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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第37話 主人公、フラグ回収に出発

 藤堂遼は、腕時計をちらちらと確認しながら、キャンパス通りを早足で歩いていた。

 約束の時間は午後三時。

 だが彼の足取りは、すでにス〇ーバッ〇スの緑のロゴを視界に捉えつつ時刻は午後二時半を示していた。


「ふふふ……俺、完璧すぎる。デキる男は約束より早く来て待つ。それが基本中の基本!)」


 小声で自分を鼓舞する。

 大学生の遼にとって、三十分前行動など普段ならありえない。

 講義にはギリギリ、バイトには五分前集合。

 むしろ「遅刻はしないが早くも来ない」タイプの典型だった。

 だが今日は違う。

 ス〇バで待ち合わせ。

 相手は水瀬優奈。チームメンバーであり、そして……癒し系天然美少女である。


(ヒロインとの待ち合わせに遅れる主人公なんていない。むしろ早く着いて、さわやかに待ってるのが正解だろ!)


 完全にラブコメ脳に浸りながら自動ドアをくぐった。

 カラン、と涼やかなベルの音。

 エアコンの効いた空気に、コーヒー豆の焙煎された香りが混じる。

 店内は平日の午後とあって、勉強に励む学生、ノートPCを開いて仕事をしている社会人風の人々で、半分ほど席が埋まっている。

 流れているのは洋楽の軽快なジャズ。

 テーブル越しの笑い声やカップの音が混ざり、都会らしい雑踏の一部を切り取ったような空間だ。

 遼は店内をぐるりと見渡す。

 そこで――目が止まった。

 窓際の二人掛けテーブル。

 そこに、水瀬優奈がすでに座っていた。


「……え?」

 思わず声が漏れる。

 まだ約束の時間三十分前。

 むしろ「早く来たぜ!」とドヤ顔するはずの遼より先に、彼女はすでに座って待っている。

 しかも手元にはカップが置かれている。

 白いカップの上にはまだ湯気が立ち昇り、つい最近注文したことがわかる。

 水瀬優奈――遼と同じ探索者新人研修組に所属する大学生。

 栗色のセミロングの髪をふんわりとハーフアップにまとめ、耳の横でゆるやかに揺れるリボンが涼やかさを添えている。

 顔立ちは丸みを帯びており、ぱっと見では幼さを感じさせるが、整った二重の瞳は澄んだ湖面のように優しく輝き、見る人を安心させる。

 今日は薄いピンクのブラウスに白のカーディガンを羽織り、スカートは淡いベージュの膝丈。清楚そのもの。

 そして細い手首にはシンプルなブレスレット。

 一言でいえば、男子大学生が一緒に歩いていたら確実に羨望の眼差しを受ける、そんな女子である。

 彼女は手元のカップに口をつけ、ほっと一息ついたところで遼に気づいた。

 目が合うと、ぱっと花が咲くような笑みを浮かべて手を振る。


 「藤堂くん!」


 遼は心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。


(……やばい、かわいすぎる)


 たったそれだけの仕草でHPが全回復した気分だった。

 慌てて彼女の元へ向かい、頭を下げる。


「ご、ごめん! 遅れたか!? いや、三十分前に来たんだけど……」


 優奈は小首をかしげて微笑んだ。

「ううん、私が早く来すぎちゃったの。藤堂くん、全然悪くないよ」

 

「え、早く来すぎ……って、まだ三十分前だぞ?」

 

「だって、なんか……ドキドキして、家にいても落ち着かなくて。だから一時間前にここに来ちゃった」

 

「い、一時間前!?」


 遼はひっくり返りそうになった。

 待ち合わせにおいて、一時間前行動など聞いたことがない。


(これもう、ヒロイン力が規格外……!)


 脳内で『さすが天然系ヒロイン!』とラブコメ演出のテロップが流れた。

 ふたりは飲み物を手に、しばし世間話を始めた。

 優奈はキャラメルマキアートを両手で大事そうに包み込みながら、嬉しそうに笑う。


「藤堂くん、ス〇バ来るの初めて? なんかちょっと緊張してるみたい」

 

「えっ、そんなにわかる? いや、まぁ……普段は自販機の100円コーヒーばっかだからな」


 「ふふっ、わかる気がする。私も滅多に来ないんだ。だからちょっと特別な感じがするよね」

 

 店内のBGMが軽やかに流れ、周囲の客たちはパソコンに向かうか談笑している。

 その中で、ふたりのテーブルだけが妙に甘い空気を纏っていた。

 優奈はストローを唇にくわえてアイスを啜る。

 その仕草に、隣のテーブルの男子大学生が一瞬ちらりと視線を寄越すのを、遼は見逃さなかった。

 

(おいおい、見んな。これは俺のパーティーメンバーだぞ! ……あれ? なんか言い方がRPGっぽいな)


 軽口を叩かれつつも、会話は不思議と弾んだ。 大学の授業、寮生活、サークル仲間の噂話。 気づけば笑い合いながら時間が過ぎていく。


(……これ、もう作戦会議っていうより完全にデートじゃん……!)


 優奈は『ちょっと嬉しい勘違い』をしたまま、楽しげに頬を染めていた。

 午後三時を五分ほど過ぎた頃。

神田悠馬が姿を現した。

 黒髪をラフに整え、グレーのパーカーにジーンズというシンプルな格好。

 身長は高く、顔立ちは涼しげ。

 遼とは正反対で自然体で格好いいタイプだ。

 彼は店内を見渡し、ふたりを見つけると片手を上げて歩み寄る。


「悪い、遅れた。電車がちょっと止まっててさ」

「あ、悠馬!」


 遼は笑顔で迎えたが、隣の優奈の表情が一瞬曇った。 

 そして、にこやかに「うん、大丈夫だよ」と返したものの、どこか声音が冷たい。

 遼は首を傾げる。

 

(ん? なんで急に機嫌悪くなった?)


 神田悠馬は優奈の様子に気づき、わずかに目を泳がせた。 

 だが、何も言わずに席に着いた。


(え、なにこれ? 俺だけわかってないやつ? ラブコメのテンプレ展開きた!?)


 遼は内心で混乱の嵐だった。


「……」

 優奈は黙り、ストローをカップに突っ込む。 返事も短く、笑顔もなくなった。


(な、なんだこれ……!? 俺、なんかやらかしたか!?)


  遼は混乱するが、思い当たる節はない。

  一方の神田は「……あー、やっぱりな」と心当たりがある様子。

 しかし遼に理由は説明しない。

 ちらりと優奈に視線を送るが、彼女は頑なに目を合わせなかった。


(……なんだよこれ、完全に修羅場の空気じゃん! 俺わけわからんのだけど!?)


  動揺しつつも、遼は本題に切り替えざるを得なかった。


「……と、とにかく、本題に入ろう」


 そう言って遼はスマホを取り出し、掲示板で見た情報をテーブルに並べる。


「探索者って、どんなビルドでも二、三発食らったら死ぬらしい。庁の資料にもそう書いてある」


「紙装甲、だな」

神田がうなずく。 優奈も無言で頷いた。


「だから俺たちも対策を立てないといけない。まずは役割分担だ」


 三人で頭を突き合わせ、紙ナプキンにメモを取りながら議論する。


 神田=前衛。盾役兼アタッカー。

 遼=中衛。 サポートと補助火力

 優奈=後衛。回復と補助魔法。


「あと、ルールを決めよう」

「ルール?」


「被弾は二回まで。二回食らったら即撤退。それ以上は無理をしない」


「なるほど……死ぬよりはマシか」

 

 神田は真剣な顔になり、優奈も神妙に頷いた。

  次に机を使ったシミュレーションが始まる。

 ナプキンをゴブリンに見立て、ストローを剣にして動かす。


「俺が突っ込んで、ここでヘイトを取る。その隙に遼が横から叩いて――」


「ちょ、待て、それだと優奈が孤立する!」


「じゃあこう? 私が後ろから回復して――」


「ちょ、ちょっと待て、机の上で人形遊びみたいになってるぞ!」


 やっている本人たちは大真面目だが、周囲の客からは奇異の視線が集まる。

 三人は顔を真っ赤にし、こそこそと声を落として再び戦術を練った。

 テーブルを囲んで本題に入る。 


「次に挑むべき初心者ダンジョン」と「紙装甲をどう補うか」。


 悠馬がノートPCを開き、地図を表示する。


 「都内近郊で初心者向けっていえば、この二つだな。『スライム洞』か『初心者の森』」


 「うわ、名前だけ聞くとヌルそうだけど……説明読むとどっちも怖いな」


 遼が顔をしかめる。

 「うん……毒持ちスライムとか、ゴブリン集落とか……」


 優奈は怯えがちに画面を覗く。 悠馬は顎に手を当てて言った。


「どっちにしても、三人以上で挑むのが安全策だ」


 遼は胸を張る。

 「よし、俺たち三人で組もう! 主人公パーティー結成だ!」

 

「しゅ、主人公……」

 優奈が苦笑する。


「……お前な」

 悠馬は呆れ顔でため息をついた。 


 だが結局、三人で役割分担を話し合い、初陣の方向性を固めていった。

 遼の頭の中ではBGMが鳴り響いていた。


 (これだ……これぞRPG開始直前の雰囲気!)


 ひと通りの話し合いを終え、三人は席を立った。 

 外は夕方に差し掛かり、街路樹の影が長く伸びている。


 「じゃ、また連絡取り合おう」

 悠馬が手を振り、先に駅の方へ歩いていく。

 遼も「おう!」と応えたが、隣の優奈は無言で軽く会釈しただけ。

 どこか素っ気ない。


 (……やっぱり機嫌悪いよな? なんでだ?)


 理由がわからないまま、彼女と別れた。


 ひとりになった遼は空を仰ぐ。

 「……俺が主人公なら、このフラグ……どう回収すればいいんだよぉ!」


 夕焼けに向かって叫ぶ姿は、誰がどう見てもラブコメ主人公そのものだった。


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