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58.死ぬわ!

 さて、と。黒い触手から白馬を解放したはいいが……。


「おーい、大丈夫か? 白馬」

「…………」


 呼びかけても、彼女は目を開けない。なんだか、嫌な予感がする。

 その、予感が的中したのは、直後のことだった。


「――死ね……!」


 ザシュッ――!


 俺の体に、肉を断ち切る生々しい感触。

 背後には、いつの間にか目を覚ました白馬が、その手に巨大な鎌――月刀【すすき】を握りしめて立っていた。


「ヒャ、ヒャハハハハ! や、やった! やってやったぞぉ! バーカ! 散々ビビらせやがってよぉお! 調子こいてんじゃねえぞ、ボケがぁ……!」


 甲高い声で、白馬の口がゲラゲラと笑う。

 ……ああ、なるほどな。


「はぁ〜……やれやれ。雑魚い妖魔に憑りつかれてたか」

「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 俺が nonchalantly と肩の埃を払うと、白馬(の中身)がギョッとした顔で固まる。

 どうやら、この結界の主は、こいつらしい。


「け、頸動脈から心臓にかけて、一閃したんだぞ!? な、なぜ……なぜ生きている!?」

「ん? 首と心臓を壊されたくらいで、死ぬわけないだろ?」

「死ぬわ普通!!!!!!!!!!!」


 渾身のツッコミ、ご苦労さん。

 そうかぁ……? 死ぬかぁ、普通?


『くく……妖魔よ。脆弱なる人間どもと、我ら人外を一緒にするでないわ』


 さらっと俺も人外カテゴリに入れられてるんですが、それは……。

 まあ、全身が聖武具みたいなもんだし、今更か。


「で?」


 俺が、一歩、前に出ると。


「ひっ……! く、来るなぁ……!」


 カタカタと震えながら、白馬(妖魔)が、月刀【すすき】をこちらに向けてくる。


「おまえ、話が通じるくらいの頭はあるんだろ。なら、そんな無意味な抵抗はやめて、白馬をこっちに返せ」

『そうじゃ。それが、そなたにとって最も賢い選択じゃぞ? これほどの力の差を見せつけられておいて、なぜまだ勇者に敵対しようとする?』


 ほんと、それ。

 こいつは、ループする回廊を使うなど、徹底的に俺との直接戦闘を避けてきた。

 それだけの判断力があるくせに、なんでまた、こんな愚かな真似ができるのか。


「そ、それを言ったら……許してくれるのか?」

「ああ。白馬を返して、俺たちを無事に結界の外に出してくれるなら、見逃してやるよ」

「じゃ、じゃあ無理だ……! そんなことをしたら、あの方に……コロされてしまう……!」


 なるほど。誰かに脅されて、やらされてるってわけか。


「……最後のチャンスだ。返さないんだな?」

「あ、ああ、そうだ! 返せん!」

「あっそ」


 コツ……コツ……。

 俺は、ゆっくりと歩みを進める。


「ひっ……! く、来るなぁ……!」


 妖魔は、人質である白馬の美しい首筋に、芒の刃を突き立てる。


「これ以上近付けば、この女の首が飛ぶぞぉ!?」


 コツ……コツ……。


「ひぃい! ほ、本当に首を飛ばすからなぁ!?」


 コツ……コツ……。


「な、なんで止まらないんだよぉおおお!?」

「おまえに、その度胸があるとは思えん」


 言葉通り、俺は奴の目と鼻の先までやってきた。

 ……なんというか、この妖魔自身には、大した脅威は感じない。

 それよりも、だ。


(モデル体型の美女の、全裸が目の前に……)


 そっちの方が、よっぽど目に毒だった。


「う、うぅうううううう……」


 ガタガタガタガタ……!

 俺の視線に耐えかねたのか、妖魔が激しく震え出す。

 え、なに?


「う……あ……」


 ぺたん、と白馬(妖魔)はその場にへたり込んでしまう。そして……。


 じょわぁ〜……。


「あー……」


 なんというか、あれだ。

 妖魔のやつが、恐怖のあまり、お漏らししちゃったらしい。


「そんな漏らすほど、俺が怖いのん……?」

「首と心臓を潰されて……ひぐっ……ぐすっ……平然としてる化け物を前にして……怖くないわけないだろぉお……!」


「そうか? 普通じゃね?」

『うむ。首や心臓を潰された程度、我も無事じゃぞ?』

「なー?」

「おまえらがおかしいんだよぉお……ふぇえええん……こわいよぉ……」

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取り憑かれてる間の記憶残るか残らないかで大分反応変わりそう
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