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第三章 其の三 岩の合間に咲く薔薇

 自由の冒険団一行はロンソルトと別れた後、薄暗くジメジメとした道を進む。しばらくして道の先に明かりが見えた。道を抜けると中央に見上げる程大きな岩が鎮座する空間へと辿り着く。

「うわあ大きいね」

 呆気にとられるサクヤの横でアンジーは大岩を睨む。

「実際、目の前に立つとかなりの魔力が通ってるな」

「魔力を帯びた岩か。ということはこいつは…」

「グダグダ言ってねえで、先天必勝!」

 ゾイドの言葉を待たずしてイチは武器をピッケルに変化させ力の限り振り下ろす。

 耳の奥を貫く甲高い音が火花と共に辺りに散る。音が通路の奥へ響いていく。それに続くように腹の底が震える地鳴りと音を大岩が放つ。大岩は次第に姿を変え、その真の姿を現す。

「やっぱりゴーレムか…というかイチ!先走って攻撃してんじゃねえ!作戦とか色々あるだろうが!」

「やっちまったもんはしょうがねえ。過去を悔やんでも何も生まれないぞ」

「あとで覚えてろよ…」

 ゴーレムは頭と思わしき部分をから二つの鋭い光を放ちイチ達に向ける。どうやら四人を敵と認識したらしい。ピッケルの仕返しと言わんばかりに巨大な腕を横へと豪快に振り回す。大岩が地面を抉りながら四人へと迫る。

『剛腕の盾』

 ゾイドはシールドを展開させる。何とか受け止めはしたが、ゴーレムは諦めずもう一度力を込める。そしてそのまま力任せに腕を振りぬきゾイドを壁に叩きつける。

「ゾイド!」

「ぐっ…大丈夫だ!問題ない!」

 ゾイドの言葉を聞き三人はすぐに意識をゴーレムに戻す。腕を振りぬいたおかげで大きな隙が出来ていた。それを見逃さずにイチとサクヤが斬りかかる。しかし岩に対して斬撃は効果が薄くサクヤでも断ち切ることは出来なかった。次にゾイドとアンジーがゴーレムの死角をつくように攻撃する。ゾイドは盾で、アンジーはメイスで殴りつけるが岩に傷はつかない。

「こいつ…!魔力で岩を強化してやがる!」

「やみくもに攻撃してもこっちの体力が切れるぞ。まずは核を見つけねえと」

 焦りを見せる四人に対し、ゴーレムは余裕を持った動きで大岩で構成された腕を頭上に掲げ、力の限り振り下ろす。

『慈悲なき隕石』

 岩は魔力を帯びさらに強固なものへとなり、放たれた一撃は絶大な破壊力を持っていた。四人はその場から素早く飛び退きその一撃から距離を取る。ゴーレムはそのまま地面を叩き、その衝撃は地面、壁、天井、空間全てを激しく揺らす。頭上から大小問わず岩が雨のように降ってくる。

「おいおい…!」

 四人はそれぞれ岩を躱したり砕いたり岩の豪雨をやり過ごす。ようやく揺れが収まり敵を視界に収める。

「野郎…やってくれるじゃねえか」

「今度はこっちの番だよ!いくよイチ!」

「よっしゃ!」

 二人は左右から挟み込むように攻撃を仕掛ける。イチは武器を槍に変化させ肩へ、サクヤは武器に雷を纏わせ膝へ一撃を喰らわせる。

一度限りの模倣(フラジールミラー)・蛮族の一番槍』

『雷穿』

 ゴーレムは肩と足を片方ずつ失うことでバランスを崩し無様に倒れ込む。その際、盛大に身体を構成する岩の破片を辺りにまき散らす。

「こいつ、つなぎ目は案外脆いぜ」

「気い抜くなよ。ゴーレムは核を破壊しない限り動き続けるぞ」

 ゾイドの忠告した通り、ゴーレムは少しも怯む様子を見せず起き上がろうとする。

「だったら何度でもぶっ壊すだけだ」

 その時アンジーが奇妙な魔力の流れを感じ、目の端で何かが動くのを捉えた。

「足元!」

『岩流渦』

 突如として飛び散った破片がゴーレムを中心とし螺旋状の渦を巻き始める。

 一同はアンジーの声ですぐさまその場で跳躍し岩の流れを見極めようするが、流れの中で岩と岩がぶつかり不規則な軌道をみせる。しかも足元は先程落ちてきた岩のせいでおぼつかず思うように動けない。イチ達は何とか対応するが切り傷や打撲によるダメージが徐々に増えていく。全ての破片がゴーレムの元へ戻る頃には無傷の者は一人としておらず、あのサクヤですら全身に切り傷を負っていた。

「手足を破壊すると修復するだけじゃなく、こうなるわけだ。ロンソルトさんをやったのは恐らくこれだね」

「さっさと決めねえと面倒だぞ。アンジー!核の場所わかるか!?」

「全身に魔力が滾りすぎてさすがにここからじゃ探れねえ。直で探る」

「よし。お前ら次で決めるぞ。イチ!サクヤ!まずはアンジーの援護だ!合わせろ!」

「「おう!」」

 ゾイドの掛け声と共に三人はゴーレムへと向かう。

『番兵の行進』

 衝撃波でゴーレムは傾くが岩石で出来た重い身体を倒すまでにはいかなかった。足元の脆い生物を潰そうと岩の腕が振り上げられる。魔力が込められ『慈悲なき隕石』の動作へ入る。しかしそのスキルが発動されることはなかった。

 一筋の光が走った後、歪な手の形をした大岩が落ちる。その側にはサクヤの姿があった。

 サクヤは『慈悲なき隕石』の予備動作に目をつけ、ゴーレムが攻撃を放つより先に『雷鳴斬』で手首の部位を素早く切り落とす。ゴーレムは懲りずに残った手を振り上げるが、その鈍重な動きではサクヤを上回ることは不可能だった。もう片方の手首も切り落とされ、攻撃手段を失いすぐさま修復へと移る。

『岩流渦』

「やらせるかよ」

一度限りの模倣(フラジールミラー)・岩流渦』

 イチがスキルを同時に発動させるとゴーレムの元へと戻るはずの岩はピタリとその場で動かなくなる。

 イチは岩流渦の仕組みを肌で理解していた。岩流渦とは、自身の魔力が通った岩を操るスキルであり、ゴーレムは渦状に回転させ石の竜巻を発生させていた。イチはスキルを発動させ、ゴーレムが作り出そうとする渦とは真逆の方向に力をかける。結果、石には正反対に均等な力がかかり、何処へ行くでもなく制止する。

 ゴーレムには魔力を操る知能はあっても、目の前の小さな肉塊が何をしたか理解するための知識は持ち合わせておらず状況を呑み込めない。そのうえ二つの強力なスキルを奪われたため何も出来ずにいた。

 その状態は思考停止。または諦めとも言えた。

 アンジーはその隙を見逃さなかった。

 ゾイドの肩を借り、大きく跳躍する。

 その顔に笑みを浮かべ、思考することを諦め単なる岩塊と自ら成り下がったゴーレムを嘲笑うかのようだった。ゴーレムの頭へとメイスを叩きつけありったけの魔力を流し込む。大量の魔力を急激に流されたゴーレムの魔力回路は暴走し、身体の制御が出来なくなったゴーレムは糸が絡まった操り人形のような無様な動きを見せる。その間にアンジーは魔力の流れを読み、核の場所を見つける。

「そこだ!」

イタズラ妖精の戯れ(アノーイングフライ)

 光の玉をゴーレムの体に付着させ、核の場所を知らせる。サクヤがいち早くそれに反応しスキルを発動する。

『雷穿』

 雷を伴った突きは核ごとゴーレムの身体を貫く。ゴーレムの目から光が消え、魔力によって繋ぎ止められていた岩は大きな音を立ててバラバラに崩れる。

「よしッ!」

「なんとか勝てたな」

 四人は喜びと共に安堵の表情を覗かせる。その最中アンジーは落ち着きなくキョロキョロと辺りを見渡す。

「ところで迷宮核はどこにあるんだ?」

「そういやそうだな」

 それを聞いて全員が辺りを探すがそれらしきものも、次へと続く道も無い。

「あのゴーレムが迷宮核だったのさ」

 ウィズに支えられ、ロンソルトが姿を現す。よく状況を呑み込めていない四人に祝福の言葉を述べる。

「おめでとう。勝負は君達の勝利だ」

「ということは」

「迷宮攻略完了だ!」

「さあさあ勝者は称賛されるのが義務さ!早速帰ろうじゃないか!」

 はしゃぐ四人を嬉し気に見るロンソルトだったが、様子を見て声高らかに促す。

 イチ達は顔を見合わせて帰還の魔石を発動させる。

 栄光の塔へと帰還するととめどない歓声が出迎える。そしてラビが今日一番の声で宣言する。

「攻略対決…勝者は自由の冒険団!」

 大盛況のもと攻略対決の幕は閉じた。


 後日、イチの元へ一通の手紙と荷物が届けられた。

 送り主はロンソルト。イチはさっそく他の三人を酒場サイクロプスの樽へと呼びつけた。

「ったく荷物くらいテメエで開けろよ」

「仕方ねえだろ手紙に四人で仲良く分けてくれって書いてあるんだからよ」

「どれ」

 ゾイドはイチの手から手紙を奪い、目を通す。

「何て書いてあるの?」

「あー…かなりの長文だが、要約すると『いい勝負だった。迷惑をかけて申し訳なかった。またイチとアンジーにも失礼なことを言ってすまない。そして感謝する。勝利への祝福と数々の非礼を詫びて品を送る』と言った感じか」

「品?これのことか」

「そうだろうな」

「中身はなんだろうね」

「これがまた結構重いんだよ。まったく詫びの品なんて別に無理しなくていいのに。ゲへへ」

「イチ、下心が漏れてるぞ」

「おっと…気を取り直して。箱の中身はなんじゃらほい!」

 勢いよく箱を開けると迷宮で見つけたと思わしき鉱石が三つ…そしてその下にロンソルトのブロマイドやインタビュー雑誌がこれでもかと入っていた。そこに写るロンソルトは坊主姿であの対決後に当初の約束を果たしたらしい。また雑誌には『飾らない男の生き様』というタイトルの元、ロンソルトの通り名が『華麗なるワイルドフラワー』から『無骨なる薔薇』へと変わったことが書かれていた。

「……逞しい奴だ」

「どうするよ、これ」

「燃やしとけ」

 

 その頃イチ達によるプレゼントの評価を知らない送り主は栄光の塔にいた。

 栄光の塔 社長室

 華々しい褐色の布地が特徴的な椅子へと腰掛けた若い男、ニコル・アリーシャは少し困った様子で机越しに立つ人物、もっと言えばその丸刈りの頭を見ていた。その隣に立つビットはリアクションをするまいと無表情を貫いていた。

「随分と、スッキリしましたね」

「どうだい?この僕もなかなかだろう?」

 ロンソルトは頭を触りながら自信満々で答える。アリーシャは愛想笑いをし、話題を変える。

「そういえば新しい通り名は気に入ってくれましたか?」

「もちろんさ。前のもよかったけれど、今の風体には少し似合わないからね」

「それはよかったです。…それにしても、あなたが負けてしまうとは。ケガの方は平気で?」

「アンジー君の治療が素晴らしくてね。この通り傷一つないよ。それに僕が負けた方が君にとっては都合が良かったんじゃないかな?」

 アリーシャの真意を探る意を込めてロンソルトは軽口を叩く。ビットもそれに同調し少しばかり大袈裟にジェスチャーをする。

「そうね。今回の対決は自由の冒険団が活躍する姿を見せるのが魂胆だったんじゃないかしら?」

「確かに」とアリーシャは勘弁してほしいとでもいうように力なく笑う。だが乾いた笑いとは違い、その顔は真剣そのもので話を続ける。

「自由の冒険団の実力を世に知らせるためあなたに対決を頼みました。しかし、あなたの負けが見たかったわけではありませんからね。私は社長であるのと同時にあなた方攻略者のファンなのですから」

 溢れんばかりの情熱、子供のような無垢な熱意を目に宿す。

 ロンソルトは相変わらずのその目に肩をすくめる。

「それは失礼したね。それで君の目標は達成できたのかな?」

「その件はビットさんから」

「今回の攻略対決、まずは興行の面から言うと成功ね。そして、自由の冒険団とサクヤ・カグラザカの評判については、以前の勇者サクヤを望む声が未だ根強く見られるけれど、概ね以前よりポジティブな意見が増えているわ。社長の思惑通りね」

「いつまでも勇者サクヤを望まれていては彼女もやりづらいでしょう。それに個人的な感想を言うなら今のサクヤさんの方がより生き生きしていて、見てる方も気分がいい」

「それには私も同じね」

「僕もだ」

「サクヤさんはいいとして他の三人はあなたから見てどうでした?」

「僕から見て?ふむ…そうだね。ビジョンでの映像を見る限り、幼馴染なだけあって連携は攻略者の中でもトップクラスだろう。アンジー君とゾイド君は能力的には問題ないと思うけれど、まだ迷宮の環境や魔物との戦闘に慣れてないように見えたよ。まだまだ実力が出し切れてないといったところかな」

「なるほど。それで…彼については」

 アリーシャの質問にロンソルトはしばしの間思案する。そして絞り出すように答える。

「正直に言うと、よくわからない。イチ君については実力が出し切れていないわけでもないようだけど、かといって全力を出し切っているわけでもない」

「能力をセーブしているということですか?」

「いや。能力をセーブできるほど彼には余裕がないはずさ。だから、強いて言うなら何かまだ奥の手を隠してる、と言ったところかな」

「似てますね」

「何がだい?」

「あなたの他にビットさんや何人かの『通り名持ち』攻略者に聞いたところ、概ね同じ意見だったのですよ」

「それはまた。一応、最終評価としては全員文句なしと伝えておくよ。むしろ彼らはすぐにトップまで上って来るよ。今のうちに彼らの通り名を考えたほうがいいんじゃないかな?」

「ご忠告ありがたく受け取っておきます。今回の件、本当にありがとうございました」

「いやなに僕も楽しかったよ。それじゃあそろそろ失礼するよ」

 ロンソルトは軽く手を振り背を向ける。ドアの前で仰々しく頭を下げると静かに部屋を出て行く。

 足音が遠ざかっていくのに耳を澄ませ、完全に聞こえなくなるとアリーシャはビットに計画の手筈を問う。

「ビットさん、例の準備は進んでいますか?」

「ええ。関係者への連絡、船の手配やその他諸々、各部長からも問題は聞いてないわ」

「勇者サクヤからの脱却はもう少しかかりそうですね」

 大きく息を吐き椅子の背もたれに体重を預ける。姿勢だけ見ると疲れ果てた様子だったが、やはりその目は燃えるように輝いていた。


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