チャラ男vs因習村
獲物を招き、閉じ込め、襲い、そして村の一員として迎え入れる。
国家権力が見過ごし気付かれることなく、永遠に終わらない絶望と歓喜の宴が繰り広げられる場。それが薄い世界の因習村だ。
下級にも満たないチャラ男擬きでは抗えず、初日に犠牲となって恋人は因習村の餌食と化すだろう。
太一に襲い掛かる十名少しも同じ発想だ。
囲んで袋叩き。暴行。徹底的暴行。死体は山の中に隠し、睡蓮をゆっくり味わう。
それが因習村の正しい姿。
舐めるな。と表現しよう。
ここにいるのは映画で真っ先にやられるチャラ男擬きではない。チャラ男のステージにすら上がれていない紛い物と、最上級を比べるなど言語道断。
真の暴力を、武を、チャラ男を経験していないのに、なぜそこまで慢心できるのか。
チャラ男とは相手を叩きのめし、勝利を奪い取る者なのだ。
因習村でも祠に祀られた邪な神でも同じである。
「……」
ピタリと静止している太一の間合いに先頭の男が無遠慮に侵入した。
愚か極まる。
ぐちゃりと湿った音が響いた。
鍛えに鍛えた指は男女を問わない凶器。
予備動作すら感知できなかった村人が、顔面に叩きつけられた拳を認識する前に吹き飛び気絶する。
流れるような美しい軌跡が続けて、愚かにも狼の群れを気取る男に飛翔し、またしても人間が宙を舞う。
武であり舞。
皮肉だが神事にもルーツを持つ舞が、邪な神の祠の前でその信者達を叩きのめしていく。
「ひ、ひいいっ⁉」
鍬、鎌、包丁。そんなものは関係なく村人達の顔が変形して、怯えた声が漏れ始めた。
たかだか数百人。たかだか三百年神。その程度が強者を、力を、暴力を、武を舐めるな。侮るな。
邪な神の儀式。不純。
寝込みを襲う。不純。
手籠めにする。不純。
群れた男たち。不純。
不純物の塊。
鍛え、鍛え、鍛え。
戦い、戦い、戦い。
勝つ、勝つ、勝つ。
純度100%の強者。男。漢。雄。
磨きぬいた肉体と技術を用いて堂々たる勝負を挑み、勝利する。
土台。信念。信条。覚悟で勝負になっていない。話にならない。
クスリも、道具も、不可思議な術も不要。
真なるチャラ男が頼るは己が肉体ただ一つ!
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいっ⁉」
「ほんとに……きれい……」
睡蓮は狂乱が頂点に達しかけている村人など視界に入っていなかった。
儀式に呼応するように、悍ましいまでに輝いていた月光は今や煌びやかに太一を包み、妖しく弾けていたかがり火の火の粉は、まるで祝福の如き彩を加えている。
そしてしなやかな肉体が力を開放する度に誰かが倒れ伏し、見る見るうちに村人たちの数が減っていく。
(ぱーっと視野が広がってる気がする。分かるし見える)
一方、太一はチャラ男としての力が刺激されていた。
相手がなにをしてほしいのか。してほしくないのか。どう動きたいのか。どう動かれたくないのか。
それらすらも把握しかけている太一の認識は、相手を掌の中で転がすという表現がぴったりなのだが、村人の耐久力が全くないため、深く検証することが出来ない。
下級チャラ男が女性限定で扱える力が、最上級が行使した途端に、覚妖怪一歩手前まで昇華されるなど、想像した者はいるだろうか。
(体も温まってるからいい感じ)
脈動する筋肉が、狼の群れを気取っていた村人を粉砕する。
人類最高の肉体と研鑽した武を併せ持つ太一を止められる者など、辺鄙な村にいる筈がない。
男女関係なし。
集まった村人全員、二百人未満が地面に倒れ伏すまで、十分も必要なかった。
「さ、て、と」
ニヤニヤした太一が睡蓮の傍を通り、おどろおどろしい雰囲気を感じさせる小さな祠を見下ろす。
「すんげえ気持ち悪いんだよね。這ってるゴキブリ見つけた時に、女の子が悲鳴を上げる時の気分ってこんな感じかな?」
ぎゅっと拳を握った太一が思いっきり祠へ振り下ろした。
神への敬意がない?
知ったことか。チャラ男が罰当たりな不信者など、全世界の共通概念だと言い切っていい。
まさしく金剛力。金剛杵の如き圧縮された拳は、不可思議な祠をあっけなく粉砕した。
「はい終了ー。と言いたいところなんだけどヤリ過ぎしちゃったなあ。最終兵器、パパとママに言いつけてやるを発動するしかねえわこれ。なんなら爺ちゃん婆ちゃんにまで話が行くかも」
色々とやり遂げた太一の顔に爽やかさはなく、どうしたもんかと言わんばかりの苦笑が浮かぶ。
そして世間一般の常識からかけ離れた行動をチャラ男が犯してしまった場合、実家の権力でもみ消すのがお約束である。
「二年の相沢太一っす。安心してください。明日……は流石に厳しいかもですけど、明後日からはいつも通りですよ」
睡蓮はしゃがみ込んで自分を覗く太一のことを知っている。と言うか、今の三年生と二年生で相沢太一の名前を知らない者はいない。
ただ大きな問題があった。
睡蓮は若干意識があやふやで、生存本能がこれ以上なく刺激されているのに、獣性と神聖さが混ざっている男が近くにいるという大問題が。
「あり……が……」
お礼を言いきる前に意識を失った睡蓮の脳は、色々とすっ飛ばして子供を抱いている自分の姿を幻視させ……意識を失った。
ここに因習村は壊滅し、寝てしまった睡蓮は太一に奪い取られた。
即ち、チャラ男の完勝である。
なんかやり遂げた満足感。
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