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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第5話 ダンジョン突入

翌日の夕方。

 藤堂遼は、新宿駅西口のロータリー前に立っていた。


 ――昨日、黒い穴が現れた場所。

 今は高いフェンスに囲まれ、警察と自衛隊が忙しなく出入りしている。

 ニュースでは「大規模な陥没事故」と報じられていたが、

 当然そんな言い訳で納得している人間など誰もいない。

 駅前は野次馬とカメラでごった返していた。


「……やば、完全に祭り状態じゃん。

 あれ、ニュースのヘリ? いやドローンまで飛んでるし!?」


 遼は帽子を深くかぶってマスクを上げた。

 昨日の“スレッド騒ぎ”で、ネットに顔バレしかけたことを思い出す。


「俺、もうネットでも現場でも顔バレかよ……どこの炎上系配信者だよ……」


「心配いらないわ」


 隣に立つ香坂真琴が、冷静に言った。

 黒いジャケットに細身のパンツ、髪を後ろでまとめた姿は、

 どう見ても“普通の女子大生”ではない。

 その立ち姿には、戦場に立つ者の気配があった。


「外の人間には“内部”は見えない。あの穴は、探索者にしか開かない」


「は? 昨日めっちゃ見えてたじゃん。

 ニュースの生中継でバッチリ映ってたし!」


「昨日は“完全開放”状態だったから。今は封鎖中よ。

 見えるのは、探索者に認定された人間だけ」


 真琴がスマホを操作すると、フェンスの内側が揺らめいた。

 空気の層がねじれ、黒い渦がゆっくりと口を開く。


 ……人混みの誰も、それに気づいていない。


「――行くわよ」


「ちょ、ちょっと待って、心の準備が――」


 言い終わる前に、真琴が遼の手を掴んだ。

 次の瞬間、視界が反転した。





 闇。

 耳鳴り。

 落ちているのか、浮いているのかもわからない。

 胃袋が裏返るような浮遊感に、遼は思わず目をつぶった。


 ……そして。


 ドン、と足に硬い感触が戻る。


 遼が目を開けると、そこは――洞窟だった。

 四方を黒い岩壁に囲まれ、湿った空気が漂う。

 天井には青白い光苔が淡く輝き、地面は石畳のように整っている。


「……マジで、ゲームじゃん」


 思わず呟く。

 VRでもここまでリアルには再現できない。

 肌にまとわりつく湿気、鼻をつくカビ臭、岩のざらつき。

 五感すべてが“現実”を告げていた。


「気を抜かないで」


 真琴はすでに氷槍を手にしていた。

 その冷たい表情に、遼は背筋を伸ばす。


「ここが第一階層――“新宿ダンジョン”の入り口よ」


「ダンジョン……。

 いや、名前からして物騒なんだけど?」


「小規模だけど、実戦級。探索者試験のステージね」


「試験!? 勝手に受験扱いされてんの!?」


「あなたの《アビリティジャック》が認められてるの。

 昨日の戦闘データが自動で送信されたみたい」


 遼はスマホを取り出した。

 画面には見慣れないインターフェース。


> 【探索者:藤堂遼/階級E/Lv2】




「Eランク……虫かよ」


「せめて哺乳類になってから嘆きなさい」


「人を進化の途中で止めるな!」


 思わず突っ込みを入れたが、

 真琴の視線はすでに周囲へ向けられていた。


「……敵の気配、まだない。けど、油断しないで」


「う、うん」


 その返事の途中で、ふと思い出した。


「てかさ、俺のスキル……発動条件、まだ無理ゲーのまま?」


「ええ。“瀕死状態で発動”」


「いやいや! デスゲームのチュートリアルじゃんそれ!」


「試してみる?」


「やめろぉぉぉ! その顔マジで冗談に見えないから!」


 真琴は小さく笑った。

 その瞬間、少しだけ空気が和らいだ気がした――が。


 奥の通路から、低い唸り声が響いた。


「……今の、何?」


 闇の中から、灰色の影がゆらりと現れる。

 丸まった背中、黄色く光る目、長い爪。

 腐った肉のような臭気が鼻を突いた。


「……ゴブリン、ね」


「うわマジか。ほんとに出たよ!? 

 ゲームだと雑魚敵ポジのやつじゃん!?」


「現実のは雑魚じゃない。油断すれば死ぬわ」


「軽く言うなぁぁ!」


 ゴブリンが唸り、四足で地を蹴った。

 真琴が即座に氷槍を放つ。


 キィィン!

 鋭い氷の槍が空気を裂き、ゴブリンの肩を貫いた。

 血が飛び散り、岩壁を赤く染める。


「……っ、効いたか!?」


「まだよ!」


 真琴の警告と同時に、ゴブリンが突進してきた。

 傷をものともせず、鋭い爪を振りかざす。


「くっ――!」


 真琴が構え直すが、連射には一瞬の隙がある。

 その刹那――遼の体が勝手に動いた。


「うわああっ!」


 彼は真琴を突き飛ばし、代わりに爪を受けた。

 腕に鋭い痛み、熱い血が噴き出す。


「いってぇぇぇぇっ!」


 その瞬間、スマホが震えた。


【条件達成:瀕死判定】

《アビリティジャック》発動可能――対象:香坂真琴




「はぁ!? ほんとに死にかけトリガーなのかよ!」


 次の瞬間、体の奥から冷気が奔った。

 手を伸ばすと、白い霧の中から氷の槍が形成される。


「……出た! 俺も氷魔法使える!」


「バカ! 早く撃ちなさい!」


「了解っ!」


 勢い任せに、遼は槍を投げた。

 氷槍は一直線に飛び、ゴブリンの胸を貫通。

 獣の断末魔が洞窟に響いた。


 ――静寂。


 遼は息を荒げ、足を震わせながら呟く。


「……やったのか?」


「ええ。初撃破、おめでとう」


 真琴が静かに言う。

 その顔に、わずかな驚きと安堵が混ざっていた。


 遼は手の中を見る。

 まだ冷気の残る掌が、現実の証のように痛い。


「俺……ホントに魔法、撃ったんだな……」


「あなたのスキルは危険だけど、有望。

 でも“死に急ぎ”は禁止。わかった?」


「わ、わかってるって……」


 遼が苦笑したそのとき、スマホが再び震えた。


> 【討伐完了:ゴブリン1体】

報酬:探索ポイント+10

経験値獲得――Lv2→Lv3




「……レベル上がった!? マジでRPGじゃん!」


「RPGのつもりで油断すると、現実でも死ぬのよ」


「そんな教育的指導みたいな言い方やめて!」


 それでも、胸の奥に湧く高揚感は止められなかった。

 恐怖と興奮が入り混じる――初めての“戦いの実感”。


 遼は拳を握った。


「……逃げても、あの穴は消えない。

 なら、少しは足掻いてみる」


 真琴が静かに微笑む。


「いい覚悟ね。じゃあ、次はもっと強い敵よ」


「ちょ、待って! 休憩とか!?」


「戦闘は続くの。現実も、ゲームも同じよ」


「理屈として合ってるけど納得できねぇぇぇ!」


 その悲鳴をかき消すように、洞窟の奥から再び咆哮が響いた。


 遼は肩を震わせながらも、拳を固める。

 恐怖の奥に、確かにあった。

 ――“戦いたい”という衝動が。


「……来いよ。今度は、逃げねぇ」


 真琴が氷槍を構え、遼が隣に並ぶ。


 光苔の淡い光が二人の影を長く伸ばした。


 ――こうして、藤堂遼の“探索者”としての第一歩が始まった。



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