十年彼女
第一章:出逢い
ここは、駅の近郊に位置するどうということのない、ありきたりな住宅街。
西の空もピンク色に染まり、ポツポツと街に灯りが点りはじめた秋の夕暮れ。
忙しなく電車が行き交う遮断機が下りた踏切。
買い物袋を、両手いっぱいにぶら下げてヨタヨタ歩く主婦。
犬の散歩をしている少女とその弟。
自転車で帰宅するサラリーマンや学生達。
それに八百屋の呼び込みのオヤジ。
そんな賑わう繁華街をいつもの帰り道に使っている若い男がいた。
若い男の名は〇〇氏、読み辛いので名無氏とでもしておこう。
彼の名前を誰も知らない。
その事を誰も気にもとめない。
なぜ、そうなったのか、その理由をここで紐解こう。
秋の夕暮れ。
〇〇氏が、仕事を終えて自宅前まで帰り着くと、自宅の部屋の明かりが点いているのが目に止まった。
築35年の小汚い5階建てマンション。そこの2階の一番奥、〇〇氏が、月額6万円で借りている2Kバストイレ一体式の部屋である。そこに、自分を尋ねてくる友人なんて一人もいない寂しい〇〇氏。彼の親も、自力でこれるほど地理に詳しくはない。
しかし、キッチンの明かりは点いている。
まさか、空き巣なのか?
ケンカは、からっきしの〇〇氏は身構えた。が、すぐに止めた。
〇〇氏が部屋を留守にして半日、この場合、空き巣はもう立ち去っているだろうし、明かりも消していくはずだ!そのほうが通報も遅らせられる。
今朝、部屋を出るときには明かりは点けていないし鍵はちゃんと掛けた。たぶん。現に今も鍵はしっかり掛かっている。明かりは点けっぱなしの可能性を捨てきれない。
どちらにしても犯罪の可能性は極めて低いだろう。これだけ思考を巡らせても危機感の薄い〇〇氏であった。まさに典型的な現代の日本人である。
鍵を回し、部屋の中へ入った〇〇氏。短い廊下を進み、キッチンのドアを開けた。
\カチャッ/
ウソだろう? 誰かいる!!
この時、はじめて〇〇氏はヤバイと思った。が、後の祭りである。
キッチンの蛍光灯の光で逆光になった人影が、〇〇氏の方を振り返った。
「・・・お帰りなさい・・・」
嬉しそうな女性の透き通った声がした。
女性は、真っ白なワンピースを身に纏い、腰まである長いまっすぐな黒髪は艶やかで、色白で華奢な体つきに、かわいらしい笑顔、もろ〇〇氏の好みの女性であった。
「キミは誰だ? 」
「ここで何をしている! 」
〇〇氏が尋ねた。
当然、〇〇氏の知らない人間であるし、芸能人でもないと思われる。あまりそっちの業界には詳しくないので断言はできない〇〇氏であった。
〇〇氏の問いに、とまどう女性は次第に震えだし、大きな瞳からは今にも涙がこぼれそうだった。
「・・・行く当てがないんです・・・」
「しばらくここに泊めてもらえませんか? 」
そう言うと女性は、〇〇氏に抱きつき、涙ぐんだ。
ふわふわの柔らかい胸の膨らみの感触と、今まで嗅いだことのない、イイ匂いが〇〇氏の脳を優しくくすぐった。この状況に、悪い気はしない〇〇氏は、彼女をしばらく部屋に泊めて様子を見ることにした。女性に免疫がない、〇〇氏のような男は、女の涙に弱いのだ。その上、自分の好みの女性なら、なおさら助けてあげたいと思うのである。
しかし、こうゆう場合、大抵は近い内に誰かしら迎に来るパターンになるだろうから甘い夢は見ない方がいいだろうと、〇〇氏は思った。これはモテナイ男の防衛策である。
彼女が落ち着くのを待って、〇〇氏が彼女に名前を聞くと、彼女は未来と名乗っ た。
〇〇氏は2Kの一部屋を彼女に明け渡し、自分もさっさと別室に隠れてしまった。女性の扱いが苦手な〇〇氏には、これが精一杯の対応だったのだ。今夜はこのまま寝てしまおうと、〇〇氏はベッドに潜り込んだ。
翌朝、目覚めた〇〇氏が寝ぼけ眼でキッチンに入ると、ミクが〇〇氏に朝食の用意をしてくれていた。
なんと、〇〇氏が今食べたいと思っていた食事が、備え付けのテーブルの上に並んでいた。
「おはようございます」
ミクの爽やかな声と極上のスマイルが、〇〇氏を迎えてくれた。
「お、おはよう・・・」
照れくさそうに挨拶を返す〇〇氏。
洗顔後、食卓についた〇〇氏は、朝食を一口食べて驚いた。とても美味しいのだ。
目玉焼きはベーコンがカリカリで黄身は半熟、パンではなく白い熱々のご飯。それら全て冷蔵庫の残り物であったが、味加減は〇〇氏にとって申し分ないものだった。
仕事に行く身支度を済ませ、玄関へ向かった〇〇氏。
「もし、出ていくんだったら、鍵はポストから部屋の中に放り込んどいてくれ」
ちょっと早口で言う〇〇氏。ミクの顔もまともに見れない状態であった。
「うん、ありがとういってらっしゃい! 」
ミクは、はにかみながら軽く手を振って、〇〇氏を送り出した。
久しぶりに充実した朝を迎えた〇〇氏は、三千円ほどテーブルに置いて、彼女を部屋に残し仕事に出かけた。他に金目の物は残さないように通帳と印鑑も鞄に詰め込んだ〇〇氏だったが、完全には不安をぬぐえなかった。
日も傾いた頃・・・。
早めに仕事を終えた〇〇氏は駅から小走りで帰路に向かった。
〇〇氏は、自宅近くのコンビニにさしかかった時に、そこの出入り口の角で待っているミクを見つけた。
ミクが〇〇氏に気づくと彼女は小さく手を振り微笑みを向け彼の方へ駆け寄って来た。
「お帰りなさい・・・」
ミクがそっと労いの声を掛けた。
「ただいま!」
〇〇氏が照れくさそうに挨拶を返す。
ミクは、〇〇氏の腕に自分の腕を絡めて寄り添った。
「私ね、こうして腕を組んで歩くのが夢だったの」
少女のように微笑むミクが、〇〇氏の顔をのぞき込む。
「そ、そうなんだ・・・」
ミクと目が合い照れくさくなった〇〇氏は、彼女の潤んだ瞳から視線を外した。この夢は、〇〇氏も同じだったのだ。この時、お互いの夢が一つ叶った二人であった。
〇〇氏は思った、この女性は男の扱いがうまいから、用心しないといけない、惚れたら負けだと・・・。
それでも
「こうして誰かと並んで家に帰るなんて、子供の頃以来だなぁ~ 」と〇〇氏は呟いた。
〇〇氏は、とまどいながらも、ミクとの生活が始まった事を実感するのであった。
ミクが、〇〇氏の部屋に来てから3日ほど経った頃。
彼は奇妙な事に気が付いた。
それは、一度も彼女に部屋の何処に何があるのかを、聞かれたことが無かったからだ。
トイレやバスルームの位置、まあこれは何となく検討はつくだろう。しかし、洗濯機や湯沸かし器のコンソールパネルの操作方法、これはどうだろう。それどころか、〇〇氏が使いかっての良い配置にしている日用品を、ミクはそのままテキパキと扱っているのだ。
おかしい、まるで昔からこの部屋の全てを知っているようだ。〇〇氏はミクに対して疑念を抱きはじめていた。
あれから一ヶ月が過ぎても、誰もミクを迎えに来ることはなかった。
〇〇氏は思った。ミクは不思議ちゃんであると同時に、世の中にこんなにも自分と波長が合う人間がいるのだろうか?と。
〇〇氏が何をするにも、ミクは必ず先回りをしてサポートしてくれるのだ。それは気がきくレベルの話ではなかった。
まさに予知能力でもあるかのように・・・。
たとえば・・・そう、三日ほど前にこんなことがあった。朝いつものように仕事に出かける時に、ミクがこんな提案をしてきた。
「今晩は外食にしませんか?二つ手前の駅で待ち合わせをしましょう。時間は・・・」と、
すると、その日の仕事帰りに〇〇氏が乗っていた電車で人身事故があり、電車が二駅手前で立ち往生してしまったのだ。ミクと外食しなかったら、おそらく数時間ホームで待たされたに違いなかった。その時の彼女は、
「たまたまよ」と言っていたが、おそろしいほどにカンがイイのは間違いない。
それからもミクは、〇〇氏の周りで起こる出来事にはプラスに働いてくれた。
それにしても、ミクとは何者であろうか?こんなにも〇〇氏に献身的に尽くしてくれる女性が、彼のすぐ隣にいてくれる現実。〇〇氏がそれほどの人物だとは到底思えないのだが、本当にこれは彼にとって現実なのだろうか。そもそも〇〇氏の名前が出てこない謎も解けないままであるのに・・・。
これからもずっと、ミクと二人で暮らせたら、どんなに幸せだろうと想う〇〇氏であった。その反面、別れが来た時の不安がいつも頭をよぎる。仕事から帰ったら、彼女がいなくなっている。そんな切ない考えばかりを、毎日繰り返す〇〇氏。いっそ好きにならなければ、こんな辛い思いはしなくて済むだろうに。今まで二十数年生きてきて、一度も女性に好意を持たれた経験がない〇〇氏。そんな〇〇氏に献身的に尽くすミク。
〇〇氏は、ミクの方から側に寄ってきた時だけ、そっと彼女の手を握るのが精一杯だった。
彼女に嫌われないように、そして彼女を好きになりすぎないように、ぎこちなく接する〇〇氏。そんな〇〇氏を温かな瞳で見つめるミクの笑顔が、彼のすぐ隣に存在していた。
月日は流れ・・・、〇〇氏とミクが出会ってから10年が過ぎようとしていた。
〇〇氏とミクは、今では夫婦のように仲むつまじい関係になっていた。
いつも〇〇氏の横にはミクがいた。
彼女は、自分のことを何も語ろうとはしなかったが、〇〇氏にとってそんなことはどうでもよかった。ただ彼女が側にいてくれるだけで幸せだったのだ。
あいかわらず生活は貧乏だったが、ミクは何も欲しがらなかった。
「私は、こうしてあなたの隣にいるだけで幸せなんです」そう言って、ミクは微笑む。
〇〇氏は、そんな謙虚で優しい聖母のような温かい心を持つミクを心底愛してしまっていた。ミクなしでは自分の人生を維持できない、彼女は〇〇氏にとって絶対の存在になってしまっていた。
だからこそ、〇〇氏はそんなミクをもっと幸せにしてあげたいと思った。
明日は〇〇氏が、ミクと出会って丁度10年目の記念日。
明日の記念日はうんとお祝いをしよう、そして彼女にプロポーズをするんだ。
仕事帰りに宝石店に立ち寄った〇〇氏。注文していた指輪を受取りポケットの中で握りしめ、ミクが喜ぶ顔を想像しながら早足で帰路に着く〇〇氏。
マンションの前まで帰ってきた時、自宅の窓だけが真っ暗なのを見た〇〇氏の心は、最悪の不安にギリギリと締め付けられていった。
「まさか・・・まさかそんな・・・」
この日、ミクは突然〇〇氏の前から姿を消した・・・。
「ミク、どうして? キミに何が起こったんだ!」
〇〇氏は、真っ暗な部屋の中で叫んだ。
第二章:真相
それから何日も、〇〇氏はミクを探した・・・必死にミクを探し続けた。
近所の小さな診療所から隣町にある大きな総合病院まで探した。けれどミクはどこにもいなかった。
ヤバそうな裏路地にも足を運び、そこにたむろしている恐そうな兄ちゃん達にも聞いて回った。そんな彼らは、見かけとは裏腹に意外と親切な応対をしてくれた。しかし、そこにもミクはいなかった。
逆に警察には行けなかった、なぜなら〇〇氏は、ミクの事を名前以外何一つ知らなかったからだ。説明しようにも何から何をどう説明すればいいのか判らなかった。
探す当てがもう残っていないほどに、〇〇氏はミクを探し、町中を徘徊した。
探して探して・・・探しまくり・・・当然仕事も辞め、結婚資金も切り崩し、日々のまともな食事も取らず、ひたすらミクを探し回った〇〇氏。所持金も残り390円になっていた。
冷たい雨が降る夜
もう、どうしていいか解らなくなるほどにボロボロになってアスファルトに倒れ込んだ〇〇氏。ずぶ濡れの白いシャツは、泥水でじんわりと茶色に染まっていく。
人間、最後は神にすがるしかないのか。
雨の中、泣きじゃくり必死にミクを返してくれと天を仰ぎ懇願する〇〇氏。
「・・・」
その時、〇〇氏は幻聴のように直接頭の中に話しかけてくる声を聞いた。
「くっくっくっ・・・」
人を蔑んだような不気味で冷たい笑い声が〇〇氏の頭の中に木霊した。
「クックック、神が人間に干渉などするものですか!」
「どんな時でも、人間をたぶらかすのは悪魔の仕業ですよ!」
「悪魔・・・おまえが、ミクを連れ去ったのか?」
「答えろ!!」
「お前なのか?」
「クックックこの場合、そういうこ事になりますかねぇ~」
「丁度10年前、彼女に10年間の人生を与える契約をしたんですよ」
悪魔が言う。
「お願いだ悪魔よ、私にミクを彼女を返してくれ!」
「私はまだ、彼女に自分の気持ちをきちんと伝えてないんだ!」
「こんな突然の別れなんて納得できない! 」
降りしきる雨の中、〇〇氏は空を仰いで叫んだ。
「納得できない・・・ですか」
「そうですね~」
「確かに、そう仕向けたのはわたくしですがねククク」
含みを持った言い回しをする悪魔。
「しかし、タダという訳には・・・いきませんねぇ! 」
これは、悪魔の常套手段である。願いを叶えるために魂をよこせみたいな、詰まり、等価交換というやつである。
「悪魔よ、おまえの欲しいものは何だ?」
「私が持っている物なら何でもくれてやる!」
「だから悪魔よ、私に彼女を返してくれ!」
「命だって構わない、残りの人生はくれてやる! 」
「だから頼む・・・彼女を・・・! 」
「もう一度、ミクに逢わせてくれ!」
「お願いだ!」
「ミクに・・・ミクに逢って自分の気持ちを伝えたいんだ・・・!!」
雨に濡れ、泥をまとい、泣き崩れる〇〇氏。
そんな〇〇氏に悪魔が囁きかけた。
「いいですよ、あなたとの契約、願いを聞き入れましょう」
「代償として・・・人間よ、あなたの存在を頂きますよ」
「存在を奪われた人間は誰からも忘れさられてしまう・・・」
「いや、最初から存在してないことになってしまうだろうね」
「それでもよろしければ、彼女を返しましょう」
悪魔は契約内容を〇〇氏に告げた。
「彼女に逢えるんならなんでもいい!!」
「幽霊だって構わない、ミクに逢えるんなら何もいらない!!」
ためらわず言ってのける〇〇氏。
「ククク・・・契約成立ですね」
悪魔は了承し、補足ルールの説明をはじめた。
「おっと、言い忘れてましたが、あなたの存在を全て奪うわけではありませんよ」
「あなたには10年間だけは人生を残してさし上げましょう」
「しかし、この契約内容を誰かに漏らした段階で、」
「あなたの存在は消滅しますので注意してくださいね!」
「悪魔の一部があなたの後ろ髪に姿を変えて、いつでも監視していますから、」
「それをお忘れなく・・・」
それが、〇〇氏が聞いた悪魔の最後の言葉だった。
あれから、どれぐらい時間が経過したのだろうか・・・。
ここは、自分の部屋・・・薄暗い中、〇〇氏は意識を取り戻した。
オレは夢を見ていたのか!
もうろうとする〇〇氏、無性に喉が渇く・・・。
〇〇氏は、キッチンへ向かい、明かりのスイッチを押とその足で流しまで進むと蛇口のレバーを上げ、直接口を蛇口に持っていき水を飲んだ。顔を洗い、気持ちを落ち着かせた〇〇氏。
髪が長い・・・、そうか、悪魔の一部か・・・、どうやら夢ではなかったらしい。
〇〇氏は、ミクに逢える確証がとにかく嬉しかった。それと同時に、髪が伸びた言い訳をミクにどう説明しようか考えていた。
〇〇氏が一息ついた時、玄関のドアの鍵が開く音がした。
ミクが帰ってきた!〇〇氏は嬉しかった。
ミク・・・おかえりなさい・・・愛しているよ。〇〇氏は涙をぬぐい、心の中で何度もつぶやいていた。
そうさ、たとえ後十年で自分の人生が終わろうとも、再びミクに逢えたのだから今度こそ自分の気持ちを伝えよう。
そして残りの十年間を精一杯、ミクと二人で幸せに暮らそう。
\カチャッ/
キッチンのドアが開いた。
思わず笑みがこぼれる〇〇氏は、深呼吸をして振り返った。
「・・・お帰りなさい・・・」
嬉しそうなミクの透き通った声がした。
しかし振り返った〇〇氏の目の前には、ミクではなく若い男が立っていた。
「キミは誰だ?」
「ここで何をしている!」
目の前の男が〇〇氏に尋ねてきた。
その時、目の前の男の背後の壁に掛かっている鏡を目にした〇〇氏。
その鏡の中には、たしかにミクが存在していた。
自分の手元に目をやった〇〇氏。
細くしなやかな色白の指、十年前にミクが着ていた白いワンピース、その胸元はふっくらと膨らんでいた。
その時、〇〇氏はようやく全てを理解したのだった。
そうか・・・、なぜミクが10年前、自分の前に突然現れたのか?。
なぜ自分の事をあんなにも愛してくれたのか・・・。
そして、なぜ自分の名前を思い出せないのか・・・。
それはミクの正体が私自身で、悪魔に自分の存在を奪われた・・・からなんだ。
10年前の私は、ミクになった10年後の自分に恋をしていたんだ・・・。
これから10年間、私はミクの姿でミクとして、10年前の自分の傍らで生きていくことになるのか・・・、これが、悪魔との契約、悪魔が残してくれた私の10年間だったのか。
それは、10年後・・・ミクとなった自分の存在が消えてしまうという事でもある。
悪魔が仕組んだ、このタイムパラドックスを使ったトリックを、人間である〇〇氏には、回避したり修正したり出来るはずもなかった。
不安そうにミクになった〇〇氏を見つめている目の前の男、いや十年前の〇〇氏。
10年前の〇〇氏の問いに、とまどうミクは、次第に震えだし大きな瞳からは今にも涙がこぼれそうだった。
「・・・行く当てがないんです・・・しばらくここに泊めてもらえませんか? 」
そう言うとミクは、目の前の10年前の〇〇氏に、抱きつき涙ぐんだ。
終
余談:あくまの仕掛けたトリック。
この悪魔が、仕組んだタイムパラドックスを使ったトリックとは?
これが何故、人間には解けないのか?それは、時間軸上にある〇〇氏がミクと最初に出会ったスタート地点から、ミクが消滅したエンド地点までの時間軸が、閉ざされループになっているからです。それは、〇〇氏がミクと出逢ったからこそ、十年後に悪魔が仕組んだ契約でミクにされて、そこから十年遡って、自分に逢うことになるわけです。そもそもミクに逢わなければ、〇〇氏は十年後にミクになることはないわけです。しかし、実際にはミクが現れ〇〇氏と出逢うことになります。詰まり、卵が先か鶏が先かに類似しています。
結論は、こうです。悪魔の仕業で、〇〇氏の人生がループした閉ざされた時空間になった時、彼が生まれてからミクと出会うまでの過去と、それから10年後にミクが消滅した後の未来。〇〇氏は、まんまとこの二つの時を悪魔に奪われる契約をしてしまったと云う事になるのです。だからこそ、過去と未来を奪われた〇〇氏の名前を誰も知らないし、彼の存在を誰も気にしないのです。