第二十五話:縦穴
2167年5月15日 8時30分 ロシア領・クラスノヤルスク南東180km付近 飛翔体墜落現場、クレーター
早速の予定変更だ。
現場の事情を優先する隊では珍しくない。
幸い、60式のメンテは後回しにしても大きな問題にはならない。
2週間ごとのメンテナンスは推奨されているが、必須ではないからだ。
もちろん、性能維持の観点からメンテナンスは行うに越したことはないが、耐用限界は倍以上に設定されている。
60式にワイヤーで平べったい箱のようなものを引きずらせながら、砂の上を走行していた。
指定された時速5キロを維持している。
赤石はキャンプに残ってメンテナンスの準備中。
車内には高山と磯谷の二人がいた。
「研究チームのリクエストですか。
急に来るものなんですね。ジェイはその辺、把握してないんですかね?」
「ヘンドリックスは軍人だ。調査内容まで把握するのは無理だろう」
「よく少佐のことが分かりますね」
「分かるんじゃない。俺には無理だ。奴にも無理だろう」
高山は思わず吹き出す。少し子供がライバルと張り合っているように聞こえたからだ。
「何かおかしなことを言ったか?」
「いえ。何となくなんですけど、二佐らしいな、って思っただけです」
「それで笑うのか」
「気にしたら負けですよ。ついでに60式で採取できるデータは全部取ってますからね。しっかりとモニターしていてください。
そろそろ開始予定地点ですよ」
昨日の測量で得られたデータから、クレーターは東西方向、厳密にいえば東北東から西南西に長い楕円形であることが確認されている。
その中心付近から、西南西のクレーターの端まで時速5キロで走るだけ。
データは勝手に採取してくれる。
走行も自動で問題の無い、退屈な仕事ではある。
だが高山はそれを楽しんでいた。
まったく代わり映えの無い砂だけの土地。霞んで見える砂の壁。陽の射さない重いグレーの空。
見るべきものが何一つないようにも思えるが、そこには荒廃した世界の姿すらない。
現実にはつながらない世界だった。
実走距離4550m。往復2時間の異世界旅行。高山の感覚だった。
磯谷は高山と会話をしながらも、昨日感じた違和感に襲われている。
昨日同様、中心部付近で感じ、計測を開始した直後からさらに強まる。
その時、60式と並行して歩かせていた55式のセンサーが警告を発した。
「高山! 止めろ」
叫ぶと同時に状況を把握する。
線量が局所的に高い。60式に搭乗していれば問題ないが、M1167のような車両であれば危険だ。
線量の高い方へと55式のカメラを向ける。
右前方に、すり鉢状に地面がへこんでいるのを確認した。
推定直径200mといったところか。中心部分は数メートルの穴がぽっかりと開いている。
「大きいな……レーザー測量で検出できなかったか」
「想定位置から高低差が無いですからね。水平方向の測定には限界があります」
高山の返答を聞いて、磯谷はプランを変更することにした。
戦術AIに行動手順を決めさせると、凧を有線で上空に上げる。
「二佐? 上空からも監視ですか? 凧が持ちませんよ」
「5分交代で入れ替えて、オートチェックを行う。ローターの交換だけなら自動整備でできる。
あの穴の位置はマークしたか?」
「はい、記録済みです」
「まずは、当初の予定に戻るぞ。方針は学者に決めてもらうことにする」
「了解です」
60式と2機の55式は前進を続け、スキャナーを予定通り引き終わると、ショートカットでキャンプへと向かう。
その間も60式のセンサーと凧は上げたまま。
他にも先ほどのような穴でもあって、迂闊に突っ込んでは洒落にならない。
慎重な速度で進み続けた。
同日 12時 キャンプ地より1km地点
キャンプに戻り、報告の後にメンテナンスを行うべく60式を移動させる。
融合炉は1500時間稼働ごとに交換する。外された融合炉は専門の施設で補修が行われる。
今回は炉の交換は行わない。まだそのタイミングではないからだ。
行うのは炉の周辺機器、補器類の消耗品の交換とチェック。
シールやパッキン類の交換と冷却系を中心に確認作業が行われる。
時間にして半日程度だ。
所定の位置に到着し、必要な部品と機材を積んだ輸送車も1台その場にやってくる。
赤石や高山も輸送車に乗っていて、作業員は防護服を着用しての作業となる。
磯谷は稼働できる55式6機を下ろして作業に加わる。
60式はブロック構造になっている。
最後部の機械兵の搭載スペースを切り離し、前方の搭乗部分だけがゆっくりと前進する。
そこには電源部、この車の動力である核融合ユニットが見えた。
磯谷は55式を操作し、格納ユニットと乗車部の間に防塵シートを設置させた。
これは周囲の砂塵を防ぐのと同時に、融合炉から出る放射線をブロックするためのもの。
その後さらに55式を2台一組で動かして、60式の周囲にシールドジェネレータを設置する。
シールドジェネレータという名前は大仰だが、別段防弾機能などがあるわけではない。
微小放射性粒子や、放射線そのものを阻害するための網を張るための装置だ。
輸送車から必要な部品を下ろし、シールドジェネレータを稼働させて作業が始まる。
シールドの内側で、赤石の指揮のもと、高山や米軍の整備兵たちが作業を始めた。
同日同刻 ラボカー
午前中に得られた地中の情報、超音波や電気探査、重力や磁気のデータがAIによって解析されている。
その傍らで、4人の科学者は議論の真っ最中だった。
「発見された縦穴は状況から考えて、対消滅反応が終わった後に出来たことは断言してもいい。調査は後回しで、時間があるようならで構わないだろう」
「DR.ハイマン。飛翔体落下後、この地点を誰かが訪れた形跡はありません。本格的な装備を持つ国家でなければ不可能でしょう。私たちのように。
であるなら、何らかの関連性を疑うべきだと考えます。調査は優先すべきです」
ハイマンの言葉にエルモアが真っ向から異を唱えた。
ガダッタが少し考えてから発言する。
「どちらも事実だと思います。であるなら、縦穴の調査はやはり優先させるべきです。その後に何が起こったのか。それも重要ではないでしょうか?」
すぐにハイマンが澪に言葉をかける。
「ミオ。あなたの意見を聞かせて」
澪は3人の議論に加わらず、少し離れたところで何かの計算を行っていた。
視線を変えることなく、かろうじて3人に聞こえる程度の声で答える。
「もう少し待って」
地中の構造に関するシミュレーションを終えて、地下構造の現在の状態から、衝突まで時間を逆算する形でのシミュレーションを繰り返しているようだ。
3人の議論は少し続いたが平行線だ。やがて視線が澪に向けられる。
「これじゃダメ。何かが足りない……」
そう言って再びシミュレーションに条件を追加し、計算結果を確認する。
「ミオ。これは重要な方針を決める話なの。こちらに来て話に加わってくれない?」
エルモアがしびれを切らし、再び声をかけた。
澪は小さく呟く。
「これなら破綻しない。すべての条件を満たせる」
その声は3人には届かない。
エルモアは三度、澪に声をかけた。
「ミオ。ねえ、聞いてるの?」
「聞こえてる。私は縦穴の調査を最優先すべきと考える」
澪が少し大きな声で答えた。
「ミオ。その理由を聞かせてもらってもいいか?」
ハイマンの言葉に澪は向き直り、語り始めた。
「衝突時のガンマ線の測定量を詳細に検討して、現在のクレーターの構造と、クレーター形成時の物理シミュレーションをしてみた。
飛翔体の対消滅は、衝突後に起き、ごくわずかな時間差で、少なくとも4か所で発生している」
「それが、君の結論とどんな関係が?」
ガダッタがそう口にした。
澪は続ける。
「クレーターの地下には、ガラス層が形成されている。正確には分からないけど、おそらく衝突時の高温で形成された地殻の成分がガラス化している。
その衝突箇所も4か所と仮定して、現在のクレーターの形状から逆算した。
比較的近い場所に4つが散って、そこで対消滅反応を起こしてる」
「その一つが、あの縦穴なの?」
「ちがう。対消滅反応の発生には時差があるが、そんなに遅くは無い。物質の物理的な運動から見れば同時と言っても良い。
あの縦穴は、対消滅反応が終わった後に形成された。
そうでなければ、対消滅の高エネルギーの中、穴を形成した何かが残った可能性はほとんどない。
明らかに時差をもって作られたもの。ある程度意図的に。発見されることを前提として。
あそこには何かがある。調査すべき」
「根拠に乏しいな。クレーターの形成過程はともかく、時差をおいて意図的に形成されたというのは、証明できるだけの情報が無い」
「そう、根拠は少ない。だけど、ガンマ線の解析では衝突の2時間後、小さな対消滅が起きたと読めるデータがある。
膨大なエネルギーを受けた影響の誤動作も否定できない。でも、観測したデータが正しければ、2時間後、10g程度の対消滅反応が起きている。
そのエネルギー量は小さなクレーターを作るのに十分。今回の200mほどの範囲なら成立する。
そして、実際に、その場所にガラス化したボウル状の痕跡を、地下調査の情報で確認できる。
事故を起こしたのとは別のレベルの、意図された対消滅反応が起きたという仮説を立てるには、十分な状況証拠。
そして何より、この状況を合衆国の上層部が予見していたのであれば、今回の調査任務は納得がいく。
冷静に状況を計算していれば、地下2000m以上の掘削を行わないと調査は不可能。
最初から、そんなことは考えていなかった。
そう考えればすべて成立する」
澪がそう言い終えると、エルモアはハイマンに向き直り、すごい剣幕で尋ねた。
「DR.ハイマン。この件もあなたはご存じだったのかしら?」
「ジェシー、誓って言う。私はその件は何も知らされていない。だからこそ、従来の方針での調査を行うべきと言ったんだ」
慌てて応えるハイマン。
澪は言葉を付け加えた。
「文字通り腕試し。今回の事象を正しく理解できないようなら、現地調査は無駄。
アメリカは、この調査において、私たちが優秀であることを求めている。
だから解析結果ではなく、そのもとになる情報を提供し、移動期間内に解析することを求めた。
ハイマン博士。この点の理解は間違っていないと思う」
「そうだな。その通りだ。わかった。縦穴の調査にまず着手しよう。
だが、従来の方針通りの現地調査も並行して行う。それでいいな?」
3人は頷いて、多数決の形で調査方針が決まった。
ガダッタが言う。
「ここには優秀な頭脳が4つあり、それを補うAIがあるんだ。不可能じゃない」
いささか狙いすぎなセリフだと澪は思った。
だが、その言葉は嫌いではなかった。
澪は確かな高揚感を感じていた。
同日 17時 キャンプ内
60式の整備作業を終え、XM604がやってきた。
60式の融合炉を動かすのには外部電源が必要だ。その電力を供給するためである。
ニールセン大尉が乗っているはずだが、現場には姿を見せなかった。
磯谷は今回の任務中に、ニールセンを一度も見ていない。
そんなことを外で作業している高山に無線で話すと、高山は答えた。
「第一印象から最悪でしょ? 二佐は相当嫌われてますよ。大尉に」
「嫌われるようなことをした覚えはないが?」
「無自覚ですか。二佐らしいですけど。断言しますけど、大尉は二佐をかなり疎ましく思ってますよ」
そんなものか。
そう思うが、作業を続行する。
電源ケーブルが接続され、融合炉に火が入る。
僅かな振動と、小さく唸るような音。
バッテリー駆動でもある程度は動くが、この音が無いのは正直不安でもある。
磯谷にとってこの音は、60式という名の棺桶が生きていることの証のようなものだ。
「融合炉の正常稼働を確認。二佐、ヘッドを下げて完全連結してください」
「了解だ」
磯谷は指揮官席から60式の操作を行い、乗車部分を後進させて元の位置に戻した。
連結クランプがかみ合って車体が固定される。
防塵シートはすでに片づけられていたが、そのほかはまだだ。
55式を操作して、シールドジェネレータや交換した部品を収納した小さめのコンテナを輸送車に運ぶ。
小さなコンテナには核物質マークが派手にマーキングされていた。
線量としては大したことはないが、放射化した物質。適切に扱わなければならない。
すべての作業を終えて、キャンプに戻る途中にヘンドリックスから連絡が入った。
調査の打ち合わせがしたいから、戻ったら顔を出してくれ、ということだった。
18時にユニット内でと決まり、キャンプに戻る。
磯谷はシャワーに向かった。使える時間は決まっていて、ここを逃すと次は未定だ。
慌ててシャワーブースに入り、熱いお湯を浴びる。
USSカヴナントを出て以来、半月ぶりの風呂だ。
野戦訓練などで数日風呂に入らないことは珍しくない。
それ自体は磯谷はそれほど苦にならないが、訓練明けに「お父さん臭いから近寄らないで」と娘に言われたことを思い出す。
自然と笑みがこぼれた。
「そうだな。臭いは自分では気づかないものだからな」
小さく呟く。
その記憶は痛みを伴う。
だが、その痛みは心地よさを伴っていることに磯谷は自身で気づかなかった。
シャワーから出て、用意されている新しい野戦服に着替える。
米軍仕様なのは少し気に入らないが、道具として割り切っている。
さっぱりとしたところで約束の時間が近かった。
そのままユニット内のテーブルでコーヒーを飲む。
そうしているうちにヘンドリックスがやってきた。
「随分早いな……そうか、デートだな?」
そういうヘンドリックスに磯谷は言葉を返す。
「お前の顔を見ないで済むなら、デートの方が良いな」
「随分と嫌われたもんだ」
ヘンドリックスはそう言うと磯谷の横に座る。
「何で横なんだ?」
磯谷の言葉にヘンドリックスが答える。
「そりゃ、デートだからだろ? 冗談だ。打ち合わせには研究者も参加する。ああ、シンジも同席させたいんだが、どこにいるか知らないか?」
「お前、連絡してなかったのか?」
「いや、お前に連絡してあるから忘れてた」
「それは高山には言うなよ。俺がとばっちりを受ける」
「だったら言わないと。シンジか、すまんが打ち合わせに参加してもらいたい。急いでユニットまで来てくれ」
ヘンドリックスはイヤピースを操作して高山に通信を入れた。
「高山を同席させるのは珍しいな」
磯谷がそう言うと、ヘンドリックスはさらりと答えた。
「シンジが通訳としても優秀なのは、お前も認めるところだろ。思い出してみろ、割と重要な会議にはシンジも同席してきた」
たしかに。
それなりに重要な打ち合わせということか。
そこに研究者たちが4人そろって現れる。ヘンドリックスが立ち上がって手招きすると、そのままコーヒーを取りにカウンターへと向かった。
4人の研究者が向かいに並んで座る。
研究チームの最年長と思われる人物がハイマン博士、日本人女性が相馬博士。そこまでは聞いているが、あと二人は分からない。
磯谷は短く自己紹介をした。
「護衛に参加している磯谷です」
その一言にハイマン博士が答えて、本人も含む4人を紹介する。
そこにコーヒーをトレーに乗せてヘンドリックスが戻ってきた。
「コーヒーくらいしかないが、まあ、くつろいでくれ」
そう言いながら全員分のカップをテーブルに置いて、席に座る。
そのタイミングで高山も走ってきた。
「遅れて申し訳ない」
そう言いながらテーブル前で敬礼してから、着座する。
「これで全員だ。早速だが話を始めよう」
ヘンドリックスがそう口にして打ち合わせが始まった。
磯谷は高山に、ガダッタ博士、エルモア博士と日本語で名前を伝える。
それを聞きながら高山は名前ごとに大きく頷き、目を合わせながら軽く会釈をするように動いた。
向かいに座る二人にも、名前を伝えていることが伝わっただろう。
ヘンドリックスが話を続ける。
「今回要請のあった、縦穴の調査に関しての手順を検討したい。
その後、そのほかに要請があれば、順次検討をする。
この流れで進めていく。
まず、今日の調査で発見された縦方向の穴に関してだが、現時点で詳しい情報は無いので、基礎調査を最初に行う。
穴の構造すら分かっていないので、慎重に進める必要がある。迂闊に近寄って砂を流し込むことは避けたい。
そこでまず、イソガイ少佐に小型偵察機を使って近辺を調べ、追加の情報を収集する。
その後に、穴の内部の調査へと移る。
これも無人機を使っての偵察になると思うが、その手順で問題ないか?」
その言葉に磯谷とハイマンが頷く。
そしてガダッタが尋ねた。
「その後、内部での採取等を行いたいと考えますが、その手順は?」
「内部の状態が分からないので、現時点では明確に答えることはできない。
だが、必要なら人員を降下させて作業もあり得る、とだけ答えておく。現時点でそれでいいか?」
ヘンドリックスの返答にガダッタは頷いた。
おもむろに澪が発言する。
「その際、降下は私がする」
日本語だった。
高山が慌てて通訳すると、ヘンドリックスは唖然とし、ハイマンは慌てて口を開いた。
「ミオ。それは無理だと言ったはずだ」
「無理とか、危険とか関係ない。そこに最初に入るのは私。私はそのためにここにいる」
そう答えた。
ヘンドリックスがそれに対して質問する。
「そのために……DR.ソウマはロッククライミングや垂直降下の経験が?」
「ない。出来る出来ないの問題じゃない。するかしないかの問題。だから私がする」
潔いほどの返答だった。
ヘンドリックスは即答する。
「線量が高く、防護服を着用し、垂直降下を行う。
壁面は砂であることが予想され、生き埋めのリスクもある。
許可は出来ない」
「それじゃダメ。私が行く。そうじゃなければ意味がない!」
澪は強い口調で譲る気が無いようだった。
ハイマンが澪にしきりに話している。その件はリスクが高いとか、諦めろとか。
だが、一歩も引かない構えだ。
ガダッタとエルモアはその様子を少し笑いながら見ている。
二人は澪の説得は諦めているように見えた。
「でしたら、誰よりも早く現場を確認する、というあたりで手を打っていただけませんか?」
磯谷が口を開いた。
そのまま続ける。
「降下には55式機械兵を使いましょう。有線制御でかなり詳細なコントロールが可能です。
相馬博士には、操作用ヘッドセットを通じて、その様子をリアルタイムで監視していただく。
その場で作業指示を頂いても対応できます。
もちろん、機械兵の収集するデータはリアルタイムで中継しますから、ラボの方から確認していただいても構いません」
「遠隔操作技術において、イソガイ少佐より優れるものはいない。リスクヘッジの観点からも、それが最適だと考える。
どうだろうか?」
ヘンドリックスが追い打ちをかけるように言うと、澪は黙り込み、少しの間をおいて答えた。
「それで妥協する。ただし、現場での指示に関しては私に従ってほしい」
「了解です。特段問題が無い限り、あなたの指示で動かします」
この件はこれで話が着いた。
その後も、凧や55式に搭載されているセンサー類だとか、どの程度の可搬能力があるかだとか、質問が続く。
明日から60式を中心に縦穴の調査スケジュールが組まれ、解散となった。
研究者たちが、ラボカーへと戻る後ろ姿を見送り、磯谷と高山も60式に戻る。
その道すがら、高山が磯谷に言った。
「やっぱり相馬博士って、変わってますよね。最初の時は何かコミュ障で人見知りな感じでしたけど、今日は子供みたいで」
「そうだな」とだけ答えると、磯谷は少し考える。
世間知らずなのか、怖いもの知らずなのか。いずれにせよ真直ぐなのは間違いなさそうだ。
―ここには欲しいものがすべてある。だからこれは私のミッション―
あの時の相馬の言葉を思い出していた。
「私のミッション。か」
小さく呟いた。
高山が「何か言いましたか?」と尋ねるので、何でもないと答えてから続ける。
「明日からの準備をしておかないとな。赤石さんは大忙しだな」
「他人事じゃないですよ。私も手伝うことになるんですから」
60式に戻り、赤石に凧の小さな改造と、55式の壁面移動に関しての意見交換を行った。
「いつまでたっても55式改に手が付けられない」
赤石がぼやく。
だが、その顔は楽しそうでもあった。




