第27話 探索者たちの声ー即死ゲーの現実
ダンジョン3階層
湿った空気が喉に貼りつく。
苔の匂い、金属の軋み、そして血のにおい。
「――敵、前方。距離十五。ゴブリン三。装備、棍棒」
低く短く告げたのは、探索歴三年目の男――蒼真。
その声に、後衛の女が即座に反応する。
「了解。援護入れる。……風弾、装填」
光を吸うような闇の中、かすかな魔法陣が足元に浮かぶ。
風が巻き上がる音に混じって、仲間たちの息が整う。
「シールド、展開。いくぞ、カウント3、2、1――!」
突入と同時、棍棒の一撃がシールドに叩きつけられた。
鈍い衝撃音。腕がしびれる。
二発目で骨が軋み、三発目を受ける前に、蒼真の剣が横薙ぎに閃いた。
「――抜けろっ!」
刃が緑の首を裂く。
血しぶきが飛び散り、湿った岩壁を染めた。
残り二体も仲間の援護射撃で倒す。
ゴブリンたちは呻く間もなく崩れ落ちた。
静寂。
残ったのは、自分の呼吸音と心臓の鼓動だけだった。
蒼真は剣を下げながら、短く息を吐く。
「……一発目で骨折。二発目で戦闘不能。やっぱ、紙だよな」
盾役の青年――蓮が苦笑した。
「蒼真さん、それ、講習でも言われましたよね。“二発で死ぬ”って」
「講習は警告じゃなく、事実だ。……忘れんなよ」
誰も笑わなかった。
命の軽さが、笑い話にはならない世界だった。
-ネット掲示板 ― “外側の声”
> 【探索者スレ】Part148
1:名無しの探索者
新米パーティ、昨日のダンジョンで壊滅。3人即死。
ログ見たら1分半で全滅してて草。
5:名無しの傭兵
即死ゲーにリアルの命かけてんの笑う。
10:名無しの分析厨
耐久値=2発。これ定説。庁もデータ出してた。
17:名無し
紙装甲でも夢見て潜るのが探索者だろ。
ロマンってやつだよ。
スクロールするたび、現実が軽くなる。
人の死が、ただの「話題」に変換されていく。
「――ゴブリン1体オーク1体。距離二十!」
蒼真が警告した瞬間、空気が震えた。
棍棒が石床を裂く音。
反応の速い個体だ。
「構えろ! こっち来る!」
「くっ……速っ!」
前衛の蓮が盾を構えたが、衝撃で膝が折れる。
ゴブリンの棍棒が掠めただけで、HPゲージが半減した。
「っぐ……あと一撃で――!」
「下がれ! 援護行く!」
風弾が飛ぶ。しかし、敵は避けた。
その横から、オークの咆哮。
タックル一発。蓮の身体が宙を舞い、岩壁に叩きつけられる。
「蓮っ!」
鈍い音。
蒼真が駆け寄ったとき、蓮の探索者カードが光を失っていた。
仲間の一人が嗚咽を漏らす。
「……うそ、でしょ……? ついさっきまで――」
蒼真は拳を握りしめた。
しかし、怒りより先に、頭の中で浮かんだのは冷静な数字。
二発。
確かに、二発で死んだ。
> > > 38
「新米が最初に死ぬ理由=“俺なら耐えられる”って勘違いするから」
画面の中の文字が、まるで皮肉の刃のように脳裏をよぎる。
地上へ戻る途中、蒼真は血に染まったカードを見つめていた。
「……二発、だったな。庁の講習、嘘じゃなかったわけだ」
背後の女――ミナが震える声で言う。
「……あたし、逃げた。あの瞬間、怖くて。
蓮くんを……助けられなかった」
「誰も助けられねぇよ。そんな世界だ」
彼は淡々と、しかしどこか壊れたように笑った。
朝の光が地上に差し込む。
眩しいはずの光が、やけに冷たく感じた。
「紙の命。それでも……また潜るんだろうな」
「蒼真さん、なんで……そんなに冷静なんですか」
「……慣れたんだよ。死を見るほうに」
掲示板
> 52:名無しの観測者
某有名配信者動画見てたけど、前衛が一瞬で沈んだな。
庁は補償金ケチってるんじゃね?
55:名無し
死んでも補償金15万。命の値段=焼肉5回分。
59:名無し
探索者は紙であることを自覚したやつだけが生き残る。
60:名無し
これが真理。
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蒼真はモニターを閉じた。
あのスレに、もう何度も同じ文を見た。
でも今日は――なぜか胸に刺さった。
――生き残る、ってなんだ。
血まみれの手の感触が、まだ残っている。
洗っても、落ちない気がした。
それでも彼は装備を整える。
誰も止めない。誰も止められない。
> ――彼らは知っている。
生と死の境界が、たった“二発分”しかないことを。
それでも、光を求めて潜る。
それが、探索者という名の狂気だ。




