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59.白馬のほんね


 白馬を乗っ取った妖魔は、腰を抜かして泣き出してしまった。

 うーん、ちょっとやり過ぎたか。


「ほら、もう泣くなって」

「ひぐっ……ぐすぅ……こわいよぉ~……」

「大丈夫だって。痛くしないからさ」

「死にたくないよぉ~……!」


 相当、俺にビビってるらしい。 


『果たして、本当に妖魔かのぅ』

「ん? どういうことだ?」

『その言葉、白馬の本音ではないかの』

「こいつの?」

『うむ……。発言に邪気を感じぬのじゃ』

「へぇ……」


 よく分からんが、魔王が言うには、今の叫びは白馬自身の本音らしい。


「『怖い』『死にたくない』ってのは……妖刀使いとして、妖魔と戦うことを言ってるのか?」


 気になったので、そう問いかけてみる。

 こくん、と白馬が怯えながら頷いた。


「だって、こわいもん……! バケモノと戦うの……っ」

「おー……? そうか?」

「そ、そうだよぉ~……! バケモノには理解できないだろうけどさぁ~……ふぇええん……」


 うーん……。

 正直、さっぱり理解できん。


『誰よりも強くなってしまったからの、おぬしは。それゆえに、正常な思考ができなくなっておる。強すぎるがゆえに、弱き者の感情を理解できぬバケモノとな』

「それ、なんか悲しくないか?」


 まるで俺が、悲しき殺戮マシーンみたいじゃないか。

 俺はいつでも陽気な勇者さんだぜ?

 まあ、何はともあれ。

 ももかや咲耶も「戦うのは怖い」と言っていた。妖刀使いにとって、妖魔退治が心身ともに大きな負担であることは間違いないんだろう。


「嫌なら、辞めちまえばいいだろ」

「辞められないんだよぉう……! 妖刀に選ばれた以上、戦わないといけないんだよぉう……!」


 そういや、妖刀は担い手が限られているんだったか。

 前の所有者が死なない限り、次の使い手は現れない、と。


「それに……ぼくがやらないと、みんなが死んじゃうだろぉ~……!」

「まあ、そうらしいな」


 異能者の中でも、妖刀使いは最強格。

 こいつらが戦わなければ、妖魔は倒せず、多くの人が死ぬ。

 だから、妖刀使いには妖魔を討つ義務がある。


「戦いは怖いよぉ……! でも、みんなが死ぬのは、もっとやだよぅ……! でもでも、言えないし……そんな弱音……」


 (……なんだ。割と責任感の強い子じゃないか)


 最初はただの変な奴だと思ってたが……。怖いのを我慢して、みんなのために戦ってる。

 どこか、うちの可愛い妹に似ている。だからこそ、放っておけなかった。


「いいよ。戦わなくても」

「ふぇ……?」

「お前が無理して戦う必要はない。今は、俺がいる。俺が雑魚妖魔どもを全部片付けてやるからさ」


 俺は、泣きじゃくる白馬に告げる。


「お前はもう、妖魔と戦わなくていい。逃げていいんだぜ?」

「……………………」


 白馬は……顔を赤らめて、ぷいっとそっぽを向いた。


「……おまえ、じゃない」

「あ?」

「おまえ、じゃ、ない」

「ああ、悪い。白馬玉子だっけか」

「ううん……。それは、芸名。ぼくの本当の名前は、白馬 玉姫たまき

玉姫たまき、ね。可愛い名前じゃん」


 途端に、白馬……いや、玉姫の耳がカッと赤く染まる。


「ば、ばかぁ……!」

「そういうの……いいから」

「なにがだよ」

「お世辞だろ? ど、どうせ……ぼくなんかが可愛いわけないし……」

「いや、普通にかわいいけど」

「お、お世辞はやめろって言ったじゃんかぁ~♡」


 ふにゃふにゃと、蕩けた声で玉姫が言う。

 別にお世辞を言ってるつもりは微塵もないんだが……。


「まあ、咲耶の方が可愛いけどな」

「ほら! やっぱり嘘つき! ふんっ、ばか、ばかっ、ふんっ! ほーら、嘘つきだ!」

「いや、咲耶には及ばずとも、お前も十分可愛いって」

「ふ、ふ、ふぅん……♡ べ、別に、お前の言葉なんて信じないんだからなっ……♡」

「あ、そう……」


 なんだか、こいつとの会話は調子が狂うな……。


「ていうか、お前、もう自我は戻ってるだろ。さっきから」

「う、うん……! つ、ついさっき……ね……!」


 ついさっき、だと?


「俺がここに来た時から、ずっと意識はあっただろ?」


 気配で分かる。こいつはずっと意識を保っていた。


「にゃ゛……!」


 ぱくぱく……と、玉姫の口が意味もなく開閉する。


「お、おま……おま……ぼ、ぼくが……その、こ、腰を抜かしてた……と、ときも……ぼくに……意識があるって……わ、わかってたの……?」

「? ああ」


 玉姫は両手で顔を覆った。


「ふぐぅううううううううううううううううううっ」

「ふぐぅ?」

「もうお嫁にいけにゃい……」

「? 大丈夫だろ。俺が(妖刀の呪いを解いて)結婚できるようにしてやるから」

「にゃ゛ぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」


 玉姫は顔を真っ赤に爆発させて……かくん、と前のめりに倒れた。

 バタッ。

 どうやら、気を失ってしまったらしい。


「なんでや?」

『ククク……勇者よ。妖魔だけでなく、女を狩るのも得意と見えるのぅ……』

「はぁ? なにそれ。俺、何かやっちゃいました……?」


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