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第二話:崩天


 2167年2月15日 5時30分 鹿児島県霧島市国分駐屯地


 状況は変わっていなかった。

 異変に気付いた隊員たちが集まってきており、駐屯地の三分の一程度は人員が確保されていたが、新たな情報は特にないままだ。

 じりじりと胃の痛い時間が過ぎる中、通信担当が声を上げる。


「本省より通達。各隊は出動準備の上、待機せよとのことです」


 その声とほぼ同時にISYSのスクリーンに通達内容が表示され、近郊の情報しかなかったところに、全国の各駐屯地や基地の状況が表示され始めた。

 ネットワークリンクが回復し始めたようだ。

 表示されている範囲で、損害の情報はない。


「地域の電力および回線復旧。消防と警察はいくつか発生している事故の対応に当たっているようです。

 現在のところ小規模な火災が5件、車両事故が2件ほど発生している模様。民間回線は部分復旧で、急激な負荷上昇で不安定です」


 2件の事故が起こるほど、電子機器に依存せず動く車両があったことの方が驚きではあるが、停電とシステムダウンが早朝のまだ暗い時間であったこともあり、混乱は限定的なようだ。

 笹川一佐とも連絡が取れ、もう間もなく到着するということだった。

 現状で、差し迫った脅威はないと考えられる。

 そんなことを考えていると、ISYSのスクリーンが更新され、その様相が変わった。

 米軍の情報がそこに重ねられると、現在の状況が異常なものであることを思い知らされる。

 佐世保や横須賀、沖縄から、一斉に艦艇が南か南東方向に移動している。

 航空機は次々と離陸。近隣の民間航路は閉鎖となっている。

 

「緊急出動にしては節操がない。これじゃまるで夜逃げだ」


 思わず口から漏れる。

 悪い予感がした。

 だが、それが何なのか、確かめる術がない。


「本省より通達。出動可能な隊員は通常兵装で出動。民間人の保護および誘導に当たれ。武器の携行は禁止。可能であれば3日分の食糧を携行せよ」


 磯谷は自分の耳を疑った。


「この通達に間違いはないか?」


 思わず質す。

 どこに、何のために向かうのかもなく、ただ出動せよ。命令の体を成していなかった。


「はい、間違いありません」


 磯谷は困惑する。

 出動させるとして、どこに向かわせればいいのかすらわからない。

 現時点で防衛出動ではない。自治体からの要請はないが、災害出動の原則に基づいて配置を考える。

 

「ISYSに避難拠点になっている場所を表示してくれ」


 国分駐屯地は奄美地域と薩摩川内市を除く鹿児島県全域が防災時の支援地域となる。

 表示された避難所指定施設は1121か所。


「防災拠点に絞ってくれ」


 数か所に絞られた。


「鹿児島県庁に連隊の第一中隊、鹿児島市庁舎に第二、日置(ひおき)に第三、枕崎(まくらざき)に第四。

 出水(いずみ)に第五、伊佐(いさ)に第六中隊を派遣する。各隊の人員が7割集まった段階で、出せるところから出せ。

 装備もちゃんと通達しろ。武器や弾はいらん。飯を持たせるのを忘れるな!」


 一つ呼吸してから続ける。


「途中で小隊単位に動きが変わる可能性もある。民間人を輸送するのに車が必要になる可能性もある。使用車両は余裕を持たせておけ。

 あと現地に着いたら行政の本部に連絡要員を忘れるな。まだ詳しい状況が分からん。わかり次第各隊に通達する。

 連隊のほかの隊は現状で待機。ただし人手がいる事態もあり得る。通常兵装と食料の準備だけはしておけ。

 第三機械兵団も待機だ。ただし機械化歩兵中隊は即応できる体制を維持せよ」


 ISYSの画面上に第一から第六中隊までの移動経路が表示された。

 駐屯地内が一気に慌ただしくなる。

 武器類の返却作業が挟まれることとなり、現場は一時混乱したが、各部隊の準備は確実に進んでいる。

 指揮所の入り口付近で隊員が敬礼するのが目に入った。

 そちらを確認すると、駐屯地司令の笹川一佐が指揮所に入ってきたところだった。


「磯谷二佐ご苦労。後を引き継ぎます」


「はっ。申し訳ありません、小官の判断ミスで現場が混乱しております」


「問題ない範囲です。いち早く駆けつけて指揮を執ってくれた功績の方が大きい。

 状況が今一つ見えませんね。本省も混乱しているのでしょう」

 

「はい。私は一度第三兵団に戻って状況を確認したいのですが」


「場合によっては二佐にも責任者として現場に出てもらう可能性があります。指揮車にて待機していてください。

 指揮車のシステムなら、ここと情報共有は問題ないでしょう」


「了解しました」


 磯谷は敬礼してから指揮所を出た。

 長い階段を一気に駆け上がり、本部ビルから出ると、車両格納庫に向かう。

 その時、最初に第十二連隊の第三中隊が出ていくのが見えた。


 第三機械兵団の車両格納庫に着くと同時に、手首に着けている情報端末が不快な警報音を鳴らす。


― 政府より全国民に対して避難命令が発令されました。身近な防災地点に避難してください。繰り返します―


 全国民に対して避難命令?


 ますます事態が理解できない。

 格納庫に入り、磯谷の姿を認めて敬礼する隊員に、


「引き続き出動準備、および待機」


 短く告げて、車両格納庫内の62式指揮車に乗り込んでエンジンをスタートさせる。

 水素エンジンが回り始めると、車内の機器に火が入った。

 磯谷は指揮官シートに収まり、ヘッドセットを着けた。

 疑似空間内に、複数のディスプレイが浮かび上がり、駐屯地側のISYSと同期がとられて、順次情報が表示されていく。

 そこに先ほどまでなかった情報が表示されていた。


ー 気象庁より関係省庁に通達。大規模な突風は2時間ほどで日本全土にて発生すると思われる ー

ー ロシア中央部で大規模な核爆発とみられる現象を計測。詳細は不明。現時点で直接の影響はないものと思われる ー


「磯谷二佐、笹川だ。普通科連隊は全部出す。第三機械兵団は駐屯地の守備に当たってくれ」


 情報を確認している途中で、駐屯地司令からの指示が来た。

 第三兵団の状況を確認してから現場に指示を出す。


「機械化歩兵中隊は奇数小隊、偶数小隊で、正門と西門の警備に当たれ。支援火器、整備支援中隊は、駐屯地内の建物を急いで回り、突風に備えろ。窓を閉めて、鎧戸があるところはそれも閉めて回れ。機械兵小隊は各人60式にて待機。急げ!」


 各中隊長からの返答を確認し、再び情報を確認する。

 ISYS側には各中隊の動きが情報として表示されている。

 磯谷は現状を認識すべく考えを巡らせた。


 核爆発による突風が4000㎞も離れた日本に到達することはあり得ないだろう。

 突風が台風程度であれば、普通の建築物は耐えられるはずだ。避難命令を出すということは、それを超える風が予測されているということか。

 なぜそんな風が起きる? 台風があるわけでもないし、爆風も来ない。

 衛星からの情報は途絶えたままのようだった。


「本省より通達。相模湾でマグニチュード8.8の地震が発生!」


 かなり大きな地震だ。一瞬、東京で暮らす妻と娘の顔が浮かぶ。

 今の関東近辺の防災能力なら、大した被害にはならないだろう。

 今回の避難命令は全国的に巨大地震が起きると予測した結果なのか?

 できる準備はしてある。今は自分の任務に集中すべきだ。

 磯谷はそう自分に言い聞かせた。





 同 5時45分


 磯谷二佐は62式指揮車の中で状況を見続けていた。

 相模湾の地震は横浜から川崎にかけて被害を出している模様だが、取り立てて問題になるほどではなさそうだ。

 自宅のある練馬は問題ないだろう。

 第三機械兵団には新たな命令は出ておらず、新しい情報に乏しい。

 大規模なシステムダウンにより、走行中だった車両が事故を起こしたケースが、管轄内で20件ほど発生し、消防と警察が対処しているようだ。

 ほかの地域でも警察を中心に避難誘導が進められている。

 磯谷の心に少しだけ余裕が生まれていた。

 自然災害であれば、世界中どこの軍隊よりも自衛隊は対処能力が高い。

 実際に被害が発生する前に展開が始まっている。

 詳細な事態は不明のままだが、万全と言っていいこの体制なら対処できる。

 指揮シート脇に置いてあるドリンクパックに手を伸ばして、口に含んだ時に注意喚起の警告音が鳴る。

 本省からの新たな情報が入った。

 画面上に広域日本地図が広がり、ロシア方向から同心円状に広がる赤い円が、アニメーション表示されている。


 圧力波到達予想時刻?

 情報にはそうラベルが付けられている。

 鹿児島は0730―午前7時30分。何のことだ?

 情報詳細を確認して愕然とした。

 ロシアを中心とした同心円状に、成層圏を走る圧力波…それが音速で広がっている。それが4000km離れた日本に及ぶ。

 そんな規模の爆発は聞いたことがない。

 さらに気象庁の詳細な検討結果が添えられていた。


 圧力波の到達時に強烈な下降気流が発生すると想定される。

 想定される下降気流の速度は200m/s。ただし、圧力波の速度自体が音速に達しているため、最大で300m/sの風が吹くことが考えられる。

 

 我が目を疑った。現在の建築基準では風速100m/sに耐えるようには設計されている。

 その倍、あるいは三倍の風が吹けば何が起こるか想像できなかった。

 しかもそれがほぼ同時刻に日本全土に達する。

 本省からの連絡内容に初めて納得がいく。本省は早い段階からこの兆候を掴み、対応を始めようとした。

 そして現時点でその詳細が分かり始めた。

 そう考えればすべてが納得がいく。米軍もまさに夜逃げ…退避を行っていたのだ。


「司令部、磯谷二佐より進言します。一次被害の規模が想定不能です。可能な限り風に強い地下街への住民移動を行政に伝えるべきです」


「政府より各自治体に通達は行われています。だが、現実問題として地下でシェルターになり得る場所は多くはありません。今の我々にできることは住民を一人でも多く安全性の高い場所に誘導することだけです」


 磯谷の通信に笹川一佐はそう答えた。

 磯谷はぐっと拳を握りしめ、災害救助に向けての準備をもう一段進めることを決断する。


「整備班、急いで教習用の47式も稼働準備してくれ。動かせるものは全部動かせる体制にしたい。

 ライセンス取得前だが、本郷、三波の両名も、場合によっては現場に出す。準備をさせておけ」


「了解」


 口が乾き、じりじりと脂汗が滲み出す。

 空調が効いているはずの指揮車内が、ひどく不快に感じられた。

 再び家族の顔が脳裏に浮かぶ。

 家族の無事、隊員たちの無事、地域の人たちの無事を祈らずにはいられなかった。


 同 7時ちょうど


 磯谷は62式指揮車の指揮官シートで情報とにらめっこを続けている。

 音声は駐屯地の指揮所と繋がったままで、向こうの詳細なやり取りを聞いていた。

 ISYSの画面上でも確認できるが、派遣した部隊はすべてが当初の目的地に到達しており、現場の行政担当者との簡単な打ち合わせののち、住民の避難誘導に当たっている。

 一部の小隊は数か所に分散して、近隣自治体の支援へと向かっていた。


「状況は思わしくありません。想定よりも住民の避難誘導が遅れています。一部で車両による事故も発生しており、消防や救急の手がとられている状況です」


「まだ深刻ではありませんが、パニックは起きているようですね」


「住民の避難完了率24%」


「近隣の避難所へ、人員の移送要請です」


 慌ただしく報告が上がる中、笹川一佐は指示を続けているようだ。

 磯谷は待機しているだけの自分が、少し申し訳なく思えた。

 落ち着かず、ゴーグルを外して、音声用のヘッドセットを着けると、車外へと出る。

 格納庫は閉じられており、4台の60式はその扉の前で待機状態だ。


「3号車、凧を2機上げろ。2号車、3号車に監視任務を引き継いで少し休憩を取れ」


 そう指示してから、格納庫の通用扉から中に入り、部隊の状況を確認する。

 機械化歩兵中隊は駐屯地のゲートにいるので、ここにはいないが、管理部門を除くすべての隊員が揃い、出動準備を終えて待機していた。

 その様子を見て、磯谷は思う。

 この体制なら大丈夫だ。自分の目で見なければ落ち着かないとは、自分はかなりアナログな人間だな。


 見回るのではなく、遠目に確認してから、磯谷は指揮車へと戻る。

 途中、日の出の時刻を迎え、空が青く澄んで見えていた。

 今日は暑い一日になりそうだ。

 そんなことを思った。





 同 7時15分


 指揮所の中に緊張が走る。

 

「札幌駐屯地、ISYSから消失。続けて旭川駐屯地消失」


「消失? 何が起こっている?」


「分かりません。ただ、気象庁の圧力波到達予想時刻とほぼ一致しています」


「ISYSのトラブルは?」


 笹川が確認すると、メインディスプレイにISYSがシステムの健全性を99.8%と表示した。

 笹川は一瞬考えてから、画面上の部隊情報を確認し、いくつかの部隊に指示を出した。

 住民の移送に当たっている部隊が、15分で目標の防災施設には到達できそうにない。その部隊の目的地を変更して10分で到達できる避難所へと向かわせる。


「定員オーバーになっても已む得まい。確実に安全を確保せねば」


 その間も北側からいくつかの駐屯地や基地が消失していく。

 ISYSに衛星ネットワークダウンの警告が表示された。

 ネットワークシステム自体は有線で維持されている。


「なんだ、あれは…」


 指揮所内の士官の一人が目の前のモニターに映る映像を見て声に出す。

 ノイズ交じりの画像は一瞬黒く染まった空を映したかと思うと、ブラックアウトする。通信が途絶えたのだ。

 ほぼ同時に佐世保、小倉のISYS上の表示が消えた。


「佐世保基地、小倉駐屯地、ダウン。想定よりも少し早いタイミングです」


 その声を聴いて笹川がマイクに向かって叫んだ。


「全部隊に告ぐ、活動終了予定を早める。可能な限り速やかに退避施設内に移動せよ。

 施設に入れない場合は、兵員輸送車内に戻れ。安全の確保を急げ。急ぐんだ!」


 何が起きているのかは定かではない。

 だが、基地が通信不能に陥る状況が発生しているのは間違いない事実だ。


 指揮車の中で磯谷もそれを聞いていた。

 画面上の住民避難率は68%。かなり進んでいるが、全員には程遠い。

 圧力波の到達予定時刻が先ほどよりも1分早く表示されている。


「こちら機歩中一小隊(機械化歩兵中隊第一小隊)入江。二佐、駐屯地入り口に数十名の市民が保護を求めて集まっています。どう対応すればいいでしょうか?」


 60式3号車の凧がその様子を上空から映し出した。


「笹川司令。こちら磯谷。住民がゲート前に保護を求めて集まっています。出動中の連隊の車両格納庫を使用すべきと考えますが」


 そこまで言った段階で、笹川が返答した。


「君の判断に任せる。あまり時間がない。急いで誘導せよ」


「はっ! 入江、聞こえていたか? 司令の許可は取った。正面ゲートから一番近い、連隊二中(第十二普通科連隊第二中隊)の車両格納庫に誘導しろ」


「了解」


「市民だけを置いておくな、小隊を一つ格納庫にも置いておけ」


 そう告げてから西門側を確認する。


「西門、そっちはどうだ?」


「二佐、正門と同じ状況です。人数はまだ少ないですが、徐々に集まってきています」


「そっちも中に入れろ。第四、いや、連隊三中の車両格納庫に誘導。同様に一小隊置いておけ。あまり時間がないぞ、誘導急げ」


 ISYSから熊本近辺にある基地の表示がすべて落ちている。

 もう時間がない。


「全部隊に告ぐ、直ちに避難所内に入れ。繰り返す。直ちに避難所に入れ。避難所に入れないものは輸送車内に待機。急げ」


 指揮所から繰り返し呼びかけが行われている。


「住民の誘導はどうなっている?」


「正門第一小隊、完了しました。今ゲートおよび車両格納庫を閉じました。我々はゲート前の輸送車に退避します」


「西門、完了まであと2分」


「3号車、カメラを北側上空に向けてくれ」


 磯谷は状況を確認してから3号車に指示を出すと、凧の映像が空を映し出す。

 そこには青く晴れた空しか映ってはいない。

 だが、この方角から圧力波という奴が猛スピードで接近しているのは間違いないはずだ。


「西門二小、市民の収容完了。隊員退避…完了しました」


「突風が来る予想だ。ベルトで体を固定! 衝撃に備えろ!」


 そう言い終わると、小さな地震…地響きのような揺れと、指揮車の装甲板越しにゴゴゴゴゴと低く唸るような音が聞こえてくる。

 ISYSの画面上から、北部で活動中の部隊の表示が消えた。

 ドンッという強い衝撃音。

 一瞬の静寂の後にゴーっという強い風の音が響いた。


「風速38.4m/sを観測。この風力であれば監視を続行できます」


 3号車からの通信を聞き、引き続き周囲の状況の監視を続ける。

 強風は続いているが、この程度の風なら問題はない。

 そう思った瞬間、画面に異変が映し出される。

 空が北から塗りつぶされていくように、真っ黒く染まっていく。

 その光景は出来の悪いCG映像のように感じられた。


「なんだ、これは…」


 指揮所で誰かがそう漏らした。

 ほんの数秒で晴天だった空は限りなく黒に近い色に染まり、見ている間に空が低くなっていく。

 そして。

 黒く染まった空の一部から、砂時計の砂が流れるように、細い筋が現れた。


「外気温異常上昇! 地上気圧急速に低下!」


 指揮所から声が上がる。

 その次の瞬間。

 その細い一筋の線が、突如蛇口を全開にしたかのように太さを増し、急激に地表に向かって流れ落ち始めた。


「警告、急激な下降気流発生。気流の温度…ひゃ百二十度!」


 ISYSがその状況を限られたデータで推測し、その状態を画面に表示した。

 直径300mほどの範囲に、局所的に垂直の風が吹いている。

 中心部ほど温度が高く、推定温度は180度に達し、表面の気流速度は250m/sを超えていた。


「空が落ちてくる…」


 笹川一佐の声がそう呟いた。


「強力な荷電物質を含む模様。通信が落ちていきます!」


「地表に衝突した風が周囲に広がっています。推定風速200m/s!」


 凧からの映像が突然途切れた。

 そして指揮車の車体が軋むような音が響く。

 垂直に落ちた風が水平方向に向きを変えて周囲に広がり、この駐屯地にも達したのだ。

 かなりの電気を帯びた塵の影響と思われる機器障害が発生する。

 センサーや、カメラ、通信といった、機器の五感が機能しなくなった。

 指揮車のエンジンはかろうじて回っており、車内の空調と照明は維持されている。


 車体の軋む音がなくなり、風による揺れが収まる。

 これで突風は終わったのか?

 そう思った時、突然天地が逆さまになった。

 ドン、という衝撃音が響く。20トンほどある、62式指揮車が横転したのだ。

 横転した車両が、ズズッと地面をこする音を立てている。

 今、外は風速200m/sどころではない風が吹いていると思われた。

 続けざまに二度、三度と何かが車体にぶつかり激しい衝撃を受ける。

 シートにベルトで固定されていた磯谷は、投げ出されずには済んだがシートで後頭部を打ち付ける。

 鈍い衝撃が磯谷の意識を刈り取った。


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