06.咲耶、兄の魔法に度肝を抜かれる
《咲耶Side》
わたしは霧ヶ峰咲耶。十五歳、高校一年生。
義理の兄がいる。
霧ヶ峰悠仁。四月生まれの十六歳。
わたしは三月生まれで、ほんの少しだけ年が近い。
本当の父は早くに亡くなり、母は今のパパと再婚してわたしを連れて嫁いだ。
それが今の家族形態――だったけれど、その母も、妖魔に討たれて……だいぶ早くに逝ってしまった。
☆
「はっ……!? こ、ここは……」
「お、目が覚めたか、咲耶」
……ここは、わたしの部屋だ。
『おねえさまぁ~~~~~~~~~っ!』
ひらひらと一匹の蝶が近づく。
この子は、わたしの式神――帰蝶。
『うわぁん! おねえさま無事でよかったですのぉ~~~!』
「ごめんね……帰蝶。心配かけちゃった」
『うぅ……わたくし、すっごく心配してましたの。あの変な男が、おねえさまに傷を癒やすふりして、変な術を使ってましたから!』
「傷を癒やす……」
はっと額と肋骨を触る。
「!?」
――嘘でしょ。額は深く切れていたはずだし、肋骨も折れていたのに。
「変な術とは失礼な。治癒魔法をかけただけだよ」
「……魔法」
魔法なんて、アニメや漫画やゲームの中だけの話。
現実にあるはずもない――そう思ってきた。
けれど、骨も傷も、もう元通りになっている。
『信じられませんわ……傷を一瞬で治すなんて』
「なんだ、治癒術的なもんはないのか?」
「あるわけないでしょ。お兄ちゃん、現実でそんな奇跡の技、見たことある?」
「いや……ないが」
「でしょ?」
お兄ちゃんは目を丸くしている。
『おねえさまっ、何をのんきにしゃべってますの!』
帰蝶がわたしの目の前で滞空し、声を張る。
『こやつ、妖魔が化けた姿かもしれませんわ! それか……大妖魔!』
「……」
最初はそう思った。けど――
「ううん。お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。悪い人じゃない」
『そんな!? どうしてですの!?』
「だって怪我を治してくれたし。もし敵なら、気を失ってる間に殺すでしょ?」
『そ、それは……』
敵には見えない。目の前のお兄ちゃんは、わたしの知ってる優しいお兄ちゃんだ。
『で、でもっ。じゃあこの男は何者ですの!? 魔法なんて使える人間、見たことありませんわ!』
――そう。お兄ちゃんはお兄ちゃん。でも、わたしの知ってるお兄ちゃんは魔法なんて使えない。
「お兄ちゃん……教えて。その魔法、どこで覚えたの?」
「あー……それはだなぁ」
そのとき――
「それは我から説明しよう」
ぱぁっ、とお兄ちゃんの手が輝き、光が膨れ上がっていく。
「ちょ!? なに!?」
みしみしみし……ドガァアアアアアアン!
「な……!?」
『りゅ、竜ですのぉおおお!?』
目の前に現れたのは、巨大なドラゴン。
「おいー、魔王。何してんだよ」
「ま、魔王!?」
『すまない、大きすぎたな。では……』
再び光に包まれ、姿は紫髪の美女へと変わる。胸より顔が小さい、グラビアも裸足で逃げる爆乳ボディ。
「これでよし」
「服着ろおまえ……家も壊して……【修復】」
壊れた家が一瞬で元通りになる。
『信じられませんわ……封絶界内部でもないのに……』
そうだ。お兄ちゃんは妖刀すら修復してしまったんだ。家くらい造作もないのか。
「大丈夫か二人とも!? 大きな音が――」
「!? パパ……!」
「あ、だ、大丈夫だって親父……」
「いや大丈夫って……」
「咲耶の部屋で映画見ててさ。爆音でイヤホン抜けちゃって」
苦しすぎる言い訳。普通なら即バレだ。
「そ、うか……気をつけなさい」
……あれ? 全裸美女がいても、驚かない? パパ、なんか変だ。
「今の何?」
「【記憶改竄】の魔法だよ。催眠状態にして特定の記憶を上書きできる」
「…………」
信じられない。そんなお手軽便利魔法……わたしたちが必死に秘密を守ってるのが馬鹿みたい。
「相変わらず勇者は多才じゃのぅ」
全裸美女――いや魔王が、お兄ちゃんを勇者と呼んだ。
「……どういうこと? 勇者って」
「ああ、まあ話せば長くなるけど……」
「うん」
「俺、異世界に召喚されて勇者になって、魔王倒して戻ってきたの」
……全然長くなかった。
「それ……ほんとなの?」
『嘘ですわ! そんなこと現実にあるわけ……』
お兄ちゃんは頭をかき、「いや異能バトル漫画から出てきたような君らが言う?」と返す。
「まあ、見てもらったほうが早い。【記憶投影】」
その瞬間――
「あ、あたまがぁああああああああ!」
『おねえさまぁあああああ!? 何してますの!?』
「いや、五年間の異世界での記憶を咲耶の脳に流してるだけ」
『それ最終奥義ですわよ!?』
「いや、無属性の便利魔法だけど」
――やがて。わたしは理解した。お兄ちゃんは本当に異世界で勇者をやっていた、と。
「ほーら、頭痛が一瞬で消えるよ~」
「……ありがと、お兄ちゃん……ぐしゅん……」
気づけば膝枕されていた。懐かしくて、暖かい――久しぶりの感覚だった。
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