第三章 其の二 運命は劇的に
その日、栄光の塔はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
あの自由の冒険団が対決する。
それは瞬く間に攻略の間で広まった。強いのか弱いのかイマイチ実力が読めない噂のパーティーの本気を見れるかもしれないと言った好奇心が攻略者の注目を集めた。
控室で待機するイチ達はその熱気に居心地の悪さを感じることもなく至極落ち着いた様子でいた。
「かなり盛り上がってるな。ここまで騒ぎが聞こえてくるぞ」
「うん。新人パーティーがここまで注目されるなんて滅多にないよ」
「ふん、そっちの方が私らの実力を見せつけてやれるから都合いいけどな」
「そういや今回の相手…麗しき箱庭ってのは強いのか?」
「うーん、パーティーとしては成績だけ見ると中堅より下って感じかな?でもあのロンソルトって人はかなり強いよ」
「あのふざけた『通り名持ち』か」
「通り名ってのはある程度の実力を認められると付けられる、だよな?」
「うん。まあ全部社長が決めてるみたいだから細かい基準はわかんないけど。ともかく、通り名は本人の経歴や戦い方に沿った名前がつけられるね。私なら『元勇者』シュラさんなら『鬼殺し』って感じで。通り名持ちは誰でも油断できないよ。ロンソルトさんも純粋な剣術ならトップクラスだし、今の私ならスキルを使っても真っ向勝負じゃ良くて五分かどうか…」
「マジ?あれが?」
「まっそんなこと言ってもしゃあねえだろ」
不安の顔を浮かべる三人にイチは靴ひも二重にを結びながら声を掛ける。その手首にはバングルに変化させた『無限』があった。
「そうは言ってもよイチ」
「今回は別に殴り合うわけでもねえし。そもそも、俺らがやるのは冒険だ。未知や危険は上等だよ」
「だね」
「それもそうか。よしっ誰が相手だろうがぶっ飛ばす」
「今日のルールじゃ直接の対決は無しだぞ、アンジー」
「わかってるよ。心意気だよ心意気」
控室の扉が開き係員が顔を出す。
「自由の冒険団の皆様、開始の時刻になりました」
「お前ら準備はいいか?」
「応!」と三人が声を揃えて気迫を見せる。それを見たイチは堂々と胸を張り先頭を切る。
「さあ冒険の始まりだ!」
栄光の塔ロビーは普段とは打って変わってこれから行われるショーに向けデザインされていた。中央に巨大な台座、そこから伸びるように迷宮の入り口へと続く道が用意されている。
攻略者と一般人、区別なしに混ざった大勢の観客が今日の主役たちを今か今かと待ちかねていた。
「おい!来たぞ!」と誰かが叫んだ。
まず姿を現したのは麗しき箱庭。ロンソルトは両手を大きく広げ、相変わらず舞台役者の如く堂々と台座を目指し歩みを進める。
次に自由の冒険団が登場する。
様々な意味で注目を集めるパーティーの登場に会場は水を打ったようにシンと静まり返る。予想外の反応に四人は思わず小声で話す。
「何だこの反応」
「感動で声も出ねえんじゃねえか?なんたって私ら今一番話題のパーティーだからな」
「だったらイチ期待に応えてあげなよ。ファンサだよファンサ」
「まったくしゃあねえな。はあい、皆さん!俺らが噂の自由の冒険団でーす!」
イチが笑顔で語りかけた瞬間、静寂は終わりを告げた。
「テメエなんざ知るか!引っ込めクソ無職!」
ダムが崩壊したかのように歓声を装う気もないヤジが一気に湧き上がる。中には過去アンジーに喧嘩を吹っ掛け返り討ちにされた者、ゾイドに逮捕された者達も私怨を晴らしにヤジを飛ばす。
「くたばれアンジー!」
「精々無様にあがけよゾイド!」
その他バリエーション豊かな罵詈雑言が四人に浴びせられる。
「…予想はしてたがここまでとは」
ため息をつくゾイドの後ろで三人はひそひそと話す。
「おい。誰からシバく?あいつか?それともあいつか?」
「隊長、あの人がいいんじゃないですか?見た所一番調子こいてますぜ」
「隊長、ご命令とあらばいつでも行けます」
「やめろお前ら。こういうのもわかってて攻略者になったんだろうが。いちいちつまらんヤジにキレるな」
「チッ…わかったよ。キレなきゃいいんだろキレなきゃ」
「おい!おまけ三人!勇者の足引っ張るなよ!」
「ああん?」
「キレるなっての」
今にも襲い掛かりそうなアンジーをゾイドは腕で押さえ引きずりながら台座を目指す。
「放せえ!メイスの先っぽぶち込むだけだから、ほんのちょっとでいいから!」
「どこにぶち込むつもりだ。おいサクヤ、こういう時どうするべきだ?」
「ええ?私基本チヤホヤされてたからな…そういやビット姐さん曰く『レディたるもの人前では如何なる時もとびきりの笑顔でね』って」
「なるほど。俺達のプリティー&ビューティーなスマイルで虜にするわけだな。任せとけ」
「お前に一ミリも関係ない単語が聞こえたが」
「細かいことは置いといてさあご一緒に!はいせーっの!スマ~イル!」
そこには悪魔の顔が四つあった。
限界まで引き上げられた口角とそこから見える鋭い歯、目はギョロギョロと動き血走っている。四人に笑顔を向けられた人々は「ひっ」小さな悲鳴を上げ一歩後ずさり、あまりの恐怖に声一つ出さない。
「おおすごい。効果てきめんだね」
「俺達の魅力がここまでとは」
四人はその後も笑顔を振りまき歩く。
「やっぱりクレイジーだなあいつら」
「なんか危ねえもんでもやってるんじゃねえの…」
両パーティーが中央の台座に出揃うと、その間に立つラビは息を大きく吸い込み声を張り上げる。
「ただいまより攻略対決を行います?対決の舞台に立つは『華麗なるワイルドフラワー』ロンソルト率いる麗しき箱庭!」
ロンソルトは高笑いと共に大仰にポーズを決め歓声に応える。
「そして対峙するはリーダー『元勇者』サクヤを軸に結成された自由の──」
「ヘーイ!ラビちゃん!誰がリーダーだって?自由の冒険団のリーダーはこの俺だ!」
「え?嘘?」
ラビは近くのスタッフに慌てて確認する。スタッフは何度も首を縦に振り訂正を求める。
「ほぉら。やっぱり私の方がリーダーに相応しいじゃん。どうするリーダーの座今譲っちゃう?譲っちゃう?」
「はっはっは。寝言は寝て言え。実力行使してもいいんだぞ?」
「そんな大きい口叩いてもいいの?後悔しても知んないからね?」
「こっちのセリフだ!」
売り言葉に買い言葉、舞台上で取っ組み合いを始める二人。観客は突然の仲間割れに茫然とする。
「こんな人前で暴れるな!」
場をわきまえない二人に向かって声を荒げるゾイド。その後ろでアンジーが係員に向かってこそこそと何か話す。
「なあ酒無い?アルコール入れたいんだけど。え?ダメ?ほんとちょっとでいいからさ」
「アンジーお前も何してんだ!」
「いや、いざ始まるかと思うと柄にもなくちょっと緊張しちまってよ。ちょっくらアルコールで誤魔化そうと」
「くたばりな!」
「そっちがね!」
好き放題に振舞う三人にゾイドは身体をわなわなと震わせ、怒りを漂わせる。次の瞬間、素早い動きで順に三人を捕獲していく。
「テメエら少しはじっとしてろ…!」
「ギブギブ…しまってる……」
屈強な両腕で三人まとめて押さえつけ、ラビにアイコンタクトを送る。
「えっと、そんなわけで自由の冒険団です!」
自由すぎる四人にパニックのラビはほぼやっつけで紹介をすます。
「何と言うか自由、ですね。あの四人」
「そうだね。余りあるパッションを見てるとこちらまで奮い立つよ!」
「そんないいものでは無いですけど」
両者の紹介が慌ただしく終わり、対決のルール説明へと移る。
「えー、先ほどは失礼しました。では気を取り直して…今回両パーティーに挑戦してして頂く迷宮はこちら!」
頭上の巨大ビジョンに迷宮の簡単なマップが映し出される。いくつもの楕円形の空間と空間を細い道が繋ぎ、複数の分岐がさらに空間を複雑に繋げる。
「ふむ。これはまた…」
「アリの巣みてえな迷宮だな」
「まさしく!この迷宮は通称『蟻の巣』。つい三日前ほどから急激に魔物が活発化し空間が今も広がっています。調査によると迷宮核の出現が原因とみられており、三組のパーティーが挑みましたが最奥までたどり着けず。その三組が持ち帰った情報によると選択した道によっては魔物との連戦を強いられるがその逆に眩い鉱石だらけの空間もあったとのこと。勝利条件は相手より先に迷宮核を破壊すること!複雑に広がるこの迷宮を両者どのように攻略するのか!」
迷宮の説明も終わり、両パーティーそれぞれ仲間と話し攻略プランを立てる。アンジーのプランを聞いたゾイドは頭を抱える。逆にイチとサクヤは楽し気に目を輝かせる。それを見てゾイドは頭を抱える。
「…一応聞くがもう少し確実な方法をとるつもりは?」
「ない!」
「そんなに心配すんなってゾイド」
「なるようになるって」
「ほんとお前らは…しゃあねえ腹括るか」
「さすがゾイド。そうこなくっちゃ」
「両者覚悟はいいですか?よければ位置についてください!」
迷宮入口に立つ二つのパーティー。リーダー同士が歩み寄り握手を交わす。両者その顔には笑みが浮かべられていた。
「君達の活躍、期待しているよ」
「期待通り負かしてやるよ」
二人がそれぞれのパーティーの元へと戻り息を整えたのを見てラビが声高らかに宣言する。
「それでは迷宮攻略スタート!」
迷宮に降り立つと目の前には早速二つの分岐があった。自由の冒険団は一瞬の迷いも見せずにアンジーを先頭に勢いよく駆けだす。初動の遅れに麗しき箱庭のメンバーは焦りを見せるが、リーダーのロンソルトは至極落ち着いた様子で左右の道を観察している。
「ふむ、それでは僕らはこちらへ進もうか」
「それならリーダー急いで進みましょう」
「落ち着きたまえ。ところで、なぜ僕がこの道を選んだかわかるかい?」
「なぜ?……魔物がいるからですか?」
「なぜ魔物がいると?」
「なんだか嫌な感覚がするから、です」
「はっはっは!いやぁ君の感覚は素晴らしいね。そういう理屈を超えた感覚は案外馬鹿に出来ないものでね、それで危機を乗り越えた人を僕は知っているよ。君も大切にしたまえ」
「それで…どうして彼らが行った道には魔物がいると?」
「二つの道をよく見比べて見てごらん。彼らが通った道には地面や壁面に薄っすらと道のようなものが出来てる。恐らく魔物が通った後だろうね。この大きさと規則正しい感じからするに昆虫系の魔物かな?あとはシンプルに薄暗くて分かりにくいが石の影に糞がある。これらの情報から僕は彼らとは反対の道が安全だと判断したのさ。もっとも安全だからと言って正しい道は限らないけどね」
「なるほど」
「いつもの君ならこのくらい気づけるはずだよ。はやる気持ちはわかるが僕らは僕らのペースで確実に進もう。さあ!気を取り直していこうじゃないか!」
ロンソルトの高笑いと共に麗しき箱庭は歩を進める。
一方その頃、自由の冒険団はロンソルトが予想した通り蟻型の魔物に囲まれていた。大きさは人の半分程で強さは一撃で仕留められる程度だが、その数があまりに多い。退路は断たれ、巣穴からは以前と湧き出ている。
「さっそく『外れ』だな!アンジー!」
「うるせえ!余所見してっとやられるぞ!」
「アンちゃん次はどの道?」
「次は真ん中だ!ゾイド!」
「おう!任せろ!」
ゾイドは盾を構えると前腕に力を込め重心を低くし狙いを定める。
「行くぞぉッ!」
『番兵の行進』
盾を前面に構えたまま荒々しく魔物を蹴散らしながら突進する。進路上にいた魔物はなすすべなく無残に散っていった。最後に盾を突き出し衝撃波が放たれる。瞬く間に魔物の死骸で舗装された道が出来上がりゾイドはそのまま道を突っ切る。
次の空間でゾイドは目を輝かせ後ろに続く三人へ嬉し気な声を出す。
「おい、今度は『あたり』だぜ」
そこでは不純物を一切持たず、光を辺りに乱反射させ眩い輝きを放つ水晶が至る所から顔を覗かせていた。ゾイドに追いついた三人も思わず歓声を上げる。
「すげえ…」
「さっきの蟻が来る前にさっさと回収しようぜ」
手頃なものを回収するとまたアンジーの示した道を進む。そこからは強力な魔物、豪華な鉱石、鉱石、魔物、魔物、鉱石の順で最悪と最高を引き当てる。その頃には四人の手には様々な種類の鉱石が溢れんばかりに抱えられていた。
その様子をビジョン越しに見ていた観客達は皆一様に不思議そうな顔をしていた。
誰もが浮かべていた疑問を誰かがポツリと呟いた。
「なんであんだけ幸運と不運が連続するんだ?」
その問いに答えられる者は誰もいなかった。司会を務めるラビも戸惑いを隠せず手元の資料を必死に確認するが、そんな彼女の横に歩み寄る人影があった。
「さあ!自由の冒険団、アンジーの『劇的運命』によって波乱の道を進むが、これは吉と出るのか凶と出るのか!」
マイクを手にしたビットが聞き慣れないスキル名を言い、観客にはまた別の困惑が広がる。ラビはそんな会場の思いを代表するかのようにスキル名を復唱する。
「劇的、運命…?」
「そうよ。遊び人が持つスキルの一つね」
「どんなスキルなんですか?」
「一言で言えば運を二極化させるスキルよ」
「二曲、歌?」
「ふふっ。ごめんなさい少し難しすぎたわね。そうね…自分の行動が招く結果を必ず大成功か大失敗にするスキル、と言えばいいかしら?」
「ほぇーなるほど。あれ?ということはこの場合は…」
「『道を選ぶ』という行動の結果が大成功か大失敗になっているわね」
「えっと、それじゃあもしかして…自由の冒険団はこの迷宮を完全な運任せで攻略しようとしているわけですか?」
「その通り!経験と知識で堅実に乗り切ろうとする麗しき箱庭に対して一か八かのギャンブルに出た自由の冒険団!この両者の真逆の選択が一体どうなるのか、これは見物よ?」
ビットの解説と煽りにより会場は徐々に熱気を取り戻していく。
一方イチとサクヤは大量の鉱石を両手に笑いが止まらないでいた。
「こんだけありゃあ借金返済もあっという間だ!おいサクヤ借金返し終わったらどうするよ?」
「まずはねえ、ラーメンたらふく食べたい!トッピング全乗せで!」
「おう乗せろ乗せろ。ついでにチャーハンと餃子もつけとけ。このままいけばステーキ食い放題も夢じゃねえぜ!」
「パフェも?」
「パフェもだ!」
「もしかしてお寿司も?」
「もしかしなくても寿司もだ!」
「「ギャハハハハハ??」」
「悪党みてえな笑いだ」
調子に乗ったイチには大抵ロクなことが起こらない、ということをこれまでの経験から痛い程知っているアンジーがぼやく。そんなイチは追い打ちとばかりに高らかに宣言する。
「これから余程なことが起こらねえ限り俺らの将来はハッピーだぜ!」
「…今、盛大かつ雑にいらんフラグが立った気がする」
「気がするじゃなくて確実に立ったぞ」
アンジーとゾイドの予感はこの後見事に的中することになる。しかし二人がそのことを知るわけもなく、一抹の不安を覚えながら今はただ目の前の鉱石を採取することに集中した。
その後もアンジーの『劇的運命』を頼りに道を進み、魔物を倒し鉱石を集めていく一行。しかしその足はあるところで止まってしまう。
「行き止まりかよ…」
「ここが最深部…なわなけないよね」
「だろうな」
そこにはいくつもの道があったが、そのどれもがまだ『途中』であった。道を覗くと人の背丈を優に超えるモグラ型の魔物が一心不乱に掘り進めていた。
「こいつらが迷宮を広げていたのか」
「クソ。とんだ外れを引いたもんだぜ。さっさと戻らねえと」
「ちょい待ちアンジー」
「あん?」
アンジーが振り返るとイチは無限をかぎ爪に変化させ、悪だくみを思いついたかのようないやらしい笑みを浮かべていた。
「次は『どこ』に進む?」
同時刻、麗しき箱庭は自由の冒険団とは正反対に、堅実にかつ順調に歩を進めていた。丁度今しがた少々厄介な魔物を倒し終え、息を整えているところだった。
「リーダー終わりました」
「素晴らしい!君達、動きがどんどんよくなってきている!若者の成長力は凄まじいね!」
「…あなたに比べればまだまだです。私達はあなたの足手まといにしかなっていない」
「そう自分を卑下するのはやめたまえ。君達なら僕なんてあっという間に追い越してしまうだろう」
「まったく…自分を卑下してるのはどっちだか。それにしても随分奥まで来た気がしますが、もうそろそろでしょうか?」
「そうだね…」
ロンソルトは道の奥を見据え、その先にいる何かを感じ取る。
「魔力に関して僕は専門外だからね。君の方が何か感じているんじゃないかな?」
「ええ、まあ。巨大な魔力の塊を奥から」
「さて、ここが一番の山場だ。皆、気を引き締めて行こうじゃないか」
態勢を整え麗しき箱庭は道の奥へと消えていく。
そのしばらく後、麗しき箱庭がいた空間に地鳴りのような音が遠くから響いてくる。耳を澄ませ、次第に近づく音に注意するとそれは大量の水が流れる音だというのがわかった。その音に混じって微かに人の声がしていた。声の主はもちろん自由の冒険団だった。
サクヤ達は溺れぬように何とかもがきながら呼吸だけは確保して、濁流に流されるままとなっていた。行き止まりに辿り着いたあの後、イチの一度限りの模倣でアンジーが指した方向を掘り進めたまでは良かったが、どうやら水脈を掘ってしまったようで大量の水に流されてしまっていた。しかし、流されるにつれて段々と水量は減っていき、先ほど麗しき箱庭がいた場所で水はほぼほぼ引いた。全身ずぶ濡れの一同は大きく深呼吸して足りない酸素を補う。
「まさか…水脈を掘り当てるとは。これは当たりなのか?」
「まあ水は場所によっちゃ宝石より価値はあるけどな。一応、当たり…なんだろうな」
「ああッ!」
「どうしたサクヤ?」
「今まで集めた鉱石が、全部…全部流されちゃった」
「あーあの流れじゃ仕方ねえか」
「私の借金が…パフェが…」
「ったくこれだからイチが調子に乗るとロクなことが起こらねえんだよ。おいイチ…あっヤベ、こいつ白目向いてやがる」
「はあ?しょうがねえな。ほらイチ。さっさと起きろ」
ゾイドはイチの両足を持ち逆さにし軽く揺らす。そしてその頬をサクヤとアンジーが引っ叩く。
「ほれほれほれほれほれ」
三人は息を合わせて傍から見れば拷問のような様でイチを目覚めさせる。するとイチは水と共に石を吐き出す。
「おお。起きた」
「結局鉱石はこの一つだけか」
「ちゃんと洗えよそれ。こいつが呑み込んでたんだからな」
「テメエら…もう少しマシな起こし方出来ねえのか」
「はははっ!ここまで来てもそれほど元気がある余っているとは。僕が見込んだだけのことはあるよ!」
目を覚まさせるだけで騒ぐ四人にすぐ側にいたロンソルトが嬉し気な声を上げる。四人はなぜここにいると言いたげに視線を向けるが、ロンソルトの姿に声を失う。ロンソルトは身体の半身に無数の傷を負い血まみれの状態に陥り、近づけば血液特有の鉄の匂いが鼻を刺激する。隣にいるウィズが治療を試みているが、治癒魔法の心得が無いのか治療は一向に進んでいない。
「お前それ…」
「少しミスを犯してしまってね。なに、見た目ほど酷くはないさ。心配しないでおくれ」
「アンジー」
「わかってる。ほら、傷見せな」
「ここで君に貴重な魔力を使わせるわけにはいかないよ。治療は結構さ」
「ふざけんな。人一人治すだけで枯れるほどお粗末な魔力じゃねえんだよ。大人しく治療受けな」
「すまない」
ロンソルトはアンジーに言われるがまま治療を受ける。その間にイチ達が今の彼らの状況を聞く。
「他の連中は?無事なのか?」
「もちろん。彼らは戦闘の途中で魔石が発動してしまってね」
「ロンソルトさんの魔石は…」
「お察しのとおり僕ら二人は戦いの中で落としてしまったんだ。一つでも残っていれば帰れたのだけど、お恥ずかしながらこうして救助を待っていたわけだよ」
「…すいませんリーダー私が不甲斐ないばかりに」
側にいたウィズは唇を噛みしめ絞り出すように声を出す。
「君が謝ることじゃないさ。あれは僕の判断ミスだよ」
「いや、私をかばったせいで…」
「ふむ。ならば僕ら二人のミスだ。これから共に精進しようじゃないか」
「……はい」
「ほらよ傷は塞いだぜ。ただわかってると思うが治癒魔法は体力までは治せねえからな。数日は安静にしとけよ」
「ああ、わかってるさ。ありがとう」
「さてと、この先が最深部か」
「君達、敵の特徴だけど…」
「ストップ。まだ勝負の途中ですよ。勝負はフェアじゃないと」
「それに未知と危険は冒険のロマンだぜ?俺らからロマンを奪わないでくれよ」
「そうか。それは無粋な真似をしてしまったね。申し訳ない」
「気にすんなって。…そんじゃあ行くとしますか!」
自由の冒険団は意気揚々と道を進んでいく。




