表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/24

第十一話:プーワイ攻防



 2162年6月26日12時 太平洋ハワイ諸島ニイハウ島旧プーワイ集落付近


「演習を開始する」


 HQからの一斉通信で演習が始まった。

 事前の報告通り展開を済ませていた上陸艇群が海岸線を目指し進み始める。

 同時に母艦群からのビーチ付近への支援射撃が始まった。

 実際には発射される砲弾はないが、かなりの数が発射されたことになっており、海岸付近に着弾したことになっている。

 海岸線に上陸防止用に設置された障害物や地雷などを除去する目的だ。

 今回自衛隊は、上陸阻止は考えていない。

 開始の宣言と同時に輸送トラックを中心とした護衛部隊は移動を開始した。


「先陣の上陸まで20分。高機動車類が動き出すまで30分ほどが想定されます」


「セオリー通りの上陸作戦だな」


 ISYSの情報を確認しながら磯谷は呟いた。


「ジャベリン2よりジャベリン1、今のところ凧は落とされていませんね。かくれんぼを続けるつもりのようです。向かわせている4体の55式は到着まで約5分」


 開始ギリギリまでに米軍のM495をもう一台発見していた。位置は本部と共有されている。


「こちらジャベリン1、グランドマスター、事前の申請通り、艦艇からのミサイル攻撃を要請」


「こちらGM、申請は却下された。交戦規定に違反する。敵性勢力であるかの確認が取れていない」


「ジャベリン1、了解」


 予想通りの反応ではある。先手が取れれば有利になる。だが、不利になろうとも先制しないのが自衛隊の自衛隊たる所以だ。

 磯谷はそれも理解していた。


「近くに潜んでいる敵さんも、静かなもんだな。先制攻撃で排除してくる可能性も考えたが、輸送車がコースを変えるのを嫌っているのか。

 全機、周囲の索敵を怠るな。どこから弾が飛んでくるか分からんぞ。

 ジャベリン3、ジャベリン4、歩兵を一機起こせ」


「了解」


 その声と同時に磯谷も2機目の55式を起動する。

 起動と同時に直接制御に切り替えた。


「ジャベリン3、ジャベリン4、歩兵を俺の歩兵の追従でAI操作に切り替え。自律AIのプログラムは撤退にしておけ」


 セオリー通りなら、機械兵との交戦時には、初手で電磁パルス攻撃が鉄板だ。特に交戦規定のうるさい自衛隊では致命傷になる。

 自衛隊では機械による交戦の判断はできない。

 つまり仮にパルス攻撃で機械兵を破壊できなくとも、自発的に攻撃することのない機械兵は、無力化されたも同然だ。


「ジャベリン2よりジャベリン1、箱に向かった4機のデータリンク低下。敵遮蔽装置の影響と思われます。予定配置まで1分」


「ジャベリン1、了解。継続せよ」


 磯谷は配置状況を確認しなかった。

 ヘッドセット越しに映し出されている55式のカメラの映像をくまなく見ており、ISYSを確認する余裕がなかった。

 不思議とカメラ越しに殺気じみたものを感じる。どこからかまでは分からないが、磯谷には確信があった。

 

 集落入り口に3機の55式が到着し、足を止める。


「こちらジャベリン2、歩兵の準備完了」


 再び池田からの通信。磯谷はISYSで位置情報を確認する。2機ずつの55式がBox1、Box2の正面で待機しているのを確認して、言った。


「各車、ターレット準備。ジャベリン2、可能な限り損耗を控えろ。ジャベリン3、4、直接制御に切り替え」


 各々から準備完了の返答が入る。


「始めるか」


 磯谷は55式を数歩前進させ、55式のスピーカーを最大出力でONにする。


「こちらは日本国陸上自衛隊。所属不明の戦闘部隊に告ぐ。速やかに所属を明らかにし、この場から立ち去れ。貴殿らは重大な侵略行為を犯している」


 磯谷の声が響き渡った。続けてAIによる英語のアナウンスが行われる。

 目立った動きは何もない。

 磯谷は55式の手にある20㎜コイルガンで狙いを定める。

 狙うのは朽ちかけた建物の一角。


「威嚇射撃を行う」


 司令部にも聞こえるように宣言してから、トリガーを一度引く。

 装填されているのは対装甲貫通弾。実際に銃弾が発射されることはないが、画面上にその影響はすぐに表れた。

 遮蔽で確認できていなかったユニットが不明アンノウン1という表示に変わる。

 再びスピーカーを入れて「今のは警告射撃だ」と言うつもりだったが、声に出す前に55式に回避行動を取らせる。

 建物から姿を現した、緑地迷彩仕様の戦闘強化服が、発砲体勢に入ったのが見えたからだ。

 スピーカーを切る間もなく、磯谷が叫ぶ。


「全機回避!」


 すぐにスピーカーをオフにし、命令を下した。


「全機反撃を開始」


「ジャベリン2、箱からの攻撃を確認。2機損傷も、作戦続行可能」


 池田の声を聞き、磯谷はHQを呼び出して叫ぶ。


「攻撃要請、ターゲットBox1、Box2。敵輸送車と思われる。

 続けて攻撃要請、ターゲットプーワイ集落。集落範囲のEPM攻撃を要請。繰り返す、プーワイにはEPM攻撃を要請」


「ジャベリン2、応戦しながら歩兵を下げろ」


「ジャベリン2、了解」


「こちらHQ、要請を確認。EPMで間違いないか?」


「箱は壊してくれ。集落はEPMで間違いない。急げ!」


「HQ、了解。攻撃開始。着弾まで30秒」


 その間も3機の機械兵は集落入り口付近で反撃を続けるが、滝本の1台が、破損の表示に変わる。

 こちらも60式からの支援射撃で敵の接近を妨害しているが、数が減る様子は今のところない。


ー限定範囲のEPMが使用されました。ポイント322で交戦中の55式2機は自律モードで稼働中ー


 55式も当然だが、電磁パルス攻撃(EPM)に対しての防御策は施されている。だが、どうしても通信アンテナの受ける影響は避けようがなかった。

 自律行動時の命令に従って、本庄の操作していた55式は、ほぼ全速力で後退を始め、磯谷の55式はその場に倒れる。

 味方への影響を起こさない範囲でのEPMだったようだ。60式は影響を受けていないし、恐らく敵も問題なく動いているはず。


ー護衛艦むつきからの支援攻撃、着弾まで5、4、3、2、1、今ー


 プーワイの中心地から半径800mほどの電磁パルス攻撃の表示がISYSに表示されると、60式のセンサーが敵部隊の全容を捕らえる。

 M18戦闘強化服16機。箱一台分ちょうどの小隊だ。

 EPMの影響はどの程度かは不明だが、あるのは間違いない。


「池田、凧を4機上げろ。周囲の捜索を頼む。もう一小隊がいると厄介だ。

 本庄、滝本、55式全機発進。押し上げるぞ、奴らは60式を潰しに来る。阻止しろ」

 

「了解」


 磯谷は放置してあった凧と55式を起動させる。

 EPMの範囲にあったが、どちらも有線制御でダウン中。影響が少ないことを願う。

 すぐに起動開始の応答が返ってくる。だが、障害チェックのプロセスが起動し、即座に行動を起こすことができなかった。


「都合よくはいかんか」


 起動を待つ間、味方と敵の動きを確認する。

 池田の凧は上空に展開中。55式は2機が大破した模様だ。残り2機はもうすぐ合流する。

 箱1はセンサーからロスト。移動したらしい。被害状況は分からない。

 箱2は命中の表示に加え、動かずに停止している。おそらく大破したと考えられる。死んだふりの可能性も否定できないが。

 3号車、4号車の歩兵群は未知の左右に分かれて、攻撃しながらの接近中。

 敵のM18は2機が動いていない。恐らく破壊に成功したのだろう。14機がこちらに応戦している。

 ただ、強く前面に出てくる気配はない。EPMの影響がまだ残っている。

 単純に数の上では互角。

 そこに磯谷の待機中だった55式が起動完了を告げる。

 磯谷は地上に置いてある凧のセンサーからの情報を各車にリンクさせる。敵の位置情報がかなり詳細になると、車両からの射撃も、前進中の55式の命中精度も20%以上向上した。

 

「本庄、滝本、突撃準備。合図と同時に横に展開させて一気になだれ込め。各車55式に当てるなよ」


 磯谷は直接制御中の55式を数歩移動させて、射撃態勢を取った。

 精密射撃モード。照準固定。

 トリガーを引く。


「突撃!」


 磯谷は指示を出し、トリガーを引き続ける。

 予想していなかった側面からの攻撃に、敵の隊列が崩れるのが見える。

 EPMの影響が残っていれば、混乱は拡大して一気に…

 そう考えていたが、事は簡単ではなかった。

 少し全体を後退させながら、体勢を立て直すのが垣間見える。

 磯谷は3機のM18を移動不能にしたところで、55式が被弾判定となり、動作を停止した。


「さすがに一筋縄ではいかないな。佐久間、1号車を前に出すぞ」


「単独ですか?」


「2号車は監視行動中、3、4号車は戦闘指揮中。前に出られるのは1号車だけだ」


「了解。1号車前進します」


「ターレットはこっちで引き取る。集落まで300mに前進させろ」


 磯谷が60式の20㎜コイルガンの操作を行う。佐久間は慎重に60式を前進させ続けた。


「ジャベリン1、突出しすぎです。被弾のリスクが高い!」


 池田の慌てる声が聞こえた。


「この後の敵の反撃に備える。ここが正念場だ。各員踏ん張れ!」


 話題を逸らして返答を終える。伝えた内容は本当のことだ。

 多少無理をしてでもここを確保しなければ、輸送車は足止めを食らうことになる。

 この近辺の掃除を終わらせるのが必須条件だ。最悪、相打ちでも構わない。

 ISYS上の情報を確認しながら牽制射撃を続ける。

 そこで戦況が変化したことを示す表示が追加される。


「もう一隊が、追い込み役だったか。池田、2号車前進させろ。周囲に別戦力はおそらくない」


 こちらに向けて移動中の護衛中隊が交戦状態に入ったことを知らせていた。

 襲撃者は不明アンノウンの表示。ただしマークは戦闘強化服。おそらくもう一隊だ。

 回収予定地点に箱を配置していたのだろう。

 過剰に警戒しすぎたか。


 輸送部隊は苦戦している。

 敵を足止めするために歩兵を展開するためには、足を止めなければならない。

 だが、足を止めれば距離が詰まる。足止めに失敗すれば、兵力を置き去りにすることになる。

 難しい判断を迫られているようだ。

 数台の高機動戦闘車や装甲輸送車。60式も一台やられている。


 旧集落内での戦闘は一進一退の状況だった。

 損耗率では向こうの方が高いはずなのだが、攻撃力がさほど落ちていない。

 どうも破壊判定の戦闘強化服から脱出した兵士が、用意してあった火器を用いて戦闘を継続しているらしい。

 一対一なら、タフネス、命中精度、どれをとっても55式は人間の兵士を上回る能力を発揮する。そこは間違いない。

 敵は強化服をすでに6機失っているが、数自体は減っていなかった。

 こちらの損失は現在2機。数の上では16対12だが、戦力的にはこちらの方が有利。だが、現実として敵を減らすことができていない。

 55式が1機停止判定。携帯型の対装甲ミサイル(ATM)を食らったようだ。

 磯谷は55式の突入準備を始める。停車と同時に…と思っているところで、ISYS上の敵兵の動きが変わった。

 M18が10機揃って、集落の入り口側に撤退していく。

 一方、生身になっている兵士は火力を厚くしている印象だ。

 戦闘強化服を、輸送部隊の前面に移動させるのか?

 一瞬思ったが、別の可能性に気づき、声を上げる。


「本庄、滝本! 兵を下げろ。応戦しつつ可能な限り後退させるんだ! EPMが来る!」


 叫んだ瞬間、集落の北東から短距離ミサイルが発射された。先ほど見失った箱が支援攻撃を行ったのだ。


「着弾まで20秒。佐久間! 対空射撃!」


 60式に装備されているターレットが仰角を取って、高速連射を始める。小口径の多弾頭弾。要はショットガンを空中にばら撒く。

 射程は短いが、命中率は高い。

 数発が命中したが、破壊に至らぬまま、南側の集落入り口付近で空中爆発した。

 画面上にEMP攻撃の影響が表示され、後退していた本庄隊、滝本隊の兵士の動きが一瞬止まり、消極的な牽制射撃を始める。

 磯谷隊は即座に行動を開始する。

 搭載されている6機をすべて発進させて、有線接続で、高速前進させた。

 60式は55式に比べてEPM耐性が高く作られている。

 1号車の格納庫内にいたことが幸いした。

 画面上では計算上の範囲外まで後退していた戦闘強化服隊が、再前進を始めていた。

 

「池田、ここまで来たら周囲の防衛と2、3号車の指揮を頼む。俺は余裕がなくなる」


「了解」


 磯谷は兵士のコントロールをダイレクトモードに切り替えると同時に、マルチコントロールというプログラムを稼働させた。

 磯谷は戦術AIに指示を出す。


「同調準備」


 その言葉と同時に、磯谷のヘルメットのスクリーンは複数の画面が素早く切り替わり続けた。

 その画面を見ながら、磯谷はカウントを取る。


「3…4…5…6機。タイミングはOKだ」


ーマルチコントロール開始ー


 磯谷の操作する55式が少しだけ速度を上げたように感じた。

 集落入り口付近で55式は一斉に腰につながっていたワイヤーを切り離す。

 そして3機一組になり、2方向に分散して前進を続けた。

 この時、磯谷は常識とかけ離れた操作をしていた。

 画面に各55式のメインカメラとステータスなどを表示させる。それを一秒間に4回の速度で切り替えている。

 必要に応じて、特定の55式を集中的にコントロールし、また画面の切り替えごとに、その機体への指示を入れる。直接動作であったり、パターンであったり。

 直接指示をしていない55式は60式に搭載されている戦術AIが補完動作を行う。

 それを不規則に切り替えながら、6機を同時操作していたのだ。

 敵の位置を含めて、味方の機体の相対位置を完璧に把握できる、磯谷だからこそ可能なコントロール方法だ。

 混乱を見せた3、4号車指揮下の機械兵にとどめを刺すべく米兵たちが、前進できなくなる。

 機械兵の動きが、機械兵らしくない。

 生きた人間の動きに、いや、3体が一つの意思を持つ塊のように感じたのだ。

 接近を許すまいと、ATMを発射しようとした兵士がトリガーを引く前に構えをやめる。

 ATMのロックが動作し、戦死の通告がなされたのだ。

 別方向に進んでいた3体の兵士からの、移動しながらの狙撃。

 彼は前方の3体がおとりとして使われたことをこの時に知る。


 人間6人と機械兵6体の戦闘は55式が圧倒する形で終わり、6機の機械兵はそのまま強化服隊に接近する。

 強化服の一機が20㎜コイルガンを連射するが、当たらない。

 悪い夢を見ているようだった。

 機械兵を射線に捕らえたと思った時に、そこに機械兵はいない。

 規則的に動いているはずの機械兵が、人の裏をかくように移動方向を変えながら肉薄してくる。

 その動きに翻弄され接近を許すと、至近距離なら当たるとばかりに連射した。

 先頭の2機はその強化服の脇をあざ笑うかのように、軽やかに駆け抜ける。それに追従しようと振り返ろうとした瞬間。

 3機目が目の前に現れ、至近距離で20㎜コイルガンを発射した。

 ダメージコントロールを確認する。

 損傷はなかった。

 振り返りながら3機目に反撃をしようとした瞬間、戦闘強化服が奇妙な格好で転倒した。

 中にいた兵士は何が起こったのか理解できない。

 3機目の55式は徹甲弾ではなく、拘束弾を使っていた。

 機体のダメージコントロール上では表示されなかったが、演習の管理ネットワークではその効果を正しく再現していた。

 3発の拘束弾は右足鼠径部、右腕基部、頭部の基部に命中しており、その関節の動きがロックされた。

 結果、機体は大きくバランスを崩して転倒したのだ。


 敵は個別に対応したのでは各個撃破されると判断したようだ。

 数の上ではまだ有利。翻弄されるのではなく、集中してまず6機の撃破に専念するフォーメーションのようだ。

 三体一組で動いている機械兵を連携して動きを封じる。

 それは功を奏して、機械兵の前進を止めることに成功した。

 左右に機械兵たちが散る。

 適切に部隊はそれに対応し、半分ずつがそれぞれの機械兵を追尾する。

 動きが読めてきた。

 連携の技術はかなりのものだが、冷静になれば対応できる範疇。

 一機、また一機と撃破する。

 行ける。

 そう思ったのだろう。

 そしてそれもまた仕組まれていた。

 二手に分かれた地点から最短距離で1機の機械兵が接近してきたのだ。

 7機目の機械兵。それは最初のEPMでダウンしていた磯谷配下の機体だった。

 最も近い2機がそちらに銃口を向ける。

 だが、一台は向けた腕が破壊され、向きを変え直さねばならない。

 もう一台はトリガーを引く瞬間に機械兵が消えたように感じた。

 機械兵がスライディングしながら接近を続けていたのである。

 反応が一歩遅れる。

 機械兵はその姿勢から射撃することなく、戦闘強化服の足に滑り込む。

 その反動を使って蹴りながら上体を起こし、さらに強化服の部隊の内側へと飛び込んだ。

 起き上がると同時に一機の強化服を攻撃し、撃破したが至近距離の攻撃を浴び、その55式は動作を停止した。


 それと同時に一斉にダメージコントロールの警報が画面を埋め尽くす。

 戦闘強化服の兵士たちは何が起こったのかわからなかった。


 制御を失っていた3号車、4号車の機械兵が制御を取り戻し、一斉射撃を行ったのだ。

 囮だった。

 

 10機残っていた戦闘強化服は、次の呼吸までの間に全て沈黙した。


「ジャベリン2より、ジャベリン1。大丈夫ですか?」


 池田の声が聞こえる。

 磯谷は荒い息をしながら汗をぬぐっていた。

 目がチカチカして、体の感覚がおかしく感じる。

 大きく2回ほど深呼吸をしてから、応答した。


「こちら磯谷。大丈夫だ。片付いたようだな。箱はどうした?」


「海自に攻撃要請を出しましたよ。大破判定です」


「ご苦労。演習はまだ継続している。損耗状況を確認。回収できる兵士は回収しろ」


「了解です。ジャベリン2、周囲の警戒に当たり、移動準備をします。隊長、少し休んでいてください」


「お言葉に甘える。通信終わり」


 磯谷はヘルメットを外し、シャツのボタンを外す。

 空調の効いているコントロールルーム《指揮シート》で、異常な発汗だった。

 前方のハッチが開いて、佐久間がのぞき込む。


「三佐、水持ってきましたよ。あんまり無理はしないでください」


 磯谷は水のチューブパックを受け取り、キャップを外して一気に飲む。

 そして目を瞑ったまま答えた。


「そうだな。年のせいか、だいぶキツい。ほどほどにするよ」


 磯谷はまだ大きく肩で息をしていた。

 

 佐久間は思う。

 自分は一機の直接制御すら、満足にできていない。

 訓練でこれほどのことができるようになるだろうか。





 一時間後。

 

 輸送用トラックと護衛部隊がプーワイ地域に入ってくる。

 打ち合わせ通りに第一中隊は防衛線を引き、部隊通過後に60式で道を塞いだ。正面からの殴り合いとなる。

 護衛部隊の第二中隊、および機械化歩兵中隊の装甲輸送車がそれに加わる。

 高機動車や装甲戦闘車などはそのままビーチに向かった。


 この時点で追跡してきた部隊は後退を始め、演習の終了が宣言された。

 この際に第一中隊は2号車、並びに3号車が大破。

 かなり激しい演習の幕は閉じた。





 同日 18時 太平洋ハワイ諸島ニイハウ島西部ビーチ自衛隊宿営地


 演習の結果を評価する会議において、第一中隊はその戦果を評価されたが、一方で、磯谷の威嚇射撃と称した攻撃が行われた可能性に関して追及を受ける。

 磯谷は遮蔽装置で正確な位置が確認できなかった、意図的ではなく、偶発的な事故であったと主張。

 最後は威嚇射撃は十分に安全に配慮し、上空に向けるのが基本であると、みっちり絞られることになった。

 磯谷は作戦途中からコードネームを使用せずに通信を行ったことも、指揮上の問題として告げられ、報告書という名の反省文を書くことになる。


 部隊は島からの撤収を終えて20時に出発。日本への帰路に就いた。


 もちろん、この演習がアメリカ軍の機械兵に対する考え方を変えるきっかけとなったことを、自衛隊は知らない。


 この演習に参加した兵たちの語る「自衛隊の人形遣い」の話は、その後アメリカ陸軍で割と知られることになる。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ