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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第15話 波長の合う2人

午後の講義が終わるころ、窓の外は淡い橙色に染まっていた。

 大学二号館の廊下を歩きながら、遼はスマホを取り出す。さっき届いた通知が、まだ画面に残っている。


> 【新規探索依頼:???】

期限:24時間以内

成功報酬:探索ポイント+100



「……なんだよこれ、急すぎだろ」


 小声でつぶやくと、背後から声が飛んできた。


「なにブツブツ言ってんの?」


 亜里沙がペットボトルを両手で持ちながら、首を傾げる。

 彼女の髪が夕陽に照らされ、金色がかった光を帯びた。


「あ、いや。メッセージ来ただけ」


「ふーん……また“課題”?」


 その言い方に、遼は一瞬むせた。

 亜里沙の表情は穏やかだが、どこか探るような視線が刺さる。


「お、おまえほんと勘が良すぎるんだよ……」


「伊達に十年以上一緒にいませんからー!」


 ぴょん、と階段を軽く降りると、彼女は振り返りざまに笑った。

 その仕草があまりにも自然で、遼は言葉を失う。


(……守らなきゃって思うけど、こいつ、気づいたら勝手に踏み込んでくるんだよな)


 それが怖い。探索者の世界は、日常とは違う。

 “命の軽さ”を、遼はもう知ってしまっている。




 夕暮れの中庭。

 ベンチに腰を下ろし、遼はスマホの依頼内容を開く。だが、詳細はすべて【不明】の文字。

 位置情報すら表示されない。


「……これ、罠じゃないよな?」


 心の奥にざらつく違和感。

 探索庁のシステム経由なら安全なはず。けれど、こんな不透明な依頼が届くのは初めてだ。


 ――ザザッ……。


 ノイズのような音が、突然、耳の奥に響いた。

 その瞬間、視界がわずかに歪む。

 誰かが、囁くように呼んでいた。


《トウドウ・リョウ……識別コード0174、確認》


「……誰だ?」


 思わず立ち上がる。周囲には誰もいない。

 中庭の噴水の水音と、遠くの笑い声だけが響いている。


「……またこの声。何なんだよ、マジで」


 息を吐き、スマホを閉じようとしたその時――。


「遼?」


 背後から呼ばれ、びくりと肩を震わせた。

 振り返ると、亜里沙がそこにいた。心配そうな顔で、こちらを覗き込んでいる。


「どしたの? 顔、真っ青だよ?」


「あ、いや……ちょっと、寝不足でさ」


「寝不足ってレベルじゃないでしょそれ!」


 亜里沙は小さくため息をつき、隣に腰を下ろした。

 その距離が近くて、遼は思わず息を呑む。


「ねえ、ほんとに何か隠してるでしょ?」


「……」


「遼って、昔から顔に出やすいんだよね。隠しても無駄だよ?」


 その声音は優しいけれど、逃げ場を与えない。

 だからこそ、遼は――笑ってごまかすしかなかった。


「大丈夫だよ。ほんとに」


「……嘘つき」


 ぽつりと呟いた声が、風に紛れて消えた。

 それ以上、彼女は何も言わなかった。ただ、同じ空を見上げていた。

 暮れゆく空の色が、二人の沈黙を染める。



 夜。

 大学の門を出る二人。街灯が並ぶ歩道を、並んで歩く。


「ねえ、遼。私、最近ニュース見たんだ。大学生の探索者がダンジョンで行方不明になったって」


「……ああ、知ってる」


「遼は……怖くないの? もし、そういう世界に行けるチャンスがあっても」


 立ち止まり、遼は苦笑した。


「チャンスって言うには……ちょっと、代償が大きすぎるな」


「でも、あの時の遼、すごく楽しそうだったよ」


「え?」


「入学した頃。『普通でいい』って言いながら、ほんとは何かに挑戦したそうな顔してた」


 亜里沙の言葉に、胸がざわつく。

 “普通でいること”は、守りの選択だった。

 けれど、それで心が満たされるわけじゃない。


(……俺は、結局どっちも手放せないのか)


「なあ、亜里沙。もし、俺が……普通じゃない世界に関わってるって言ったら、どうする?」


「決まってるじゃん」


 彼女は迷いなく笑った。


「一緒に行く」


 その笑顔があまりにも眩しくて、遼は一瞬目をそらした。

 けれど、その胸の奥に、小さく灯るものがあった。


(……こいつは、強い。俺なんかよりずっと)


 だからこそ、巻き込みたくない。

 でも、もう――遅いのかもしれない。





 その少し離れた場所。

 大学のフェンス越しに、二人を見つめる人がいた。


「対象0174、大学内にて再接触を確認」


「監視を継続。幼なじみの女の行動ログも記録。」


 イヤホン越しの無機質な声が返る。

 タブレットを操作すると、画面には“白鳥亜里沙”の顔写真が映し出された。


「……ただの一般人じゃなさそう」


「何か、妙な“波長反応”が出てる。対象拡大を申請する」


 静かに立ち去った。

 夕暮れの残光が消え、街の灯りがともる。

 その光の下で、遼と亜里沙はまだ――何も知らないまま、笑っていた。


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