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会議は踊らず、粛々と

栄光の塔 最上階

 竜の爪拠点にて狩人ロビンが一人、ビジョンで自由の冒険団の様子を観察していた。

「よう。お前だけかい?」

 そこへシュラが数枚の紙を手にやってきた。

「ええ。団長は城の方へ、他の二人は迷宮攻略で忙しいようですよ」

「おっ『元勇者』サクヤじゃねえか。はっ頭突きラビットの大群に追い回されてんのか、運がねえな。ところで…なんであいつは木の棒なんか持ってんだ?」

「知りません。…何か面白い情報はあったんですか?」

「何の話だ?」

「とぼけなくて結構。わざわざ人まで使って彼らのこと調べていたんでしょう?」

 剣士は観念したように肩をすくめ、狩人の横に腰を下ろす。

「珍しいですね。君がそこまでするとは」

「そりゃあ、あんなの見せられたらな」

「他人のスキルを模倣するスキル、ですか。僕が知る限りそんなもの聞いたこともありません」

「俺だってそうさ。だからこんなみみっちい真似してるんだろ」

「それで彼は何者ですか?」

「自分で見た方が早いだろ」

 シュラは紙をテーブルの上に放り投げる。

「これは…」

「会社がこそこそ進めてた調査結果と今しがた奴らが登録した攻略者情報だ」

「それは、どちらも他人が見るのは禁止のはずでは?」

「そこはほら、トップパーティーの権限ってやつ?あと…これだ」

 シュラはビー玉より小さな何かを投げ寄越す。

「これは?」

「技術部の奴に作らせた盗聴器だ。幹部連中の会議がもうじき始まる。もしかすると新しい情報が出るかもな一応聞いとけ」

「まったく…君という人は。いくら僕達がトップパーティーと言っても限度が」

「黙ってな。始まるぜ」

 ロビンは説教の言葉を飲み込み、しぶしぶ盗聴器を耳に付ける。


 栄光の塔の一室。会議室には八人の男女がいた。席についているのは人事部、経理部、宣伝部、総務部、企画部、芸能部、技術部の部長兼会社幹部達であった。各部長達は難しい顔をしていた。そんな彼らを一瞥し、見るからに利発そうな、社長秘書である女性が声を発する。

「それでは定時となりましたのでこれより緊急会議を始めます」

「おい、社長がまだだがいいのか?」

 人事部長である隻腕の男がぶっきらぼうに言う。それに『ビット姐さん』で知られる宣伝部長とカイゼル髭とモノクルが特徴的な老紳士風の芸能部長が答える。

「社長は国王、というより貴族の方々に呼びだされ城へと参上しているわ」

「大方、勇者について…でしょうな。それで?社長不在で一体何を話すわけですかな?」

「今回のギ題は社長より伺っております。まず今回の勇者騒動についての状況整理、続いてサクヤ・カグラザカが組む新たなパーティーメンバーについて情報共有、そして彼らの今後について。以上三つとなります。三つ目についてですが、最終的な方針は皆様に一任すると社長よりお伺いしております」

「一任、と来ましたか」

「まったく…ホントよくわからない人ね」

 困惑でざわめくなかスカートの端から髪の毛一本乱れの無い総務部長が言葉を発する。

「まずは勇者騒動について話しましょうか」

 その言葉に企画部長の大きな丸眼鏡をした幼さの残る女性と髭で顔半分が隠れた大柄な技術部長が困った顔をする。

「勇者騒動についてと言われましても…」

「勇者…辞職…」

「そんなことはわかってる。まずはなんだ?会社の損失でも確認するべきか?」

「損失ですか…。え~利益の面からはスポンサーへの違約金、計画してた勇者グッズの売り上げ消滅、その他諸々含めて…」

 額に汗を浮かべた小太りの経理部長がぶつぶつ呟きながら算盤で計算していく。

「利益は大幅減、ですね」

「色々考案してた企画も全てボツになっちゃいましたし…」

「注目度だけで言えば過去トップクラスなんだけどね。一般の視聴者から寄せられる意見も肯定的なものはあまり見られないわ」

「ふ~む…その分浮いた宣伝費を差し引いても大赤字、ですね」

「会社の利だけで言えば損失しか残っておりません」

「これだから人間一人徹底的に管理するなんて碌なことにならねえんだよ。誰だ、最初に言い出したのは」

「提言は…教会…帝国…貴族…スポンサー」

「教会からすれば勇者は魔を打ち倒す英雄的存在であり、その強大な力は帝国にとっては脅威。貴族からすれば国の栄光を示すものとなりますからな」

「自由にさせてその力を好き勝手にされて困るのは全員一致していた」

「その結果、彼女を監視下におくことにしたと」

「そういやカグラザカが勇者を辞めてから教会と貴族からの風当たりは強くなったが、帝国連中の物腰は柔らかくなったな」

「あ、それ私も感じてました。企画の協力も帝国がやけに乗り気で」

「わかりやすい人達ね」

「とりあえずまとめると…今回の騒動で会社は大損失を被り、教会や貴族との関係が若干悪化。その代わり帝国とは付き合いやすくなった可能性あり。今後特に気を付けるのは教会と貴族達への対応、でいいか?」

「スポンサーへは社長がうまくやっているようですしね」

「教会への仲介役はやはり『聖母(マザー)』マリーに頼むしかないですかね?」

「それが一番でしょう」

「貴族への対応もやっぱり『通り名持ち(ネームド)』に頼みますか?」

「ん~そこは相手と状況を見てから、ですかね」

「それじゃあ次は…噂の三人についてか」

 室内のビジョンに先ほど撮影したイチ達三人の顔写真が表示される。

「カグラザカさんとは学園の初等部からの付き合いらしいですよ」

 それぞれ置かれた湯飲みに手を伸ばし、喉を潤すと共にイチ達三人のデータを確認する。それを見て笑みを浮かべるもの、眉間にしわを寄せるものと反応は様々だった。

「噂には聞いてましたが…これは」

「なんていうか情報量が多いというかキャラが立っているというか」

「ともかく一人ずつ確認していきましょう。まずは兵士の彼からかしら」

「ゾイド・エリアル。元都市兵士隊勤務。検挙率はトップクラス。優秀な男だ」

「大通りの警備を任せられるだけあって恩恵もなかなか優秀ですね。それに彼の大捕物は一部では大通りの名物扱いされているようですよ」

「それってあれか『兵士狩り』の件か」

「攻略者志望の腕自慢や傭兵崩れが自身の強さを誇示しようと兵士に襲い掛かるのが一時期流行ってしまいましたな。そんなことをしても攻略者に成れるわけではないのですが。今はそんな流行りも廃れはしましたがそれでも腕試しで兵士に襲い掛かる人は月に一人はいるとか」

「そんな兵士狩りに遭った中で数少ない無敗の兵士。それがこいつってわけか」

「それもあってこのままいけば騎士への昇任もあったかもしれないとの話です」

「兵士や騎士の勧誘は治安維持の観点から控えていたというのに」

「彼が活躍すれば兵士の強さや勇敢さをアピールできるかもしれませんよ。そうなれば兵士への志願者も増え治安向上の見込みもありえるのでは?」

「実際、活躍した攻略者の『職業』が増えたデータもあるので、無くはないかもね。だったら彼の売り方は兵隊出身を押した方がいいのかしら」

「まあ、活躍できればの話なんですけど」

「次…遊び人…」

「うーん…こいつか」

「アンジー・クラレンス。薬と治癒の個人店経営。しかし彼女本人の素行の悪さと店構えの怪しさから繁盛はしておらず。カジノや酒場での喧嘩の目撃多数、ですか」

「喧嘩の激しさはかなりもので一部の攻略者からも『凶暴天使』と呼ばれてるほどですよ。これで元修道女なんだから世の中わかんないものですね」

「元修道女…現遊び人…面倒」

「そうですね…。元修道女の喧嘩屋なんて教会からすればイメージが悪いなんてもんじゃないですよ。ただでさえ勇者関係でギクシャクしてるのに何を言われるか」

「彼女の経歴の公表は控え、タイミングを見計らう必要があります」

「無駄に過去のことを晒すこともないだろ。昔のことを忘れて新しく始める奴もいる」

「攻略者には明るい道だけ歩いてきた方ばかりではありませんから」

「それもそうですね。…最後が彼ですか」

 イチの資料を見て、その場の誰もが一度口を閉ざす。

「…イチ・アマノ。職業は二つの意味で無職。他の二人のように目立ったエピソードはねえな」

「強さはともかく…勇者と同じくらいに珍しい職業ですよ。なぜ今まで話題にならなかったのですかね?」

「普段の生活において職業の開示は求めらませんからそのせいでもあるでしょう。あとは学園出身ということも理由の一つでは?」

「あの学園長の婆さんなら生徒の職業をむやみやたらに広めねえだろ。しかも無職として奇異の目に晒される可能性があるなら猶更だ」

「それにしても、本当なんですか?この人が『龍少女(ドラゴンガール)』リィと渡り合ったなんて…」

「と言っても一撃打ち合っただけ、らしいけどね」

「リィ本人によればスキルを完璧に模倣された、と証言しています」

「あ?けど確か無職はどんなスキルも覚えられねえはずじゃ?」

「無職…職業の恩恵受けられず…スキル取得不可……まるで…神に呪われたかのよう」

「…それなら、ユニークスキルかしら?」

「おそらくは。ユニークスキルは通常スキルと違い本人の才覚によるものですから」

「他人のスキルを自由に模倣できるスキルですか…」

「ちょっと無茶苦茶じゃ?」

「しかし今ある情報では実際そうとしか言えませんねぇ。社長は何か仰っていませんでしたか?」

 七人の目線が秘書へと向く。彼女は落ち着いた様子で立ち上がり、まるで台本があるかのように淡々と話す。

「通常の調査では詳しいことは何もわかりませんでした。なので『万屋』に依頼し、その結果がここに」

「ほほお。もったいぶりますね。では早速」

「いえ。少しお待ちを」

「なんだ?」

「シュラさん。聞いているのでしょう?そんなところではなくここに来て聞いてもらっていいのですよ」

 ロビンは盗聴器を外し横へ目をやる。そこには肩を揺すりながら笑う男の姿があった。シュラは笑いを止めずにただ一言。

「バレてたな」

 ロビンの深いため息ごとシュラは笑い飛ばした。


 会議室へ堂々とやってきたシュラを部長達は冷たい目で迎えた。

「よお、皆さんお揃いで。ご機嫌麗しゅう」

「何が『麗しゅう』だ。こんなもん技術部の奴ら使って仕掛けやがって」

 シュラは机の上に置かれた盗聴器を見て、軽く目を逸らす。

 部長達はこれ以上シュラに対する追及を辞め、会議を続ける。

「それで?彼のスキルはどんなものなのかしら?」

「万屋からの調査結果によると彼は二つのユニークスキルを持っていると」

「二つ?」

「ええ。一つは『一度限りの模倣(フラジールミラー)』一度だけ目視したスキルならどんなものも完璧に模倣するスキル。リィのスキルを真似たのはこちらかと。もう一つは『悪ガキの真似事(チープコピー)』こちらも模倣するスキルですが、技の威力が本人の能力に依存して、効果がかなり低減するとのことです」

「二つの模倣スキル…」

「インパクトはあるわね」

「それで、最強の剣士から見てどうなんだ?迷宮攻略で生き残れるスキルなのか?」

「さあな。どんな上等なスキルも使う奴がお粗末なら単なる宝の持ち腐れだ」

「ではあなたから見て彼はどのように写りましたか?お粗末な人ですか?それとも…」

「生憎だが、俺は社長のように人を見る目は養ってないんでね、そんなことは知らん。ただ一言いうなら、そうだな…クソ頑固そうだったな」

「頑固、ですか?」

「ああ。一度決めたら絶対曲げねえ。自分の意思を何が合っても最後まで貫く。例え命を危険に晒すことになっても己の魂に嘘はつかない。そういう強さを持った目だ。あんたらには少しばかし手が余りそうだな」

「そうか…それじゃあ最後の議題だ。奴らの今後についてだが、迷宮攻略を続けることは認める。ただし特別扱いはしない。元勇者だろうと無職だろうとただ一人の攻略者として扱う。いいな?」

 異議なしと全員が口を揃え会議は幕を閉じた。


「…楽しそうですね」

 会議室から出てきたシュラに向かいロビンは言った。

「そう見えるか?まあ合ってるけどな。面白そうな奴らが三人も出てきてそれに呼応するようにサクヤの奴もどんどん良い目になってきている。滾るなという方が無理な話だ。どういうわけかサクヤの奴ここ数ヶ月で急に腑抜けて動きも悪かったからな」

「だからサクヤさんが勇者を辞める時、一番に賛成したんですね」

「それはお前もだろ」

「僕は君のような動機ではありませんよ。ただ彼女がこのままでは潰れてしまいそうだったからです」

「…反対したのはリィだけだったか」

「彼女にとっては理想の勇者でしたからね…勇者に救われて憧れて…」

「だがサクヤの人生はあいつのものだからな。他人がどうこう言う資格はねえよ」

「彼女もわかってはいるのですが、なんせまだ十四ですからね。仕方ありません。…子供の成長を見守るのも大人の仕事ですよ」

「俺はまだ二十六だ。あんなでけえガキの面倒みるほど老けてねえ」

「ふふっ。まあそう言わずにみんなで見守っていきましょう」

「手前らと家族ごっこか?生憎だが興味ねえな。…にしてもやられたな」

「何がです?」

「幹部の連中まだ何か隠してやがる。出来ればそれを聞きたかったんだが、おそらく盗聴器も最初から気づかれていただろうな」

「一芝居うたれたというわけですか?話を聞いているかぎりは気づいている様子はありませんでしたが」

「お前は聞いてなかったか。盗聴器を前にして人事部長のおっさんが言ってたんだよ。『技術部の奴らを使って仕掛けやがって』ってな」

「おかしいですか?あのような機械に詳しいのは技術部の方々ですし君が技術部を利用したのを推測するのは容易いかと」

「そこじゃねえ。あのおっさん『奴ら』って言ったんだよ。俺は確かに技術部の人間に盗聴器の作成を依頼した。だがな俺が依頼したのは一人だけだ。あれが何人で作ったかは俺も知らねえ。なのにあの口調は二人以上が確実に関わっているのを知っているようだった」

「あの方々は全て把握していたと」

「知っていたのが全員かどうかは知らねえがな。ただ少しバカにし過ぎていたか。策略なんかは奴らが上だ。今日のところは大人しく引き下がるしかねえな。仕方ねえが、戻ってあいつらの珍道中の続き見るか。そろそろ逃げ切ったとこだろ」


 シュラが退出した会議室には、七人の部長が真剣な面持ちでいた。

 そんな彼らを一瞥して社長秘書の女性が淡々と言葉を発する。

「それでは偽題はここまで、本題へと入らせていただきます」

 会議は粛々と進んでいく。

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