第137話 翠羽の我慢
お待たせ致しましたー
翠羽はよく我慢する子だった。
欲しいものを、自分の好き勝手で得てはいけないというものを本能で抑えていたかもしれない。
両親である紅羽さん達を失ってからは、それに拍車が掛かっていった。勉強だけは貪欲になっても、他はひどく遠慮するようになったのだ。
僕にも、どこかぎこちなく接するようになり。必要最低限の接点しか受け付けようとしない。自分のせいじゃないのに、紅羽さん達を失ったのは自分のせいだと思ったのかもしれない。だから、失うものを必要最低限にしようとしていた。
その結果と言うわけでもないが、自分が誘拐され……身体をバラバラにさせられて、生き霊に近い幽体化となった。あんなことには、僕はもう二度とさせたくない。
(……けど、少し変わった)
僕らはさらに友人も失ったが、互いに心を通わせ……二度と離れないことを誓った。そのお陰かはわからないが、翠羽の我慢が少し和らいだと思う。
そのひとつが食事であっても、十分な進歩だ。ずっと小さい頃でもあったが、翠羽の食欲は実はすごいのだ。下手をすると、成人年齢である僕以上に。
大食いと言うか、好きな食べ物についてはかなり食べるのだ。特に、ファストフードの時は。十段バーガーだとその筆頭で、チーズと肉のコラボは彼女にとっては魅力的で仕方がないのだ。
今もほら、とても幸せそうにがっつきながら頬張っている。
「美味い?」
「おいひーですぅ」
食べ物関連とはいえ、いつ以来だろうか。翠羽のこんな嬉しそうな笑顔は。ボーリングはほとんど悔しがっていたが、食べ物ひとつでここまで笑顔になってくれてよかった。ボーリングを決めた時に、併設のファストフード店のリサーチをしておいて良かったと思った。
本来なら、翠羽は学生でこんな風に出歩くのはあまりよろしくないと思われるだろうが。彼女の時蟲が警告を鳴らしているのであれば、無闇に休学を復学に戻すのは良くない。
数多の存在にとって、時蟲は畏怖べき能力ではあるが翠羽は覚醒して間もない。僕が術をかけてフォローしても、何か起きては遅いんだ。一度誘拐された時と同じことは……あってはならないんだ。
あの絶望感は、もう二度とごめんだ。
「食べたらどこにいく?」
お互い半分くらいバーガーを食べ終えたところで、僕は次の提案をすることにした。
翠羽は口に入れていたものを飲み込みと、うーんと首を横にひねった。
「……特に思い当たりませんが」
「うーん。身体を動かすのは、ちょっと休もうか。カラオケもやめとく?」
「他に何かありますかね?」
「だったら、ゲームセンターに行く?」
「! 行きたいです!」
ほら、こんな感じに。翠羽が以前だったら遠慮していたことが少しずつほぐれていっている。それは喜ばしいことだから、僕も彼女に釣られて笑った。
次回はまた明日〜




