97.
「くふふ……。可愛いわねぇ、その小さな手足」
上松みつるが、嗜虐的な笑みを浮かべて妖刀を変化させる。
刀身がジャラララ……と不気味な音を立てて砕け、無数の刃がついた鎖へと変貌した。
妖刀・鎖鎌形態。
中距離から一方的に獲物を切り刻む、暗殺者の武器だ。
「大人と子供。その体格差で、アタシに勝てる道理がないのよ。……ママのお腹に還りなッ!」
ブンッ!
みつるが手首を返すと同時に、分銅のついた鎌が唸りを上げて迫る。
子供の目線では、それは巨大な鉄球が飛んでくるような威圧感だ。
速い。
子供の動体視力なら、何が起きたか分からぬまま頭蓋を砕かれていただろう。
「オラァッ!!」
裂帛の気合と共に、死の鎌が俺の眉間へと振り下ろされる。
パシッ。
乾いた音が、薄暗い空間に響いた。
「…………は?」
みつるの動きが止まる。
彼女の細い目が、限界まで見開かれた。
振り下ろされた鋼鉄の鎌。
それを、俺は左手の親指と人差指の二本だけで、つまむようにして受け止めていた。
「な……う、嘘……?」
みつるが顔を引きつらせ、鎖を引こうとする。
だが、ビクともしない。
俺の小さな指は、万力のように鋼鉄の刃を固定している。
『くくく……。大人げないのう、我があるじは』
脳内で魔王が愉快そうに笑う。
俺はつまらないおもちゃを見るような目で、見下ろしてくる女を見上げた。
「なんだ。遊びか?」
「ふ、ふざけるなぁぁぁっ! 離せぇっ!」
みつるが激昂し、全身の体重をかけて鎖を引っ張ろうとする。
その力が重心に乗った、一瞬の隙。
俺は指を離すどころか、逆に鎖を強く引き寄せた。
グンッ!
「えっ――!?」
予想外の怪力に引かれ、みつるの身体がたたらを踏んで前につんのめる。
俺の目の前、無防備な腹部がさらけ出される。
「がら空きだぞ、お姉さん」
俺は右の拳を握りしめ、その鳩尾目掛けてカチ上げた。
ボゴォッ!!
重厚な打撃音が響く。
小さな拳が、みつるの腹の肉に深々とめり込んだ。
「ぐ、えぇぇぇぇぇっ!?」
カエルの潰れたような悲鳴。
みつるの身体がくの字に折れ曲がり、砲弾のように後方へと吹き飛んだ。
背後の資材の山に突っ込み、鉄パイプやコンクリート片を派手に撒き散らして転がる。
「がはっ……ご、ぼ……っ」
みつるは口から大量の血を吐き出し、痙攣しながら俺を見上げた。
その目には、理解不能な事象への恐怖が張り付いている。
「ば、馬鹿な……。幼児化したのよ……? 筋力も、体力も……子供のそれになっているはず……」
彼女は震える声で呻く。
「なのに……なんだ、そのデタラメな威力は……! ありえない……アタシの計算では……!」
「計算?」
俺はブカブカのズボンを上げながら、ゆっくりと歩み寄る。
「おいおい、勘違いするなよ」
「ひっ……」
「肉体が縮んだ。……それがどうした?」
俺は冷徹に告げる。
「幼児になったくらいで、この俺が弱くなるとでも思ったか?」
俺の力は、筋肉の量だけで決まるものではない。
膨大な魔力による身体強化。
そして、魂に刻まれた数万の戦闘経験。
器が小さくなろうと、中身(俺)の強さは1ミリたりとも摩耗しない。
「たとえ細胞レベルまで退行させようと、俺は俺だ。……貴様ごときが勝てる相手じゃない」
俺が殺気を放つと、みつるは「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、ガタガタと震えながら後ずさった。
勝負あったな。
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