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第十四話:公開演習



 2167年4月18日12時 日本海 USS-カヴナント格納甲板


 明け方まで整備を続けてから一眠りして、昼前に出てきたところ、60式とXM604が少し距離を置いて並べて置かれている。

 2台はそれぞれが何本かのケーブルによって壁につながれていた。

 シミュレーションのために、カヴナントの戦術AIに接続されているようだ。

 無線でも問題ないと思うが、遅延や無用なトラブルを避けるという意味では、確かに正しい。

 この辺は軍隊としてちゃんとしている。

 …そう思っていたが、時間が経つとその考えを改めた。


 壁面にスクリーンとプロジェクターが用意されている。

 近くの整備士に声をかけて尋ねたところ、


「ああ、バトルの様子をリアルタイム3Dで表示させるんだ。軍のモデリングデータを使ってるから、リアルだぜ」


 と得意げに解説される。

 磯谷は少しあきれた。


「まあ、娯楽が少ないですからね。新型機械兵が世界最強と言われた自衛隊の機械兵を蹴散らすところを見せたいんでしょ? ご愁傷様ですね」


 高山が人の悪い感じの笑顔を見せる。

 赤石がそれに続いた。


「これが実機を使ったハーフシミュレーション演習なら、勝ち目はなかっただろうな。60式の車体も万全ではないし、55式も2機は使えない。

 移動中の艦内というのが幸いしたな」


 運が味方した。そんなところだろう。

 そこにヘンドリックスが現れて、磯谷に話しかけた。


「イソガイ、調子はどうだ? お前も知っての通り、パラディンはかなり手ごわいぞ?」


 磯谷は表情を変えず答える。


「そうだな。あれはそれなりに良い出来だ。だが、あんたの方がよっぽど手ごわい」


「それは俺を褒めてるのか? それともパラディンをけなしてるのか?」


「両方だ」


 ヘンドリックスは口笛を吹いてから笑う。


「なるほどな。その俺にお前は勝った。つまり早々と勝利宣言、という訳か」


「そう取ってもらって構わない」


 そう言い返した磯谷にヘンドリックスが顔を寄せて耳元で囁く。


「コードウェルがフェアにやるとは思えん。注意しろよ」


 そう言ってから顔を離す。

 磯谷はヘンドリックスに答えた。


「反射的に殴り飛ばすところだった。次は手遅れになるかもしれん。軽率な行動は慎んでくれ」


「ぶっ! よせよ。俺はそんな趣味はねーよ」


 笑い声を上げながらヘンドリックスはその場から離れていく。

 高山が寄ってきて、磯谷に尋ねた。


「少佐は何を言ってたんです?」


「ああ、大佐がフェアにやるとは思えない、だそうだ」


「…十分に考えられますね。あの人は二佐を目の敵にしてますからね」


「まあ、何とかなるだろう」


 磯谷は楽観的だった。

 仮に負けたとして、どれほどのハンデがあったのかは、管理している連中が一番よく理解するはずだ。

 シミュレーションは細工ができるとして、実機を使った殴り合いは細工がしにくいはずだ。

 一対一の殴り合いなら、どうやってもこちらに分がある。


 磯谷は実機の55式の最終調整を行った。





 同日13時


 準備は整っている。磯谷は60式の指揮官席に着座し、準備はできている。

 一方、ニールセン大尉はXM604の車体の前で立って、開始を待つようだ。

 壁面に設置されたスクリーンにコードウェルが映し出される。


「これよりXM604-BattleCommanderおよび、機械歩兵Paladinの公開演習を行う。演習に先立ち合衆国国歌吹奏!」


 数名の海兵がトランペットで国歌の演奏を始める。

 その場にいた兵士たちが一斉に姿勢を正した。スクリーン上には国旗が表示されている。

 車内にいた高山も姿勢を正していた。赤石はこの間もシステムのコンディションをチェックしている。


「茶番だな」


 磯谷はポツリと呟いた。

 彼にはこの国歌吹奏が、当てつけに感じられたからだ。

 国歌が流れ終わると、一斉に歓声が沸き上がる。

 画面上に再びコードウェルが姿を現した。


「今回の演習のルールを説明する。設定された2つの陣地を双方が同時に出発。先に相手方のフラッグを手にしたほうが勝ちとする。

 シンプルなフラッグ戦だ。

 双方は標準搭載の武装によって戦う。

 攻撃等の影響は戦術AIにより効果判定が行われ、即座に効果を発揮する。

 二つの陣地は公平を期すため、開始時にランダムで決められる。

 制限時間は60分。以上だ。

 双方準備せよ」


 その声を聞いてからニールセン大尉は周囲に手を振ってからXM604に乗り込む。


「こっちはいつ始めてもOKだ」


 磯谷は呟いた。

 コードウェルが画面内で一つ頷いてから告げた。


「双方準備が出来たようだ。これより演習を開始する」


 宣言と同時に地形情報が送られてきた。

 映像を確認すると、小高い丘。周囲には人工的に作られた防御陣地がちらほらと見える。

 相手側のフラッグは森の中のようだ。

 座標は示されているが、目視では確認できない。


「なるほど。これもハンデのうちだな」


 そう口に出してから、磯谷はすぐに凧を2機上空に上げて、6機の55式を展開させる。

 兵装は標準の20㎜コイルガン。携帯するのは対装甲弾と炸裂弾の2種類。


「高山、60式を微速前進させろ」


「了解」


 高山もゴーグルをつけて、周囲の視覚情報により、60式の操作を行う。

 実際に車両が動くわけではないが、画面上では確かに動いていた。


「やばい。もう3D酔いしそう…」


 視覚から得られる情報と、他の器官が感じる情報、主に揺れや旋回時の横Gなどが一致しない状態になると、脳が混乱を起こす。

 高山はそれに対して耐性が低いようだ。


「吐くなよ。死んでも我慢しろ」


 磯谷は一言そう告げてから、55式を60式の前面に並べる。凧に飛行経路を指示すると、55式の視覚情報をゆっくりと切り替えながら確認した。

 防御陣地の高さが低い。55式や人間なら身を隠せるが、60式は車体を隠せない。

 森林との境界線に当たる場所から800mの地点で高山に指示を出して60式を停車させる。


「ここじゃ狙い撃ちされますよ」


 高山が抗議の声を上げた。

 磯谷は索敵を続けながら、答える。


「この距離なら対装甲弾は貫通しない。ミサイルなら迎撃できる。攻撃が始まってやばいと思ったら後退させろ」


 そう言い終えたときに微弱な信号を感知した。


「やはりそう来るか」


 微弱な信号、知らなければノイズと判断されるそれを、磯谷は一度体験している。

 米軍の遮蔽装置の干渉ノイズだ。

 複数の遮蔽装置が近くにある場合にこのノイズを発生させる。

 左右から均等に確認できた。


「敵は左右から4機ずつ来るぞ。予想地点を表示した。目視による監視を頼む」


「了解。停止している間は監視します」


 磯谷は6機の55式のうち4機を右側に、2機を60式に格納する。

 同時に発進させていなかった2機を車外に出した。

 ほぼ同時に凧の反応が消える。どうやら撃ち落されたらしい。


「こちらの動きに気付いたか?」


 パラディンは遮蔽装置を搭載していて、こちらから見えていない前提で動いているはず。

 であれば、凧を落として位置を知らせることはないだろうと読んでいたが。


 下ろしたばかりの2機を左側に対応させるべく移動させる。

 その55式は大砲を担いでいた。60㎜無反動砲だ。

 装弾数は4。2発が通常炸裂弾。2発がEPM弾。小範囲に電磁パルスを発生させる電子戦弾頭だ。


「EPMを先に出せるようにしておくべきだったか」


 55式の片方が炸裂弾を2連射し、敵の想定位置の左右に着弾させる、はずだった。


ー敵性兵力を確認できず。交戦規定により射撃命令無効ー


 万全な状態に整備はした。だが自衛隊の交戦規定が設定されているのを解除していなかった。

 磯谷は慌てて一機を直接制御モードに切り替えて、自身の意思で55式のトリガーを引く。


 ワンテンポ遅れたが、結果にはそれほど影響ない。

 炸裂弾が2連射され、敵の想定位置の左右に着弾する。

 すぐさまもう2発。EPM弾を進行方向に縦に並ぶように発射した。

 弾切れになった55式を後退させて格納する。

 目視はできていないが、接近してきていた干渉波は停止している。

 もう一機の55式は近くの防衛陣地に身を隠すようにしゃがみ、左側の監視を続けさせた。


「赤石さん。交戦規定のバイパスはすぐにできますか?」


「15分はかかる。すぐには無理だ」


 60式の助手席に座り、情報解析していた赤石が答えた。


自動制御(オート)は使えないか」


 右は森の境界線近くまで前進していた。4機の55式が少し距離を開けて横一列の隊列を取る。

 中央の2機は精密射撃姿勢を取った。

 両側の2機は即応体勢で待機する。

 収集したデータから予想される接敵のタイミング。だが、森からは敵は出てこない。


「二佐。中央、60式正面に目視にて敵機械兵確認! 接近中です」


 高山の声が響く。

 森から出現した8機のパラディンが、真っ直ぐ60式に向けて進行している。

 画像に映し出されたパラディンは大型の盾を装備し、右手にかなり長い槍を思わせるライフルを装備している。

 その姿は中世の騎士を思わせた。


「60式を全速後退!」


 叫んでから左に残る一機から炸裂弾を2射。進行方向前面に打ち込み、続けて同位置にEPMを2発撃ち込む。

 左の55式を60式に戻るコースに設定し、すぐに右の2機も60式に戻す。

 左に残る2機のうち一機にコントロールを移すと、精密射撃モードで狙撃を試みた。

 狙うのは先頭を進むパラディンの膝関節。

 AIの補正を入れて、引き金を絞る。

 単調な前進だ。これなら当たる。

 だが、発射した20㎜徹甲弾は命中しなかった。

 違和感を感じる。


「磯谷、パラディンを手動で敵として認識させた。自動攻撃可能だ」


 その声を聞くと同時に、磯谷はマルチコントロールを稼働させる。

 左右から60式に向かう3機を直接制御、同時コントロールに移行した。


「カウント省略。即時移行」


 シミュレーション上で55式のスペックは固定だ。実機のようにタイミングを合わせる必要はない。理想的なタイミングで動かせるはず。

 だが、マルチコントロールに移した直後に、制御が安定しなくなった。

 慌てて自動に戻して磯谷が叫ぶ。


「赤石さん、通信のディレイを測定してくれ。明らかに操作に対してのずれがある」


「了解」


 磯谷は左右から進行するパラディンに射撃を行うが、狙った通りに当たらない。

 フラストレーションがたまり続ける。

 その間に残っていた55式を、パラディンの通過した地点まで移動させる。

 包囲する形にはなったが、どの方向も薄い。

 左右時間差で各個撃破する予定が、すべて崩れていた。


「磯谷、ディレイの確認。0.5秒。きっちりだ。意図的だな」


「了解」


 つまりこちらの操作指示は0.5秒遅れて伝わるように細工がされている。

 行動指示でもかなりのハンデだが、直接操作に至っては致命的だ。

 磯谷は深呼吸してから、60式に格納中の3機を発進させ、即座にマルチコントロールを始めた。


「0.5秒先を読めばいいだけだ!」


 3機の55式は突進を続ける8機のパラディンに射撃しながら接近する。

 今度は当たる。

 だが、装甲が厚い。

 巨大な盾は決して飾りではなく、20㎜のAP(鉄鋼貫通)弾を簡単に弾く。本体にいくらかは当たったが、やはり一撃では貫通できない。


 パラディンはろくに反撃をすることなく、そのまま前進を続ける。

 攻撃をしてこないことに違和感を感じる。

 パラディンとの距離が100mを切った。

 それでもパラディンは撃ってこない。

 こいつは、デモンストレーションって訳か。


 磯谷はなおも接近する。近距離であれば貫通する確率は高くなる。進行速度を落とさせないことには、他の55式が有効に使えない。

 打てる手は一つだった。


「高山! 20㎜ターレットで弾幕を張れ。弾を撃ち尽くしても構わん!」


 それまでは間隔を置いて狙撃を行っていた60式のターレットが派手に連射を始める。

 同時に3台の55式もろくに狙わず連射を始める。

 先頭のパラディンの盾に攻撃が集中して、進行速度が落ちると、盾が損壊した。

 たまりかねたようで他の機体は中腰に射撃姿勢を取り、反撃を始める。

 集中攻撃を受けて55式が一機、また一機と動作を停止する。

 だが、最後の一機はパラディンに肉薄していた。


 磯谷は20㎜コイルガンを捨てさせると、腰に固定してあるナイフを抜く。

 対装甲超音波ブレード。

 通常、これを使う機会など、ほとんどない。

 だが、磯谷はこれが最大のチャンスと考えていた。

 アクロバティックな動きで足元に滑り込むと膝関節にナイフを突き立てる。

 可動部の装甲の薄い部分に刃が触れると、甲高い金属音が響き、一瞬白い霧のようなものが舞う。

 次の瞬間、刃先は関節にずずずっと沈み込み、パラディンが転倒した。

 パラディンの進行速度ががたんと低下する。

 それぞれのパラディンが連携を取りつつも、あまりの至近距離で射撃できなくなる。

 味方への誤射をAIが警告しているはずだ。

 磯谷はナイフを鞘に一度戻して、トリガーを引き、刃先を交換する。

 立方晶窒化ホウ素でコーティングされたタングステンカーバイトの刃は、切れ味は鋭いがもろい。

 ましてや6万Hzで振動することで、一瞬にして刃先がだめになる。

 それでも、装甲板を貫けるから、こうして使える。


 再びナイフを抜いて、すぐ隣のパラディンへとりつく。

 距離を取ったら終わり。

 混戦だからこそ多対一が成立している。

 55式が別のパラディンに脇から組み付き、腰の部分に刃先を当て、ぐっと押し込む。

 金属の悲鳴のような音が一瞬鳴り響き、続いて薄い霧が舞うと再びナイフが沈み込んだ。

 磯谷はその姿勢を一瞬維持させ、その間に全6台をマルチコントロールに切り替える。

 この間に周囲を移動していた他の55式が包囲を完成し、射撃態勢に入った。

 勝てる。


 そう思った瞬間に磯谷のコントロールが全て落ちた。


「60式に深刻な被弾。機能停止しました」


 高山の力の抜けた声が聞こえてきた。

 どうやらパラディンが複数のATM《対装甲ミサイル》を60式に向けて発射。

 うち2発が深刻な命中となった。判定では核融合炉を直撃した、ということになっている。

 磯谷にも操作はできないが、周囲の状況は確認できた。

 自律AI駆動になった55式が、次々と撃破されていく。


「最悪の気分だ」


 磯谷は荒い息をしながら、汗をぬぐった。

 機械人形のように動く55式が、一機、また一機といたぶられながら破壊されていく。

 最後の一機を長いライフルの先に突き刺した状態で、勝利のポーズを取るパラディン。

 こうして第一ラウンドの幕は下りた。


 詳しくない一般の兵士からは、パラディンが自衛隊の機械兵を蹂躙したように見えただろう。

 格納庫内は大いに盛り上がる。

 USAコールが起きると、艦を揺らす勢いだった。


 今の戦いを複雑な表情で見つめる二人の人物。

 一人はコードウェル大佐。もう一人はリースウッドだった。


「一時的とはいえ、通信妨害の状態で…8機のパラディンを一機の自衛隊機が翻弄するなど…」


 その表情はある種の絶望が垣間見えた。

 リースウッドは無表情だった。

 何かを考えているようにも、ただ茫然としているようにも見えた。

 その口元がわずかに上がるのを見逃さなかった人物もいた。


「私は格納庫に行きます。せっかくなんで、生の試合を見てきますよ」


 ヘンドリックスはそう言い残して、カヴナントのCICを後にした。





「模擬戦でしょ? あそこまでやらなくてもいいのに…」


 ドライバーズシートに突っ伏した高山が小さく漏らす。


「ガス抜きのショーだと言っていたのは君じゃなかったかな?」


 赤石が端末で何かをしながら高山に言った。


「そうですけど…なんか釈然としないんですよね」


「あれを作った連中も、55式にやられました、という訳には行かないだろうさ。ある種の政治的配慮って奴だろうよ」


「イカサマじゃないですか」


「そうともいうな。磯谷君。パラディンの構造解析、一通り上がったよ」


「ありがとうございます」


 磯谷はパッドを受け取って眺める。


「それって今のシミュレーション中に採取したデータでやったんです?」


 高山が尋ねると赤石が答えた。


「磯谷君の操作する60式は、戦闘中も戦術AIにかなり余裕があるんだよ。なんせ機械兵の操作から解放されるのでね」


 磯谷がパッドを返して、赤石に告げる。


「ありがとうございます。次はきっちりリベンジしましょう」


 あーこれは二佐、かなり怒ってますね‥‥

 高山は口には出さず、一人にやりと笑った。



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