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となりのとなり

 頭突き兎の大群に追い掛け回されながら三階層まで逃げてきた四人は水場で息を整えていた。

 三階層からは景色はがらりと変わり、天井は相変わらず高いが石レンガの床と壁で囲まれた狭い道、まさしく迷宮と呼べる場所となっていた。

「久々に、うぷっ…こんなに、走った、ぜ」

「誰だ…この、レベル、なら…楽勝、言ったやつ」

「私は、言って、ない、よ」

「お前らといると…こんなの、ばっかだ」

「さっきも…聞いた…しつこいっ」

 息が整った一同はマップを確認し、一度作戦会議をする。

「おもしれえもんは特に無かったな。つまらん」

「…ここだけ変に欠けてるな」

 イチは空白の一部分を指す。

「柱でもあるんじゃないのか?」

「柱にしては大きすぎるし、このタイプの迷宮に柱は無かったはずだけど」

「だったら…隠し部屋、とかか?」

 その響きに四人は思わず顔を合わせる。互いに何を思っているかは言葉にせずともわかった。

 地図上で空白の部分近くまでやってきた一同は早速壁を隅々まで確認する。しかし抜け道らしきものは見つからない。

「う~ん。そもそもこの先に部屋があるのか?」

「それは間違いないぜ。私のスキルがそう言っている」

 『金の声を聞け(コインセンサー)

 遊び人がもつスキルでコインの場所が知覚できるようになる。ただコイン状のものなら何でも反応してしまうため牛乳瓶の蓋と間違えることも多々ある。

「あの小銭を見つけるせこいスキルか」

「せこい言うな。お前の飯代を拾ってやったこともあっただろうが」

「コイン、財宝なら金貨とかかな?」

「金貨!?マジかよ!一気に金持ちだぜ!」

「そんな都合のいい話は無い気がするが」

「やかましいぞゾイド。文句言うならテメエにはやらねえからな」

「はいはい、野暮なこと言ってすみませんでした」

 しかし何度探しても見つからないため、別の場所から攻めてみることにする。

 三階層では何も得られなかったため、一度四階層に上がってみる。途中何度も魔物に襲われながらも、空白部分の真上へとやってきた。そこには落とし穴のトラップが設置してあった。

「もし想像通りなら、この穴が隠し部屋につながっているんだが。そうじゃなかったら」

「よくあるのは串刺し」

「または炎で焼けてこんがり」

「両方ならバーベキューの出来上がりだ」

 自分達の悲惨な末路を想像し、四人は固まる。

「でも、帰還の魔石もあるから死にはしないと思うよ」

「そうは言ってもなぁ…」

「イチ、何かいいスキルない?」

「急に言われても…あっいいのがあった」

 『一度限りの模倣(フラジールミラー)自家製風船(サプライズバルーン)

 イチは両手を筒のようにし口に付けると思いっきり息を吹く。すると大きな泡がみるみるうちに形成されていく。

「サーカスのピエロが使っていたスキルだ。この中に入れば高いとこからもゆっくり落ちて行けるぜ」

「今の状況にピッタリだな」

 四人は一つの泡に押しのけ合いながら入り穴の中へと落ちていく。途中暗くなったが、アンジーの魔法で光を得る。隠し部屋は確かにあり、地図上で見た空間より大きなものに感じられた。

 泡は地面へ着く前に突然割れ四人は尻もちをつく。すると四隅の照明が灯り部屋は一気に明るくなる。

 アンジーは足元に散らばっているコインの一つを手に取る。

「これは…銅貨じゃねえか。クソッ」

「銅貨でも刻まれた模様次第じゃ金貨並みの値段が付く場合があるよ、アンちゃん」

「それを先に言えよ」

 アンジーはせっせとコインそこらに散らばるコインを回収する。

「おいアンジー、そんなこと後にしろ。先にあれ見てみろよ」

 四人の視線の先には部屋の端に設置された祭壇らしきものと、その中央に置かれた宝箱があった。

「この部屋は当たりかもしれないぜ」

 我先にと宝箱を目指し走り出す。

 一番に辿り着いたサクヤは早速開けようとするが。

「あれ…」

「どうしたサクヤ。鍵でもかかっているのか?」

「簡単なものなら『悪ガキの真似事(チープコピー)』で開けられるけど」

「それが、開かないし、鍵穴も無いんだよね…」

「はあ?」

 三人も確認するが宝箱に鍵穴は無く、手をかけ力を込めるが軋む音すらしない。蹴ったり叩いたりしても結果は同じ。

「こういう時って、大体…」

「謎を解かないと開かないね」

「…謎ってあれか?」

 ゾイドは目の前の壁を指す。そこには消えかかっているが確かに文字が書かれていた。

「あの文字、どこの文字だ?」

「どこだろうね。迷宮にある文字は大抵見たことの無いやつだから基本お手上げだね」

「いや待て、あれは古代で一番栄えてた文明で使われてた文字だ。見た所よく使われている簡単な単語ばかりだな。これならわかる」

「何でわかるんだよ」

「教養だ」

 返答に納得のいかないイチを無視し、アンジーは拙いながらも壁の文字を読んでいく。

「汝、隣人、憎め。隣人は敵。されど、敵の敵、争う、よくない。待つ、無様な敗北、だとさ。神の教えとはまるで逆だな」

「隣人って誰だ?お前か?」

「何で俺だ。これは比喩、か?別のものを指しているんじゃあ」

「これだけじゃあわかんないね」

 一同がうんうんと唸っていると後ろから地響きのような音がする。恐る恐る振り返るとそこには軽く4メートルはある巨大な兵士の像が四人を見下ろしていた。

「あれが隣人さんね」

「バッチリ憎まれているみてえだな」

「ねえ、後半の意味は…」

「それより目の前の敵だ…来るぞっ!」

 巨像は地響きと共に近づくと、戦斧を振りかぶる。振り下ろす直前刃は炎を纏う。

 『炎の大斧』

 振り下ろされた戦斧を四人は躱すが、地面を叩いた際の衝撃波まで避けることは出来なかった。アンジーとイチは地面を転がる。

「んの野郎っ…これでもくらいやがれ!」

 アンジーはメイスの先を巨像へと向け、魔力を集中させる。魔力は火球へと変化し巨像へ一直線に向かう。

 火球は巨像を炎で包む。しかし炎に包まれても巨像は怯む様子を見せず、次第に炎は消えていった。

「チッ、さすがに石に炎は効かねえか」

 巨像はアンジーへと向かいまた戦斧を振りかぶる。威力は絶大だが緩慢な動きであるため、アンジーは落ち着いて後ろに飛び退こうと腰を低くする。

「アンちゃん!後ろっ!」

 サクヤの大声でアンジーは反射的に振り返る。そこにはもう一体別の巨像が剣を振りかぶっていた。

 その刃には雷が纏われていた。

 『雷の大剣』

「やべっ…」

「アンジー!」

 『悪ガキの真似事(チープコピー)・瞬歩』

 スキルを用い寸前のところでイチはアンジーを掴みその場を離れる。二人がいたところに巨大な剣が振り下ろされる。

「悪い、助かった」

「おう。気にすんな」

 イチは二体の巨像を確認する。武器を振り下ろしたのは剣を持った方のみで、戦斧を持った方は一歩後ろに下がっていた。

「二体か…。面倒だな」

「けど、動きはとろいし落ち着いて対処すれば怖く、な…い」

「…ほんっと、めんどくせえな」

 二人の目には三体目の巨像が写っていた。

 三体目の像は大槌を持ち、武器に氷を纏わせサクヤに襲い掛かる。

 『氷の大槌』

 横一線に薙ぎ払われた大槌をサクヤは跳躍することで避け、攻撃を仕掛ける。

 『雷鳴斬』

 雷を帯びた剣がまさしく稲光の如く巨像の身体を走る。剣の巨像が放ったものより鋭い剣筋が大槌の巨像を襲う。

 しかし。

「おいおい…」

「あれでもダメか」

 サクヤの一撃を喰らって尚、巨像は傷一つついていなかった。

「さすがに…ショックだよね」

「サクヤ、気を抜くな。また来るぞ」

 四人は巨像の攻撃を危なげなく躱し、何度も反撃に打って出るが効いている様子は一つも見られなかった。

 サクヤが大槌と戦斧の巨像に挟まれた際、振り下ろされた戦斧をサクヤは難なく避ける。それを見ていたイチは、アンジーを救った際のことと目の前で起こったことを重ね一つの疑問を浮かべる。どちらも二体の巨像が攻撃のため武器を振りかざすが実際に攻撃したのは片方だけだった。

(あいつ、何で攻撃しなかった?)

 その時壁の文字を思い出す。そしてこの場を攻略する方法を思いつく。

(敵の敵、ね。試してみるか)

「ゾイド!あいつの動きを止めてくれ」

 イチは剣の巨像に向かって走り出す。

「おいイチ!?ったく、止めろって…ああもう。サクヤ!他の二体をイチに近づけないように出来るか!?」

「任せて!」

「アンジー!あいつの注意を俺へ引いてくれ!」

「オーケイ。そらよっ!」

 アンジーはメイスから光の玉を放つ。勢いよく放たれたそれは巨像の周りを飛び回る。

 『イタズラ妖精の戯れ(アノーイングフライ)

 光の玉は十分に注意を引きつけた後ゾイドの方へ飛んでいく。巨像は光の行方を追った流れでゾイドを見下ろす。

 ゾイドは盾を構え巨像を見上げる。

「来い」

 言葉を理解せぬまま巨像は電気を帯びた剣を振り上げ真っ直ぐ振り下ろす。激しい土埃がゾイドを包み込む。

 土埃が晴れ振り下ろされた剣とゾイドの姿が浮かび上がる。

 ゾイドの盾はエネルギーのバリアを展開し巨像の剣を受け止めていた。

 『剛腕の盾』

 巨像は無理矢理押しつぶそうとするがゾイドはびくともしない。

「今だぜ、イチ」

「サンキュー、ゾイド」

 イチは巨像の身体を駆け上り、大きく飛び上がる。振り上げた木の棒は氷を帯びる。

 『一度限りの模倣(フラジールミラー)・氷の大槌』

 大槌の巨像が放った一撃をイチは模倣した。振り下ろされた木の棒は巨像の頭を粉々に砕く。木の棒はその衝撃に耐えきれず手持ちの部分を残し折れてしまった。

「っと、やっぱ木の棒じゃダメか…。まあいいか。おい!見たか!?こいつら、互いの攻撃が弱点だ!」

「ほお、そういうわけか」

「弱点がわかれば後は…」

「こいつらを待つのは哀れな敗北ってわけだ」

 四人は勝利を確信し悪魔のように意地の悪い顔をする。

 それからの決着は数分とかからなかった。

 『千本ノック(ファイアガトリング)

アンジーは大槌の巨像に向けていくつもの火球を放つ。連射に特化した魔法で威力は通常より控えめだが、弱点である火球は巨像にヒビを入れていく。アンジーがトドメの一撃を放つべく頭部へと狙いを定めるが巨像は片手で大槌を振り払う。

「させるかよ」

 『剛腕の盾』

 ゾイドは間へ入り大槌を受け止める。

「ナイス」

 『爆ぜる大玉(ファイアキャノン)

 アンジーはその隙に大量の魔力を練り巨像の顔面へ特大の火球を放つ。爆発と共に巨像の顔面が吹き飛ぶ。巨像は盛大に音を立てながら崩れていく。

 一方その後ろでサクヤは最後の巨像の股をくぐり、体勢を立て直すと弾丸のように襲い掛かる。

 『雷鳴斬』

まずは両足を斬り、巨像が崩れきる前に地面を蹴り跳んだかと思えば軌道上にあった両腕を破壊し、そして重力に身を任せ急降下し頭部もろとも身体を一刀両断に破壊する。破壊しつくされた巨像はさらに細かく崩れていく。

勝負は三体の巨像の哀れな敗北で幕を閉じた。

「イエーイ」

「私らの大勝利」

 四人はハイタッチをしながら宝箱へと向かう。サクヤが宝箱に手をかけると先ほどとは違ってすんなり開いた。

「さーて中身は…ん?」

 四人が宝箱を覗くとそこには真新しい剣が一本無造作に横たわっていただけだった。

「なんだよ財宝じゃねえのかよ」

「剣、一本。まあ、何もないよりマシだろ」

「そういや迷宮で見つけたものって私らのものになるんだよな?」

「うん。まあ、あまり強力な力を持っているものは回収されるけど、剣程度なら自分のものにも出来るし、買い取ってもらうこともできるよ。これは折角だしイチの武器にしたら?」

「そうだな。木の棒も折れちまったし。ただ欲を言えばもう少し長い方がいいけど」

 イチがそう言った時、剣はほんの少し長くなった。

「あ?今…」

「どうしたイチ?」

「いや、今剣が少し伸びたような」

「剣が伸びた?刃がゴムみてえに伸び縮みすんのか?」

「イチ、何かできる?」

「そうだな…俺的には伝説の聖剣みたいな剣が欲しいなぁ」

 剣はイチの要望に応えるよう、イチの想像通りに変化する。

 ゴツイ刀身に翼を模した無駄に派手な柄、持ち手には見慣れぬ文字が走っていた。

「おお!……趣味悪い」

「この良さがわからんとはまだまだだな」

 げんなりする三人とは正反対にイチは自身のデザインに惚れ惚れする。

 ()()()()()に見とれるイチにゾイドが剣以外にも変化が可能なのかと問う。

 イチは頭に思いついた武器を声に出す。

「槍!斧!ハンマー!盾!…三節混!」

 イチの掛け声と共に剣は様々な姿へと変身する。一通り変化し終えると四人は子供の様にはしゃぐ。

「すごいすごい」

「なかなか便利な武器じゃねえか」

「色々なスキルを使うお前にピッタリだな」

「初めての冒険にしちゃボチボチ、かな」

 そこへ好奇心の目(カメラ・アイ)が四人の元へ降りてくる。

「お、私らの冒険の成果、こいつに見せつけてやろうぜ」

「自由の冒険団、初の冒険達成だ」

「ほら、もう少し寄れよ」

 四人は肩を組み、それぞれ思うがまま好奇心の目(カメラ・アイ)にポーズをとる。

 四人の生意気な集合写真はビジョンを通し放映された。

 こうしてパーティー『自由の冒険団』の歴史が始まった。

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