前の物質が残っていることもあり得ん。となると、これは調査隊の誰かの悪戯である可能性は否定できないな」
ハイマンがそう言う。
それを聞いたガダッタが続けた。
「それにしても手の込んだ悪戯ですね。ほら、片面は鏡面仕上げですけど、裏面は……」
拡大した映像を確認すると不思議な文様のようなものが彫り込まれている。
円形や、何かの信号のような記号。星のような線画に、何かの構造を模したようなもの。
「ボイジャーのレコード盤。正確にはジャケットね」
かつて、初期の宇宙探査時代に未知なる存在に送られた、黄金のレコード盤。ボイジャーという探査機に積まれたもの。そのジャケットとして添えられていたものの図面だった。
レコードの再生方法、含まれる映像データのデコード方法。地球の位置を示すパルサーマップ。水素の状態変化を示す図面。水素の変化時間がここに刻まれたすべての基本単位になることを示している。
「犯人捜しはするとして、帰還後の話だな。少し残念な結果だが、そういうこともあるさ」
ガダッタが天を仰ぐように大げさに言った。
傍らで澪が声を出す。
「おかしい。悪戯で片付けるのは早計。密閉容器内の質量が、計算と合わない」
解析結果のデータを見ていた澪はさらに続ける。
「箱、砂、このコインのようなもの。そしてそれ以外の物がここにある。計測結果はそう言っている」
更に別のデータを確認してAIに解析させたものを表示させる。
「最初にオートでマニピュレーターを動かしたとき、マニピュレーターの挙動がおかしかった。
その状態のログをAIに解析させた。結論は、マニピュレーターがその円盤の正確な位置を認識できていない」
「それは偶然か、故障したかじゃない?」
澪はマニピュレーターをオートにして収納していた箱の脇をつかませて動かした。
続けてコインをつかませようとしたが、先ほどと同様につかむ前で動作を停止した。
「マニピュレーターは量子スキャンと重力センサー、超音波センサーとカメラでの光学解析で測位している。その中で重力センサーが正確に物質の位置をつかめずにいる。
結果的にマニピュレーターは操作を停止させた。安全装置が働いてる」
エルモアは少し強い口調で続けた。
「だから、故障か調子が悪いかでしょ。あまりにもこれってアイコニックじゃない」
「落ちたものが反物質。それはほぼ間違いない。だけど反物質は大気圏内に入ってもすぐには反応せずに、地表に落ちてから反応した。
更にこれがあった穴は、タイミングをずらして、最初の反応から2時間で反応した形跡が認められている。
とても人為的に感じる。人類はこれほどの対消滅反応を経験したことがない。
だけど今回の対消滅反応は人為的だとすると、それを可能にする未知の技術や物質が存在する可能性を否定できない。
目の前にあるアルミ。何の変哲もないアルミ。だけど、反物質との相性は最悪。それが残っていた。
いたずらの可能性は否定しない。
でも、目の前にあるものは、いたずらで片付けるには不可解」
澪がそう答えると、ガダッタはぶつぶつと何かを口にした。
「不干渉性、我々にはその存在が認知できない。だが、質量がある、もしくは重力を持つ……暗黒物質……」
小さな声だった。
だが、その場の3人はそれを耳にし、その可能性があり得ることに気づく。
「可能な限り解析してみよう。どんな些細な点も見過ごせない」
ガダッタがそう言うと皆が一斉に動き始めた。
澪もデータの洗い直しを始める。
その時彼女も小さく呟いた。
「彼らは私たちを知っていた」
誰にも届かない声は確信に満ちていた。




