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異世界派遣社員の憂鬱  作者: よぞら
地の章
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建国

 旧フォルマシオン跡地に降り立った宇宙船の一部を改装して作った浄化装置にレイが入りエネルギーを供給すると100㎞圏内が一瞬で浄化され、浄化範囲は緩やかに広がっている。

 新星歴708年に人知れず現れた6つ目の浄化地帯へ役目を終えた旧式の調律師達が数か月に及ぶ道のりを徒歩で集まっていた。


 異世界派遣社員。


 シドは新式の調律師をそのように名称した。

 管理調律師と実働調律師という役職に分け、管理調律師統括であるシドを司令塔に縦割り組織として活動している。

 今はまだ、旧式の調律師も多いが、いずれはすべての調律師を新式に変更するつもりだ。引退を希望する旧式の調律師から新式に業務を引継ぎ中の者も多い。

 新式の調律師を導入して7年。6割近くの調律師が入れ替わった。

 現在新星歴712年。

 百名に満たない調律師と地上での飛行を可能とする宇宙船にて運んだ各地の難民数千人による国がひっそりと建国された。

 ジュビア東方連邦国。

 それがシドと調律師を中心に作り上げた機械仕掛けの国名だ。

 国の裏の代表であるシドは6つの空中ディスプレイに1人ずつ映る人物たちと深刻な面持ちで会話を繰り広げていた。


「冒険者ギルドの設立ですか?」

「はい。」


 目を輝かせる男、通称モモの発言にシドは首を45度傾けた。


「冒険者とは?」

「様々な仕事をこなすフリーランスの傭兵って感じの自由業の事ですよ。」


 護衛、用心棒、害虫や害獣の駆除、人探しや未整備の地域や危険地帯への探索や物品の回収を行うなどモモはさらに細かい冒険者の活動内容を提示した。


「却下です。」

「なんでですか?」


 意見が確実に通ると思っていたモモは目を丸めて驚く。現在、各国に派遣した調律師による裏首脳会議中なのだ。

 衛星基地を地上に移したことで各国を繋ぐ世界横断鉄道の実験機が完成し、ほんの一部の人や貨物の運搬が可能になった。細々と貿易も始まったため本格的な都市開発に取り組んでいる。


「自由業となると規律がバラバラで統一性が無くなり不平と犯罪が生じやすくなります。情勢が落ち着いてからならまだしも今の世界情勢では保障のないフリーランスなど格差も大きくなるでしょう。そうすれば強者から弱者による不正や誹りも生じるでしょうね。現実的ではありません。」

「そんな、異世界のロマンが。」


 夢を壊されたようにショックを受けて頭を抱えるモモに参加者全員が白い眼を向けた。

 控えめに言って阿呆そうな男がネブリーナと呼ばれる北の皇国にて裏から手をまわして一国の政治に加担していると思うと世も末である。


「しかし統括、全盛期より和らいだとはいえ神の領域からの侵略は年々激化しています。」


 見た目も発言も軽いモモとは違い深刻そうに告げたのはパイロープ帝国を担当するオーロの通称を持つ男だ。


「気候に守られているネブリーナ皇国と神の領域と協定を結んだイエロ連合王国は問題ありませんが、彼らの使用するα元素汎用術は脅威で調律師でなければ太刀打ちできません。」


 極寒の地にあるネブリーナ皇国は苛酷な環境から神の領域からの侵略を受けておらず最も発展している。巨大な地下空間と豊富な地下資源で生活も潤っていた。

 宇宙樹の森にあるイエロ連合王国は侵略を受けていたが早々に手を取り合い和解し神の領域の種族と共存しているのだ。水面下で調律師と始祖を狙う神使との戦いは続いているが国民に影響はない。


「問題はパイロープとアルドですか。」


 間欠泉の吹き出す砂漠のパイロープ帝国と緑豊かなアルド公国。どちらも大陸にあり度重なる神の領域の人型の神使による侵略で甚大な被害を受けている。

 魔術とも呼ばれるα元素汎用術はあらゆる科学現象を誘発して具現化するため普通の人間にとっては脅威だ。


「パイロープとアルドの城壁の建設状態はどうですか?」


 せめて民間人だけでも戦火から逃せるようにと中心都市のみを囲う城壁は存在するが、それでは全国民を養うほどの安全な土地は確保できない。いっそのこと大きな城壁を建設しようとかなり前から進んでいる計画だ。


「40年で3割ってところですね。殆どが人力何でこればかりは長期戦ですよ。」


 国を囲う城壁となると1万キロメートルを超えるのだ。万里の長城も2000年の時を費やしている。人力なのだから建設には数百年単位の期間が必要となることは目に見えている。


「機材の導入を急ぎましょう。疑似重力発動装置を搭載した建機を使用すれば建設作業も大幅に進むでしょう。取り急ぎジュビアで機材の設計と部品の搬入ですね。組み立ては現地で行った方が効率的でしょうか。」


 原始的な機材で人力で行うところに一機でも文明の利器が加われば大幅に作業速度は上がるだろう。機材の操作に慣れたら追加で導入すればよい。


「統括、アルドとパイロープの国境付近に配置する調律師を増やせますか?」

「各国の諜報員や神の領域の探索班をまわせば増やせないこともないですが少し厳しいですね。」


 少しずつ人数を増やしているとはいえ任務に耐えられず止めてしまう調律師も一定数存在する。新規に導入したとしても現在のポジションを埋めるだけで他所へ配属する余裕はなかった。

 そもそも調律師だけで国家の防衛を担うことなど無理を通り越して不可能なのだ。


「統括、やっぱりギルド作りましょうよ。困ったときの冒険者ですよ。」

「ギルドは置いておきまして防衛線は必要じゃないかしら。出来れば各国にきちんとした防衛組織か軍を設立するべきでしょう。今いる自警団では前線を守ることで精いっぱいですしきちんと戦える者を育てる場を設けないと。」


 ここぞとばかりに発言したモモの言葉を、ジュビア東方連邦国を担う通称ササが遮る。


「冒険者ギルド……。」

「そうなると国単位で軍事活動をした方が効率的ではないでしょうか。一国まるごと軍事に専念して各国に派遣するんです。」

「冒険者……。」

「そうなると発展しており余裕のあるネブリーナかイエロがよいでしょうか。」


 往生際悪く意見を通そうとするモモを、イエロ連合王国担当の通称ベガ、アルド公国担当のサキと続いて発言してかき消す。


「各国にギルドを造って提携すれば強い人が集まって一石二鳥ですって。」

「ネブリーナは土地柄的に大規模な軍の訓練施設を用意できないでしょう。既にネブリーナは小規模な軍が出来上がってますし今更別方向に開発するのも難しいでしょうね。イエロも同様です。主都は化石化した世界樹の切り株に建てられてますから土地が広いわけではありませんし神使とのこともありますからあまり軍関係で刺激するのはよくないかと。」


 尚も冒険者ギルト設立を主張するモモをいないものとしてウォール諸島共和国担当の通称ウラが問題点を並べた。


「そうですね。イエロ連合王国は工芸品に長けてますし神の領域との貿易も盛んです。ウォール諸島共和国は島国ですし緑の豊かなアルド公国は農産と畜産に集中したいですよね。消去法ですがパイロープ帝国に軍を造りましょう。人数が確保出来たら各国に帝国領を造り派遣軍を送ります。オーロはパイロープ帝国での軍設立のための詳細をまとめてもらえますか?手が空いている方はオーロの補助をお願いします。では本日は以上で。」


 全員の意見を静観していたシドが話をとりまとめ、モモが打ちのめされた会合は終わった。順に通信が切られて空中ディスプレイが消えていく。

 最後のディスプレイが消えるとシドはホッと息を吐いて背もたれに体重を預けた。地球にいたころから数えきれないほど会議をしていたが手痛い裏切りを受けてからというもの人との交流が苦痛である。

 対人恐怖症とまではいかないが、他者を信用することが出来ずにいる。シドは同僚だというのに調律師を誰一人として信じていなかった。

 この調律師も裏切る、この調律師も長続きしない。

 そんな疑念ばかりが頭に浮かぶのだ。


「トラウマって案外しつこいんですね。」


 見慣れた天井を見つめながらシドは一人ぼやくのだった。

◆モモ…ネブリーナ皇国諜報担当の調律師。

◆ウラ…ウォール諸島共和国諜報担当の調律師。

◆オーロ…パイロープ帝国諜報担当の調律師。

◆ササ…ジュビア東方連邦国諜報担当の調律師。

◆ベガ…イエロ連合王国諜報担当の調律師。

◆サキ…アルド公国諜報担当の調律師。


◆イエロ連合王国…南半球の東方の大陸にある国。元宇宙樹の森の切り株上に建設されており神の領域の住人と共存している。

◆ウォール諸島共和国…赤道沿いにある島国。

◆ネブリーナ皇国…北半球の大陸にある極寒の国。膨大な地下資源がある。

◆パイロープ帝国…最西端の大陸にある砂の国。


調律師には患っている人もいる。

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