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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第23話 腐食スライムの試練

「これが……訓練用ダンジョンか」


遼は壁に手を当てた。

冷たく湿った岩肌。照明は人工的だが、空気はまるで“生きている”ようだった。


「思ったより……リアルだな」

「当たり前でしょ。模擬とはいえ、ここは“実戦用”なんだから」

真琴が短く言い放つ。彼女は長い黒髪を束ね、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせていた。


「怖がるなよ、遼」

隣の神田が笑いながら肩を叩く。筋骨隆々の元自衛官。頼れる兄貴分タイプだ。

「どうせ訓練なんだから、ちょっと痛い目見たら終わりだって」

「“ちょっと”で済むならな……」


「大丈夫、私がいますからっ!」

優奈が両手を胸の前で握る。栗色の髪を揺らしながら、少し緊張した笑み。

「ヒーラーの出番、いっぱいあると思うので……!」


「フラグ立てるの早くない?」

遼が苦笑すると、真琴が小さく息を吐いた。

「あなたたち、気を抜きすぎ。篠塚教官が見てるわ」


ダンジョン入口近く――黒スーツ姿の篠塚教官が腕を組んで立っていた。

無表情、冷たい視線。どこか人間離れした圧がある。


「今回の課題は“現場適応”。

敵は単体――だが、油断すれば死ぬ。

以上だ。開始しろ」


その一言で、全員の喉が鳴った。

遼は小さく息を吸い、手のひらを握り締める。


(……初任務、か。ここでビビったら終わりだ)


ぬるり、と音がした。


暗がりの奥で何かが動く。

青緑のゼリー状の塊――大人の胴体ほどの大きさ。

表面に黒い泡を浮かべながら、ずるずると這い出してきた。


「うわっ、なにあれ……」

優奈が一歩退く。


真琴が即座に解析魔法を展開。

「――《腐食スライム》。訓練個体とはいえ、触れたら装備が溶ける。注意して」


「おっしゃ! 俺の剣で斬り刻んでやる!」

神田が雄叫びを上げ、突進する。

その一撃――だが。


――ジュウッ。


白煙が上がった。刃が触れた瞬間、剣が泡立ちながら溶けていく。


「なっ……!?」

「言ったでしょ、無鉄砲な攻撃は厳禁!」

真琴の声が鋭く響く。


スライムの表面から飛沫が飛び、神田の腕にかかった。

「うわッ……熱ッ!」

皮膚が焦げ、煙が上がる。


「神田さんっ!」

優奈が駆け寄り、両手をかざした。

「《ヒール》!」


白い光が神田の腕を包み、焼けた皮膚がみるみる修復されていく。

「おお……マジで治った! 優奈、ありがとよ!」

「わ、私なんか……そんな!」

頬を赤らめる優奈。その姿に遼は一瞬、見惚れた。


だが――次の瞬間、冷たい恐怖が背筋を走る。


スライムが膨れ上がった。

赤黒い泡が弾け、粘液が周囲に飛び散る。


「くそっ、数が増えてる!」

遼の目の前で、分裂したスライムが二体、三体と姿を現した。


篠塚教官は遠くで腕を組んだまま、何も言わない。

その沈黙が、逆にプレッシャーを強める。


「これ……訓練ってレベルじゃねえぞ……!」

「下がって、遼! 私が魔法で――」

真琴が詠唱を始めた、そのとき。


ズバァッ!


粘液の弾丸が遼を直撃した。

焼けるような痛み。皮膚が焦げ、視界が揺れる。


「遼くんっ!?」

「だ、大丈夫……まだ、いける……!」


体力がみるみる減っていくのを感じる。

まるで“何か”に吸い取られているような――。


そして。


――《条件達成:瀕死判定》

――《スキル発動:アビリティジャック》


視界にウィンドウが走った。

(……今の、なに?)


次の瞬間、スライムの情報が流れ込んできた。

《腐食耐性(低)》――その単語が、脳裏に刻み込まれる。


遼の手に、熱が宿る。


(……俺、スライムの“能力”を奪った……?)


手のひらの感覚が変わった。

剣の柄を握ると、先ほどまでの“溶ける感触”が消えている。


「遼、何してるの!?」

「見てろ……今度は俺の番だ!」


スライムが跳ねる。

遼は地を蹴り、斜め上へスウェーするように避けた。

その動きは、自分でも信じられないほど自然だった。


「は、速っ!?」

神田が思わず叫ぶ。


遼はスライムの中心に剣を突き刺す――ジュッ。

しかし溶けない。腐食耐性が働いていた。


「真琴ッ! 今だッ!」

「了解ッ!」


真琴が詠唱を終える。


「――《氷槍アイスランス》!」


青白い光が走り、巨大な氷の槍が生成される。

それが一直線にスライムを貫いた。


――シュウウウゥゥゥッ!


凍結と酸の化学反応。爆発的な蒸気が立ち上り、空間を覆う。

スライムの体は震え、そして――崩れ落ちた。


「……やったのか?」

神田が呆然と呟く。


遼は肩で息をしながら、静かに剣を下ろした。

「……終わった、みたいだな」


篠塚教官の声が響く。

「――討伐確認。これが実戦だ。忘れるな」


冷たい一言に、全員の胸がざわついた。



「神田さん、大丈夫? もう少し回復するね」

「おう、優奈。助かるわ」

神田が笑い、優奈が安堵の息を漏らす。


真琴は遼の方を見た。

「あなた……最後の動き、明らかにおかしかった。普通の新人じゃない」


「え、いや……偶然、かな?」

「偶然で“腐食無効”は説明できないわ」


遼は曖昧に笑いながらも、心の奥では確信していた。

(瀕死状態ではないのに。《アビリティジャック》……確かに発動した)


その瞬間、遼の耳の奥にノイズが走った。


――観測対象、確認。

――適応進行中。


「……!?」

遼が思わず振り返る。だが、誰もいない。


「どうしたの?」

優奈が首をかしげる。


「い、いや……なんでも」


その横で、篠塚教官が何かを端末に入力していた。

遼の方を一瞬だけ見やる。


「……なるほど、記録対象に値するな」


「今、なんて?」

「いや、気にするな」


(……気にするなって言われても気になるんだが)


遼は小さくため息をついた。

そんな彼の隣で、真琴がふと微笑んだ。


「遼。あなた、少しは“探索者らしく”なってきたじゃない」

「……褒め言葉ってことでいいのか?」

「ええ。命がけの、ね」


軽口を交わしながらも、どこかに不穏な空気が残っていた。


ダンジョンの出口を出ると、遼の視界にまたウィンドウが浮かぶ。


――【新規探索依頼:新宿西口・第一階層】

――期限:24時間以内

――報酬:探索ポイント+100


(……また来た。なんだこれ)


「どうかした?」

真琴が覗き込むが、彼女のウィンドウには何も出ていない。


「いや……なんでもない」

遼は無理やり笑って閉じた。


だがそのとき、再び――声がした。


――観測進行。対象、適応確認。

――異界接触、準備段階。


遼は息を呑み、真琴の横顔を見る。

彼女は何も気づかずに歩いていた。


(……俺だけ、何かに“見られてる”?)



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