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雁の仕事②

 ここを例えるなら、ただ一言に尽きる――地獄の一丁目、と。

 じゃあ、その地獄にいる俺たちは獄卒か罪人のどちらだろう。

 多くの人を殺めているから、間違いなく後者だ。

 では獄卒役は俺を殺しにくる敵?

 冗談じゃない! 

 戦場(ここ)では誰もが等しく罪人だ。獄卒はいない。


 後方からの砲撃が一定間隔で続いた後、無数の<BT>が敵陣地めがけて突撃していく。

 この丘陵地帯はかつて緑にあふれて野生動物たちの宝庫だったそうだ。紛争が激化するにつれ、森林地帯は焼き払われ、人間以外の命も多く失われたと聞く。

 だが、そんこと俺の知ったこっちゃない。 

 仲間の<BT>たちと共に、俺も敵に向かって機体を前進させていた。

 操縦桿を押し込み、同時にフットペダルも強く踏む。度重なる戦闘によって荒地となった悪所を時速100キロ以上で走行するなど、狂気の沙汰でしかない。出撃前の整備で脚部のサスペンションも新品に交換してあるが、それでも乗り心地は最悪だ。戦闘機の耐Gスーツと同等の<BT>スーツを着用していても、こればかりはどうにもならない。連続する振動によって胃の中身が咽喉まで逆流してくるのをなんとか堪えながら、俺はさらに機体の加速させた。

 防衛ライン突破を阻止すべく配置された敵機がいくつか視認できる。

 俺は吐き気とも戦いながら、サポートAIに敵機の照会を命じた。

『照会完了――敵機は“アラトマータ社製バンディッツB-4”。各機の武装は――』

 AIは少し間を空けてから音声とディスプレイで回答。

「敵は旧式のバンディッツタイプ(山賊野郎)か。こっちは中古のグラディエーター(剣闘士)なら、喧嘩相手には不足ねえな」

 年老いた剣闘士たちと中年の山賊どもの戦いなんて、B級映画みたいだ。そう心の中で自嘲しながら、剣士の名には似つかわしくないマシンガンを構えさせる。すでに安全装置は解除済みなのは、言うまでもない。

 敵の防衛ラインに侵入する寸前に、複数のミサイル接近を知らせる警告音がコクピットに響く。俺は再びサポートAIを呼び出し、ミサイルへの対処を命令する。

「ジャミング信号、発信っ!!」 

了解(ラジャー)

 飛来するミサイルの群れはことごとく軌道をずらし、まったく見当違いの方向へ着弾する。それでもなお次々にミサイルは飛んでくる。機体に回避運動をとらせながら、ジャミング信号から漏れて接近するミサイルをマシンガンで撃ち落とす。他の仲間たちも散開し、それぞれ対抗している

 だが、中には躱したミサイルとは別のミサイルが直撃し、爆散する僚機がいくつか見受けられた。操縦の腕が悪いのか、それとも機体性能が悪かったのか。どちらにせよ、運が無かったことだけは確かだ。

 しつこいミサイル攻撃を高速モードで走り抜け、一気に敵防衛ラインまで近づく。

 俺より先に防衛ラインに到達して敵と交戦していた僚機があった。だが、多勢に無勢というものだ。複数の敵機から集中砲火を浴びせられつつある。貸しを作るつもりはないが、かと言って見殺しにはできない。

 俺は機体を高速移動させたまま、わざと遠巻きに旋回させてから敵の側面から攻撃を開始した。気付くのが遅すぎる――友軍に気を取られ、無防備を晒していた敵はもろに銃弾を浴びて擱座(かくざ)したのちに爆散する。中のパイロットは脱出する間もなく死んだ。

 黒煙を上げながら炎に包まれる残骸の近くで、別の敵機がわずかに動きを止めるのを俺は見逃さなかった。急接近し、相手が攻撃行動をとる前に鉄の拳を顔面に叩きつける。派手な音とともに頭部カメラが破損し、続いて左腕に装備した杭打装備(パイルバンカー)でコクピットごと機体を貫く。

 重い感触が操縦桿を通じて伝わる。杭を抜くと先端には、機体のオイルだか人間の血だかが入り混じった赤黒い液体がねっとり付着していた。

 ふと個人間通信が入る――さっき敵と交戦していた奴からだ。

「ふざけんな、てめぇ! (スコア)、横取りしやがって」

 仲間の怒声が響き渡る。よくこんな悪態がつけるなと、内心呆れ返りながら

「チンタラ敵と遊んでるほうが悪い。悔しけりゃあ、俺よっか先にぶっ殺しな」

「クソジャップがっ! 地獄に堕ちろ」

「バーカ、地獄ってのはここだぜ。――ほれ、次の客だぞ」

 敵機が接近してくるのを警戒アラームが知らせてくる。

 俺は自分の機体をジグザグに移動させて、敵と一定を距離を保った状態で停止してマシンガンで発砲。敵の攻撃を受ける前にまた移動して、また距離を置いた状態で停止して反撃。ヒットアンドアウェイで敵を苛立たせる。

「お前のほうこそ、遊んでんじゃねえっ」

 さっき苦戦していた僚機が敵を背後から狙い撃ちする。

「ざまあみやがれっ。ヘイッ、ジャップ! これで貸し借りは無しだ」

「よく言うぜ」

 まったく調子のいい野郎だ。








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