02.不良をボコる
……ゆっくりと、俺は目を開ける。
「ここは……? どこだ」
目の前には扉。下水のような匂いが鼻をつく。
尻に冷たい感触。足元を見ると、上履きを履いていた。
ズボンも黒い……これは、学ラン?
『おお、勇者よ。目覚めたか』
「魔王……?」
魔王アンラ・マンユの声が響く。
「どこだ?」
『そなたの中におる。呼べばすぐ姿を現せるぞ。もっとも、そんな狭い箱の中で我を呼べば、とんでもない騒ぎになるだろうがな』
箱……そうか、ここはトイレだ。しかも、学生服姿ってことは――。
俺は個室を出て、入り口の鏡に自分の姿を映す。
「……若い頃の、俺だ」
十五歳。高校に入ったばかりの、あの頃の姿がそこにあった。
「なんで……若返ってんだ」
『さぁの。ただ、そなたから感じる魔力は、異世界で我が出会った時と同等ぞ』
「! なら……【鑑定】」
鏡に映った自分へ、鑑定スキルを使用する。
~~~~~~
【名前】霧ヶ峰 悠仁
【種族】人間
【レベル】9999
【HP】999900
【MP】999900
【攻撃】9999
【防御】9999
【知性】9999
【素早さ】9999
【職業】帰還者、勇者
~~~~~~
……ステータスは、異世界で帰還する直前のものと同じだった。
ただ若返っただけ、じゃないらしい。
「アイテムボックス」
俺は空間に向けて手を伸ばす。
ずぶ……と、泥の中に手を突っ込むような感触。
肘から先が異空間に沈み、そこで何かを握って、引き抜く。
「はは、やっべ……」
『我を倒して手に入れた財宝やレアアイテムもまた、持ってきたようじゃな』
手には、あっちの世界の金貨。
はは……まじか。あの大金を、そのまま持って帰ってこれたのかよ。
もう一生働かなくていいじゃん。
『しかし、向こうとこちらでは貨幣の価値が異なるのではないか?』
「問題ないよ。【等価交換】」
手にあった金貨が消え、代わりに大量の万札が握られる。
『なるほど、同価値のものへ変換する魔法か。これでこちらの金に換えられるというわけじゃな?』
「そーゆーこと」
……しかし、金貨一枚でこれだけ万札が出るとは。
ぱっと見、百万円はある。金貨一枚で、だ。
俺はアンラ・マンユを倒したとき、山ほどの金貨を手に入れた。
それはすなわち――巨万の富を、この手にしたということ。
「もう学校も、仕事もいらねーな。家でも買ってのんびり過ごそ」
『我は学校に通ってほしいぞ。この世界のことを学びたいからな。なら学び舎に通うのが一番じゃて』
なるほど……それも一理あるな。
と、そのとき。
「よぉ~悠仁くぅん? おまたせ~」
「あ?」
柄の悪い声とともに、男がトイレに入ってくる。
おっさん……じゃない。学生服だ。つまり、学生。
それに俺の名前を知っている。ということは……。
ああ、思い出した。
こいつ、高校に入った直後の俺を、いじめてたやつだ。
「さぁ、今日も元気に、サンドバッグさせてもらおうかなぁ~?」
『なんじゃこやつは』
「ただの不良だよ」
『不良?』
「社会のルールも守れないゴミ」
ぴきっ、と。
不良の額に血管が浮かぶ。あ、そういや……俺と魔王の会話って、俺にしか聞こえないんだったな。
「ゴミだとぉ!? てめえ、おれを馬鹿にしやがって!」
「いや、馬鹿にはしてない。事実を言っただけだ」
「うるせえ! しねええええええええええええええええええ!」
殴りかかってくる不良――
だけど、俺は、まったく恐怖を感じなかった。
「なんだこれ?」
『おぬしのレベルはマックス。そんな雑魚の攻撃など、脅威に感じぬのじゃろうな』
なるほどな。
すべてが止まって見える。
こんなやつ、魔法を使うまでもない。
俺は指先に魔力を集めて、それを弾丸のように放つ――魔力撃。
どごぉおん!
「ぶぎゃああああああああああああああああああああ!」
不良は野球ボールのようにすっ飛び、
トイレのドアをチョコのようにぶち破り、壁にめり込んだ。
「……もろくね?」
『そなたが強すぎるだけじゃ』
「いや、めちゃくちゃ手ぬいたぞ。魔法すら使ってないし。MP1しか消費してない魔力撃だったし」
『異世界の感覚で攻撃せぬほうがよい。どうにも、こっちのものはすべて、脆いようじゃ』
「なるほどな。【小回復】&【修復】」
けがした不良と、壊れた扉や壁を回復&修復する。
不良は泡吹いて、仰向けに倒れていた。
『……そやつはどうする?』
「どうもしないよ」
俺をいじめていた不良を助ける義理なんて、どこにもない。
ただ――
気絶した不良の襟をつかみ、ずるずると引きずって、保健室の前まで運ぶ。
こんこん。
「はーい」
「すんません、この人、貧血で倒れてました」
「え?」
「さいなら」
不良を養護教員に任せて、その場を後にする。
『……なんじゃ、助けるのか?』
「助けてねえよ。ただ――弱いモノいじめって、嫌いなんだよ」
……俺は、異世界で圧倒的な力を手に入れた。
そして今、その力で、俺より遥かに弱い存在――いじめっ子を傷つけた(ちゃんと治したけど)。
だけど、それが気分悪いのは、やっぱり俺が――
かつて、弱かったからだ。
『なるほど……さすがじゃ、勇者よ』
「なにがさすがなんだよ」
『そなたはこの世界において、圧倒的強者となった。世界を滅ぼすことも、支配することもできる。
それでも、そうしない。立派なことじゃ』
「……しねえよ、そんな面倒なこと」
力を誇示するようなことはしたくない。
強さを隠さず使ったやつの末路を、俺は知っている。
だって――身近に、転がってるからな。
「さ、帰ろうぜ」
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