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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第29話 2H(Two Hit Death)

「――登録完了っと。これで俺も“探索者”か」


庁舎ロビーの壁に並ぶモニターには、ひっきりなしに“出発済みチーム一覧”が流れていた。

山田陽介、21歳。元フリーター。軽いノリで始めたつもりだった。


「なあ、麻奈。これ、ゲームのロビーみたいじゃね?」


「そう? もっと殺伐としてるかと思ってたけど」


金髪ポニテの麻奈が笑いながら端末を操作する。

ほかの仲間――盾役の健、支援型の古橋、魔術担当の三谷――それぞれが装備チェックを終え、

「チーム《テスト01》、第3階層《ゴブリン群生域》、出発許可」

と音声が流れた。


教官が最後に言う。


「この階層は訓練向け。落ち着いて対応すれば危険は少ないです」


……その言葉を、誰も疑わなかった。


金属音。

転送ゲートを抜けた瞬間、山田の頬を湿った空気が撫でた。


灰色の岩壁、かすかな蒸気。

地下とは思えないほどの熱気と、遠くから響く水滴の音。


「……うわ、マジでRPGっぽい」


「ね。敵の位置、レーダーで出てる。あ、あれ、動いてる!」


三谷がタブレットを指差した。緑点が一つ、ゆっくりとこちらに向かっている。


「――来るぞッ!」


剣を構えた瞬間、視界の端で赤い影が跳ねた。

ぬらりと光る鱗。黄色い目。リザードマン。


最初の一撃はケンの盾に弾かれた。

だが次の瞬間、横からもう一体が飛び出す。


「三谷、下がれッ!」


遅かった。


ザクリ、と肉を裂く音。

三谷の腕から血が吹き出し、HUD(視覚モニター)に赤文字が走る。


 HP:38% → 0%


その数字が消えるのに、1秒もかからなかった。


「三谷っ!? 三谷ぁぁぁっ!」


麻奈の叫びが、洞窟に響いた。

古橋がスキルを詠唱しようとしたが、震えて声が出ない。


――リザードマンの爪が、もう一閃。


「ぐっ……!?」


ケンが庇ったが、ダメージログが弾ける。

彼の名前が、灰色に変わった。


「……2発で死んだ。……マジで“2発”なんだ」



山田は、剣を構えながら後ずさった。

手の震えが止まらない。


教官の言葉が脳裏で反芻する。

――訓練向け。危険は少ない。


嘘だ。

全部、嘘だ。


戦闘終了。

山田は、半壊した武器を持ったまま、ひとりでゲート外に転送された。


外の空気はやけに冷たかった。

光のドームが消えると同時に、庁の救護班が駆け寄る。


「探索完了。生存者一名、識別コードA-314。心拍正常」


その声が遠くに聞こえる。

麻奈も、古橋も、もういない。


――俺、助かったんだ。


庁の職員が冷たい金属机の前に書類を置いた。


「原因:リザードマンC個体による爪撃連続被弾。

 損失:三名。救出不能。死亡確認時間、17時42分。」



それだけ。

書類には、三人の名前すら載っていなかった。

「対象コードB」「対象コードC」――それが仲間の代わり。


山田は、乾いた笑いを漏らす。


「……人が死んだのに、“コード”かよ」


担当官が淡々と答える。


「感情を挟むと、統計が歪むので」



その言葉で、何かが壊れた。



帰宅した山田は、ベッドに倒れ込み、スマホを開いた。


検索窓に――

「探索者 死亡率」「庁 隠蔽」と打ち込む。


一番上に出てきたのは、匿名掲示板のスレッドだった。


【探索者総合スレ part112】


1 :名無しの探索者:

 お前ら、知ってる? “2発で死ぬ”ってマジらしい。

 耐久モデルが“平均被弾2.4回で死亡”ってデータ出てた。


4 :名無しの探索者:

 戦車じゃなくて軽スポーツカー理論だぞ。

 速く、軽く、ぶつかったら即死。


11 :名無しの探索者:

 庁の教官も言ってた。「死ぬ前に倒せ」って。


27 :名無しの探索者:

 平均生存戦闘時間、2分45秒。笑うしかねえ。



「……笑えねぇよ」


山田はスマホを握る手を強くした。


スクロールするたび、仲間の名前に似た投稿が目に入る。

“今日、C階層で全滅したチームがあるらしい”

“庁のログにエラー出てた”

“あれ、登録消されたんじゃ?”


画面の明かりが、山田の顔を照らす。

涙が滲む。

笑ってるのか泣いてるのか、自分でも分からなかった。


「俺も“2発で死ぬ”って笑ってた。

 でも実際、仲間が死んだ瞬間、それが真理だと分かった」


コメントを打ちかけて、指を止めた。

投稿ボタンを押す勇気が出ない。


彼の目に、最後の書き込みが映る。


> 144 :名無しの探索者:

 制度のせいだよ。

 “耐える”ように作られてない。

 “死ぬこと”までが設計に入ってる。


山田は、スマホを胸に押し付けた。


「……制度が、俺たちを殺してる?」


その言葉が、ゆっくりと沈殿していく。


部屋の窓の外、夜の空にうっすらと青い光。

ダンジョンゲートが、またひとつ、開いていた。



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