85.変貌する贄川
ちょこっと怒ったら、贄川を吹っ飛ばしてしまった。うーん、結局咲耶の出番を奪ってしまったなぁ。
「まだ……まだどす……!」
「なんだ、リタイアしてなかったのか」
壁にめり込んだ贄川が、懐から……何かを取り出す。
「なんだそれ……黒玉子?」
温泉街とかで見る。
それにしては、ちょっと小さい。
「総監部から……もろた、強うなる薬どすえ……!」
「……やめとけやめとけ。ろくでもなさそうだぞそれ」
「やかましいわ! 舐められっぱなしは、許しまへんのやぁ……!」
贄川はその黒い玉を、ごくんっ……と飲む。
『ヤバいぞ。あれからは邪念を感じた。呪具とみる』
……なんだって?
魔王の発言を聞いた咲耶が、【血湧肉躍】で体を強化し、贄川に殴りかかる。
腹を殴って、吐かせようって腹だろう。だが……。
パシィイ!
「な!? 私の……強化した拳を受け止めたっ!?」
「しゃはっ! しゃはははは! どうどすかぁ……!」
ビキビキっ……と。
贄川の顔に、痣が浮かび上がる。
青色の……痣だ。
『いかん! 呪具が……呪いが体を蝕んでおる! 無理矢理体を強化しているのじゃ!』
贄川は咲耶の拳を、そのまま握り潰そうとする。
バキィイ!
「お、お兄ちゃん……?」
俺は咲耶を回収。そして、反則剣で贄川の手を切った。
異能による傷は、反則剣で戻せる。だが……。
贄川の手が、まるでトカゲのしっぽのように再生したのだ。
「俺の反則剣による効果じゃなくて……さっきの呪具による影響か」
『うむ……まずいぞ、勇者よ。反則剣は、異能の根源を断たぬ限り、キャンセルできぬ』
呪いの解除のためには、さっき贄川が飲んだ呪具を、反則剣で壊す必要があるようだ。
「みぃいいなぎってきたぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
彼女の細腕が、ぶっとくなる。さらに……お尻のあたりから、魚の尾びれが出てきた。
贄川は魚人みたいに変化しやがった。
呪具による、肉体の変化か。ふぅむ。
「死になはれ……! 領域結界!」
領域結界……? ああ、あれか。心霊スポットの時でも見かけた、結界で周囲を包み、心象風景を投影するっていう……。
妖術の奥義か。
瞬間、周囲が一瞬で切り替わる。
「海……?」
「うちの領域どすぇ……! きゃははは! 海はなぁ……! うちの領域なんどすぇええ!」
「別に二度言う必要ねえだろうが」
周囲が海へと変化してしまってる。
そして……奴の異能は水を操る。
「それがぁああ! どういうことかわかりまっかぁあああああああああああああああああああああ!」
贄川が水面に向かって、槍を突く。
瞬間……。
ゴゴゴゴゴゴ……!
「お、お兄ちゃん……! つ、津波だ……!」
とんでもなくデカい津波が、こちらへと襲いかかってくる。
「しゃははあ! 死になはれぇえええええええええええええええええい!」
「どっこいしょー」
俺は軽く、拳を振る。
ブンッ……!
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
津波、そして……俺の放った一撃とがぶつかり合う。
そして……対消滅した。
「な!? つ、津波が消えた!?」
「おう。ほら、理科の時間に習っただろ? 波と波がぶつかると、消えるっていう。あれ」
「津波をパンチで消滅させるやなんて、聞いたことあらへんわぁ……!」
「いやでも実際できたしよ。事実は認めようぜ」
さて……と。
「じゃ、咲耶。悪いけど選手交代な」
「うん……わかってる。私じゃ……力不足だって」
妹も育ってきてる証拠だ。ちゃんと彼我の実力差を理解してる。
呪具によって、贄川は力を一時的に底上げされており……。
咲耶を、凌駕している。
「……せっかく、お兄ちゃんに魔剣使いにしてもらったのに」
「ま、凄い武器は、直ぐには使いこなせないもんよ。大丈夫大丈夫、すーぐ強くなれるさ」
さぁて……。俺のターンだな。




