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ダンジョン・ブレイク――スキルコピーするだけで最強の俺、ダンジョンで恋も奪う  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第14話 大学に戻った日常

ダンジョンの突入。探索庁での登録、

 息つく暇もなく続いた数日が過ぎ、ようやく日常が戻ってきた。


 藤堂遼は大学二号館の階段を上りながら、大きくあくびを噛み殺した。

 廊下の向こうでは、学生たちが教科書やノートを抱えて談笑している。

 カジュアルな服装、軽口、笑い声。

 ――まるで、昨日までのゴブリンとリザードマンを相手にしていた世界が幻だったかのようだ。


(……ほんとに、この前までダンジョンにいたんだよな)


 胸ポケットに触れると、金属の冷たさが返ってきた。

 《探索者登録証》。

 肌に伝わるその重みが、たしかに自分の現実を引き戻す。


 けれど、誰も知らない。

 この大学の中で、彼が“探索者”だなんて。


 講義棟の扉を押し開けたとき、明るい声が飛んできた。


「遼ーっ! おはよー!」


 振り向くと、白鳥亜里沙しらとり・ありさが手を振っていた。

 栗色のセミロングが陽光にきらめき、軽やかに揺れる。

 茶色の瞳が笑うたび、光を弾くように輝いた。


「昨日、また帰り遅かったでしょ? 目の下クマできてるよ」


「いや、別に……ちょっと課題がな」


「うそ。遼が前日まで課題やるタイプじゃないでしょ」


「おい、偏見やめろ」


 頭をかく遼に、亜里沙は呆れたように笑う。

 小学校からずっと同じクラス。彼女は昔から勘が鋭い。

 なにかを隠すと、すぐ顔に出るのを見抜かれる。


「ねえ、本当に何してるの? 最近、帰りも遅いし……」


「……別に。バイト、ちょっと増えただけ」


「ふーん?」


 亜里沙はじっと目を細める。

 その表情が探るようで、遼は思わず視線を逸らした。


(やばい、バレそう……)



 午前の講義が始まった。

 黒板に書かれる数式をノートに写しながらも、遼の頭の中は別のことでいっぱいだった。


(……あのダンジョン、探索者試験ステージって言ってたけど、普通に死にかけたよな)

香坂真琴こうさか・まことは、笑ってたけど……本番って、もっとヤバいんじゃ)


 ぼんやり視線を上げたとき、教壇の後ろに貼られたポスターが目に入った。


> 【学生探索者説明会】

日時:来週火曜 場所:政府探索庁第一会議室

※希望者は学生課まで




(……マジか。大学にも庁が動いてんのかよ)


 社会全体が、探索を「職業」として浸透させ始めている。

 その流れが、もう大学にも届いていた。


 ちら、と隣を見ると、亜里沙も同じポスターを見ている。


「ねえ、探索者って、最近すごい話題だよね。うちの大学でも登録した人、増えてるって」


「……そうだな」


 遼は曖昧に答えた。

 ここで「実は俺、もう探索者だ」なんて言えるわけがない。


 亜里沙は首をかしげる。


「でも、あれって危なくないの? ニュースで見たけど、行方不明とか――」


「……まあ、訓練受けてる人なら大丈夫だろ」


「ふぅん。……なんか、言葉が濁ってる気がする」


「気のせいだって」


 にこっと笑ってごまかす。

 彼女の前では、妙に言い訳が下手になる。


 (ほんと、昔から苦手だ)

 (たぶん、嘘をつくのが下手なんじゃなくて――亜里沙には、つきたくないだけなんだ)




 昼休み。

 中庭のベンチに腰かけ、購買の焼きそばパンをかじっていると――

 視界の端に、またあの栗色の髪が現れた。


「遼。やっぱり最近おかしい」


 パンを口に入れたまま固まる遼。

「……なんの話だよ」


「怪我。見えたもん、今朝。袖のとこから。あれ、転んだくらいじゃできないでしょ?」


 冷や汗が伝う。遼は慌てて袖を押さえた。


(やっぱ見られてたか……亜里沙、観察眼鋭すぎ)


「なあ、言いたくないなら無理に聞かない。でも――」


 亜里沙はほんの少しだけ、表情を曇らせた。

 その目に、いつもの明るさとは違う色が宿る。


「もし本当に危ないことしてるなら、私も一緒にやるから」


「はあ!? な、何言ってんだよ」


「だって遼、なんか……ひとりで全部抱え込みそうで。そういうの、昔からじゃん」


「いや、それは……」


「“俺がやる”って言って、結局無茶して倒れてたの、何回目だと思ってるの?」


「ぐっ……」


 図星を刺され、言葉が詰まる。

 まるで彼の性格を一冊のノートにまとめられてる気分だった。


 亜里沙はため息をつき、けれどすぐに優しく笑った。


「……ねえ、私さ。遼が何かしてるの、わかってるよ。

 でも、全部ひとりでやらなくていい。私だって、役に立てるかもしれないし」


 風がふっと吹き抜けた。

 桜の葉が、二人の間をゆっくり通り過ぎる。


「ありがとな。でも、ほんとに大したことじゃ――」


「“大したことじゃない”って言う人ほど、危ないことしてるんだよ」


「……う」


 彼女の真っ直ぐな瞳が、まるで心の奥を覗き込むように刺さる。

 遼はパンの袋をぎゅっと握りしめた。


(言えない。

 でも――守りたい。

 この人だけは、絶対に巻き込みたくない)


 沈黙の間。

 そのとき、遠くでチャイムが鳴った。昼休みの終わりを告げる音。


 亜里沙は立ち上がり、少しだけ眉を下げた。


「……遼。無理はしないでね。嘘つくのも、あんまり似合わないから」


 そう言い残して、講義棟へ歩いていった。

 遼はその背中を見送りながら、手の中のスマホを見下ろす。


 画面に、わずかに揺れる通知アイコン。

 「探索庁アプリ:新着データあり」の文字。


(……また、庁からか)


 その瞬間、耳の奥に「ザザッ」と微かなノイズが走った。


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