第39話 アビリティジャック、発動
ダンジョンエリア草原。
森の縁に立つ俺たち三人
――藤堂遼、神田悠馬、水瀬優奈の前に、一体のゴブリンが姿を現した。
人間の子どもほどの背丈、黄ばんだ牙をむき出しにし、短剣をぎこちなく握って突進してくる。
「俺が前に出る! 遼、援護頼む!」
悠馬の声は迷いがなく、鋭く風を切る。腰の剣に力を込め、その眼にはいつになく研ぎ澄まされた光が宿っていた。
「わ、わかった……任せろ!」
俺は手を腰に置きながら声を張る。胸の奥の鼓動は早く、掌が少し汗ばんでいる。
――まぁ、やるしかねぇか。
悠馬の剣が一閃。
ゴブリンの腹を正確に捉え、錆びた鎧を突き破った。
緑の血が空中に飛び散り、獣の悲鳴が草原に響いた。
「ナイス!」
俺が声をかけると、悠馬は軽くうなずいた。
だが――油断は許されなかった。
草むらの影からゴブリンが悠馬に跳びかかってきた。
遼、優奈「悠馬!」」
ガキンッ!
錆びた短剣が悠馬の鎧を貫き、体が後ろに弾かれる。
「ぐっ……あ、あああっ!」
俺の胸が凍る。
悠馬は地面に倒れ、胸から血があふれ出している。
「やばい……」
優奈が駆け寄り、両手をかざす。
淡い光が彼女の指先から溢れ出し、悠馬に触れる。
『《治癒》!』
眩い光が傷口を塞ぎ、血は徐々に止まる。だが呼吸は荒く、意識もまだ定まっていない。
「クソッ、やべぇぞ!」
咄嗟に俺は剣先をゴブリンに向ける。
胸の奥で、何かが「カチリ」と音を立てた。
視界に赤いカーソルが浮かぶ。
【ターゲット可能:ゴブリン】
「……え?」
頭の中に文字が走る。
《アビリティジャック――発動条件、敵の瀕死確認》
「ゴブリンの動きを……コピー?」
次の瞬間、俺の体にゴブリンの身のこなしが流れ込む。
短剣の扱い方、斜めに切り込む軌道、重心の移動――すべてが自然に理解できる。
まるで体が勝手に動いているかのようだった。
「はぁあああっ!」
俺は剣を振り抜き、2体のゴブリンの生命を断つ。
再び緑の血が空中に飛び散り、敵は断末魔の悲鳴を上げて崩れ落ちた。
――息が止まるほどの静寂。
「な、なんだ今のは……」
悠馬が弱々しく問いかける。
顔色はまだ悪く、完全には回復していない。
「わからない……でも、俺、コピーしたんだ。ゴブリンの技を」
「それが……遼くんのスキル? 《アビリティジャック》?」
優奈は目を見開き、驚きと期待が混じった瞳で俺を見る。
俺は剣を見下ろす。
手に残る感覚は、間違いなくゴブリンのもの。
敵も味方も――
戦場に存在する力を奪い、理解し、使える力だ。
「……すごいよ、遼くん」
優奈の声に少し照れながらも、俺は剣を握り直す。
「まだ、使いこなせるか……わからないけど」
倒れたゴブリンの影に、風が揺れ、遠くの木々がざわめく。戦場の空気が妙に重い。
「遼、次は俺が……!」
悠馬が立ち上がろうとする。
「まだ動くな、悠馬! 完全には回復してない!」
俺は制止する。
――その時、森の中から複数の気配が迫った。
小さな足音だが、確実にこちらに向かってくる。
影が森の縁から飛び出す。
「増援か……?」
俺の胸が高鳴る。
アビリティジャックの力で、戦況は一変するかもしれない。
心の奥で、戦いへの興奮が芽生えた。
「よし、いくぞ……俺たちなら、絶対に勝てる!」
優奈が光を纏い、俺に力強く視線を向ける。
悠馬もまだ弱々しいが、剣を握り直している。
俺は深呼吸をし、足元の土を踏みしめた。
――敵の力を奪い、自分のものにする。
――味方の力を信じて、前へ進む。
『アビリティジャック……この力、使いこなしてみせる』
胸の中で決意を固め、俺は次の敵へと踏み込む。
剣の感覚はまだゴブリンのものだ。だが、この力をどう使うかは――俺次第だ。
「来いよ……!」
――森の奥から、十体近くのゴブリンが飛び出してきた。
刹那の緊張。風に揺れる草。鋭く光る目。
戦いは、まだ始まったばかりだった。
「遼、右側に二体!」
悠馬が前線で叫ぶ。
俺は視線を合わせ、右にステップ。
《アビリティジャック》発動――ゴブリンの動きをコピーし、横に回り込む。
「凄えな……まだ全力でもねえのに」
俺は息を整えながら、斬撃を連続で叩き込む。
優奈は後方支援に徹する。
「遼、悠馬、気をつけて!」
光の弾丸がゴブリンの間を飛び交い、敵を押さえ込む。
「なるほど……連携次第で数は関係ないってことか」
「遼、行くぞ!」
悠馬が息を切らしつつも笑った。
俺は敵の背後を取り、悠馬は前で抑える。
「光弾、ありがとう、優奈!」
「無理しないで、遼」
ゴブリンは一体、二体と倒れ森の中は血と緑の匂いに満ちる。
「くそ……右からも来るぞ!」
悠馬が叫ぶ。
「任せろ!」
俺は再び体に流れ込む敵の動きをコピーし、斬撃で迎え撃つ。
十体以上のゴブリンが前後左右から突進する。
しかし、俺たちは三人の呼吸を合わせ、戦線を崩さない。
「遼、左も来ます!」
優奈が警告する。
俺はステップし、左からの斬り込みを避けつつ反撃。
「よし……いける!」
悠馬も剣を振り、優奈の光弾が敵を押さえ込む。
――ゴブリンは次第に疲弊し、戦力が分断されていく。
俺はアビリティジャックで敵の動きを読み取りながら、悠馬と優奈の動きを補完する。
「遼……このままいけば勝てるな」
悠馬が荒い息をつき、剣を握り直す。
「……ああ。だけど油断すんなよ、悠馬。」
優奈は淡い光を放ち、俺たちの体力を補う。
最後のゴブリンがこちらに立ちはだかる。
緑の血で汚れた小さな獣だが、目は鋭く光る。
「来い……!」
俺は剣を握り、全身でアビリティジャックの感覚を受け入れる。




