54.獄中の勇者
白馬が、敵の張った封絶界の中に閉じ込められちまった。
……ほっとくわけにはいかなかった。
名前もキャラも知っちまった相手を、見殺しにはできねえ。
――ち、違う違う。
アイツは単なる咲耶の同僚だ。だから助けるんだ。別に他意はないぜ。
「って、なんだこりゃ……。刑務所……?」
封絶界の中には、薄暗い空間が広がっていた。しかも寮の中とは思えない。
あちこちに檻が設置され、床には錆びた鎖が転がっている。どう見ても学生寮じゃねえ。
「どーなってんだ……? ま、いっか」
どうせ妖術の小細工だろう。詳しくは知らんが――関係ない。
「小細工程度で埋まる実力差だと、思ってんのかね……」
妖術師たちも妖魔も。危機感、欠けてねえか……?
「おん?」
牢屋の中から、何かが飛び出してきた。
がちぃん!
「……手かせか?」
手かせと足かせが、俺の体に無理やり装着された。
鎖がつながっており、ぐんっ、と勢いよく引っ張られる。
鎖の先には、扉の開いた牢屋。なるほど、俺を中に引きずり込むつもりか。
びぃん!
「どうした? 俺を牢屋に引き入れるんじゃなかったのか? んん?」
鎖の先――何もいない。
ただ暗い闇の奥から、鎖だけが伸びている。だが、俺を引き寄せる力が足りないらしい。
「おいおい、もっと頑張れよ。なぁ、おい」
ぐっぐっぐ、と鎖が唸る。
しかし、引っ張られても俺の体はびくともしない。
「悪いな。重力魔法で、俺の体をピンポイントで重くしてるんだよ」
鎖の先にいる“誰か”は、俺を持ち上げられずにもがいている。
「ほら、頑張れ頑張れ」
しばらくして、鎖のテンションが……ふっと緩んだ。
「なんだよ、根性ねぇな。じゃあ、こっちから行くぞ?」
俺は鎖をつかみ、軽くぐいっと引いた――その瞬間。
ぱきぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!
「え……? 嘘だろ。ちょっと握っただけなのに、壊れちまったよ」
っかー! 脆い。脆すぎる。
まだ身体強化すら使ってねぇのに!
じゃららら……!
「おー、なるほどね。一本じゃ無理だから、数で来るわけだ」
左右の檻から、十本の鎖が一斉に伸びる。
手足、首、胴――十カ所に巻き付き、引き裂こうとしてきた。
だが!
「俺を引っ張り上げたかったらなぁ……クレーン車でも持ってこいってんだ」
さて、邪魔だな。この鎖。
「ふんぬっ!」
ただ気合を入れただけ。
魔力も使っていない。ただ、気合を込めた。
ぱきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!
「おいおい……おいおいおいおい、脆すぎだろ。鎖、全部壊れちゃったよ」
俺、まだ攻撃すらしてませんよー?
ただ気合い入れただけですよー?
……おまえら、ちょっと気合いが足りてねぇんじゃないっすかねぇ。