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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第42話 迷霧地帯と宝箱

 休憩所での束の間の休息を終えてから、俺たちは再びダンジョンの奥へと向かった。

 第四階層。

 ――そこには、白く揺らめく霧が立ち込めていた。


「……うわ、なんだこれ。視界、最悪じゃん」


 思わず足を止めて、俺は庁スマホのライトを点けた。

 霧が光を飲み込み、わずか数メートル先すら霞む。

 空気が湿っていて、鼻先に鉄の匂いが微かに混ざっていた。血の臭いかもしれない。


「『迷霧地帯』だね」

 優奈が囁く。声のトーンがいつもより低い。

「掲示板にあったよ。視界を奪って、錯覚や幻影を見せてくる層……らしい」


「幻影? つまり、罠みたいなもんか」

「うん。低階層にしては珍しい。視覚操作の魔力がこれだけ濃いの、上位層クラスだよ」


「……マジかよ」

 悠馬が顔をしかめる。

 彼の手は汗で滑って、剣の柄を握る力が強くなる。

 その様子を見て、俺は軽く肩を叩いた。

「平気だって。もし敵が出たら、俺が止める。お前は背中だけ見とけ」


「……言うようになったな、リーダーさんよ」


 苦笑混じりのその返事に、少しだけ空気がほぐれた。


 だが――。


 足を踏み入れた瞬間、世界が“静止”した。


 音が、消えた。

 呼吸の音も、靴底の擦れる音も。

 ただ、霧が生き物のように蠢いて、こちらを包み込んでくる。


「……優奈? 悠馬?」

 返事がない。


 胸が、ざわりと波立った。

 距離にして数歩のはずなのに、二人の姿が完全に消えている。

 霧の中、白と灰だけの世界に、俺ひとり取り残された。


 ぞくりとした悪寒が背を走る。

 反射的に《アビリティジャック》の起動を意識する。

 視界の隅に、淡く光る文字が現れた。


《対象不明。環境魔素による感覚干渉を検知》


「……環境ごとジャックしろってか」

 俺は笑った。乾いた笑いだ。

 だが、試す価値はある。


《アビリティジャック――対象:迷霧》

 発動。

 霧の内側でうごめく“何か”の気配――それを感知する。

 俺の脳内に、いくつもの視点が流れ込んできた。

 地を這うゴブリンの群れ。天井に潜む影。

 それぞれの位置、動き、呼吸までが“見える”。


「っ……! これ、マジかよ……!」

 頭が割れそうだった。情報が多すぎる。

 だが、今はこれを制御するしかない。


 奥で――金属が軋む音がした。


「――遼っ!」

 霧を裂いて、優奈の声。

 続けて、悠馬の影が走る。

 その背後から、灰色のゴブリンが飛び出した。


「二体……いや、五体!?」 「囲まれてる、遼!」


 優奈が叫ぶが、俺はすでに動いていた。

 ゴブリンたちの動きは、もう見えている。

 霧の中でも、軌跡が線のように浮かび上がる。


「アビリティジャック:瀕死状態ゴブリン――」


 俺は一歩踏み込み、剣を薙いだ。

 同時に、敵の動きを“先読み”する。

 それはまるで、時間をわずかに巻き戻しているかのような感覚だった。


 首が飛ぶ。腕が裂ける。霧に血の霧が重なる。

 視界の白が、紅に染まっていく。


「遼くん……今の、何? 目で追えなかった……」


「俺もわかんねぇ。けど、多分“奴らの攻撃パターン”をそのまま自分に上書きしてる。反応速度が……おかしい」


「おかしいって? ふふ……褒め言葉だよ、遼くん!」

 優奈が笑う。緊張の中でも、その笑顔だけは光だった。


 戦闘が終わると、霧が少しだけ薄まった。

 呼吸ができるようになる。


 だが、安堵する暇はなかった。

 霧の向こう――微かに、光るものが見えた。


「……宝箱?」


 それは、まるで誘うようにそこにあった。

 木製の箱に、金の縁取り。

 古びた意匠だが、どこか人工的でもある。


「わぁ! 宝箱だ!」

 優奈が目を輝かせる。完全に子供のようだ。

「ラッキー! 絶対いいもの入ってるよ!」


 悠馬は顔をしかめた。

「いや……待て。こんなわかりやすく置いてあるなんて、怪しすぎないか?」

「掲示板で見たぞ。『ダンジョンは宝箱出現率高め、でも中身は命と引き換えレベル』とかなんとか……」

 

 俺は思い出す。

確かに、そんな書き込みがいくつもあった。

 だが、今の俺からすれば……。


「誇張だろ。いくらなんでも下級ダンジョンで死ぬ罠なんて、バランス悪すぎる」


 俺がそう言うと、優奈は嬉しそうに「でしょ?」と笑った。

 悠馬はまだ渋い顔をしていたが。


   ガコン――。

 蓋が開いた瞬間、天井の隙間から仕掛けが発動した。


「っ!? 矢の雨!?」

 次の瞬間、空を覆い尽くすほどの矢が降り注ぐ。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 優奈が悲鳴を上げ、悠馬は腰を抜かす。

 俺は――冷静だった。


《アビリティジャック――発動条件、対象:無機物》

《確定発動》

《ターゲット可能:トラップ》


 視界の端に文字が浮かんだ。……無機物は、確定で発動するらしい。


 俺の体が勝手に動いた。

 剣を振る。

 矢が触れた瞬間、刃が軌道を逸らす。一本、二本……いや、すべてだ。

 まるで俺の周囲に「弾幕反射シールド」でも展開されているかのように。


「なっ……全部はじいた!?」

 悠馬の目が見開かれる。

「遼くん、かっこよすぎ……!」

 優奈が胸に手を当ててぽーっとしている。


 矢の雨は俺を中心にすべて弾かれ、壁に突き刺さって静かになった。

 ……なんだこれ。俺、自分でも鳥肌が立った。


 罠が消えると、宝箱の中に一振りの剣が収まっていた。

 漆黒の刀身に、淡い青の光が走る。重厚感が違う。


「……魔鋼の小剣?」

 俺は《庁スマホ》を取り出し、カメラで撮影する。

 しかし――。


《情報表示不可》


「……おいおい、ふざけんなよ。せっかく便利機能なのに、レア品は情報出ないとか」

 俺は呆れて笑った。


「逆にやばい証拠じゃないか……? 本当に危険なんだって」

 悠馬が青ざめた顔で言う。

 優奈は小剣を見つめながら「でもすっごく綺麗……遼くんに似合うよ」


「なあ、遼」

 悠馬がふと笑った。

「お前、いつの間にそんな頼もしくなったんだよ。俺、ほんとに何もできなかった」


「そんなことない。悠馬が前に出てくれたから、俺が動けたんだ」

 そう言うと、彼は照れくさそうに頭を掻いた。

「……そう言われると、ちょっと報われるな」


 優奈がそのやり取りを見て、柔らかく微笑んだ。

「二人とも、ほんといいコンビ。……なんか、安心する」


 その声が、霧の空間に溶けていく。

 俺は深く息を吸い込み、空気の冷たさを肺に刻んだ。


(この力は、まだ終わりじゃない。何か――もっと奥にある)




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