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その時はちゃんと殺してね  作者: キムラましゅろう


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16/21

異世界一受けたい授業 二限目・そうだ異界、行こう

一限目が終わり、休み時間を利用してのティータイムが行われた。


その中でもイグリード先生はお茶を飲みながら、生徒たちに色々な話を語って聞かせてくれた。


シスター・ウルフに加護を与えている聖狼ケンウルフの名前は自分が付けたもので、本当はイヌウルフという名にしたかったのに、友人だった当時の国王にやめてくれと懇願されてケンウルフにしたのだという話や、

100年くらい前に亡くなったハイラムの王妃のおかげで人々と共に生きる楽しさを知った事や、

その王妃が自分が死んでも子々孫々、決してイグリード先生を一人にはしないと言ってくれた時の話だとか。


その王妃こそが預言者に相応しく、今も変わらずハイラム王家の者と家族同然の付き合いをしているという。


驚くべき事にその王妃の死後、隔世遺伝で必ず孫の代に王妃に瓜二つの姫が誕生するらしい。


まさに予言と位置付けても良いくらいに、ある意味有言実行、王妃の言う通りになっているそうなのだ。


それをイグリード先生は、

“ジュリのマッスル遺伝子”と呼んでいるのだとか……そんな風に様々な話を面白可笑しく語ってくれた。



そしてまたどこからかチャイムの音が聞こえ、

授業が再開された。


「ハーイ、じゃあ二限目は僕の可愛い弟子についてお勉強しま~す☆」


ばちん☆とウィンクをしながらイグリード先生が言うと、それを聞いた生徒たち(王太子+六傑の面々)は一様に「何故?」という顔をしていた。


「アルトは僕の2番目の弟子で~す♪出身はアデリオール。身長183センチ、体重73キロ、好きな食べ物はミートパイで、好きな女の子はツェリーちゃん。嫌いな食べ物は無かったかな?得意魔法は主に全般、使役精霊は全精霊だけど、とくに炎の精霊(サラマンドル)を好んで使役してま~す♪ちなみに、アルトの炎の精霊(サラマンドル)は彼が独自に力を付けさせて、炎の魔神(イフリート)並の能力を顕現させられるんだ~♪」


と、かなりドヤァッと自慢げな顔で弟子のプロフィールを紹介した。


本人がここに居たら、

「個人情報漏洩です」と言いそうだ。


生徒たちは「そうですか……」とか「凄いですね」とか「それって授業に必要?」とか「俺の方がいい筋肉してる!」とか口々に言っている。


イグリード先生はそんな生徒たちの反応をスルーして授業()を続けた。


「そんな最強の使役精霊を連れて、今回アルトくんはブブちゃんに会いに異界へ行って来ましたーー!ハイみんな拍手~~!」


イグリード先生は、パチパチと教壇で一人手を叩いた。


「えっ?何故異界にっ……?」


生徒の一人、ミルソンが驚きの声を上げる。


イグリード先生はミルソンに答えた。


「それはね、この世界とブブちゃんの関係を完全に断つためだよ☆」


「関係を……断つ?」


そう呟いたバイヤージがそっと視線を移すと、丁度ウィルヘルムと目が合った。


彼は少し困ったような顔で小さく頷く。

どうやらそこら辺の話は知っているようだ。


バイヤージは再びイグリード先生が立つ教壇の方を見た。


「ホントはねぇ、ツェリーちゃんから胃袋を取り出した後はもう放っときゃイイとも思ったんだよね。術式さえ使わなけりゃブブちゃんの胃袋はこちらの世界に召喚出来ないんだから。でもツェリーちゃんが適合者になった時から爆発的に食べるようになったのを陰から見てたアルトが気付いたんだ。ブブちゃんの、宿主の魔力も栄養さえも普段から大量に搾取するほどの強欲さにね~。厄災のエネルギーだけで満足しときゃいいのにねぇ~?」


イグリード先生は肩を竦めて首を横に振った。


「一度味わった異世界の魔力というご馳走を、胃袋が召喚されないからって、あの悪魔が簡単に諦める訳はないって。必ず何らかの方法でこちらに現れて、下手すりゃ何も残らないくらいに喰い荒らされるかもしれないってアルトが言ったんだ」


その言葉を聞き、皆の顔色が青くなる。


「喰い荒らされる……」


「この世界にやって来て……」


「ゾッ☆とするよね!キモっ☆だよね!だから面倒くさいけど手土産持ってブブちゃんと直接交渉するしかないよねって事になったんだよ~。名付けて!そうだ異界、行こう作戦~~!」


キャー♪と一人盛り上がるイグリード先生に、シスターが挙手をして尋ねた。


「異界の悪魔への手土産って、何を持って行ったんですか?」


「聞きたい?」


「はい」


「みんなも知りたい?」


イグリード先生に言われて、生徒たちが各々頷く。


それを見て、イグリード先生はコホンと一つ、咳払いをして答えた。


「ブブちゃんへの手土産はねぇ~、

なんと!僕とアルトの10年分の魔力を結晶化させた特別な魔石でーーす☆もう、この結晶魔石を作るために毎晩毎晩どれだけ苦労した事かっ!聞くも涙、語るも涙だよ!もうホント毎晩毎晩とにかく毎晩、結晶化させられる容器に魔力を注いでいくんだよっ!それを10年間も!しかも最後の方なんて弟子が師匠の魔力をカツアゲするんだよっ?信じられないでしょっ?もう鼻血も出ないのに魔力をカツアゲされるんだよ!もしかしたらブブちゃんよりアルトの方がえげつないかもしれないと、何度思ったコトかっ!」


と、10年分の鬱憤を一気に吐き出すように捲し立てた。


「まぁ最初に結晶魔力の魔石で悪魔を釣ろうと言ったのは僕だし?可愛い弟子の為なら協力もするけどさーー」


イジイジと指を絡ませてイジケるイグリード先生の様子を生徒たちは生暖かい目で見つめる。


そして愚痴を溢して幾分か気が晴れたのか、持ち直したイグリード先生が授業を続けた。


「まぁというわけで、カツアゲ不良のアルトくんは、いよいよ厄災の元凶が溢れ出すという段階になって異界へ旅立って行ったワケなのさ♪あ、どうしてそんなギリギリに?もっと早くさっさと行けば良かったんじゃないかって顔してるね?」


指摘されて図星だった者がぎくりとして顔に手を当てた。


イグリード先生は人差し指をチッチッチッと左右に振りながら答える。


「異界に行って無事に帰れる保証なんてどこにも無いからね。ツェリちゃんの事が心配なアルトはギリギリまで側に居たかったんだろうねぇ。

わかる?複雑なオトコゴコロだよねぇぇ。

それでも少しは余裕をもって出かけた筈なのに、どうやらブブちゃんが駄々を捏ねたみたいだネ〜」


ツェリシアの側で甲斐甲斐しく世話を焼いていたアルトの姿を知っている者は納得した様子だった。


アルトがツェリシアの幼馴染で生まれた時からの婚約者だという事は、先程の休み時間中に聞かされている。


「アルトがブブちゃんと交渉した内容はこうだよ。テストに出るからね、みんなしっかり覚えるように!」


と言いながら、イグリード先生が黒板に箇条書きで書いてゆく。


そこまでせずとも口で言えば良いものを、あくまでも教師らしくしたいらしい。


黒板に書かれた内容はこうだ。

(テストには出ません)


○魔鉱石のマイナスエネルギーを送り届ける転移ルートを施術する代わりに、術式師と交わした契約は破棄する事


○胃袋の一部を返還するための宿主との分離はこちらで行う事


○術式師との契約破棄を以て、この世界への干渉は金輪際しない事


○これらの事一つでも約束を違えれば、相応の報復をさせて貰う事



以上がイグリード先生が書き出した異界の悪魔との交渉内容だ。



「上手くいったのかどうかは、さっきみんなも直接アルトに会ったからわかるよね♪でもブブちゃんの奴、魔鉱石のパイプラインに僕たちの10年分の魔力だけでなく、アルトの体の一部までも要求するなんて……欲深(よくぶか)だよね。向こうの悪魔は7つの罪を司るって言うけれど、ブブちゃんは“暴食”ではなく“強欲”だよねぇ?おかげでアルトは片目を差し出す事になったようだ。まぁ羽根をむしり取って燃やしたって言ってたから、やられっ放しじゃないけど!」


プンプンしているイグリード先生を見ながら、バイヤージが発言した。


「せ、先生……今、魔鉱石のパイプラインだとかルートだとか仰ってましたが……それはどういう……」


「ああ。それは授業が終わったらわかるよ。先生は弟子に頼まれたから放課後も残業しなきゃいけないんだー……↓良かったら見学するかい?」


「は、はい……是非……」


「よし。じゃあ次は…………」


次の内容に移ろうとしていたのか、

はたまた休み時間に入ろうとしていたのか、

イグリード先生が次の言葉を告げようとしたその時、

突然アルトが転移魔法にて現れた。


皆が驚いた様子でアルトを凝視する。


アルトは一人だった。


ツェリシアの姿は見当たらない。



どこか疲れたような、そしてどこかほっとしたような面持ちでアルトはそこに立っていた。



「またまたおかえりアルト♪今度は意外と早かったね~」



弟子の姿を確認して、イグリード先生は指をぱちんと鳴らした。


すると今まであった教室が一瞬で姿を消し、

生徒たちは元の噴出口のある切り立った崖の下に戻される。



アルトの帰還を以て、


イグリード先生の特別授業は終了となったようだ。


教室はもう無いのに、


どこかからかチャイムの音が聞こえてきた。


次回、ツェリシアが魔改造される!?

いや、“魔”では無い改造かな?

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