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異世界帰りの最強魔術師、現実世界でも無双する。 ~唯一魔法が使える俺、なぜか英雄扱いされて困ってます~【26年5月発売】  作者: 茨木野


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110/111

110.

 気づいたら、全員で寝ていた。


 なんでだ。


 咲耶はソファの端、玉姫はその隣、ももかは俺の腕を枕にして床に転がっている。

 それぞれ適当な場所で寝るつもりだったはずなのに、いつの間にか全員が同じ空間に集まっていた。


 まあ、いいか。


 目を閉じると、意識の奥から声がした。


「くくく……」


 聞き慣れた声だ。


「なんだ」


「よってきたのだ、向こうから。くくく、なかなか難儀な連中を従えたものだな、勇者よ」


 アンラ・マンユ。

 かつての魔王。

 今は俺の中に住んでいる従魔。


 意識の中で向き合うと、彼女はいつも通りそこにいた。

 薄暗い空間に腰を下ろし、膝の上で手を組んで、こちらを見ている。


「難儀とはなんだ。普通に寝てるだけだろ」


「普通に寝るなら、それぞれで寝るものだろう。気づけば全員お前の周りに集まっておる。くくく、否定できまい」


 否定できなかった。


「……で、なんの用だ。わざわざ出てきて」


「用というほどのことでもない」


 彼女は少し間を置いた。


「なあ勇者よ。楽しいか」


「……は?」


「楽しいかどうか、聞きたくなった。それだけだ」


 唐突な質問だった。

 魔王が、楽しいかどうかを聞いてくる。


 俺は少し考えた。


「……まあ、普通かな」


「普通、か」


「変な答えか?」


「いや」


 彼女は静かに首を横に振った。


「普通、それが一番だ」


 声が、少しだけやわらかくなった気がした。


「向こうでお前は、奴隷のようにこき使われておった。召喚されて、烙印を押されて、追放されて。それでも戦い続けた」


「……昔の話だ」


「昔の話でも、お前の話だ」


 彼女はこちらをまっすぐに見た。


「普通の飯を食って、普通に眠って、周りに誰かがいる。それを普通と呼べるようになったのなら、上等だろう」


 俺は何も言わなかった。


 言葉が見つからなかったわけじゃない。

 ただ、黙って聞いていたかった。


「くくく。感傷的なことを言ってしまったな」


 彼女はいつもの調子に戻って、口の端を上げた。


「忘れろ、勇者。わたしは魔王だ。情けをかけたわけではない」


「わかってるよ」


「本当にわかっているのか?」


「わかってる」


 少しの間があった。


「……なあ」


 俺は言った。


「普通を守るために、戦おうと思う」


 彼女は答えなかった。

 ただ、目を細めた。


「そうだな」


 それだけだった。

 それだけで、十分だった。


 意識が浮かび上がってくる。


 薄く目を開けると、見慣れた天井があった。

 ももかがまだ腕を枕にして寝ている。

 咲耶は寝返りを打って、こちらに背を向けていた。

 玉姫は静かに寝息を立てている。


 三日後、大阪へ行く。


 敵がいる。

 罠があるかもしれない。

 何が待っているかわからない。


 それでも、俺には守るものができた。


 この普通が、続けばいい。


 ただ、それだけだった。


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※4/3


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