表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/54

第44話 揺らぐ影と小さな温もり

 休憩所の空気は、いつになく静かだった。

 かすかに湯気を立てるスープの匂いが漂い、丸テーブルの上には食べかけのパンと金属のマグカップ。

 さっきまでの戦闘の緊張がようやく抜け、誰もが少しだけ現実に戻っていた。


「……掲示板だと、六階層から敵の強さが一気に上がるって書いてあったな」


 悠馬が腕を組み、テーブル越しにぼそりとつぶやいた。

 その声には、かすかな震えがあった。

 だが、それを隠そうとするように視線は真っ直ぐだった。


 俺――遼はパンをちぎりながら、肩をすくめる。


「正直、あてにならないと思うけどな。あの掲示板、誰でも書き込めるし。トロールも“全滅注意”って書いてたけど、結局あっさり倒せたじゃん」


「いや……あれ、俺……正直、死ぬかと思った」


 悠馬の言葉に、手が止まる。

 その瞳は俺たちを見ていない。

 まるで、戦闘中に見た“何か”をまだ見続けているようだった。


「悠馬……無理してない?」

 優奈が心配そうに眉を寄せる。


「……別に。怖いとか、そういうんじゃない。ただ、現実味があったっていうか……」


 言葉を探すように、悠馬はテーブルの木目をじっと見つめた。


 俺は少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。


「まあ、無理に潜る必要はない。次は休んでてもいいんだぞ。俺と優奈だけでも探索は進められる」


 悠馬が顔を上げる。

 その瞳の奥に、わずかな苛立ちと自嘲が混ざっていた。


「……考えておく」

 短いその一言のあと、場に沈黙が落ちた。

 ダンジョンの奥から響く遠い風の音だけが、静かに流れていた。

 けれどその重さを、優奈がふっと壊した。


「じゃ、今日はここまででいいんじゃない? もう十分頑張ったし!」


 ぱっと明るい笑顔を向け、俺の方に身を乗り出す。


「帰り道、ご褒美に駅前でアイスでも食べよ? ほら、期間限定のやつ出てたし!」


「お前、完全にデート気分だろ」

 思わず笑いが漏れた。


「えっ!? ち、違うよっ! ご褒美って言っただけで! 変な意味ないからねっ!」


 真っ赤になって手をぶんぶん振る優奈。

 その動きが面白くて、思わず悠馬の方を見ると――彼は小さくため息をついていた。


「……ほんと、お前ら見てると現実感なくなるわ」


「はは、褒め言葉として受け取っとく」


 俺は笑いながら立ち上がり、剣を背負い直す。


「帰るか。外の空気、久々に吸いたいし」


「賛成!」

 優奈も元気よく頷いた。


 悠馬も遅れて立ち上がり、ポータルの前に立つ。

 青白い光がゆらめき、石床に模様を描いていた。


「……じゃあ、行くか」


 俺たちは光に包まれた。

――瞬間、世界が裏返るような感覚。

 重力が一瞬だけ消え、次の瞬間、足元に地の感触が戻ってきた。


「……ふぅ、やっぱり外の空気は違うな」


 遼は思わず深呼吸した。

 夕焼けに染まる街並み、遠くの喧騒。

 ダンジョンの冷たい空気とはまるで別世界だ。


「おつかれさま! 今日すごかったね!」

 優奈が笑顔で手を振る。

 その表情は太陽みたいに明るくて、見ているだけで疲れが抜けていく。


「お前、ほんと元気だな。戦闘のときより声出てるぞ」


「そ、そんなことないもん! あっ、悠馬くんもお疲れ!」


「……あぁ、お疲れ」

 悠馬は苦笑しながら答えた。


 けれどその目は、どこか遠い。

 彼の中で何かが変わってしまったのかもしれない――そんな予感がした。


「悠馬、無理すんなよ。次、ほんとにきつそうなら抜けてもいい。俺らがフォローするから」


「……うん。考えとく」


 またその言葉。

 だが、その声にはほんの少し迷いが減っていた。


(こいつなりに、答えを出そうとしてるのか……)


 夕風が通り抜ける。

 街のビルの隙間から、夜の灯りがちらほらと点り始めていた。


悠馬「じゃ、また連絡するな。明日は学校あるし」


「うん、またね!」


 優奈が元気に手を振る。

 悠馬は軽く頷いて、反対方向へ歩き出した。

 その背中は少しだけ重く見えたが、それでも前に進んでいた。


――残された俺と優奈。


「ねえ、遼くん」

「ん?」


「悠馬くん……大丈夫かな」


「正直、分からん。けど、あいつは弱くない。戦いに慣れてないだけだ。きっと自分で立ち直る」


「……そっか」


 優奈は小さく頷き、空を見上げた。

 夜の端に、最初の星が瞬いていた。


「それに――」

「それに?」


「俺らが支えりゃいい。チームって、そういうもんだろ」


「うん、そうだね」

 その言葉に、優奈はふっと笑った。

 少しの沈黙。

 そして、彼女は照れくさそうに呟いた。


「……じゃあ、ほんとにアイス食べよっか」


「お前、まだ言うかよ」


「いいじゃん! 頑張ったご褒美!」


 その笑顔に、俺も結局笑わされる。

 たぶん、こういう小さな時間が――戦う理由のひとつなんだろう。


 街の灯りの中、俺たちは並んで歩き出した。

 ビルのガラスに映る二人の姿が、少しだけ眩しく見えた。


(《アビリティジャック》……)


 遼の心の奥で、あの力の波が静かにうごめく。

 敵から奪い取る力。

 まだ全容は分からないが、確かに自分の中で何かが変わり始めていた。

 それは進化か、それとも歪みか。

 分からない。

 ただ、この力が――この仲間との旅を、確実に変えていく。

 そして夜風が頬を撫でたとき、遼は静かに呟いた。


「……次も、負けない」


 誰に向けた言葉でもなく、ただ自分の中に刻み込むように。


「うん。私も、負けないよ」

 その横で、優奈がにっこりと笑った。

 二人の声が重なった瞬間、遠くで電車の音が響いた。

 街の喧騒の中、小さな約束だけが確かに残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ