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その時はちゃんと殺してね  作者: キムラましゅろう


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13/21

そして溢れ出す

六傑(6人じゃないが)が戮力協心(りくりょくきょうしん)にて大陸史上稀に見る四方結界に挑む決意を前日に打ち明けられていた王太子ウィルヘルムは、

自らも現場で見届けるべく噴出口ポイントに向かおうとしていた。


執務室から急ぎ馬を用意させてある場所まで護衛騎士たちと共に歩いていると、廊下の前方に一人の男が立ってこちらを見ている事に気付く。


『あれは……』


「コルベール卿!」


その男がアルトであると視認したウィルヘルムが歩みを進めながらアルトの名を呼ぶ。


互いの距離が近付いた時にアルトがウィルヘルムに向かって言った。


「私が戻るまで勝手な行動は慎んで頂くようお願い申し上げたはずですが」


落ち着いているがどこか凄みのある声に、ウィルヘルムは一瞬たじろいだ。


暗に(ではないが)二重結界を掛けると決めた事を非難されているのだとわかるからだ。


「す、すまん。しかし(けい)はなかなか戻らんし、噴出口の状態はもはや油断ならぬものになっている。このまま黙って手を拱いて見ているだけでは手遅れになると、皆の意見が合致してな。とりあえず出来る手は打とうという事になったのだ」


「今あそこに余計な刺激を与えて、事態が好転する事はありません」


「しかしっ……いやそれよりもっ、コルベール卿、その姿は一体どうされたのだっ……!?」


「私の事は今はどうでもよろしい。それよりも今すぐ国王陛下に謁見を申し入れます」


「な、何っ!?父上に?それも今すぐとはどういう事だっ?」


突然の父王への目通りの申し出に、ウィルヘルムは慌てた様子でアルトに問いただす。


「陛下が病床に伏せっておられるのは承知しております。しかし時がありません、話はすぐに終わります。ですので今すぐ、陛下に会わせて頂きたい」


「この状況下においての謁見の申し入れとなると厄災に関わるという事なのは察せられるが、どうしても父上に会わねばならない事か?私ではいけないのか?」


「殿下が全ての決定権を陛下より移譲されておられるのなら構いませんが、そうでないのならやはり国王に決断を仰がねばなりません」


「…………」


ウィルヘルムがアルトを見据える。


頑とした眼差しが決して引き下がる気はない事を物語る。


「わかった。父上の寝所へ案内しよう」


「では殿下、お手を」


「は?」


エスコートするように手を出され、ウィルヘルムはまじまじとアルトの手を見た。


「時が惜しい、転移魔法で向かいます。なので早く手を置いて下さい」


アルトの内心の苛立ちを感じ、ウィルヘルムは慌てて手を取った。


「わ、わかった」


「では行きます」


そう言ったかと思うと、控えていた近衛騎士たちの目の前でアルトは王太子と共に転移して行った。


後には困惑した様子の騎士達だけが残された。





◇◇◇◇◇




押し寄せる“負”のエネルギーを奈落を通して感知したツェリシアは、結界を止めるべく施術途中の結界ごと六傑のメンバーの魔力を喰らった。


喰らったというよりは()()()()()といった方が分かり易いかもしれない。


ほぼ一瞬で魔力ごと結界を吸い込んだツェリシアを、バイヤージ達はただ呆然として見つめていた。


「ツェリ……シア?何故?」


「どうして結界を?」


皆が信じられないといった顔をする。


ツェリシアは努めて冷静に皆に告げた。


「皆んなありがとう、わたしの為に頑張ってくれて……でもどうやら始まってしまったみたい。じきに噴出口(そこ)から負の魔力(アレ)が溢れ出すわ、今すぐここから避難して」


ツェリシアが岩の裂け目を指差すと、

皆がその方向を一斉に見た。


微かな振動と共に得も言われぬ重い圧力(プレッシャー)を感じたのだった。


厄災を引き起こす元凶がすぐそこまで来ている事を否が応でもわからされる。


「っ……くそっ!」


ブルサスが膝から崩れ落ち、悔しそうに地面叩いた。


「……もしかして結界を張った事が引き金になってしまった……?」


シスター・ウルフが青白い顔でツェリシアを見る。


ツェリシアは首を横に振り、皆に微笑みかけた。


「ううん、どうせ遅かれ早かれ起こる事だったんだもの。わたしの方こそゴメンなさい、皆んなに無茶をさせてしまった……」


「そんな事っ……!」


ミルソンが否定しようとするも、言葉が上手く出て来ないようだった。


ツェリシアは皆に心からの感謝を込めて告げる。


「皆んなありがとう。

本当に……嬉しかった……わたしの為にしてくれた事、生まれ変わったとしても絶対に忘れない。だから、後はわたしを信じて見守っていて欲しい」


「ツェリシア……」

「ツェリシア……ちゃん……」


ツェリシアはバイヤージに向き直る。


「お養父(とう)様、皆んなを一箇所に集めて結界を張るか、すぐに転移してこの場から離れて下さい」


バイヤージはぎゅっと目を閉じ、唇を噛み締めた。


そして苦しそうにツェリシアに答える。


「……今更ながらにお前には本当にすまないと思っている。俺は……なんと無力な事か……何が魔塔の塔主だ。この場に於いて何も出来ないくせに……」


「でも10年間、わたしの親として側に居てくれたじゃないですか。この国の筆頭魔術師のくせに、魔塔主のくせに、わたしを逃そうと一瞬本気で迷った時期があるのは知ってますよ。まぁ逃げろと言われても逃げませんでしたけどね。それがわかって、お養父様も諦めたんでしょう?」


「ツェリシアっ……」


「あなたは実の親よりもわたしを愛し、守り続けてくれましたよ」


ツェリシアが笑顔でそう言った時、先ほどから感じていた振動とは比べ物にならないくらいの地響きと衝撃が伝わって来た。


「時がありません。お養父様、早く結界を」


ツェリシアが促すとバイヤージが言う。


「すまん……更に情けない話だが結界を張る為に無茶をして、もやは魔力が残っていないのだ」


「じゃあそれぞれ転移出来る者は転移してこの場を……

と、ツェリシアが皆に告げようとしたその時、

すぐ近くから聞き知った声がした。


聞いたといっても夢の中、だが。


「結界なら僕が張ってあげるよ♪」


その声がした方に目をやると、そこには先日夢に出て来た青い頭の方……アルトの師匠だと言っていた青年がいた。


「あなたは……夢の中で会ったアルトのお師匠さま……!?え?ホントに?」


夢でなく実際に現れたアルトの師匠にツェリシアは驚いた。


「数日ぶりだね、ツェリーちゃん。またまた弟子にアゴで使われて来ちゃったよ。アイツほんとに師匠使いが荒いよね!」


「……コルベール卿の師匠……?という事は……」


バイヤージがハッとして青い髪の師匠、イグリードを見た。


「まぁ話は後でゆっくりしよっか☆はいはーい、

とりあえず部外者のヒト達はこちらに集まってくださーーい♪」


まるで遊びの声掛けみたいな軽い感じでイグリードが皆に声を掛ける。


突然現れた得体の知れない男の事を警戒する皆に、バイヤージが声を張り上げて言った。


「時間がないっ!皆、早くこのお方の元に集まれっ!!」


魔塔主の言葉を聞き、その迫力に押された者達がわらわらと集まって来た。

バイヤージとシスター、ブルサスにミルソン。そして数名の魔術師が一箇所に集結する。


「は~い、じゃあ張りますよ~」


そう言ってイグリードはドーム型の透明な結界で皆が集まる一帯を覆った。


「これで大丈夫♪さぁツェリーちゃん、思う存分そいつを喰らっちゃって☆美味しくないだろうけど。あ、イチゴ味とか何かフレーバーを考えれば良かったなぁ」


「ふふ。大丈夫です。

不味くてもなんでもお残しは致しません。どうか皆んなの事をよろしく頼みますね、それからわたしの後始末はサクッと一瞬でお願いします。そして……」


ツェリシアはアルトへの思いの全てを言の葉にのせた。


「そしてアルトに……ありがとう、大好きだったと、必ず幸せになって長生きして欲しいと伝えて下さい。最後に顔を見たかったけど、叶わなさそうだから……」


寂しげな表情でツェリシアが言うと、

イグリードはふっと微笑んで別の方向に視線を向けた。


「いやそういうのは本人に直接言ってよ。僕から伝えたら絶対気持ち悪そうな顔をされるから」


「え……?」


その視線の先をゆっくりと辿る。


するとそこには、


そこにはこの世で一番大好きな存在が居た。


いつの間に転移して来たのだろう、ウィルヘルムを伴ったアルトがそこに立っていた。


「アルト……」


アルトはツェリシアから一瞬も視線を逸らさず、

片手でウィルヘルムをドンと押してイグリードの張った結界の中に押し込んだ。


「ちょっ……」


酷い扱いを受けたウィルヘルムを、バイヤージが肩に手を置いて慰めた。


イグリードは「ぷ☆」と吹き出してから皆に告げる。


「馬に蹴られて死にたくなかったら、邪魔しないで見守ってあげようね♪小説や芝居でいうなら最高に盛り上がるシーンだよ。あ、観劇のお供にポップコーンでも出そうか?」


ふざけてるのか本気なのかわからない言い方でイグリードが告げると、皆静かに黙って二人を見守った。



けたたましい地鳴りと体を小刻みに揺さぶられるような振動の中、ツェリシアとアルトは互いを一心に見つめていた。


「ツェリ」


「アルト……」


やっぱり、ちゃんと来てくれた。


全てを見届けに。


全てを終わらすために。


アルトの顔を見た途端に、不安も恐怖も全て吹き飛んだ。


こんなに安らかな気持ちで最後に挑めるなんて。


「アルト、来てくれてありがとう」


ツェリシアがこの上なく穏やかな顔で告げた。


アルトもこの上なく優しい、慈しむ眼差しをツェリシアに向ける。


そして穏やかな声でツェリシアに言った。


「大丈夫。後の事は全て俺に任せて。

ツェリはとりあえず、()()奈落(ソレ)の中に押し込んで」


アルトがツェリシアの覚悟を全てわかった上で見守ってくれていると知って、ツェリシアは今度こそ心から本当に安堵した。


が、風で前髪が吹き上げられたアルトの姿を見て、ツェリシアは目を見張った。


「っ……アルトっ、その目っ……!?」


そしてそれを問い正そうとしたが、

時は待ってはくれなかった。


岩の裂け目の形をした噴出口から、


それがとうとう溢れ出す。



「!!」



半透明で


仄暗い


現実味を一切帯びない


忌まわしきもの。



流体のような


気体のような


形を成しているような


形状を(とど)めていられないような


黒く、悲しく、冷たく、熱いものが


深淵の淵より溢れ出したのだ。



ツェリシアの中の()()


歓喜の声を上げるのが聞こえる。



ハヤク


クワセロ


ハヤク


「喰らい付け」


ツェリシアの口から、ツェリシアのものでない声が出た。


その瞬間、ツェリシアは大きく息を吐き出す。


体がくの字に曲がるほどに。


そして今度は肺を大きく膨らませようとする様に、



“負”のエネルギーを吸い込んだ。



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