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年の瀬スネークレッグ

「今年も終わりねぇ」


 年の瀬の慌ただしさも何のその。

 いつも通りの丹学亭における一幕である。


「どうしたの、しみじみと・・・珍しい。」

「分かってるわよ。だけど不思議なものねぇ、この時期になると空気が変わる。」

「そう?」

「まずは朱音さんが忙しくて顔を見せなくなる。」

「それはそう。」


 代わりに我々学生は久しぶりの長期休暇を楽しむことができるわけだが。


「せっかくの冬休みなのに、かしぎちゃんは相変わらずだね。」

「今年公開された論文の中から面白そうなのを選んで追試しているの。」

「追試って?」

「書かれた方法を真似して同じ結果が出ることを再確認すること。」

「同じ結果なんか出して面白いの?」

「結構。あとはやっぱり自分の手を動かさないと理解ってできないものよ。」

「模写や耳コピみたいなものだね。」

「そういうこと。」


「大事なことはわかるけど」

 描きかけのスケッチブックを机に置いて、冷めたコーヒーを口にする。


「飽きてこない?」

「そんなことないかなぁ、そもそも追試自体は科学の肝で重要性も高いしね。」

「そうなの?」

「そう、だって人や時間や場所が変わったら結論がコロコロかわるような法則、信頼できないじゃない」

「でも、人が変わったら結論なんていくらでも変わるものじゃない?」


 どんな絵画だって、どんな楽曲だって、それがもたらす結論いんしょうは人それぞれだ。


「・・・もう少しマイルドに言うならば、近い条件が近い結論を出すのかという話ね」

「近い結論?」

「例えば、そのコーヒーカップ、落としたら割れるじゃない。」

「朱音さんが泣くよ?」

「そして、明日、そのコーヒーカップを落としたとしても割れる。」

「・・・それってあたりまえじゃない?」

「それが意外にもそうならないから面白いのだけど・・・まあ、多くの場合は今日と明日の違いは結論を変えない。即ち、近いは近い。これが再現性というわけ。」


「じゃあ、近いが遠い場合は?」

「例えば?」


 何も言わずにスケッチブックに蛇を書く。


「良い例えね。」

「これで良し!」

 足をつければ完成だ。果たしてこれを『完成』というべきか悩むところだが。


「本来、少しの違いは、結果を少ししか変えないはずなのに、ちょっとした差異で結果がガラッと変わることがある。」

「勝負に負けたりね。」

「確かにこれは法則としては破綻しているけれど、新しいアイディアの源泉として大切よ。」

「蛇の足が?」

「元々の法則が頑健であれば頑健であるほど、それが破綻したときに何が起こったのかを調べることの重要性は大きい。」

「だから追試を?」

「そういうことね。既存の結果を自分なりのやり方で追試することは、新しい結果を得る意味でも重要というわけ。」


「それじゃあ良いお年を」と軽く挨拶をすると、かしぎは去って行った。

 年末年始は家族と群馬で過ごすそうだ。


 この時期になると、学園都市の住人の多くは実家に戻るため、街は閑散としており、まるで玩具の街に一人放り込まれたような不思議な気分になる。


 もういくつ寝ると、新しい一年が始まる。

 今年と来年の境界で何が変わり、そして何が変わらないのだろうか?


 そんなことを考えた。

Youtube版:https://www.youtube.com/watch?v=MFQo5fBcYpI

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