表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/54

第28話 制度という名の正義

白一色で塗られた会議室。

壁も、机も、照明も、すべてが無機質で――まるで「現実」を拒むようだった。


正面の大型スクリーンには、冷たいログデータが並ぶ。


> 【探索時間:2分28秒】

【パーティ名:蒼真班】

【死亡数:1/4】




無機質な音声が報告を読み上げるたび、室内の空気がさらに凍りつく。


「……二分二十八秒。」

報告を受け取った九条悠紀くじょう・ゆうきは、書類を閉じて淡々と呟いた。

その声は、まるで機械の出力値を確認しているかのように感情がなかった。


「耐久試験としては、優秀なサンプルだ。」


「……試験?」

神谷礼司かみや・れいじが眉を寄せる。

現場の管理官らしく、スーツの袖口にはまだ泥の痕が残っていた。


「九条さん、それ、人間なんですよ。」


九条は小さくため息をついた。


「現実的に言えば、死者一名につきデータ千件分の価値がある。

 我々は“命”を研究している。綺麗事だけで運営できる組織ではない。」


「……なるほど。命の数え方まで、統計的ですか。」


「合理的、という言葉を使ってほしいな。」


会議室の片隅で、小柄な女性――笠原理沙かさはら・りさが小さく身を縮めた。

新任の分析官。まだこの“世界の温度”に慣れていない。


「……あの、九条局長代理。質問、いいですか?」


「どうぞ。」


「蒼真さんたちは……“志願”して潜ってるんですよね? 無理に行かされたわけじゃなくて。」


九条は迷いなく頷いた。


「そうだ。国家は“機会”を与えた。選んだのは彼ら自身だ。」


理沙の唇が震える。

だが、九条の冷静な声がその感情をすぐに押し潰した。


「我々の制度は“自発参加制”だ。自己責任の原則に基づいている。

 ――それが、法の下の平等というやつだ。」


神谷が苦笑した。


「自己責任、ね。

 便利な言葉ですよ。現場の奴らは、“講習通りなら安全”って信じてる。

 まるで庁が守ってくれると思ってるんです。」


「信仰がなければ、あの世界には入れない。」

九条は、まっすぐに言い切った。

「……信じさせるのもまた、制度の役割だよ。」


沈黙。

冷たい蛍光灯の下、時計の針の音だけが響いていた。




「……“死を利用する制度”なんて、皮肉ですね。」


笠原が小さく呟くと、神谷が彼女をかばうように椅子を回す。


「お前、まだ若いからな。最初はみんなそう思う。

 “なんでこんなシステムで人を潜らせるんだ”って。」


「じゃあ、慣れたら……感じなくなるんですか?」


神谷は一瞬、言葉を詰まらせた。


「――感じるさ。けど、止められない。

 俺たちが止めた瞬間、誰かが代わりに潜る。

 だから庁は、“仕組み”を維持するんだ。」


九条は静かに席を立ち、モニターを切り替える。


映し出されたのは、数千人分の探索者データ。

生体波形、脳活動、スキル適合値――全てリアルタイムで管理されている。


「見ろ、神谷君。これが“庁の正義”だ。

 この国の安全は、彼らの死によって支えられている。」


「……皮肉にしか聞こえませんね。」


「皮肉でも、現実だ。

 理想を語るなら、政治家に転職するといい。」


神谷の表情に、わずかな怒りが滲んだ。

だが九条はその反応を楽しむように、わずかに笑った。


「――怒りが出るうちは、まだ人間だ。」




会議のあと、神谷は庁舎地下のモニター室へ向かった。

壁一面のモニター群が青白い光を放ち、AI管理システム《EIDOS》が稼働している。


「……主任、また徹夜ですか?」


オペレーターの青年が声をかけた。

神谷は苦笑して肩をすくめる。


「寝ても夢が悪いんだよ。現場の報告ばかり見るからな。」


モニターには、新規登録者のデータが並んでいた。

その中に――白鳥亜里沙の名前。


「ん……?」


神谷が画面に目を凝らす。

生体波長グラフが、他の探索者と明らかに違っていた。


「おい、これ……何だ、このピークは。」


「波長データが異常です。」

オペレーターが操作を止め、真顔になる。


「通常の探索者適合値を大幅に上回っています。

 特に“護光ガーディアン・ライト”の共鳴値が……規格外です。」


「護光……? まさか。」


神谷の視線が、グラフの波を追った。

その波形――去年、彼が見た“ハチ号被験体”と酷似している。


(……またか。まるで、あの時の再現だ。)


> 【EIDOS:警告】

《共鳴波長・異常値検出。被験体:白鳥亜里沙/隣接観測:藤堂遼》



「共鳴……?」


神谷は息を呑んだ。

胸の奥に、嫌な予感が渦を巻く。



その夜。

九条は白い会議室に一人残っていた。


窓の外では、遠くのゲートが青白く輝いている。

まるで“異世界”が、すぐ向こうにあるかのように。


机の上に、一冊の古いファイルが置かれていた。


【研究報告書:共鳴現象・被験体α】

【氏名:如月 きさらぎ・みお

【状態:行方不明】



九条は書類を開き、静かに指先でなぞる。


「二発で死ぬ命。だがその中から、時に“奇跡”が生まれる。」


ガラス越しに見える街は、深夜の光に満ちていた。

人々は誰も知らない。“地の底”で何人の命が失われているかを。


「庁は奇跡を待っているだけだ。

 人間が“限界”を超える、その瞬間を。」


彼の瞳に、一瞬だけ哀しみが宿る。

だがすぐに、それも無表情に戻った。




午前0時。

モニター室のAI《EIDOS》が自動で報告を吐き出す。


> 【監視対象:白鳥 亜里沙】

【共鳴波長:安定】

【隣接対象:藤堂 遼(観測候補)】

【備考:波長干渉の兆候あり――共鳴発現の可能性】




神谷はコーヒーを片手に、それを眺めていた。


「……また“共鳴”か。

 どうして庁は、未観測値をそんなに恐れるんだ?」


背後から通信音が鳴る。

スピーカー越しに、九条の低い声が響いた。


> 「恐れるのではない。観測するのだよ――神谷君。」

「人間の進化は、常に“犠牲”の上に成り立つ。」




神谷は苦い顔でモニターを見つめる。

そこには、遼と亜里沙の波長データが淡く交差していた。


「……犠牲、ね。

 じゃあ今度の“光”は、どっちを照らすんだろうな。」


彼の呟きを、AIが静かに記録した。


> 【EIDOS:ログ保存完了】

――“共鳴体”観測開始。




白い会議室に、再び無音が戻る。

しかし、その沈黙の奥で――確かに“何か”が動き始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ