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異世界派遣社員の憂鬱  作者: よぞら
星の章
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調律

「百年、千年、一万年。僕らは前に進むだけ。止まらず振り返らず歩け歩け~。」


 新星歴705年。

 シドが調律師となり100年の時が経った。人の領域の世界情勢はだいぶ落ち着きを取り戻したが神の領域からの侵略問題は深刻的な問題となってた。和平が続いたのもつかの間であり調律師は始祖の護衛と人の領域内の諜報で手一杯であり神の領域まで手を伸ばせる状態ではない。

 文明も地球文明の20世紀には届かずテクノロジーが進化しないまま停滞状態にある。


「食料問題に資源不足と国によって偏りが大きいですね。国間の移動手段が小型の飛行船のみですし。」


 人の領域間を移動するとなると狭い機内で7日間かかる。徒歩で移動となると距離だけで単純に計算しても300日ほどかかる上に悪路だ。更に神の領域内で常人は呼吸すらままならないという。


「やっぱり、移動手段が軍用機のみの空路しかないって不便ですよね。」


 このままでは都市開発どころではない。各領域に資源はあるが偏りが激しい。


「保留案を決行しますか。」


 一つ目の保留案は倫理的価値観の葛藤から先送りにしていた新しいプログラムの調律師導入。

 今の調律師の能力も人と呼ぶには怪しいが新しいプログラムの調律師は人類の能力を激しく逸脱するどころか生物の概念から踏み外す勢いなのだ。しかし四の五の言っている状況でもなく背に腹は代えられない。

 調律師の役職を分けて完全に組織化し、危険を伴う作業を完全不死身の新しい調律師に振り分け古い調律師は安全圏で都市開発を進めることが出来る。

 二つ目の保留案はレイとシドが居住している第一衛星基地本部を本土へ移転する計画。

 もともと衛星基地は宇宙船を連結させて出来たものであり、今でも飛行可能なのだ。この施設があれば地上でのテクノロジーを発展させられる上にレイの本体をエネルギー源とした浄化装置で人の領域を増やすことが出来る。

 安全に浄化地帯の移動をするために計画していた世界横断鉄道の開発も進むだろう。


「50年で終わりますかね。まぁ、焦らずゆっくりするとしましょうか。」


 群島には水産物などの食料資源、砂漠には鉱物や燃料などの無生物資源、雪原の地底湖には水とそこにしかいない動植物による地下資源、樹海には森林と鉱物による原料資源、平原には農産畜産物などの食料資源。

 人と資源の国間の行き来が可能になれば全ての国が足りない資源を補い合い豊かになるはずだ。更に人が移動することで選べる職種と居住地が増えて開ききった貧富の差も縮める事が出来るだろう。


「まずは新しい調律師を導入して役割の入れ替えですかね。それと並行して衛星基地の移転。世界横断鉄道と航空機の開発。都市開発計画はその都度ですね。」


 シドの脳内にはどの国をどのように開発するかある程度計画が出来ていた。諜報の為に各国のトップには調律師を忍ばせてある。ある程度都市開発計画も並行して進めなければならないだろう。

 飢餓に苦しむ難民も多く、まともな生活を送れる人間は6割ほどで残りの4割は今日の食べ物すら工面できない生活をしている者も多い。課題は山盛りだ。


≪シド、フロリダとかゴールドコーストみたいなリゾート地作ってください。≫


 都市開発関係のデータを開いていると白い小鳥姿で肩に止まっていたレイが口を開く。リゾート地、甘美な響きだ。安定した生活が約束され財力に余裕のある者のみが楽しめる贅沢な場所である。


「レイ、この世界は観光旅行が出来る状態じゃないですよ。」


 笑いながらシドはレイを諫めた。国の行き来もできないというのに観光名所を作っても寂れて潰れるだけだ。国内旅行をしている層もいるが避暑や湯治に近い。今のR-0009では観光関係の需要が極端に少ないのだ。


≪将来的には鉄道ができるんでしょう?≫

「空路も確保する予定ですよ。」


 神の領域を陸路で移動となれば数日かかる。先人の残した設計で作る航空機での空路ならば世界の裏側へ行ったとしても1日半もあれば行けるはずだ。

 時間がかかろうとも実現させるべき移動手段である。


≪だったらリゾート地開発を前提に都市開発すればよいじゃないですか。今は暮らしと街の為になるものでもゆくゆくは観光用になるようにできません?≫

「難しい要望しますね。」

≪難しいですか?≫

「はい。」


 すっぱりと断絶するシドに心なしかレイは気を落とす。頭上にしょんぼりという文字が浮かぶようだ。


「でも、面白そうですね。時間はありますし、やってみましょう。」

≪50年後でも100年後でも楽しみですね。≫


 作ったとして異形であるレイは遊ぶことは出来ないだろう。頭の半分は複雑に絡む歯車がむき出しになり、体の所々から配線や基盤がむき出しになっている半機械化した姿では人の前に出ることすらできない。

 水鏡に映る、楽しそうにリゾート遊びを満喫する人々をそっと覗き見て楽しむしかないのだ。創造の神もレイと同じように寂しそうな顔で地上を見守っているのだろうか。


「レイはどんな世界を作りたいですか?」


 それでも世界征服を企む我らがボスの要望に応えるべく、シドは希望を問いただすのだった。

 自由に語る要望は夢物語だとしても、かの有名な理論物理学者が述べた“人間が頭で考えることは、すべて実現可能である。”という言葉通り実現出来るはずだ。





。+・゜・☆.。.+・゜melancholy゜・+.。.☆・゜・+。





 私の名前は紫藤 夕弦。

 それなりにイケている名前だと思いますが48歳のおじさんです。ちょい悪オヤジとかイケオジという部類に入れれば人生違ったのでしょうね。

 顔は平均的な美的感覚で普通ということにしてください。悪くはないと思いますが褒められるほどの容姿ではありません。身長は181センチメートルの長身。太ってはいませんが痩せても居ません。運動不足気味なんで中肉中背なところは御愛嬌。でも、娘がいたんで下腹がでるなんていう中年太りはしないように気を付けてましたよ。

 運動能力は年相応の人並でしょうか。雪国生まれなんでスキーくらいなら誇れます。学生時代に流行りましたからスノーボードも他者からカッコいいと言われる程度には滑れます。一応スケートもスピンやジャンプは出来ませんがスムーズに滑るくらいは可能でしょうか。

 頑張って難関大学卒業して大手企業に就職し順調に出世して専務まで登りつめたんで、綺麗な奥さんと娘が2人と幸せで裕福な家庭を築いていました。

 しかし年上の部下に重大な仕事のミスを押し付けられて解雇同然の左遷。奥さんは全財産と娘を連れ、記入済みの離婚届と結婚指輪を置いて出ていきました。

 私は家族からは大黒柱でなくATM扱いだったんです。年下の上司という妬みと恨みで部下は私から仕事も家族も全て奪っていきました。

 気付いた時には手遅れだったとしても社長に弁明したり弁護士に相談したりすればの左遷の撤回や全財産の半分は取り戻せたかもしれませんが失意から立ち直れなくて、正気を取り戻したころには何をするにも手遅れで何もできずに全てを失いました。

 残ったお金でお酒を買って、飲めるだけのお酒を数十年ぶりに飲んで酩酊状態になり橋から小さめの川へ落ちました。


「何所ここ?何ここ?天国?地獄?無理無理無理無理無理無理無理。」


 気づいたら、窓から宇宙空間が見える暗くて明るい場所にいました。

 目の前に現れた機械と同化した金髪の男に異世界転移したと言われて気絶したのです。

 すったもんだの末にあれよあれよと話は進められ、世界征服を企む超人と化した同郷の転移者の右腕となり転移者を統制し絶賛世界征服活動なうでございます。

 新たな転移者を異世界派遣社員と称し、役職と任務と人生やり直しという破格の成功報酬を用意して本日も新入社員をお出迎えするといたしましょう。


「チュートリアルへようこそ。私は682代目異世界派遣管理調律師統括の通称シドです。」


 さぁ、私たちと一緒に世界征服をいたしましょうか。

順調な働きアリ人生から転落して異世界転移したけど働きアリになるオッサンの話を御覧いただきましてありがとうございます。

お気に召してくださいましたら下記にてご評価頂けますと幸いです。

下のお星さまをぽちっと、お手数ですがぽちっと。

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