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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第36話  スマホ越しの決意

 通話を切った直後、藤堂遼はベッドの上で一呼吸置いた。

 スマホの画面に残る未読の通知が、まるで自分の決意を待っているかのように光る。

 水瀬優奈の「行く!」メッセージがふわりと浮かんだ。

 なんだかんだで、彼女の天然リアクションに少し救われた気分だ。


「よし……次は神田悠馬に電話だ」


 遼は自分で言っておいて、やっぱり少し照れた。

 なんだか自分が物語の主人公になったような気がしてくる。

 胸の奥で、勇者っぽいBGMが流れる(主観)。

 指先がスマホの連絡先で「神田」を探す。

 呼び出し音が数回鳴る間、頭の中で短いシミュレーションが回る。


(神田は多分、「おう行くぜ!」って元気に来るか、あるいは「今飯食ってる」って断られるかの二択だな。

 いや、たぶん来る。来るに決まってる。うん、来る来る来る!)


「ピロロロ……」


 コールが鳴る。

 数回のコール後、宙に浮いたような声が届いた。


「もしもしー? 藤堂か? どうした、こんな時間に」


 神田悠馬だ。

 声だけで元気が伝わってくるようなタイプ。

 遼は深呼吸を一発して、できるだけ落ち着いた声で話す。


「おう、神田。明日ちょっと時間ある? ス〇バ行って作戦会議したいんだ。訓練のこととか、ダンジョンのこととか」


「おっ、いいね。優奈と? それとも違う女の子つれてんのか?」


 神田のからかい混じりの声に、遼は焦って手を振る(電話の相手には見えないが)。


「違う違う違う! 今回はマジで作戦会議。掲示板で“探索者は2〜3発で死ぬ”って話が盛り上がってて、訓練だけじゃダメだと思った。実戦でどう動くか、ちゃんとチームで話したいんだ」


「え、2〜3発で死ぬってマジかよw マジでそんな仕様あるのかよ」


 神田の声が一瞬下がるが、すぐに切り替わって楽しげに笑う。


「でもさ、面白くね? 避けゲーの実践編って感じでさ。ああいうの、俺は好きだぜ。お前が企画するなら俺も行く。武器? 買うなら俺も見たいし」


 遼は胸中にむくむくと湧きあがる安心感を覚える。

 神田の「行くぜ!」は、まるでパンチラの効果音みたいに爽やかだ。

 だが彼はすぐに次の声を思い出して、少し真剣に言った。


「ありがとう。優奈も来る。あと、……真琴先輩にも話したんだけど、彼女は『面倒をみる』って言ってくれた。でも、まだ棘あるからさ。俺、もっと強くなって、もう一度真琴に“いい武器屋”紹介してもらうって頼めるくらいにしたいんだ。待っててって伝えてもいい?」


 遼がそのセリフを口にした瞬間、胸の中にちょっとした火花が走った。

 真琴にまた頼むんだ、という決意が、彼の声に滲む。

 神田は一瞬沈黙した後、間の抜けた笑いを返す。


「おお、ロマンチックじゃねえか! 『待っててくれ!』って感じでヒーローっぽいじゃん。わかった。つーか武器屋に真琴さんの名前が通るってすげぇな。お前、真琴さんに信頼されてんのか?すげぇじゃん」


「いや、信頼っていうか……まだ約束しただけで、信用は一ミリもしてないけどな!」


 遼は開き直って言った。

 心の中では、真琴の棘とその裏の気遣いを大事にしたいと思っていた。

 彼女に「待っててくれ」と言わせるために強くなる――それは、ちょっと格好良くて、ちょっと痛い決意だった。


「じゃ、明日三時でいいか? 場所はス〇バで」


 神田は簡単に了承してくれた。

 通話の途中、彼は唐突に閃いたように言う。


「お前さ、武器買うなら俺も出すぜ。半分払ってやるから、いい武器買えよ。ついでにオレの分も頼むからな」


 遼は一瞬耳を疑ったが、すぐに思い直して断る。


「いやいや、気持ちはありがたいけどそれはいいよ。俺が自分でなんとかする。まずは訓練で動けるようにならなくちゃ」


「おう、わかった。んじゃな、明日。ついでに飯でも食いにいくか。訓練後に祝杯だな!」


「了解」


 遼は電話を切り、しばらく無言で息をついた。

 身体から力が抜ける。

 やるべきことが明確になったのは、思いのほか心を楽にする。が、同時に不安も膨らんだ。

 掲示板の書き込みの重みが、実際の“死”の可能性を思い出させる。


(2〜3発で終わるって、本当にやばい。けど、それは逆に言えば“当てるチャンス”もあるってことだ。ならば俺は当てられる側じゃなく、当てる側に回る。火力と回避、どっちも必要だ)


 そんなことを考えていると、画面の隅でメッセージがはためいた。

 水瀬優奈からだ。


『ス〇バでね! 服どうしよう、私、慌ててるw』


 顔文字つきの短文。

 遼はにやりと笑った。

 かわいい。

 優奈は本当に無邪気で、仲間にすると心の底から安心するタイプだ。

 遼は軽く伸びをして、スマホに向かって呟く。


「よし、待っててくれ真琴先輩。俺、強くなって、良い武器屋紹介してもらうよう頼む!」


 その言葉は完全に自分自身を鼓舞するための台詞だ。

 けれど胸の奥で、それが彼自身の言葉として誰かに届いてほしいと願う小さな希望もあった。

 彼は、自分の中で小さな誓いを立てると、まずは明日の予定表を確認した。

 翌日の午後三時――ス〇バ集合、パーティミーティング。

 目的は「ダンジョン攻略のための実戦方針決定」と「各自の役割分担」。

 だが、遼にはもう一つ、密かな個人的ミッションがあった。

 それは『真琴の信頼を確かなものにすることだ。

 スマホを置き、遼は少しだけ部屋の片づけに着手した。

 訓練ウェアをちょっとずつ詰め、タオルを用意し、去り際にベッドの隅に置いたルナストーンをそっと触ってみる。

 石は冷え切った青をたたえて、ずっしりと手の平に重い。


(この石が俺の未来を決めるわけじゃない。けど、今の俺にとっては“やるべきこと”の象徴だ。これで武器を買うかどうかは別として、俺はまず、避ける技術と火力の扱いを磨く。で、その上で真琴先輩にもう一度頼めるだけの“筋”を通すんだ)


——決心を固めた遼は、夜の訓練計画を立てた。

 メニューは粗削りだが、実戦に即したものである。


・朝:基礎体力(ランニング、反復ダッシュ)

・昼:技術練習(回避・パリィの反復、ステップワーク)

・夕:スキル連携(優奈の回復を想定した安全確保の動き)

・夜:情報収集&シミュレーション(掲示板の危険フラグ洗い出し)


 遼はメモアプリに箇条書きで書き出し、スマホをロックした。

 明日は長い一日になるだろう。

 だが、彼はどこかわくわくしている。

 危険と恐怖があるからこそ、仲間と成功した時の喜びが何倍にもなる。

 それを信じて一歩踏み出すのだ。

 彼はふと窓の外を見て、ぼんやりと星を数えた。


『真琴先輩、待っててくれ。俺、ちゃんと強くなって、もう一回正面から頼みに行くから』


 彼は心の中で小さな呪文を唱える。

 声には出さないが、胸の奥には確かな答えがあった。

 明日のス〇バでの“会議”は、単なる戦略会議に留まらない。

 そこから、新しい彼らの関係が始まる可能性がある。

 それは戦術だけではなく、人間関係の戦術でもあるのだ。

 その夜、遼は悪夢を見なかった。

 おそらくそれは、少しだけ自分の手で未来を掴もうと動き始めたからだろう。

 スマホのアラームをセットし、彼は寝に落ちる。翌日、午後三時――ス〇バに集う仲間たちと、そして待つ真琴のために。

 彼は眠りながら、明日の自分に約束をした。


「待っててくれ、みんな。がんばるから」


 深呼吸を一つして、部屋の電気を消す。

 窓の外では、街灯がぽつりぽつりと灯りを落とし、夜は静かに更けていった。


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