09.自殺しようとしていたアイドルを助ける
俺たちはJRを使って、高校へと向かう。
ホームにて。
電車を待つ朝のホームは、通勤通学の人たちで賑わっており、しゃべりにくい。
『そういや、今朝は妖魔いないな。なんでだ?』
隣に立つ咲耶に、念話で尋ねる。
『当然よ。妖魔は基本、夜に現れるんだから』
『へー……なんで?』
『妖魔は陰の気……つまり暗がりやじめっとしたところを好むの』
なるほど。裏を返せば、明るい場所や日中では活動を控えるわけだ。
『じゃあ日中は妖魔に気を配らなくてもいいわけだな?』
『ううん、そうでもないの。確かに昼間は外をうろつく妖魔は減るけど、いないわけじゃないの』
『へえ。どこにいるんだ?』
『それは……』
【まもなく~、1番ホームに電車が参ります~】
あ、電車が来る……と思った、そのとき。
「な!? 飛び降り!?」
電車が目前まで迫っている。その前に、最前列にいた人が、何のためらいもなく飛び込んだ。
俺は反射的に走り出す。
飛び込んだ人に、電車が迫る。
もう数秒で、ミンチになっていたはずだ。
人混みを抜け、飛翔の魔法で跳躍。彼女をキャッチし、向かいのホームへ着地する。
きききぃーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
背後から電車のブレーキ音が響く。
「あ、あれ……? 今、人飛び込まなかった……?」
「嘘……!? ひかれちゃったの!?」
「いやでもぐちゃって音しなかったけど……」
周囲の人々は状況を理解していない。
『なんじゃ、こやつら。勇者の活躍が見えておらんのかの……?』
『見えてないだろ。魔力で動体視力強化でもしてない限り』
助け出すまで、ほんの数秒の出来事だったからな。
「…………どう、して」
「ん……?」
助けた女性を見る。
分厚いめがね、目深な帽子、真夏なのにコート姿。
体型は隠れているが、声で女性とわかった。
「……どうして助けたの?」
「いや、助けるだろ。目の前で人が死のうとしてたらさ。人として」
めがねの奥で、目が大きく見開かれる。
……あれ、この子、どこかで……。
「お兄ちゃんっ!」
咲耶が駆けてくる。
「大丈夫だった!?」
「おう、この人は無事だ」
「いや、お兄ちゃんが無事だったか聞いてるの! 電車にひかれるとこだったんだよ!?」
「あんな遅い電車にひかれるかよ。異世界じゃもっと速い敵いたし」
「いや電車普通に速いからね!?」
まあ一般人ならそう思うだろうが、俺は元勇者だ。
「まあ無事ならいいけど……って、その人、憑かれてるじゃないの」
ん?
「疲れてる?」
「憑かれてるの。妖魔に」
肩に、虫のようなものが張りついていた。
『虫怪。低級の妖魔よ』
咲耶が念話で告げる。
『妖魔は人に取りつくこともあるの。その場合、夜じゃなくても活動できる』
なるほど、さっき言っていたのはこれか。
『任せて。このくらいならわたしが滅せられる』
『いやいや、こんな人の多い場所で日本刀ぶん回すのはやめろ』
『……大丈夫。すぐ斬る』
咲耶は魔法袋から妖刀を抜き、肩の妖魔を斬り払う。
『おお、一般人にしては機敏じゃのぅ』
『はぁ!? おねえさまは一般人じゃないですの!』
使い魔同士が言い合っている横で、咲耶が女性に微笑む。
「大丈夫ですか?」
「………………死にたい」
「え……?」
女性は暗い顔でつぶやく。
「死にたい。死んじゃいたい。邪魔しないで……」
「そんな……どうして……? 妖魔は滅したはずなのに……」
ん……? なぜ咲耶は困惑している?
『無知なおまえに教えてやる』
帰蝶が口を挟む。
『妖魔に憑かれた人は生命エネルギーを吸われますの』
『生命エネルギー……』
HPのことか。
『吸われると生きる気力を失い、最終的に死ぬ。でも妖魔を滅せば回復するはず……なのに……』
つまり、この女性は妖魔を倒してもまだ死のうとしている。それはおかしい。
「離して! 死なせてよ!」
女性が暴れ、咲耶が羽交い締めにする。
「どうして……? 妖魔は取り払ったはずなのに……」
ふと気づく。
女性の体から、一本の糸が伸びていた。
『なんだこの糸……咲耶、見えるか?』
『見えない! ていうか手伝ってよ!』
咲耶に見えないなら、俺だけに見えているということか。
高速でホームを離れ、飛翔で空中へ。糸は遠くまで続いていた。
『勇者よ、あれは妖魔の気配じゃな』
「やっぱり、この糸の先につけたやつが生命エネルギーを吸ってるな」
陰湿な真似を……。
「せーのっ!」
身体強化をかけて糸を引き寄せる。
『ふぎゃぁああああああああああああああああ!』
糸の先から、馬鹿でかい蜘蛛が猛スピードで引きずられてくる。
『なるほど、たぐり寄せたのか!』
「そういうこと。こっちから行ったら逃げられるかもしれないからな」
近づいてきた蜘蛛に右手を向ける。
「死ね」
火球を放つ。
どがぁあああああん!
「なんだ、あっさり死んだな」
『弱すぎるのぉ』
蜘蛛が焼け落ち、糸も消えた。隠密をかけたまま妹のもとへ戻る。
「なんだ?」「花火……?」「こんな朝っぱらから……?」
一般人には空の高い位置での戦闘など見えていない。
「お、お兄ちゃん……今の、すごい火の魔法……? 上級魔法とか……?」
「今の? 馬鹿言うな。ただの下級魔法の火球だ」
「…………………………うそぉ。あれでぇ」
咲耶がぺたんとしゃがみ込む。
自殺未遂の彼女はというと……。
「…………」
「お、顔色戻ったな」
俺がそう言うと、彼女は俺を見て――。
「好き……♡」
「え?」
瞳にハートを浮かべ、がばっと俺を押し倒す。
「素敵……♡ かっこいい……♡ やっと見つけた……♡ 私の王子様っ!」
帽子とめがねが外れ、その顔が露わになる。
「こ、【駒ヶ根 アイラ】……!?」
「うそ!? あの超人気アイドル!?」
「まじだ! アイラたんだ!」
……とんでもないやつを助けてしまったらしい。
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