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異世界帰りの最強魔術師、現実世界でも無双する。 ~唯一魔法が使える俺、なぜか英雄扱されて困ってます~【26年5月発売】  作者: 茨木野


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98.

「ガ……アァァァッ! 許さない……アタシが、こんなガキなんかにぃぃぃっ!」


 上松みつるが、血を吐きながら絶叫する。

 その瞳から理性の光が消え、代わってドス黒い狂気が渦巻き始めた。


「見せてやるわよ……『才賀さいが』様の力の本質を! その身で味わって、無に還りなさいッ!」


 バギバギバギッ!


 不快な破裂音が響く。

 みつるの身体が内側から膨れ上がり、喪服のようなスーツが裂けた。

 露出した肌は紫色に変色し、背中からは蜘蛛の足のような骨が突き出す。

 もはや人間ではない。

 『才賀』の力を暴走させ、自らを異形へと作り変えた成れの果てだ。


「領域結界――展開ッ!!」


 異形と化したみつるが、咆哮と共に両手を広げた。


「『胎内回帰・無明地獄ウーム・オブ・ナッシング』!!」


 ドォォォォォォン!!


 世界が反転する。

 薄暗い資材置き場が、赤黒い肉壁のような景色へと塗り替えられた。

 同時に、強烈な魔力の波が俺を襲う。

 これは重力ではない。「時間」の逆流だ。


「この領域に入ったものは、全細胞が強制的に退化させられる! 老人だろうが大人だろうが関係ない! 胎児へ、受精卵へ、そして存在しない『無』へと還るのよぉッ!」


 みつるが勝ち誇ったように叫ぶ。

 凶悪なスキルだ。

 単なる幼児化ではない。生物としての時間を高速で巻き戻し、細胞分裂が始まる前の状態――つまり「死」すら生ぬるい「消滅」へと追いやる、必殺の即死領域。


 シュワシュワと音を立てて、床のコンクリートが砂へと還っていく。

 鉄骨が鉱石へと戻り、空気が原始の大気へと変質する。


 俺の体もまた、その奔流に飲み込まれた。

 本来なら、一瞬で肉体が崩壊し、アミノ酸のスープになって終わるはずだ。


 ――だが。


「……なるほど。面白い理屈だ」


 赤い霧の中から、幼い声が響いた。


「な……ッ!?」


 みつるの複眼がギョロリと動く。

 彼女の視線の先。

 そこには、ポケットに手を突っ込んだまま、涼しい顔で立っている俺がいた。

 消滅していない。

 それどころか、肌に傷一つついていない。


「ば、馬鹿な!? なぜ消えない!? なぜ存在している!? アタシの時間は、貴様を『生まれる前』まで巻き戻しているはずなのに!」

「ああ、確かに凄い圧力だ。放っておけば俺もドロドロの液体になっていただろうな」


 俺は身体の周囲でバチバチと弾ける魔力の火花を見つめ、淡々と解説する。


「だから、『進めた』んだよ」

「は……?」

「お前が俺の細胞を『10』巻き戻そうとするなら、俺は治癒魔法を応用して、細胞分裂を『10』促進させる。……それだけのことだ」


 俺は指先をチロチロと動かす。

 そこには、超高速で展開される治癒魔法の術式が輝いていた。


「な、なんだそれは……!? 治癒魔法だと!? そんなデタラメな速度で再生させたら、普通は細胞が老化して死滅するはず……!」

「俺の魔力制御を舐めるな。お前の『退化』と、俺の『進化』。完全に同速度、同出力で相殺し続けている」


 言うなれば、下りのエスカレーターを、全く同じ速度で駆け上がっている状態だ。

 外から見れば止まっているように見えるが、その実、俺の体内では天文学的な速度で「破壊」と「再生」が繰り返されている。


「拮抗している限り、俺は今の『幼児』の姿のまま固定される。……無意味なんだよ、お前の能力は」


 俺が一歩踏み出すと、赤黒い領域にピキピキと亀裂が走った。

 俺の魔力が出力を上げ、みつるの領域を侵食し始めたのだ。


「う、嘘だ……ありえない……! 人間ごときに、そんな神の如き演算ができるわけが……!」

「悪いが、年季が違うんでね」


 俺は右手に膨大な魔力を収束させる。


「さて。種明かしも済んだことだ。……そろそろ『大人』の喧嘩を終わらせようか」

【おしらせ】

※2/11(水)


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