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第二十一話:対消滅



 2167年5月1日6時 ロシア領・チタ西方40km


 磯谷は60式の指揮官席コントロールシートから、外へと出る。

 慌てて手にしていた防寒着を羽織るが、風は乾き、肌を切り裂くほど冷たい。

 60式の中は空調が効いており、薄着でも問題ないが、この気温を考えればもう少し厚着したほうがよさそうだ。

 そんなことを思いながら大きく体を伸ばす。


 昨日は移動終了後にキャンプを設営する予定だったが、キャンセルとなった。

 風が強すぎるため、危険と判断された。

 結果、車内泊となったわけだ。

 体を伸ばせないという弱点はあるが、寒さを感じずに熟睡できる方が幾分マシだろう。


 東の空がぼーっと明るくなり始めている。

 白み始めるという表現は似合わない。

 日中も空は常に白んだまま。この数か月、太陽が姿を見せることはない。

 多分今後もないのだろう。それがいつまでなのかは磯谷には分からない。

 もともと寒冷な土地で、陽の光が十分に届かない。

 寒いのも当然だ。


 コーヒーでも飲むか、そう思い、磯谷は輸送車の方に歩き始める。

 輸送車脇に展開されたユニットハウスがあり、そこで食事の用意などが行われていた。

 テントではなく、ハードシェル。この環境を見越して用意したのだろう。

 明かりが灯り、夜勤の補給担当が朝食の準備をしているようだった。


 入り口から少し離れたところでコーヒーを飲む人影が見えた。

 護衛チームのメンバーではないことは明らかだ。背が低い。

 磯谷は特に気に留めず、ユニットハウスの引き戸に手をかけた時、ふいに声をかけられた。


「軍人さんもコーヒー?」


 日本語で、しかも女性に声をかけられたことに驚いて、そちらに目をやる。

 高山から話は聞いていた。日本人の研究者がいると。

 変わり者だと言っていたが、女性だとは聞いていなかった。


「そうです」


 不意を突かれる形になり、磯谷はそう答えるのが精いっぱいだった。

 そのまま中に入り、置かれているプラカップにサーバーからコーヒーを注ぐと、そのまま外に出る。

 磯谷は彼女に声をかけた。


「お早いですね」


 実際にまだ早い時間で、ほとんどの連中が眠っている。それに研究者は朝が遅いというイメージがあった。

 彼女は東の空を見つめたまま、短く答える。


「これから寝る」


 ぶっきらぼうな答えに、磯谷はそれ以上口を開かない。

 少し離れた位置に立ち止まって、コーヒーを口にした。

 ああ、そうだ。女性とは聞いていないが、名前は聞いていた。

 確か……相馬……相馬澪。そんな名前だったはずだ。

 コーヒーを飲みながらそんなことを思っていると、相馬は言葉を続けた。


「面白い。何光年も一瞬で移動できる技術があって、なのに知らないことがたくさんある」


「自分には技術的なことは分かりません」


 磯谷がそう答えると、相馬は続けた。


「じゃあ、なんで今回の任務に来た?」


 相馬の言葉は、何気ないものだが、磯谷には重く感じられる。

 ポケットに突っ込んだ手が、無意識にそこにあるものを握り、小さな金属音が鳴る。

 どう答えるべきか悩んだ末に磯谷は言った。


「それが、自分の任務だからです」


 そう、これは自分がなすべき任務。せめて家族が命を落とした原因を知りたい。

 真実を話したわけではないが、嘘ではなかった。


「そう。軍人さんらしい理由だ」


 相変わらず空を見つめたまま、相馬はぶっきらぼうに答える。

 磯谷は聞いてみたくなった。


「あなたはなぜ?」


 相馬はその言葉を聞いて、初めて磯谷を見た。

 そして小さく笑いながら答える。


「ここには、いらないものがない。わずらわしさも、制約も、なにもかも。

 ここには、欲しいものがすべてある。だからこれは私のミッション」


 磯谷はその言葉の意味を図りかねた。

 禅問答のように聞こえる。

 聞いた手前、無言ではいられない。

 磯谷は答えた。


「なるほど。科学者らしい理由ですね」


 言葉の意味を正しく理解したわけではなく、彼女の返答になぞらえたのだ。

 その言葉を聞いた相馬は再び笑う。


「そろそろ寝る。初日の分析でもいくつか分かった。少佐には報告が上がってる。聞いてみるといい」


 そう言ってから、ラボカーの方に歩いて行った。

 磯谷はその後ろ姿を見送りながらコーヒーを飲む。

 確かに変わり者だな。

 そう思うと、残っていたコーヒーを飲み干して、カップを返却した。





 同日 8時


 初日、半日で40km移動したことは順調と言える。

 だが、すでに問題も少しずつ出てきていた。

 一番の問題は通信が安定しないこと。

 事前の調査である程度は分かっていたようだが、風が強い時は予想していたよりも圧倒的に通信品質が低下する。

 視界を遮るほどの砂嵐だと、ほぼ通信不能になると言って良いレベルだった。

 55式の操作にも影響が出る。

 凧はもっと悲惨だ。通信が落ちると自律モードで帰ってくるはずだが、衛星からの電波も拾えないので、凧はそのまま風に持ち去られてしまった。

 砂嵐状態では遠隔操作は不可能。55式も凧も運用は有線を主体とせざるを得ない。

 当然、電波障害は想定のうちだが、ここまでひどいとは予想していなかったらしい。

 ヘンドリックスにも焦りが見えたほどだ。

 ユニットハウス前に並べられた簡易テーブルで、ヘンドリックスと磯谷は食事をとりながら話をしていた。


「宇宙開発技術の賜物だ。300mの突風が吹いても壊れないよ。まあ、置いているだけだから飛ばされるがな」


 補給隊員が働いているユニットハウスを指さしてヘンドリックスが言った。

 中で食事をとるには狭い。だが、強風が吹く中ではそうせざるを得ない。


「今の移動速度なら、2週間で目的地に到達できる。だが問題は――」


 磯谷がそこまで言うと、ヘンドリックスが先回りした。


「そう、通信状況が想像以上に悪いことだ。

 まだ出発から距離がないから慣性航法でも誤差は小さいが、10日も続けば信用できなくなる。

 事前の観測データからの予想だが、3〜5日に一度、それも数分間、衛星とも電波が通るらしいが……それも眉唾だ」


「そうだろうが、我々には進む以外の選択はない」


「その通りだ。60式のメンテナンスタイミングを考えれば、2週間で現地に到達ってのが理想だな。

 だが、それは難しいだろう。

 衛星との通信が回復するタイミングを外すわけにはいかない。それがいつ始まるかってのは誰にも分からん。

 せっかく空に穴が開いて情報を得られるタイミングを、砂漠をぶっ飛ばして移動していたんで見落としました、これは洒落にもならん」


「移動速度を落とすしか手がないな」


「チタでもロシア軍は生き残っていた。これから向かう先はその可能性は低くなってはいくが、ゼロとは言い切れん。

 警戒も必要だ。

 昨日みたいに快調に進むってわけにはいかんだろうよ」


 ヘンドリックスはそう言うと、両面焼きの卵をフォークで口に押し込む。


「俺たちは周囲を監視しつつ、頭の上も見てなきゃならんな」


「そういうことだ。衛星と通信ができ、正確な位置が測定できた直後、そうだな、一日程度は全速力での移動で良いだろう。

 そのあとは速度を落とす。

 2時間ごとに休憩をはさみながら、それを4セット。それが基本パターンだ」


「一週間のうち1、2日は、一日160km近く移動できるが、そうでない日は40kmほどという感じか?」


「まあ、時速20kmは砂漠を走る安全速度ってところだな。時速5kmってのはタイプ55が並走できる速度ってところか?」


「そんなところだ」


「週当たり400km、3週間で1200km。良い線だな。途中でのトラブルを考えても、ひと月以内には着くだろうな。

 個人的にはもう少し速度を上げたい。現地での調査時間の余裕が欲しいからな」


「訓練している俺たちは速度を上げても問題はないだろう。研究チームは大丈夫なのか?」


「痛いところを突くな。時速5kmの移動なら、研究しながらでも大して揺れないだろう。

 20kmで走ればこの地面状況だ。それなりに揺れる。

 苦情の一つも来そうだな」


「では通常時の速度を上げるか?」


「いや、通常時は5kmで移動しよう。静かでいい。

 週のうち1、2日は研究は諦めてもらう。その日は平均40kmで走破する」


「砂漠で40km。かなり厳しいだろ」


「車両は全部軍用の、砂漠仕様だ。本気になりゃもっと速度は出る。この辺は俺の気遣いってところだ」


「俺は苦情は聞かんぞ」


「苦情担当は俺でいい。それにな、どうしたところで苦情は来るさ」


 ヘンドリックスが少し悪人めいた笑顔を見せる。

 磯谷は残っていたパンを口に押し込んでからコーヒーで流し込んだ。


「今日は全力移動日ってことだな?」


 磯谷がヘンドリックスに問いかけると、ヘンドリックスはその悪人顔のまま答える。


「ああ。そのつもりだ。ついでに途中で戦闘訓練をする。今なら暴れても、座標のズレは小さいからな」


「俺は苦情は聞かんぞ」


「ああ、苦情係は俺の仕事でいいさ」


 ヘンドリックスはわざとらしい笑みでそう答えると、残っていたコーヒーを飲んだ。

 その後、昨晩の研究チームの分析結果を尋ねる。

 その内容は、

 土壌や大気中にベリリウム7が不自然に多く、アルゴン37なども検出されている。

 その一方でセシウム137やストロンチウム90といった核種は確認されていない。

 というものだった。


「すまんな。俺にも分かるように教えてくれ」


 ヘンドリックスは頷いてから真顔になる。


「一言で言えば、今回の災害の原因は、核関連じゃないだろうってことだ。

 イソガイ。対消滅反応(アナイアレーション)って知ってるか?」


 アナイアレーション。磯谷には耳なじみのない言葉だった。

 磯谷が返事をする前に、ヘンドリックスは続ける。


「アカシあたりなら知ってるだろう。演習は午前の休憩の後に始める。準備は特にするな。いつも通りでいい」


 そう言って席を立った。

 磯谷はその言葉を繰り返す。


「アナイアレーション……」


 なんのことか分からないが、その言葉が不穏な響きに感じた。





 同日 午前9時


 準備を終えた調査隊は移動を始めた。

 時速40kmの走行は、予想していた通りかなり揺れる。

 小刻みに揺れるわけではない。

 予告なしに突然ドーンと大きく跳ねる感じだ。

 砂漠に見えるが、ここは砂漠ではない。

 砂の層が厚いところもあれば、瓦礫の上に薄く積もっているところもある。

 そもそも道がないところを走っているから、どうしてもこうなる。


「ヘンドリックス少佐が、少し速度を上げようと言っています。どうします?」


 運転席の高山が磯谷に尋ねる。


「奴が言ってるなら、そうするしかないだろ」


 磯谷は指揮官席で周囲をモニターしながらそう答える。

 60式の走行状況を確認してから、高山に声をかけた。


完全自動(フルオート)運転でも問題ないぞ?」


「いえ、運転してると酔いませんからね。運転しますよ」


「そうか。ならいい」


 短く答える。続けて赤石に尋ねてみることにした。


「赤石さん。対消滅反応って、ご存じですか?」


 助手席で目を閉じていた赤石が、それに答えた。


「ああ、アナイアレーションね。知っているよ。まあ、世の中にそれが脅威になるほどの反物質は確認できていないがね」


「反物質ですか?」


 磯谷が聞き直すと、赤石は続けた。


「対消滅反応というのは、物質と反物質が接触することで、その物質と反物質が純粋なエネルギーに変換される反応のことだよ。

 反物質というのは、いわば鏡の中の世界のようなものだ。実在はするがね。実際、一部の反物質は作られ、技術的に利用されてもいるよ」


「実在する鏡の中の世界、ですか?」


 高山が質問をする。

 赤石は学生に教えるような口調で続けた。


「ああ、原理的にはすべての物質に対応する反物質が存在する。ただ、反物質でできたまとまった塊は自然界で確認されてないんだ。

 一部の粒子や単純な原子は作ることもできるが、まとまった物質となると作ること自体が極めて困難なんだよ。

 反物質というのは見た目や振る舞いは通常の物質と変わらない。ただ、電荷や性質の一部が反対なんだ」


「正と負の関係みたいなものなんですね? でも、だとすると、それが反応して消滅するなら、何もなくなるだけなんじゃないです?」


「1グラムのアルミニウムを純粋なエネルギーに変換したら、小さな町の1年分の電気を賄えると言われている。

 対消滅反応はそれに近いことが起きるんだよ。

 1グラムのアルミニウムと1グラムの反アルミニウムが接触したら、それぞれは純粋なエネルギーに変換されると考えていい。

 どちらも物質として消滅するんだ。

 一瞬でそのエネルギーが放出されたら、何が起こるだろうね。

 決して触れてはならない。そういう意味で鏡の中の世界なんだよ」


「SFで反物質って言葉をよく聞きますけど、実際にあるものなんですね」


「確かに反物質が自由に扱えれば、エネルギー問題なんて金輪際なくなるだろうね。

 現実にはそうはいかない。昔は太陽を作れるなんて誰も思わなかったんだ。

 だけど60式だって人類が作った小さな太陽で動いている。

 そんな時代がいつかは訪れるだろうね」


 少し子供のような表情で話す赤石。

 核分裂でも核融合でもない、大規模なエネルギー。対消滅反応。

 その言葉をヘンドリックスが口にしたのだ。

 示唆した、と言ってもいい。

 赤石の話を聞いていた磯谷は、背中に寒いものを感じていた。





 同日 11時35分


 30分ほどの休憩を取ったのち、隊列は移動を始める。

 2時間ごとの休憩は必要なものだ。

 その最大の理由は排泄の時間。

 過酷な環境では糞尿も資源だ。特に水は貴重品となる。

 補給隊の輸送車はそのための処理装置も備えている。これも宇宙技術からのフィードバックだ。

 60式は単独で2週間の行動が可能なように設計されてはいるが、トイレまではない。

 機械兵を運用するライセンス研修には、オムツの使い方も含まれている。

 もちろん冗談ではない。最悪2週間、この指揮官席に座ったままの可能性すらあるのだ。

 できれば糞尿まみれになった指揮席は想像したくない。


「進行方向2時にタリームーバー2。イソガイ、速度を上げてインターセプトコースに。バギー1、磯谷の援護。バギー2、箱舟へ。キャラバンは減速」


「了解」


 ヘンドリックスの声に磯谷は短く応答する。

 タリームーバー2……接近する地上目標が2という意味だ。

 バギーはM1167機動戦闘車の愛称。箱舟はM495-A2装甲兵輸送車、キャラバンは隊全体を指す。

 高山もヘンドリックスの指示を聞いており、60式の進行方向を変えた。

 敵との相対距離が詰まる。

 解像度が低いため、識別ができない。

 磯谷は凧を発進させる。

 4ローターの小型ドローンである凧は勢いよく飛び出すと、60式に先行し、上昇しながら敵に急接近した。

 敵の表示がインレンジに変わる。

 カメラの画像には何もないが、データ上には捕捉の文字がある。

 仮想の敵ということだ。

 これが演習なのは間違いないようだった。


 その後、2度ほど敵の増援が出て、そのたびにフォーメーションを変え、迎撃のパターンを実演習した。

 30分ほどですべてのプログラムが終わったようだ。


「味方の被害はドローン一機。それも自滅だから、まあこんなものだろう。いくつか問題点も確認できた。有意義な演習だったよ。

 研究者諸氏は限界が近いだろう。かなり早いが、昼の休憩にして、少し長めに取ることにしようか」


 ヘンドリックスからの通信が入り、各車は通常隊列に戻ると停車した。

 磯谷は落ちた凧を回収するために、戦術AIのコントロールで有線の55式を1機向かわせる。

 今の戦闘データを通して確認していた。

 55式の足元には、「かんじき」が取り付けられている。雪原行動用の足裏の接地面を増やすためのものだが、細かい砂の上でも有用性が確認された。

 若干機動性に影響を与えるが、無しで砂の上を走らせるよりはいい。

 一方、パラディンはその重量の影響か、細かい砂の上では極端に機動性が落ちた。

 そもそも、移動する車両の警護に今のシステムの機械兵は向いていない。

 輸送指揮車が近距離にある状況にならざるを得ない。

 60式の装甲は無いよりはマシ程度。前線に出る設計ではない。

 そういう意味ではXM604の方がタフだし向いているかもしれないが、機械兵が車両と同じ速度が出せない時点で、使い方は限られる。

 一方でパラディンは55式に比べてやはり圧倒的にタフだ。

 何らかの理由で護衛対象の足が止められた場合には、XM604とパラディンの組み合わせの方が役に立つ。

 あと、混戦で砂塵が多く上がる状況では通信品質が極端に落ちることがある。

 磯谷は演習後のブリーフィングを行うために、60式を降りてヘンドリックスの下に向かった。


「おつかれさん。さすがにこの条件じゃ人形遣い(パペットマスター)もきついか?」


 開口一番、飛び出したヘンドリックスのセリフ。

 磯谷はそれを聞き流しながら、M495に格納されていく強化戦闘服パワードスーツを眺めている。


「そういえばM24は初見だよな。良い機体だぞ。乗ってみるか?

 機械兵の操作とは少し違うが、お前ならすぐに使えるだろう」


 機械兵が廃れた最大の理由がこの強化戦闘服の存在だ。

 ロボット技術が応用される形で、人間の筋力を増幅し、なおかつ各種のセンサーや補助AIとの組み合わせで稼働する強化戦闘服が作られた。

 当初は使用者の体形に合わせて作られた服だった。その頃は大きさも機械兵の基準と変わらない。

 人間が直接操作する戦闘強化服は、AI駆動の機械兵よりも高い戦闘能力を示した。

 もちろん問題も多くあった。

 使用者に合わせて調整すると言っても限度がある。

 同じ仕様のサイズ違いを複数用意しなければならず、しかもサイズが違うと損傷する交換部品に互換性が無い。

 そこで作られたのが第2世代の戦闘強化服。実際にそれは服ではなくなっていた。

 M24はパラディンよりも一回り大きいが、見た目は少しアンバランスに見える。胴体の大きさに比べて足が短い。

 その理由は胴体内に人間が搭乗するコクピットが存在するためだ。

 機械兵制御の技術から操縦系が確立し、操縦する人型兵器になった。人の動きに追従する服ではなくなり、名前だけが残った。

 搭乗者に合わせて作る必要をなくし、前線での整備性と量産性を高める形でこうなったわけだ。

 そうなると兵器としての進歩が加速する。

 米軍のM18で採用されていたフィードバック回路を次世代の輸送指揮車に導入する話もあったようだが。

 いずれにせよ、目の前のM24が今の標準ということだ。


 磯谷は現状の問題点を挙げてから、運用の変更を提案する。

 具体的には、先行するのは60式で構わない。索敵においても60式のセンサー類は優秀だ。

 だが、逃げる方針の場合は、XM604と60式が直接迎撃を行い、その間にM1167でM24を展開させる。

 足を止めて迎撃なら、即座に55式とパラディンを展開させ、パラディンはキャラバン直衛、55式は殲滅行動に移る。

 55式は基本的に有線で行動させる。

 これらを説明すると、ヘンドリックスは一つ頷いてから言った。


「戦術的には正しいが、タイプ60のリスクが高い。XM604に比べ装甲が薄いし、M1167ほど高機動でもない」


「調査隊の護衛が任務だ。それが最善だと思うが?」


「オーケー。お前がそう言うならこれで問題ない。そのプランで行こう」


「迎撃方針はできるだけ早く決めてくれ」


「わかった。善処するよ」


 磯谷は一度60式に戻る。

 すでに落ちた凧は回収されていた。


「磯谷君。凧が落ちた理由は意外とシンプルだよ」


 先ほどの模擬戦で、凧は故障したようだった。不安定になったかと思ったら、急に墜落したのだ。


「これを見てくれ」


 赤石の指さしたのはローター。

 右側の二つのローターが激しく損傷している。反対側もかなりひどい傷がついていた。


「ローターの損傷がひどいですね」


 磯谷が言うと、赤石が続けた。


「これが航空機が飛べない理由じゃないかな。砂塵に含まれる小さな粒は想像以上にダメージを与える。

 ロケットならともかく、吸気機構を持つ航空機用のエンジンなら大惨事だ。

 60式のエアフィルター類も毎日チェックが必要だな」


 それを見ていた高山がポツリと漏らす。


「それは、ヘンドリックス少佐はご存じだったのでは?」


 磯谷はその言葉に納得した。

 これは問い質す必要がある。

 そう思った。





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