表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/54

第43話 黒き剣の鼓動

「……やっぱり、ただの剣じゃねぇよな」

 柄を握った瞬間、皮膚の奥まで沁み込むような冷たさと、心臓を打つような鼓動が伝わってきた。

 淡い青の光が刃先を走るたびに、まるで呼吸を合わせるように心臓が跳ねる。


「遼くん、ほんとに持つの? なんか危なそうだよ?」

 優奈が眉を寄せて覗き込む。その瞳は、好奇心と不安の間で揺れていた。


「庁スマホで撮っても情報出ないんだろ? 掲示板で見た。“未登録装備=呪具”って噂、マジかもな」

 悠馬の声は震えていた。握った盾の手が汗ばんでいるのが見える。

――無理もない。ついさっき、矢の雨で死にかけたばかりなんだから。


「逆に言えば、そんなリスクを超えた先にある武器だ。強くないわけがないだろ」

俺は軽く肩をすくめた。


「いや、それ絶対フラグ……」

 悠馬の言葉を聞き流し、俺は小剣を腰に収めた。

 妙なことに、重さも握りも完璧に馴染んでいる。まるで――最初から俺のために造られたみたいに。


 休憩所を出て再び進むと、回廊の景色が変わった。

 壁に埋め込まれた鉱石が淡く光を放ち、床には古代文字のような模様が浮かんでいる。

 薄い霧が足元を這い、空気が静かに震えていた。


「ねぇ、これってデートスポットにしたら人気出そうじゃない? 照明ロマンチックだし」

「おいおい、命懸けの場所で言うセリフか?」

「ふふ、緊張してるときこそ笑っとかないと。ね?」


 軽口の裏で、彼女の指先はしっかりと杖を握りしめていた。


「……お前ら、ほんとに緊張感ないな。俺、まだ手が震えてるんだけど」

 悠馬がため息を漏らす。


 緊張感がなく不思議と俺には恐怖もなかった。

 むしろ、血が騒いでいた。

(もっと強い相手と、戦いたい)


 そのときだった。

 奥の闇がうねり、床が地鳴りのように揺れた。


「……来るぞ」


 現れたのは、背丈4メートルを超え石の天井に届くほどの巨体。

 灰緑色の皮膚、膨れ上がった筋肉、鉄の棍棒を握りしめた――トロール。


「なっ、トロール!? 上層に出るやつじゃねぇのかよ!」

 悠馬の声が裏返る。


「下がってろ。俺が前に出る」

 

 小剣を抜くと、漆黒の刀身が淡い青の光を放った。

 空気がピンと張り詰める。


 トロールが咆哮を上げ、巨腕が振り下ろされた。

 轟音。床が割れ、破片が飛ぶ。

 悠馬が盾で受けようとするが――。

 ガギィィィン!!

 金属音と共に、盾が粉々に砕け、悠馬の体が宙を舞った。


「悠馬っ!」

 優奈の悲鳴。

 だが俺は動じなかった。代わりに、冷たい光が脳裏に浮かぶ。


(――アビリティジャック)


《発動条件:敵の瀕死確認》

……まだ使えない。なら、力でねじ伏せるしかない。


「行くぞ!」

 俺は小剣を構え、一気に踏み込んだ。

 驚くほど軽い。腕の動きが意識より先に走る。

 刃が皮膚を裂き、青白い光が爆ぜる。肉を焼く臭い。

 巨体がのけぞり、棍棒を振るう――が。


「見える……!」

 視界に、攻撃の軌道が光の線として浮かんだ。


 俺は反射的に刃を動かす。

 カキン!

 棍棒の軌道が逸れ、地面に叩きつけられる。

 優奈が息を呑む。

 悠馬は膝をつきながら、その光景を呆然と見ていた。


《アビリティジャック――発動条件達成》

《ターゲット:トロール》

《発動確認》


「――もらうぜ」

 小剣を突き立てる。光が閃き、巨体が崩れ落ちる。


《発動――対象スキルコピー》

《獲得:身体能力強化》


 熱が走る。筋肉がうねり、視界が鮮明になる。

 力が溢れる――いや、“満ちてくる”。

 まるで世界がスローモーションになったかのようだ。


「はは……! なんだこれ、体が軽い……!」

思わず笑いが漏れた。



 トロールの死骸の前で、優奈が俺に駆け寄る。

 彼女の杖の先から緑の光が溢れ、悠馬の身体を包み込む。砕けた骨が音を立てて癒えていく。


「……助かった。ほんとに、死ぬかと思った」

 悠馬は震える手で額の汗を拭う。

「遼、あんな化け物を……一人で……」


「大丈夫か?」

「……ああ。でも、もう一発でも食らってたら終わってた。マジで怖かった」


 その顔に刻まれた恐怖は、戦場よりもリアルだった。

 俺は何も言えなかった。

 ただ、胸の奥が少しだけ重くなった。


「でもさ!遼くんがいれば大丈夫! だってトロール一人で倒しちゃったんだもん!」

 優奈が無邪気に笑う。

 彼女の言葉は明るくて、眩しくて。

だが悠馬はその笑顔を横目で見て、わずかに眉を寄せた。

 笑えない――そんな表情だった。



 戦闘を終えた俺たちは、五階層の休憩所へ着いた。

 転移陣を抜けた瞬間、まるで高級ホテルのラウンジみたいな空間が広がる。

 柔らかい照明、革張りのソファ、そして香ばしいコーヒーの匂い。


「わぁ! ケーキある!」

 優奈が弾むように駆け寄り、トレーにショートケーキを乗せる。

 紅茶を注ぎながら、嬉しそうに席に戻ってくる。


「……ダンジョンの中とは思えないね」

 頬を染めて微笑む彼女。

 その姿は、戦場ではなく日常の中にいるようだった。

 俺はコーヒーを一口。苦味が喉に残る。

 悠馬は無言で水を飲んでいた。

 手がまだ、わずかに震えている。


「悠馬、無理すんなよ」

「……平気だ。けど、もう少しだけ休ませてくれ」

 視線は俯いたまま。

 恐怖と無力感――その二つが混ざった表情だった。

 そんな空気の中で、優奈がふと俺を見つめた。


「遼くん、ほんと頼りになるよね」

 柔らかく、少し熱を帯びた声。

 その一言が、静かな空間に落ちた。


(お、おい優奈……悠馬がいる前でそれ言うなって……)

 心の中で焦る。だが優奈は気付いていない。

 むしろ、照れくさそうに笑っていた。

 悠馬の手が、グラスの水面を揺らした。

 その指がわずかに力を込めたのを、俺は見逃さなかった。


(……やばいな、これ)


 戦いの後に訪れた静寂は、平穏じゃなかった。

 それぞれの胸に、違う「ざわめき」が渦巻いていた。

 俺はそっと小剣に目をやる。

 青い光が、まだ脈打つように瞬いていた。

 まるで、それ自体が“生きている”みたいに――。

 次の階層へ向かう前の沈黙。

 優奈の笑顔も、悠馬の視線も、どこかぎこちない。

 そして俺自身も、心の奥で気づいていた。


――この剣は、ただの力じゃない。

使うほどに、何かを削っていくような……そんな嫌な感覚が、確かにあった。

 それでも俺は、剣から手を離せなかった。

 奇妙なほどに、この“黒き刃”が心地よかったのだ。


(……次も、俺が前に立つ。もう誰も、死なせねぇ)

 そう誓った瞬間、小剣の青光が静かに明滅した。

 まるで応えるように――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ