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無職と行く迷宮冒険譚  作者: 賽ノ目seven
無職、船上パーティーに夢を抱く
10/13

第四章 其の二 人はそれを勇気と呼ぶ

 パーティー当日。客船の周辺は華やかに彩られ、少し離れた檀上から客船へレッドカーペットが敷かれていた。両脇は屈強な兵士達が並び集った大量のファン達が暴走せぬよう睨みを利かせていた。カーペットの上を有名商人達が品良く歩き続々と船へ乗り込んでいた。

 イチ達はその様子を船の丸窓から覗き見ていた。

「おお新聞で見たような顔ばかりだ」

「迷宮攻略、というよりそれを運営するアリーシャエンターテイメントは国も認める大企業だからな。集まる顔ぶれも自然と豪華になるといえばあたりまえか」

「そういやゾイド。お前もパーティーに参加したことあるって言ってなかったか?」

「入口の警備員としてな。あそこに並んでいる兵士と同じだ。攻略者はもちろんスタッフともほとんど話せなかったよ」

 経済界の大物たちを窓にへばりつきながら見下ろす三人の元へビットが歩み寄る。

「ここにいたのね」

「あ、ビット姐さん。また何か用事ですか?」

「いいえ。あとはパーティーが始まるまで見学してもらって構わないわ。ただし。くれぐれも騒ぎは起こさないように」

「わかってますって。俺達がそんなにしょっちゅう問題起こすように見えます?」

「そうね。今のところ、ただ機材を運び込むだけで乱闘騒ぎ起こしただけね」

「…怒ってます?」

「怒ってないわ。ただカウントが1減ったわ」

「それ、ゼロになるとどうなるんだ?」

「知りたい?」

 ビットはコインをちらつかせる。

「…遠慮しときます」

「ともかくサクヤちゃんのこと頼んだわよ。いくらパーティーに慣れてるって言っても不安はあるだろうし。友達がいるとわかっているだけで随分気は楽になるでしょ」

「まさかそのためにわざわざバイトまでさせて俺らを呼んだのか?」

「……私達もあの子にはかなり無理させちゃったし、せめて少しでもフォローはさせて欲しいのよ」

 ビットは申し訳なさそうに眉を下げる。しかし、『レディたるもの人前では如何なる時もとびきりの笑顔』という矜持がその表情を明るく戻す。そして三人の意識を船外へ向ける。

「…さあ!いよいよ通り名持ちの登場よ。よく見ておきなさい」

 壇上の司会者が攻略者の登場を宣言すると現場のボルテージはより一層高まる。そしてついに攻略者達が姿を見せると最高潮を迎える。

 イチ達も豪華な顔ぶれに少し興奮した様子を見せる。

「まずは『鬼殺し』と『絶命の魔弾』か」

「さすが最強パーティー竜の爪メンバーだな。堂々としたもんだ」

「おお『百華狂乱』に『明日を謳う色男(バラードロメオ)』、『嵐を呼ぶ巨人』までいるぞ」

「その後ろは『獣の女王(ビーストクイーン)』に…あれはどっちだ?『大鷲の右翼』か?」

「そして我らが『元勇者』サクヤか。まじで豪華だな」

「案外ちゃんと知っていてくれてるのね」

「そりゃあ、子供でも知ってるレベルだからな。知らねえ奴は余程浮世離れした奴だけだろうよ。そういえばロンソルトの奴はいねえのか?」

「ああ、あの人はこういうパーティーとか苦手だから呼んでいないのよ」

「へえ。意外。真っ先に参加しそうなのに」

「人間、色々あるんだろ」

「それよりサプライズな攻略者が残っているわよ」

 いたずらな笑顔を浮かべ、ビットは壇上を指差す。壇上の人影を真っ先に捉えたイチは目を見開き窓を突き破る勢いで顔面を押しつける。

「あの姿!あれは!?」

「どうした。誰だ?」

「『桜姫』ハル・イヅモ!」

「……ああ。お前が好きな歌手グループの」

「違う!彼女達はただ歌うだけじゃなく5人息の揃った歌と踊りのパフォーマンスはクオリティの高さももちろんだが、決して一人一人の個性が埋もれることなくそれぞれがそれぞれのファンを魅せることに特化したそれは新たな『アイドル』という枠組みを開拓し今もなお新たな魅力を生み出し続けている。しかも彼女達はただ歌って踊るだけじゃなく全員が攻略者、しかも通り名持ちであり人気も実力も折り紙付き。パーティーとしての活躍ランキングも最高五位で個人の人気投票ではパーティー全員が八期連続十位以内をキープし続けているという快挙。そしてリーダーとしてセンターを務める『桜姫』はその可憐な美貌ももちろんだが類まれな職業『巫女』で華麗な戦闘を繰り広げ可愛さと強さを両立し少女達の憧れとなり、人気投票では三期連続一位と前代未聞の事態についに殿堂入りするのではとファン達の間で囁かれており、そうなれば彼女は迷宮攻略の歴史に永遠と名前を刻み」

「わかったわかった。もういい。瞳孔開きまくってんぞ」

 アンジーはイチの興奮に辟易するが、興奮しているのはイチだけでなく会場周辺の客達もだ。興奮はさらなる興奮を生みそれは狂喜乱舞の域に至る。

「確かにすごい人気だな。俺も一度彼女達のライブの警護についたことがあるが、あれほどの熱狂は恐怖だぞ。…今も警備が破られそうだが」

「あら、本当ね。もしもし?私よ。ハルちゃん急がせて。あとファン達も出来るだけ落ち着かせて。もし無理なら…ええそう彼に頼んでくれる?」

 場を収めようとスタッフ達が慌ただしく動く。しかしスタッフの奮闘も焼け石に水で辺りは一転してパニック状態となる。兵士とファンが取っ組み合いになり何かほんの少し、些細なことで流血を伴うことは見て取れた。

「ヤバいな…。二人ともそこ動くなよ。ちょっと行ってくる」

「待って」

 ビットがゾイドを呼び止める。

「もうすぐ『彼』が何とかするわ」

「彼?」

 するとどこからともなく穏やかなギターの音色が響いてくる。

 興奮したファンや兵士の耳にも届き、誰もが音の源を探す。人々が同じように目線を上げた先には客船の最上で優雅にギターを奏でる男の姿があった。

明日を謳う色男(バラードロメオ)だ」

 誰かがポツリと呟いたがそれ以降誰も一言も口にしない。その場の全員、男が放つ極上の音色に聞き惚れていた。

「すごいな。あんだけ荒れてた連中が大人しく」

 演奏がひとしきり終わるとその場にいた者は立場も関係なくただただ『明日を謳う色男(バラードロメオ)』アダム・ベンセルトを讃え、盛大な拍手を送る。互いにぶつけようとしていた苛立ちや怒りのエネルギーが称賛に変わり、それはたった一人の攻略者が一身に受ける。

「さすがね。これでとりあえずは何とかなったかしら」

 トラブルが一頻り片付いたのを確認すると手を叩きイチ達に仕事へ向かうよう促す。

「はい。じゃあ、あなた達は次の持ち場に向かってちょうだい」

「次は会場の監視・警備だっけか?どこの会場だ?」

「最初はメインホールだ。その後はサクヤが会場を移動するのに付いて行けばいい」

「ええっと、会場はメインホール含め全部で四つあってメインホール以外は抽選やチケット購入の一般客用、で合ってるよな?」

「ああそうだ。まあメインホールは警備なんかいらんと思うがな。あそこにいるのは各界の要人ばかりで、自分達でボディーガードを雇っているのがほとんどだろう」

「それなら楽が出来ていいけどな」

「あなた達、昨日の夜に言ったこと覚えてる?」

「なるべく人目につかずコッソリ見守れ、だろ?ちゃんとやるよ」

「それならいいけど。特にイチちゃんハルちゃんがいるからってサインとかお願いしちゃだめよ」

「はっ!そうか…今ならこの船のどこかに『桜姫』が…!」

「そうか、じゃねえんだよ。やるなつってんだ。フリじゃねえからな。やるなよ?絶対やるなよ?」

「ふっ……あばよ!」

 イチは不敵な笑みを見せると、ここ最近で最速タイの足をみせる。

「テメエこの野郎!」

「早い者勝ちじゃい!うきゃきゃきゃ!」

「フンッ!」

 ビットが気合の入った声を発し鋼鉄の塊が弾き出される。導かれるように弾はイチの背中に直撃する。

「きゃいん!」

 負け犬のうめき声をあげ、イチは派手に転がる。

「コイツ、学習能力が無いのか。転がり方までまったく同じだったぞ」

「くぅーん」

 イチはゾイドに首根っこを掴まれ子犬のように持ち上げられる。そしてそのままビットに差し出される。イチの眼前には張り付けたような笑顔のビットがいた。

「イチちゃん。今のでカウントがゼロになっちゃったわね。…何か言いたいことはある?」

「許して欲しいだワン!」

「だーめ」

 どうしよう無くなったイチはただ壊れたように笑った。


 騒がしい。いや、騒がしくはないのか。だけど…何て言うのかなこの落ち着かない雰囲気。

 サクヤは周りを一瞥し誰にも気づかれないようため息をつく。

 この会場にいる招待客はいつもの酒場みたく怒声か笑い声か区別のつかない声をあげたりせず控えめに談笑している。ジョッキやグラスを荒々しくテーブルに置くことはなく、ワインを飲むときは軽く一口含むだけだ。

 主に聞こえてくる音はアリーシャエンターテイメントお抱えの楽団が奏でる艶やかなメロディー。しかし、その合間に貴金属の甲高い音があちこちから聞こえてくる。騒がしいと思うのは恐らくこれが原因であろう。

 それに加え、視界もその騒がしさを助長させる。

 目線を下にやればいやらしい程真っ赤な絨毯、上にやれば目も開けられないほど眩い巨大なシャンデリア。傍から見れば誰もが羨む豪華なパーティーだ。招待客達も温和な笑顔を浮かべている。

 しかし、ここにいる人達は現在の地位と財産を卓越した知略と手腕を持って築いてきた。笑顔の裏で何を考えているのかわからない。大量の装飾品で自分の財力を示し相手を牽制しているのか、それとも嫌味を眉一つ動かすことなく受け止めることで胆力を見せているのか。

 本来よりサクヤはそう言ったやり取りが苦手で成り上がりの精神を持ってはいないが、ここ数年勇者として牽制や威光を示す役割を担わされたせいで、それらの対応が問題なく出来るようになっていた。

 沈んだ気持ちを紛らわせようとまだ誰も手を付けていない料理に手を伸ばす。

 冷めても問題ないようにか、置かれた料理はどれも油控えめで、塊肉ですらギトギトの油特有のテカリが少ない。

 サクヤは早速塊肉をシェフに切り分けてもらう。どうやらその塊肉はローストビーフだったようだ。食べると思わず声が漏れる。豪華さと美味しさは必ずしも比例しない、というのが勇者時代に学んだことだ。しかし、さすがアリーシャエンターテイメント。なぜかこの会社が主催の時は規模の大小に関わらず料理はいつも超が付く一級品だった。そう言えば、五年間の勇者生活での食事は量こそ少なく厳しい食事制限も設けられていたその味に飽きたためしがない。

 食欲に火が付いたサクヤは端から料理を食べていく。通常、こういった雰囲気のパーティーでは食事ではなく人との会話がメインで、サクヤも以前は勇者としてその役割を果たしていた。だが、今日は『自由の冒険団』のサクヤとして来ている。つまり今日の彼女には役割なんてない。ただ自由にパーティーを楽しむ。

 食事に舌鼓を打ち、ローストビーフ三回目のおかわりを貰おうとしていたところ元メンバーの二人に声をかけられた。

「随分と楽しんでるようだな」

「あ、ふらはん、おひんはん」

「サクヤさん、しっかり呑み込んでから話してください」

「んぐ。二人ともお久しぶりです」

「調子は……聞くまでもねえか」

 シュラはつい先ほどまで料理でいっぱいだったもの寂しいテーブルを見て呟く。

「あとの三人もまあ調子は良さそうだな」

 壁際に目線をやるとアンジーはかったるそうに欠伸をし、イチは顔をパンパンに腫らし、ゾイドは真面目に監視を務めていた。。

「何はともあれお元気そうで安心しました」

「その、ちゃんと言えてなかったんですけど、あの時は、みんなに色々迷惑かけてすいませんでした」

「いえ、僕達も何も出来ず、あなたに無理をさせて申し訳ありません」

「そんな、謝らないでください。それで…リィちゃんの様子は?」

「リィ?元気元気。すげえ元気」

「ホントですか!?」

「ああ。元気すぎて訓練用ゴーレム片っ端から壊してるよ。修理費が馬鹿にならねえって技術部と経理部の奴が頭抱えてたぜ」

「それは…」

「正直に言うと、リィさんはあなたが勇者を辞めたことをまだ受け入れられていません。しかし、あなたの気持ちが理解できないわけではないのです。だからこそ気持ちの行き場を見失い本人もどうしたらいいかわからない」

「そう、ですか……」

「今のところ誰の話も聞く耳なんざ持たねえって感じだからな。ちょいと時間をおいてやった方がいいだろう。すぐに会って話してえかもだがもう少し待ってくれ」

「わかりました。リィちゃんは勇者の私に憧れているかもですが、勇者だろうと何だろうと私は変わらない。リィちゃんの憧れた私はまだここにいる。それだけはちゃんとわかって貰おうと思います」

「…そうですね」

「俺らからもなるべく話してみるわ。いつまでも殺気立たれちゃ空気も悪いし、そろそろ修理代もシャレにならねえ」

「大丈夫です!私の借金に比べれば大体の金額は可愛く見えます」

「本当に苦労してますね」

 二人との話もそこそこにサクヤは食事を一旦終えて、しばしば参加客と会話を交わす。会話と言っても、商人や貴族の経歴や業績を聞いたり、見知った顔であれば世間話のついでに自身の近況をそれとなく報告してみたり、相手の懐には容易には踏み入らず当たり障りのない話題を維持する。ある程度自分に用があるらしい人と話し終え、一息つく。そこへイチとアンジーを連れたゾイドが声をかける。

「サクヤ、そろそろ移動の時間らしい。行けるか?」

「うん。大丈夫」

「そういや他の会場もこんな感じなのか?」

「ううん。ここ以外だと司会者が一人いて攻略者とのインタビュー形式で進めるんだって。私の担当はビット姐さんらしいよ」

「だったら遅れないように早く行こうぜ。ビット姐さん怒らせたくないし」

 サクヤのインタビューとファンへのお披露目はアンジーとファンの一人が揉めそうになる以外特に問題は無く順調に進んだ。三つ目の会場でも無事に終了し、スタッフ含め全員がこのまま何事もなく済むだろうと油断していた。しかしそんな時に問題は起こるもので、四人がビット共に最後の会場へ向かっている途中、異常を船内アナウンスが告げる。

「お知らせします。攻略者の皆様、衣装変更の時間となりました。近くのスタッフの案内に従ってください」

「衣装変更?んなのあったか?」

 アナウンスが終わるとアンジーが怪訝そうに声をあげる。他の三人も今後の予定を逡巡させるが衣装変更なんて言葉は打ち合わせでも見たことも聞いたこともない。それは今回の責任者であるビットも同じであった。

「無いわ。少し待って」

 通信機で他のスタッフと連絡を取ろうと試みるがどうにも芳しくないようだ。

「ダメね。向こうも混乱してるみたい。回線が混雑して上手く聞き取れないわ」

「部長!」

 ビットが何とか状況を把握しようとするなか、廊下の奥からスタッフの女性が慌てた様子で走ってくる。

「何があったの?」

「それが…」

 女性は耳打ちで状況を伝える。

「なるほど。じゃあ私はこのまま会場に向かうわ。サクヤちゃんとみんなは彼女に付いて行って。他の攻略者と一緒に詳しい話はそこで。まだ情報がまとまってないみたいだからそっちの方がいいわ」

「ということは…もちろん『桜姫』もそこに…!」

 興奮するイチにその場の誰もリアクションをしない。いざ行かんと駆けだすポーズを見せるが、ちらりと背後を見る。

「…止めないのか?」

「どうせ結果はわかってるし」

「やれるもんならやってみろ」

「俺がやろうとしていることは愚かなことなのかもしれない。だが!その一歩を人は勇気と呼ぶ!」

「はよやれ」

 イチは雄叫びと共に駆けだす。

「フンッ!」

 ビットが気合の入った声を発する───以下省略。


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