01.勇者、魔王を倒して帰還する
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↑の連載版となってます。
『よくぞ我を倒したな、勇者ユージよ』
目の前に、一匹の黒龍が倒れている。そいつは、この異世界を滅ぼすために存在する魔王――アンラ・マンユ。
魔王を討つために現実世界から呼び出された存在。それが俺、霧ヶ峰 悠仁だ。
五年前、俺が十五歳のときに、この世界に召喚された。
国王から魔王討伐の使命を与えられ……そして今、その使命を果たそうとしている。
『ふむ……我を倒したというのに、喜びの色が見えぬな』
「……まあな」
この五年、苦しく、つらい道のりだった。
それを思えば、歓喜よりも――安堵が勝る。
ようやく、異世界から帰れるのだ。
「悪いな、魔王。俺はお前を殺さないと現実に帰れない。……国王直々に、そんな呪いをかけられてるんだ」
召喚された際、クソジジイ――もとい、国王から聞かされた。
この世界には魔王がいて、人々はその脅威におびえている。
民を救えるのは勇者だけ。そして、魔王を倒さない限り、勇者は元の世界に帰還できない。
……ずっと不思議だった。なぜ魔王を倒さないと帰れないのか。
“帰還方法は魔王しか知らない”という話を聞いたこともある。だが、それもおかしい。なぜ魔王だけが知っている?
――答えは簡単だった。そもそも召喚主である国王が、勇者である俺に、家に帰れない呪いをかけていたのだ。
『そうか……つらいな、それは』
「……お前に共感されるとは思わなかったが」
『すべてに合点がいったぞ、勇者ユージ。なぜ仲間を連れていないのか。なぜ、勇者の証たる聖武具を持たぬのか。――この世界の人間に、虐げられていたのだな』
……思い出す。五年前の召喚の日。
国王は、俺にこの世界に呼び出した理由を説明し、その後、聖武具召喚の儀式を行った。
聖武具。それは異世界勇者に与えられる、唯一無二の武器。
だが――。
【聖武具がないだと!? この欠陥品め……!】
なぜか聖武具を持たなかった俺は、「欠陥品」と罵られ、王城から追放された。
魔王を倒せないと判断されたのだろう。まったく、ひどい話だ。
帰還不能の呪いをかけられ、聖武具がないだけで見限られ、あげく追放されるなんてな。
『よくぞ、ここまで辿り着いた。よくぞ……この我を倒したものだ』
魔王は、どこか俺に同情しているように見えた。
『我を倒した褒美を、二つ授けよう』
魔王の胴体が光を帯びると――。
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ……!
目の前に、目もくらむほどの大量の金貨が出現した。
『これは我がため込んだ財宝。すべて、おぬしにくれてやろう』
「…………そうか」
だが、こんなものを持っていても意味はない。
なぜなら――俺は、現実に帰る方法を、ずっと見つけられなかったのだから。
『もう一つの褒美だ』
黄金の山から、一枚の大きな鏡がふわりと宙に浮かび、俺の前へと現れた。
「……なんだ、これ」
『それは――世界扉』
「ワールド・ドア……?」
『異世界と現実をつなぐ、超レアな魔道具だ』
「なに!? 異世界と現実を……つなげる……だと?」
『ああ。ただし、使えるのは一度きりだ。なにせ骨董品でな』
なるほど、鏡面には無数のひび割れが走っていた。
指で軽く触れただけで壊れてしまいそうだ。
「鑑定」
~~~~~~
世界扉(SSS)
→異世界と現実をつなぐ魔道具。魔道具師・七福塵の最高傑作であり、本人にしか修復できない。
~~~~~~
――本物だ。
「…………」
世界をつなぐ、超レアな魔道具。それを……。
「なんで俺にくれるんだよ」
『言っただろう、褒美だとな。……よく頑張ったな、勇者ユージ。現実に戻り、幸せに暮らせ。こんな、ゴミみたいな世界のことなど忘れて』
さらさら……と、魔王が魔素に変わり始める。死期が近い。
それでも、俺は。
「大回復」
瞬間、魔王の消えかけた肉体が、完全に蘇った。
『ま、魔素化しかけていた我が肉体を……治しただと!? なんじゃこの力は!?』
「俺の魔法だよ」
『ば、馬鹿な……。こんな回復魔法、聞いたこともないぞ!』
「だろうな。でも俺にはできる。……聖武具がなかったおかげでな」
勇者の力は、本来“聖武具ありき”で設計されている。
だが、俺はその武具を持たなかった。
ゆえに――自らを鍛えた。
『そ、そうか……聖武具がなかったからこそ、おぬしは……自身の力を極限まで高めたのだな』
「ああ、そういうことだ」
結果、魔王すらも殺し、癒やすほどの力を得た。
……まあ、“異世界帰還”の魔法だけは、呪いのせいで習得できなかったが。
「修復」
壊れかけの世界扉が、完全な状態へと戻る。
『はは……すさまじい。世界最高の魔道具師にしか直せぬ品を、修復してしまうとは』
「さて……アイテムボックス」
空中に、透明な箱が出現する。魔王がくれた財宝やらなんやらを、ボックスのなかにしまい込んだ。
「さて……帰ろうぜ、魔王」
『な、なにを言ってるのだ……!?』
「一緒に、現実に帰らないか? ここにいても、いずれあのクソ王国が召喚した次の勇者に殺されるだろ?」
『そ、それはそうだが……我は魔王ぞ?』
「知ってる。でも、俺の敵じゃない」
俺にとっての“敵”は、俺を呪いで縛り、五年もの地獄を押し付けた、あの王国だけだ。
「俺はもう勇者じゃない。……だから、お前の敵でもない」
『くっ……ふふふ……あははははっ! おもしろい男よな! わかった!』
スッと、魔王アンラ・マンユが跪く。
『我は、おぬしの従魔となろう』
「……従魔?」
たしか、“サーバント”。主の命令に絶対服従する存在だ。
「いいのか?」
『うむ。おぬしの世界で再び魔王など始めても困るであろう?』
「それはな」
『なら、我を縛ってくれ。契約の言葉を』
俺はゆっくりと右手を掲げた。
風がうねり、空が震える。
魔王の金の瞳が細められる。
「――いいぜ。そっちがその気なら、言ってやるよ」
「我が牙は、そなたの爪。
我が身は、そなたと共に世界を裂く。
我が知恵は、そなたの標べとならんことを欲する。
片時も離れず、そなたに尽くすと誓う」
その瞬間、世界が鳴った。
契約の言葉に呼応するように、俺の右手に黒き紋様が刻まれる。
魔王の胸にも、同じ印が浮かび上がり、黒炎となって燃え上がった。
『……成されたな。我が魂は、今やおぬしのもの』
「……これで、お前は俺の従魔だ」
『ああ。連れてっておくれよ、元勇者。そなたが生まれ育った世界に』
にやりと笑って、俺は世界扉へと足を向ける。
手には、莫大な財宝。背には、黒龍の魔王。
そして――現実世界への帰還が、いま始まる。
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